00028CSI「借り物のライフル(四)」
ごくりと唾を飲み込み、俺はチラリとライフルのバッグを見やった。
必死に頭を回転させながら、
「これは……」
と、口ごもる。
早く何かを答えてやらないといけない。
上手くこの場を凌ぐための、何か。その一言。
ここで下手をうつことはできない。
そんなことをしたら、かなりマズいことになってしまう。
本物のライフルを持ち歩く高校生なんて、普通じゃないから。
まず間違いなく、警察署に連れて行かれることになるだろう。
だが……
苦々しい思いをしながら、俺は
「ギター……です」
と、ぼそぼそと呟いた。
「ギター?」
と、若い警察官。すぐに聞き返してきた。
それはそうだろう。同じ立場ならば俺も聞き返したいくらいだ。
「はい」
と答えはしたが、
ギターなんて、実物はケースに入ってるところしか見たことがなかった。
電車の中とかで、たまに背負っている人がいるのを見る程度だ。
しかし、このライフルのバッグはケースではない。
似ているのは形だけ。
バッグの形を見て咄嗟に答えたのだが、誤魔化すのはやや苦しい気もする。
かといって、これ以上の返しも思いつかなかった。
若い警察官は、助手席のおじさんに目配せしていた。
そのおじさんの警察官は、俺のことを軽く見る。
高校生の俺に、まさか中身を見せろとまで、言ってはこないと思うのだが。
だが、その男と目があったとき、俺はなんとなく、このおじさんは面倒くさそうな人だな、と感じた。
大した根拠があるわけではないのだが、警察官であることを差し引いても、このおじさんには顔を覚えてはほしくない。
目をそらす。
おじさんは、若い警察官の方に手を差し出して、俺の学生証を受け取っていた。
チラリと見て、すぐにお兄さんの方に返し、学生証が俺の手元に戻ってくる。
この後、どうするつもりだろう、と思った。
そのとき、パトカーの車内から無線の音が聞こえてきた。
音がこもっていて、何の連絡かはわからない。
若い警察官は車の無線機を手に取って、無線機に向かって何か連絡を返し始める。
それが終わると、おじさんの方に喋りかけた。
おじさんは時計を見た。
二人は話し合って、若い警察官の方は、「そうですね」とか言って答えている。
そして、俺の方に振り向いて、
「ごめん、引き留めて悪かったね。
気をつけて帰るんだよ。最近また、殺人事件があったんだから」
と言ってきた。
……殺人?
「殺人、ですか?」
「先生や親御さんから聞いてないのかな。
ニュースでもやってるはずだけど。
まぁとにかく、夜遅くに一人で出歩かないようにするんだ。それじゃあ、ね」
頷くと、そのままパトカーは走り去っていった。
やっと解放されて、ホッとする。
一気に体の力が抜けていくような気がした。
怖かった。
……でも、殺人事件というのは、何のことだろうか。
家に帰って新聞を読んでみて、やっとそれが何のことかがわかった。
どうやらごく最近、近所でバラバラの惨殺死体が見つかったらしい。
他殺のようではあるが、状況的に不自然な箇所が多く、捜査は難航。
以前にもこうした事件が起こっていたようで、そのときはいずれも未解決事件扱い。
似た事件がまた起きた。
俺が読んだのは、それらが同一犯かもしれないとする飛ばしの特集コラムだった。
連続猟奇殺人犯だなんて、俺の想像を超えた世界だ。
自分の部屋に戻って、ライフルのバッグの中身を点検する。
そのとき、部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。
ノックをしてきているのは、どうやら妹。
妹は俺の部屋に入ってこようとしているけれど、鍵をかけてるから入ってはこれない。
俺はライフルをバッグにしまって隠す。
そして妹を部屋に招き入れた。
「何か用?」
と、聞くと、
「ねえ、さっき何持ってたの?」
と、妹が聞いてきた。
「さっきって?」
「バッグ。持ってたでしょ?」
「持ってないよ?」
「嘘。持ってた。何か格好いいの持ってた」
見られてたのか。
と思って俺は、一瞬だけ目をつぶった。
「あれは、……ギターだよ」
見られないようにしていたつもりだったんだけどな。
「本当?」
「……嘘だよ?」
「何で嘘つくの!」
と言ってくる妹に、俺はため息をつきながら、
「関係ないからだよ」
と答えた。
「見せて? 見たい」
「やだ。見せない」
「ケチ!」
ムッとする妹も可愛いのだけれど、今の俺はそれどころじゃないんだ。
「あとで、お兄ちゃんのバナナあげるから、はい、帰って」
と、背中を押して部屋から追い出そうとする。
「いらない。見してよ。見してくれないと帰らない」
誰に似たのか強情な子だな。
とんでもない。
でも本当に、ライフルなんて見せるわけにはいかないんだ。
面倒臭くなって放っていたら、妹は勝手に自分の部屋に帰って行く。
帰ってくれたのはありがたいんだけど、油断はならない。
あいつは、人の部屋に勝手に入る癖があるんだ。
流石に物をとったりはしない。
後になって、あれ貸してこれ貸してと言ってくるんだ。
大人しく帰ったのも、
きっと俺が風呂入ってるときとかに見に来れば良いと思ったからに違いない。
本当、誰に似たんだか。親の顔が見てみたいくらいだ。
まともなのは、どうやら俺だけらしい。




