00047PHTJB「堕ちた女(一)」
教室を出ようとして、驚いた。
そこに津秋が立って、いたんだ。
てっきり、もう家に帰ったのだと思っていた。
俺が出てくるのを待っていたのか。状況的には、そうとしか考えられない。
津秋は俺の目を見つめている。
唇がぷるんとしていて、
気のせいか、目元も潤んでいるように見えた。
こうした光沢のあるみずみずしさが、俺はたまらなく好きだった。
津秋のことが好きなのも、時折こういう艶めかしい色気を見せてくるからだ。
「何? どうかしたの」
と、俺は聞いてみた。
以前ほどは、緊張しない。
全くしないわけではないけれど、
……影世でやることやってしまったからだろうか。
一度経験してしまって、耐性がついたのかもしれない。
「あのさ、こんな時に言うのもアレなんだけどさ」
と、津秋。ためらいがちに、俺の顔をうかがいながら続けて言う。
「連絡先、交換しとかない?」
「へっ?」
「い、いや、その。大月のこともあるしさ。
一応連絡取れるようにしておいた方が良いでしょ?」
「良いけど――」
それって、……どういうことだ?
俺がスマホを取り出すと、ゆっくりと津秋が近づいてきた。
空気に津秋の匂いが乗ってきて、
そうしたらなんだか急にドキドキしてきた。
緊張しないなんて、さっきのは嘘だった。
こんなに近くに来られたら、やはり緊張してしまう。
すぐ隣まで来て、スマホを操作する津秋。
体を動かしたら簡単に触れられるところにいる。
今まで冗談でぶつかってくることはあっても、
こんな感じじゃなかった。
今日はやたらとチラチラ見てきてたし、
もしかして……影世の影響なんだろうか。
影世であんなことしたから、
現世でも俺のことが気になって仕方なくなってる?
いやまさか、
いや、けど、……と思って、
「なあ、津秋」
と俺は切り出す。
今まで呼び捨てで呼ぶどころか、
本人を名前で読んだこともあまりない。
津秋が俺の目を見つめる。
一瞬、その目に吸い寄せられそうな気がした。
「デッサンの件だけど、俺は、いつでも良いよ。
津秋は、……いつが良い?」
「あ。あぁ、覚えててくれてたんだ、あれ」
「そりゃあ、もちろん。一応、約束だったからな」
大月を殺す二日前、津秋からもちかけてきた約束だ。
忘れるはずがない。
津秋は少し考えてから言った。
「またメールで連絡するってことでも、……いい?
大月のこともあるしさ」
「ごめん、そうだったな」
連絡先が送れたかどうかと確認してくる津秋に、
俺はスマホの画面を見てから、届いてる、とうなずいて答えた。
「後でまたメールするよ」
と、津秋はスマホを持つ手を上げ立ち去ろうとする。
「おう」
と、俺も同じ仕草で応じた。
津秋の後ろ姿を見送りながら俺は考える。
影世のことは現世に強い影響を与える。
それって、影世でオトせば現世でもオチるということなんだろうか。
だから津秋は……、
なら、もし女の子たちを手当たり次第やれば……?
……いや、そもそも津秋はほとんど抵抗しなかった。
どういうことだろう。
はっきりしない。
これもジョーカーに聞いてみよう。
屋上は使えないから……と、
俺は学校を出て、
琥太朗の家の方角に急いで向かった。




