00046RCSJB「事情聴取(三)」
応接室のソファーに、二人の警察官を前に座った。
慣れない空気。初めての部屋。居心地が悪いが、ここは上手く乗り切らないといけない。
開始時間を覚えておこうと思いチラリと壁時計を見た。
「ごめんね、時間は大丈夫?」
と、若い警察官。
「大丈夫です」
と、俺はすぐに答えた。
若い警察官はうなずく。俺の返答に満足したようだ。
「偶然だね。また会えるだなんて」
……嬉しくない、偶然だ。
「いつもあんな遅くまで?」
「放課後は友達の家で、勉強をしてるんです」
若い警察官は驚いた顔をする。
「勉強を? 凄いね」
「平日だけか?」
おじさんの警察官、佐野が割って入った。
「日曜も。昨日は、泊まりがけでした」
嘘をつく必要はない。
本当のことだけを言えば良い。
「毎日ってわけじゃないですけど。模試が近いから……」
そうか、と、佐野は唸るように言った。そして、一呼吸置いて続ける。
「大月とは、話したことはあるのか?」
俺は佐野から目をそらさないようにして、うなずいた。
「あります」
「どんなやつだった。
最近、何か変わったことはなかったか?」
「さあ……、別に、仲が良いわけではなかったし……。
知ってるのは金曜に珍しく休んだなってことくらいで――」
「たとえば、突然様子が変わったとか、そういうのもない?」
若い警察官の問いかけに、俺は首を横に振って応じる。
一瞬、間が生まれた。俺はその隙を突いて切り出した。
「あの……、大月君は、どんな風に死んだんですか?
あ、いや、殺されたって言ってたから……。気になって」
若い警察官が佐野の方を見た。
聞き方が、少し不味かったか。
だが、これは聞いておかないといけないことだ。
飛び降りでも、ショック死でもなかったのなら、どう死んだのか。
すると佐野が口を開いた。
「建物からの、飛び降りだ」
飛び降り……?
なんだ、やはり飛び降りなのか?
「だが、不自然な箇所が多くてな」
「不自然な?」
と、思わず聞いてしまった。
若い警察官が口を挟もうとしたが、佐野は構わず話す。
「死因が飛び降りによるものなのは、間違いない。
だが、体中についた外傷は、飛び降りによるものではなかったんだ。
大月は死の直前、自分の体を、自分で傷つけていたのだ。
体中を掻きむしった痕。どうやら、死ぬ前は暴れ、のたうち回ったようでな。
建物の壁や床のあちこちにも、血痕が残されていた」
影世での殺し方が、……現世での死因にも影響してるということか?
佐野の話によると、不自然な箇所が多いために他殺と見て捜査を進めているということだった。
そのあとも、しばらくまた色々と聞かれた。
大月の人間関係だとか、大月の周囲からの評判がどうだったかだとかだ。
話が終わり応接室を出ると、
俺は教室に回って、その窓から二人の警察官が帰っていくところを見送った。
……たぶん、大丈夫だろう。
疑われるような言動は何一つ取っていない。
アリバイも……一応はある。
琥太朗の家に行ったのは本当だし、
嘘をついたわけではない。
大月に俺がいじめられてたことがバレたら、あの二人は俺を疑うだろうか?
現世で直接殺ったわけではないのだから、決定的な証拠は何一つ残ってないはずだ。
もっともらしいアリバイを用意しておけば、問題ない。
しかし……と思って、
警察官、佐野が言っていたことを思い出す。
妙な死に方を、している。
大月の死に方だ。
俺はそれに心当たりがないわけでもない。
どこか影世での光景に重なる。
ここ数年で頻発している事件。
変死や怪死をする人々。
死んだ子どもたちの共通点。
「子どもたちは、自分で自分の体を傷つけて死んでる」
まさか、……ジョーカー?
唐突に、ジョーカーの姿が脳裏にちらついた。
影世で犯罪者を惨殺してゆくその姿が。
琥太朗がまとめていた事件レポート。
あのノートに載っていた人たちはジョーカーが殺った人たちなのだろうか。
一週間前、ジョーカーの体が血に染まっていたときがあった。
鬼のように怖い狐の面をつけていたときだ。
そういえば、バラバラ殺人事件があったのも、その直後。
あれは飛び降りやショック死ですらないが……。
気になる。
念のため、確かめておいた方が良さそうだ。




