表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『星を紡ぐ右腕 〜追放された魔導技師、壊れた右腕で世界を繋ぐ〜』  作者: 鍼灸師いのぴー
第3章:設計思想編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/94

第90話:『白銀の檻』

 夜の闇を切り裂くように、無数の青白いサーチライトが辺境の工房跡地を照らし出した。


音もなく展開した漆黒の特殊戦術車両群は、まるで巨大な蜘蛛の巣のように、アイン・ソフが眠る広場を完璧に包囲していた。


その中心、最前線に立つ一台の重装甲指揮官機から、冷徹な気配を纏った一人の男が降り立つ。特務魔導騎士団『白銀の檻』隊長――レオン・アルヴェルト。


彼の灰色の瞳は、夜闇の中にそびえ立つアイン・ソフの巨大なシルエットを、感情を一切交えずに捉えていた。


「――包囲完了。対象の逃走経路を完全封鎖」


レオンが低く呟くと、背後から狂気的な笑みを浮かべた男が歩み寄ってきた。白銀の檻の副隊長にして、王立魔導局から派遣された主席旧文明研究者だ。


「素晴らしい……! モニター越しとは比べ物にならない存在感だ。見ろ、あの装甲の密度、魔導炉の脈動……あれこそが、我が国の科学力を数百年先へと押し上げる至宝だ!」


研究者はよだれを拭うのも忘れた様子で、興奮に震える手で端末を叩いていた。


「隊長、早くコックピットを破壊して回収しろ! 傷でもついたら一大事だ!」


「……静かにしろ」


レオンは冷ややかに一瞥をくれてから、前方に視線を戻した。

その手には、通信用の魔導マイクが握られている。


一方、工房のなかの作業スペース。


突如として鳴り響いた警報音と、外を包み込む尋常ではない魔導波長に、エレノアは息を呑んで顔を青くした。


「アレン……すごい数の部隊が、この工房を囲んでるわ……!」


アレンは手元の工具を静かに置き、床に置いた魔導義手の調整を終えると、まっすぐな足取りで立ち上がった。その表情には迷いも恐れもない。


「あぁ、分かってる。……外の連中は、俺たちを力ずくで引っ立てる気だ」


「一人で行く気!?」


「まさか。あいつらはアイン・ソフごと俺を狙ってる。ここで俺たちが引いたら、すべてを奪われるだけだ」


アレンはエレノアの肩にそっと手を置き、優しく微笑んだ。


「大丈夫だ。約束したろ? もう逃げないって」


「……バカ。無理しないでよ、本当に……!」


震える声で引き止めるエレノアを背に、アレンは工房の裏口から広場へと飛び出した。


轟音とともに、アイン・ソフのハッチが開き、アレンがコックピットへと滑り込む。


『システム起動。操縦系統、正常』

『全回路、リンク開始』


アークの冷静な合成音が響く中、アイン・ソフの巨大な巨体がゆっくりと起き上がり、大地を踏みしめた。その全身の黄金回路が、夜の闇の中で眩い光を放ち始める。


広場を包囲していた白銀の檻の部隊が一斉にざわめいたが、レオンは微動だにせず、魔導マイクを通じて冷徹な声を響かせた。


――『そこまでだ、少年』


アレンのコックピットのスピーカーから、レオンの声が直接響いてくる。


『我が名は王立魔導局特務魔導騎士団「白銀の檻」隊長、レオン・アルヴェルト。その機体は王国の管理下に置かれる。無用な抵抗はやめろ。直ちにコックピットを開き、投降せよ』


アレンは操縦桿を握り締め、マイクを通じて強く言い返した。


「断る! この機体も、俺の生き方も、誰かに勝手に檻に入れられる筋合いはない!」


通信の向こうで、レオンが小さく息を吐いた。


『……やはり、話し合いの余地はないか』


レオンの雰囲気が一瞬で変わる。冷徹な命令を下す、非情な軍人のそれに。


『全機、展開――! 対象を殺さず、行動不能に追い込め! ただし、機体の損壊は最小限に抑えろ!』


その瞬間、白銀の檻の特務部隊が動いた。


これまでの王国軍とは一線を画す、圧倒的な練度と戦術。

一斉射撃で力任せに撃つのではなく、特殊な拘束索や重力制御フィールドを展開し、アイン・ソフの四肢の動きを一歩ずつ、確実に奪いにかかる。


「くっ……! 動きが読まれている……!?」


アレンが焦りを滲ませて回避行動をとろうとするが、周囲の特殊フィールドがアイン・ソフの機体を重く縛り付ける。今までの敵とは桁違いの「押し返し」に、アレンは冷や汗を流した。


「これが、王国最強の特務部隊……!」


『警告。敵部隊の連携により、機体出力に微小な干渉を検知。回避機動を推奨します』


アークの警告が鳴り響く中、レオン自身の搭乗する漆黒の特務機が、驚異的な速度でアイン・ソフの懐へと肉薄してきた。


アレンが迎撃態勢を取ろうとしたその時――レオン機の背後に控えていた、巨大な特務輸送コンテナの群れの中から、突如として異質な気配が漏れ出した。


レオン機の背後、そのコンテナの隙間から、アイン・ソフと同じ――いや、どこか歪んだ、冷たい黄金色の回路の光がチラリと明滅し始めたのだ。


アレンには見えなかったが、アークのセンサーだけはそれを正確に捉えていた。


『――ッ!?』


アークの音声に、これまで聞いたこともない「揺らぎ」が走る。


『警告、警告。周囲の空間波長に異常。旧文明試作機……波長一致』


アレンが目を見開く。


「なんだ……!? この異質な魔力反応は……!」


レオン機が剣を振り上げ、アイン・ソフの装甲へと迫るのと同時に、背後のコンテナを内側から引き裂くように、狂おしいほどの黄金の光が爆発的に溢れ出した。


その光を見た瞬間、アークの音声が初めて恐怖にも似た震えを帯びる。


『識別完了――』

『……プロトタイプ・零号機』

『封印プロトコル……最上位対象』




(第90話:『白銀の檻』・完)

次回、第91話:『同位体』へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ