おやすみまでの子守唄
梟が泣く。
夜の闇を切り裂くようなその声は、眠りについていた少年の耳元をくすぐる。
少年は目を覚まし、森を見やる。
『おいで。こちらへ、おいで。』
その声は酷く優しい。
『ひとりぼっちなんでしょう。一緒にいてあげる。だからおいで。』
少年は起き上がる。
たった一人の友人である影は月の下で踊るように跳ね、新しき友人を歓迎するように森へと誘った。
声は響く。
『おいで。こちらへおいで。私のもとへおいで。』
森は蠢く。月を隠し、空を覆い、少年を飲み込む。
声は嗤う。
『あぁ、美味そうな子供だ。どう食べてやろうか』
梟の声は止む。
少年は来た道を探して慌てて走りだす。
変わらない景色、静まった森。
少年は転ぶ。
声はそれに爪先を伸ばしたが、突如差し込んだ光に驚いたようにその手を引っ込めた。
『こんな夜中にどうしたの。お母さんはどこ?お父さんはどこ?あなたを守ってくれる人はいないの?』
声は酷く冷たく、掠れている。
月のように柔い温度をもちながら、それに気づくことのできなかった少年は涙を目尻にため、とうとう声を上げて泣き出した。
声は戸惑う。
ぼんやりと少年を照らしながら、泣かないで、と囁いた。
『誰もいないの?あなたを探す人は誰も、いないの?』
『いないよ。誰もいないの。僕の友人はこの影だけさ』
影は少年と同じように泣きながら、光に応える。
光はそれにオロオロと両手を彷徨わせると、泣かないで、ともう一度囁いた。
『ならば私があなたを守ってあげる。私があなたの友人よ。』
『本当に?』
『えぇ約束。私とあなたは友人よ。だから、泣かないで。』
あなたの世界へ帰りましょう。
光の言葉に少年は頷く。
影は踊り、光はそれに笑い、気がつくと彼は自身が眠っていた小屋の中にいることに気がついた。
少年は光に尋ねる。
『また会える?』
『あなたが呼べば、いつでも』
『なんて呼べばいいの?』
光は笑う。
キラキラと月と同じ光を宿した美しい妖精は、少年の頬を撫でた。
『僕の親しき友人、と。手を貸してくれと言われたならば、いつでも力になるわ。』
『本当に?』
『本当よ。さぁ、お眠り』
子守唄を歌ってあげましょう。
月は柔らかく少年の寝顔を撫でる。
梟が夜を切り裂くように声をあげる。
妖精はそれにしぃ、と人差し指を口に当てると梟を叱った。
『私の友人が、起きちゃうでしょう。』




