00019CBTCK「馬場の頼み(二)」
俺が顔を引きつらせて黙っていると、
「スマホ片手に女子更衣室に入ろうとしてたことも、皆に言うぜ」
と言ってくる。
悪魔のような男だった。
馬場は当然のことだ、という風に言う。
俺に拒否権をやるつもりはないらしい。
「良いなら、これやるからさ」
と、改めてエロ本を指差す馬場だった。
たしかにこれは、欲しい。
影世でのイメージに役立つし、これがあればだいぶ違う。
再現の精度は間違いなく高まるはずだ。
俺は深呼吸一つして、
「わかったよ」
と、ぼそりと答えてやった。
すると馬場は心底嬉しそうな顔をする。
さっきまで表情に乏しかったのが、嘘みたいだ。
「じゃあ今日の放課後からな! ウチ来て良いから」
「いや、今日は……」
今日は、影世でイメージ具現化の練習をしたいんだ。
どうしても試したいことがあるから……。
「バラすよ? 全部。いいの」
嫌なやつ……。
「悪い、今日は本当にダメなんだ」
「模試は一ヶ月後だから。ダメだよ」
と、馬場。
俺の大月殺害は5日後なんだぞ。
「今日だけは、本当無理」
「じゃあ明日は?」
「明日も予定が……」
大月の殺し方を詰めないといけないからな。
「……いいよ。わかった。全部バラすから。今から皆に!」
馬場が怒って立ち上がろうとする。
何でそうなるんだよ。
別に嫌がってるわけじゃないのに。
本当に、嘘じゃない。
「わかった! 待てよ」と呼びかけると、馬場はニヤリと笑いながら振り返る。
「今日の放課後からな」
「それは本当無理だから。明日からにして」
「わかった。じゃ、スマホ出して」
馬場が手を差し出してくる。
「何で?」
「良いから」
ポケットから取り出すと、
馬場は奪うように俺のスマホを取り上げた。
楽しそうにポチポチ押す。
まさか、と思って慌てて取り返そうとするも、
手で押し返された。
「そんな焦んなよ。俺の連絡先入れてるだけだから」
焦って、当然なんだって。
けどあんまり動揺したら却って怪しまれる。
怖い。
画像データは津秋の写真だけじゃない。
今朝撮った妹の服や下着、スクール水着まで入ってるんだ。
見つかりたくない。
……なんでこんな時に。
俺は祈るように馬場の顔を見た。
馬場は育ちの良さそうな眉をしてる。
顔は感じがいい少年って感じなのに、
まるで悪魔みたいなやつだ。
怖い。
馬場がニヤニヤしだした。
「これ何?」
見ると、妹のスクール水着が画面に表示されている。
うああ、最悪だ……。
慌てて、今度は強引に取り返そうとした。
しかし、勢い余って馬場を転けさせてしまう。
馬場は倒れこんで、うずくまった。
「わ、悪い」
奪い返したスマホをポケットにしまいながら言った。
よろよろと起き上がる馬場。
「けど、こんなことするなら勉強は教えないからな。
脅したり、勝手に人の見て、からかったり。
言いふらしたいなら……やれよ。俺は構わないから」
居づらくなって、
俺はそのまま男子ロッカー室の外に出た。
言い過ぎたかな、と思い、
しばらく建物に寄りかかっていると、スマホにメールが届いてくる。
差出人は馬場琥太朗。
件名は無題。
内容は、「ごめん」。
その一言だけだった。




