00035PJDBTPK「空からの眺め」
「そろそろ飯にしようか」と言うジョーカーに従い、
外で一緒にご飯を食べることにした。
ジョーカーが用意してくれたのは、
今までで一番おいしそうな料理だった。
食べ切れないほどのご馳走が並ぶ。
狼のデュースも尻尾を振って喜んでいた。
モッツァレラチーズがおいしい。
初めて食べた。変わったチーズ。
せっかくだからと、一緒にモッツァレラチーズゲームをする。
勝ったのはデュースだった。
デュースの変顔がたまらなくおかしい。
あまりにおかしくて、俺の明日への緊張も吹き飛んだ。
「デュースは空も跳べる」
と、ジョーカーは言った。
これには驚いた。
身なりはでかいし、変わった狼だとは思っていたが。
空も跳ぶなんて、誰も思わない。
デュースの背にジョーカーが乗り、俺もその後ろにつく。
デュースは本当に跳んだ。
空高く、高く、まるでジェットコースターのように、
ふわーっと浮いて、
次第にヒューンと落ちていく。
雲の上まで届きそうなほどだった。
今まで、のしのし歩くとこしか見たことなかったのに。
最初は振り落とされないよう必死に捕まる。
落ちるんじゃないかと冷や冷やしたが、
ジョーカーがデュースから手を離していることに気がついた。
手に何も持ってない。
まるで落ちないとわかってるみたいだ。
おそるおそる手を離しても、確かに安定感があった。
時折チラチラと首を横に動かすデュース。
俺の反応を楽しんでるかのようだった。
途中からは雲の上もデュースは走った。
雲の上をピョンピョン跳んで、雲の切れ目近くで足を止める。
ぐるりと雲の中央あたりに回った。
まさか雲の上にも乗れるなんて。
どうなってるんだここは。
ジョーカーがデュースから降りる。
ジョーカーにならって、俺も雲の上に降りた。
フワフワで足が沈む。
下に落ちないか心配だった。
よろけてジョーカーの手を借りる。
景色を眺望した。
上には薄い水色の空。
切れ切れの雲がたくさんある。
遠くの方には海が見えた。
凄く綺麗だ。
空の上なのに空気も澄み切ってる。
雲の端に寄り、両膝をついた。
下には緑の多い大地が広がる。
山があった。
家もたくさん見えた。
人は点にしか見えない。
雲の端からは少し離れ、
しばらくじっと景色を眺めることにした。
ジョーカーも隣に両膝をつく。
動きがあったので、ふと見ると、
ジョーカーは両腕を広げている。翼のように大きく両手を広げていた。
こちらをチラりと見て、首を傾げてくる。
お前もやってみろ、と言いたいんだと思った。
なんだか気恥ずかしくて戸惑ってると、
ジョーカーは近寄ってきて俺の両腕を掴んで広げた。
微かにジョーカーの笑い声が聞こえる。
俺の体を小突いてきた。
両腕を広げると、本当に空を飛んでるような感じがした。
深く、深く深呼吸して、世界の味を胸に受け止める。
頭を下げて、目をつぶった。
まるでこの世界が、自分のものになったかのような感覚だった。
「気に入ったか?」
と、ジョーカーが聞いてくる。
「まぁな。学校往復してるだけだとさ。こんな景色なかなか見れないんだよ」
俺のこの冗談に、ジョーカーは少し喜んだようだ。
「そうか。復讐が済んだら、毎日でも見せてやるよ」
俺は胡坐をかいて座っていた。
ジョーカーも遠くの空を眺めている。片膝を立てて座っていた。
けど俺は、にわかに緊張してきていた。
明日のことを思い出したからだ。
そういえばジョーカー、やたら俺に復讐させようとする。
それはどうしてだろう。
ジョーカーが内心を語ることは少ない。
思い切って聞いてみたところ、その返事に胸を打たれた。
「俺にはデュースしかいない。
気の合う仲間が一人もいない。
ずっと寂しかったんだ」
と、ジョーカーは言ったんだ。
どこか自分に重なるところがあるような気がした。
俺が復讐をして、人を殺していけば、
俺はジョーカーと同じになる。
殺人鬼の、仲間入りだ。
ジョーカーはそれを望んでいるんだ。
俺が同じ目線で話せる仲間になること。
……なんだか、可哀想だ。
こんなに良いやつなのに、友達が犬一匹だなんて。
津秋と話して浮かれたり、
琥太朗と友達になって喜んでいた俺。
けどジョーカーはずっと一人だった。
いじめられても、
なんとか今日まで生きてこられたのはジョーカーのおかげだ。
でないと今の俺はない。
俺の復讐は、ジョーカーのためでもあったんだ。
以前は誰かが助けてくれるのを待っていた俺。
ジョーカーを助けてやれるのは俺しかいない。
今度は俺の番なんだ。
俺自身のため、正義のため、津秋のため、
そして、ジョーカーと、デュースのため。
大月はきっと、俺に殺されるために生まれたんだろう。
明日。
絶対に、しくじらない。
殺す。大月を殺す。
あいつは、何が何でも殺さないといけなかったんだ。
俺は強く拳を握った。




