00029IBPTDJK「借り物のライフル(五)」
結局、ライフルは押入れに隠すことにした。
押入れ漁るほど妹も馬鹿じゃない。
ライフル銃は何度見ても格好良い。
本当に欲しい。自分のものにしたい。
部屋に飾っておきたかった。
スコープ付きで、それもまた良い。
バッグの中には、ライフル銃の説明書や写真も添えられていた。
組み立て方も書いてあるし、部品についても丁寧に書いてあった。
全部英語だったけれど、
これだけあるなら影世でも楽に再現できそうだった。
イメージして同じものを具現化させよう。
明日ジョーカーに会って……と考えていて、ハッと気がつく。
ライフルは明日返すのに、明日影世に行くのでは間に合わない。
今日影世に行くか、ライフルの返却を少し遅らせないといけなかった。
スマホを開いて、琥太朗にメールを送る。
ライフルの返却は、明日の夜でも良いか、と。
明日の夜に家まで届けに行くからって書いたんだけれど、
冷静に考えたら不自然な文章になっていた。
わざわざ夜にする理由が意味不明だったんだ。
見ようによっては、俺が「放課後このライフルで何かしようとしている」と言っているようにも見える。
返事はすぐに返って来なくて、不安になる。
「ライフルを持って、放課後から夜まで何をするつもりなのか?」なんて思われやしないだろうか。
気にしても、もう仕方がないのだが。
返事が来たのは、もう寝ようとベッドに入った時だった。
返事は一行。「いいよ」と、それだけだった。
その後すぐまたもう一通来て、「勉強は?」と。やはりそれだけ。
こいつ、一度に一文ずつしか送れない病気か何かなのか。
と、思いもしたのだが、あれこれ聞いてくるよりは、ありがたかった。
胸をなでおろし、何となく俺も真似て、「明後日」とだけ返して眠りについた。
翌日。
よく晴れている。
木曜日だった。
学校には朝早く来て、ライフルを屋上に隠しておいた。
念のため、バッグを更に大きな柔らかいバッグで包んでおく。
見えにくいところに置いておけば、たぶん大丈夫。誰にも見つからない、はずだ。
一日中、ライフルの絵を描いて過ごした。
影世ですぐ再現できるように、現世でもイメージの練習をしておくんだ。
そこで思わぬ事が起きた。
絵を描いてる俺に、津秋が話しかけてきたんだ。
休み時間、俺の前の椅子に横向きに座って、津秋は
「何描いてんの?」
と、明るい声で聞いてきた。
俺が、びっくりしながらも、
「ライフル銃だよ」
と、答えると、
「へぇ。格好いいじゃん」
と言って返してくる。
津秋が直接話しかけてきたことなんて殆どなかった。
ましてや、いきなり褒めてくるなんて、今だかつて一度もない。
滅多にないことだから、すごく焦った。
沈黙が流れて、目のやりどころに困って、……やっぱり焦った。
すると、
「木場くん、たまに描いてるよね。絵が好きなんだ?」
と、津秋が笑いかけながら聞いてくる。
「ま、まぁね」
いったい、どうしたんだろう、と思う。
「ねえ、もし良かったらそれ、一枚ちょうだいよ」
「えっ、なんで?」
こんなの、ただの落書きなんだけど。
「うーん、よく描けてるし。……弟に見せたら喜びそうだから?」
再び笑顔を見せてきた。
裏があるようには、見えなかった。
胸がそわそわするのを抑えながら、
俺は一番良く描けてたのを取り出して、「はい」と手渡す。
「ありがと。部屋に飾っとくよ」
「そんな、部屋に飾るほどのものじゃないよ」
とは言っても、褒められる嬉しさが顔ににじみ出てしまう。
本当に飾るほどのものじゃない落書きだけど、そう言ってくれるだけでも、やっぱり嬉しい。
「人とかも描く?」
「うん、たまにね」
「じゃあさ。今度、私の似顔絵描いてよ。とびっきり可愛くしてさ」
また、なんで? と思った。
なんで今日はそんなに俺を喜ばせようとしてくるんだろうか。
何か理由があるような気がして、少し怖くなった。
曖昧な返事を返すと、津秋は
「約束だよ!」
と笑い、絵を大事そうに持って椅子から立ち上がった。
俺の曖昧な答えを、了承の意味で取ったみたいだった。
俺は呆気にとられてしまった。
津秋の不可解な行動。
でも嬉しかった。
津秋の立ち去る姿を見て思った。理由なんてどうでもいいや。
もちろんそのあとは、大月と川辺にサンドバッグにされたのだが……。
こいつらさえ邪魔をしなければ、という気持ちが強くなる。
沸々と煮える怒り。マグマのようにたぎった。
こいつらは……邪魔だ。
暗たんとした心の闇。地獄のように包み込む紅蓮の炎。
こいつらのご機嫌をうかがって生活するのは、もうおしまいだ!
3日後。……もうすぐ。もうすぐだ。
まずは大月、お前からだ。
お前からまず、この世から葬り去ってやる。そう、社会正義のために!
放課後。
屋上からピューッと飛んで影世へと向かった。
背にはライフルのバッグを抱えて行く。
洞窟にはデュースだけだった。
擦り寄ってくるデュースを撫でて、そのまま外に向かう。
ライフル銃をバッグから取り出し抱え、早速再現と複製を試みた。
あまり時間はない。
形は簡単にコピー出来たが、ライフルの複製は思った以上に難しかった。
難しいのは、強度の方だ。
形を作るのは楽にできるようになっても、強度を高めるのには集中力を要する。
何よりも、暴発しないかが心配だった。
試し撃ちができなくて途方にくれる。
そこに、ジョーカーがやってきた。
ジョーカーはオリジナルのライフルを手に取って、
「これで試し撃ちしないか」
と誘ってきた。
「何を言っているんだよ。
試し撃ちするのなら、コピーした方だ。
オリジナルは友達から無理言って借りたんだから、勝手に使ったら怒られる」
「こんなに弾があるんだ。バレやしないさ
それに、コピーの出来を判断するためにも、オリジナルの試し撃ちもした方が良い」
「コピーの出来を判断するために?」
「この前、純一も言っていたろう。
見るだけじゃない。精確にコピーしたいときは、オリジナルを触ったり、嗅いだり、使ってみたりもした方が良いって。
それなら、オリジナルでも試し撃ちした方が良いんじゃないか?」
本物の猟銃なんて滅多にないし、
ジョーカーは単に試し撃ちしてみたいだけなんだろう。
けれど、コピーしたライフルへのこの微妙な不安感は、オリジナルで撃ったことがなかったから。
言われてみれば、「たしかに……」、その可能性もあった。
「バレても、謝れば良いじゃないか。
その友達はそれくらいで怒るやつなのか?
ライフル撃ったくらいのことで怒る、そんな心の狭いやつなのか?」
心の狭さはともかくとして、ライフルなんて勝手に使ったら、琥太朗でもきっと怒るだろう。
いや、普通に怒る。あの性格だ。
俺にライフルを渡す前に実弾の数もきっとメモっているに違いない。
けど謝れば、確かに許してくれそうな気もした。
一発くらいだったら、……怒っても許してくれるかもしれない。
一発。一発だけなら。
結局、小動物相手に、ジョーカーの試し撃ち一発、俺の二発で、計三発を消費した。




