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00027PCSB「借り物のライフル(三)」

 琥太朗の家から帰る。

 日はすっかり暮れてしまっていた。


 スクールバッグと、ライフルを詰めたバッグ。

 この二つを持っていると、なんだか凄く格好いい感じがして、本当に嬉しい。


 帰りの電車の中でチラリと周りを見渡す。

 この人たちは、俺が本物のライフルを手にしているなんて知らない。

 何も知らない。

 俺がこれから大月を殺そうとしていることも。

 俺が特別な存在で、影世で特殊な能力が使えることも、何一つ知らない。



 琥太朗は本当に良いやつだった。

 最初は物騒なやつかと思ったが、ライフルまで貸してくれる。

 普通そんなことはしない。そこまでするやつなんていない。

 それが、名前で呼べば良いって、それだけで済むだなんて。

 たしかに昔と違って、俺は誰のことも下の名前で呼ぶことはなくなっていたが、

 やはり無理に頼んだから、なんだろうな。

 いつかこの借りは返してやろう。



 ライフルのバッグを大切に背負って、俺は帰り道を歩く。

 住宅地に入ったところで、パトカーが向こうの方に見えた。

 どうやらこっちに向かって来ているようだった。


 ヘッドライトの白い光に照らされて、俺は立ち止まる。


 マズイな、……と思った。あまり近づきたくはない。

 道が狭いから、この道幅だと、すれ違うときに窓から顔も見られかねない。

 今、俺はライフルを持っているんだ。

 もし万が一にでもライフルを持っていることがバレたら、大変だ。


 ここは、……と、俺は踵(きびす)を返した。

 急いで来た道に戻って、すぐに脇の道へと入った。

 早歩きから、ゆっくりと歩くスピードを落としていく。


 少し遠回りになるが、仕方がない。

 声をかけられるよりはマシだ。

 肩の力を落として、ゆっくりと息を吐いていく。


 元いた道をパトカーが通り過ぎるところを、振り返って見てやろうと思った。

 そのとき、目の前の道路が明るく照らし出されていく。

 前からじゃない。背後からだった。

 白いライトが、すーっと上がってきて、道路いっぱいに照らしてくる。


 嫌な予感がした。

 徐々に近づいてくるエンジン音。

 単に追い越すには、近づくのがゆっくりすぎた。

 追いかけるようにじわじわと迫ってきているような気がする。


 俺は、振り返ることができなくなっていた。

 背後から、ということは、さっきの道路から入ってきた車ということだ。

 心臓が、心拍数が、ドッドッと上がってくる。

 そして自分の隣に、白と黒の車体が見えてきた。


 見ると、それは予想通り――パトカーだった。


 クソッ。なんでこっちに来たんだよ。

 こっちはさっきの道より狭いのに。

 ……これでは下手に遠回りせずにまっすぐ歩いていれば良かった。



 パトカーは真横にぴったりとくっついて俺のことを追いかけてきていた。

 そしてパトカーの窓がゆっくりと開いてくる。


 中には、若い警察官と、中年の警察官が乗っている。

 若い方が運転していて、奥にいるおじさんは腕を組んで座っていた。


「ねえ、君、ちょっと待って」

 と、若い方の警察官が声をかけてくる。


 俺は立ち止まり、それを黙って見つめ返した。


「君、一人?」


 頷くと、

「近所の子? 学校帰り?」

 と、聞いてくる。

 どうやら質問されているようだが……。

 だがこれってもしかして、職務質問というやつなのだろうか。

 職務質問なんてされたことないから、わからない。

 もし職務質問なのだとしたら、これは初めての経験だ。

 そんなこと今までされたことなんてないのに、

 ……何でこんなときに?

 何故わざわざ俺がライフル持ってる時を狙いすましてくるのだろうか。


 いや、今はそんなことを考えてる時じゃないな、

 と思って、俺は出来るだけ平静を装い、

「すぐそこです」

 と、頷きながら家の方を指差した。


「どこの学校の子かな?」


 やっぱり。何か様子がおかしい。

 本当に、何かを怪しんでる感じがした。

 しかしいったい、……どうして?


「もし良かったら学生証見せてもらっても良いかな」

 と、若い警察官は笑顔を作っている。


 学生証だって?

 こんなこと、本当に今までされたことがない。

 思わずライフルのバッグを体の後ろに寄せた。


 たじろいでいると、

「いや、ごめんね。君、パトカー見て引き返したでしょ。気になっちゃってさ」

 と、警察官は言う。


 あっ、あれか。……あれが却ってマズかったのか。

 警戒しすぎていたのが、却って見られていたんだ。


「これも仕事だから。学生証見せてくれる?」

 お願いしてきてるようでいて、今度は断ることを許さないような口調で言う。


 俺は唇を軽く噛みながら、しかしそれを見られないようにしつつ、

 諦めて学生証を差し出すことにした。


 若い警察官は、俺の学生証を受け取ると、

 学校の名前を呟いて何かをメモ帳に書き込み始める。

 たぶん、名前とか学籍番号ってところだろう。


 嫌な感じだ。

 俺は何も悪いことしてないのに。

 こんな屈辱的なこと、……生まれて初めてだった。


 しかし、嫌なことは重なるものだった。


 若い警察官が

「ねえ、その大きなバッグは何? 何が入ってるの?」

 と微笑みながら聞いてきたのだから。


 これは……ライフルの入ったバッグだよ。

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