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大狼に乗り滑走する。
長いこと、そのデュースの背で揺られ、
やがて草原の先に建物が見えてきた。
今まで見たことがない。
あれは何だろう?
と思って目を凝らしているうち、
だんだんとその正体が掴めてきた。
あれは、――お城だ!
うっそうとした森に囲まれている、お城だった。
まるでシンデレラ、白雪姫、眠り姫に出てきそうな、お城だ。
大きくはないし、ややくすんでいるのが気にかかる。
それでも、女の子が「お城」と言って、
最初にイメージするのはあれだろう。
森が近づくにつれ、デュースの速度もどんどん落ちる。
それにあわせ、お城も木の先に少しずつ隠れていった。
あんなものまであるのか、影世には。
森の前まで着くと、デュースはゆっくりと足を止めた。
首をひねってハッハッと息を吐き、
俺達の方を見ようとしてくる。
ここまで乗せて来たこと、褒めてほしいんだ。
ジョーカーが頭を撫でると、嬉しそうに眼をつむっていた。
どうやら目的地は、あの城の方にあるらしい。
森には木々が多い。
体の大きなデュースでは走りにくくて、中に入れない。
ジョーカーが先にデュースから飛び降り、
俺もジョーカーの手を借りてデュースから飛び降りた。
「川辺は、あの城の中にいるのか?」
と、俺が聞くと、ジョーカーは、
「いや、城の中にはいないよ。
森の中央に小川が走っていてな。
その川沿いに、城のお姫さま、お気に入りの場所があるんだよ。
今日も恐らく、そこだろうな」
と、答えた。
城の、お姫さまだって……?
そんなものまでいるのか、と思い、
森の方に目をやって、その様子をうかがう。
森は、奥が暗くて中の方がよく見えない。
侵入者を拒絶しようとしているのか、
あるいは心待ちにし、誘っているのか、どうも曖昧な感じがする。
自分から、わざわざ中に入りたいとも思わない。
ジョーカーは鼻で軽くフフと笑って、
「純一、あのお城のお姫さまは誰だと思う?」
と聞いてきた。
「誰だと思うって?」
と聞き返すと、
「純一もよく知ってる人間だよ。
もし誰か当てれたら、
……そうだな、
デュースを貸してやろう。
俺の手を借りずに、しばらく自分で色々なことを試したいというのなら、
デュースのような足は必要なはずだしな」
改めて城のある方角を俺は見た。
俺が知っている人間って、誰のことだろうか。
目を細めながら、人の顔を思い出そうとする。
すると、
「ヒントは」
とジョーカーが切り出す。
「影世は現世の本質を表すということだ。
津秋と大月、特に津秋の方は現実に生きるタイプだったから、
影世でも現世とそう変わらずに見えたが、
あの城を根城にしている人間は、ちょっと違うらしい。
そして、俺達がここに来た目的が何だったか」
俺達がここに来た目的が、何だったか……、
それは、川辺を奴隷化するためにやってきたんだ。
だがそれとこれがどう関係あるんだ、と思って、「あっ」、と気がつく。
きっと川辺と、あの城のやつは知り合いなんだ。
川辺との共通の知り合いなんて、俺にはいない。
学校の、クラスメイトだけだ。
それも、影世が本質を表すというのなら、
川辺とそいつは、かなり親しい仲に違いない。
そして、お姫さまと言うからには、女の子。
心当たりのある人間は、
一人しか思いつかない。
「崎本か?」
と聞くと、
ジョーカーはうなずく。
あの城は、クラスメイト、崎本の居城だったんだ。




