第五十話:大泥棒
下の藤甲兵が全員立ち去るのを待って、風雁はようやく安堵の息をついた。
「上に隠れていてよかった。ここなら、誰にも見つからない。」
風雁は自分がとても幸運だったと思った。
しかし、激しい雨のため、壁をよじ登っていた盗賊の何人かは、手足が滑って誤って地面に落ちてしまった。
瞬く間に、それに気づいた藤甲兵たちに囲まれ、槍で刺し殺された。
「なんて残酷なことだ」風雁は、その光景を目の当たりにした。「どうやら、麒麟の鍵を盗むのは、そう簡単ではないようだ」
空の暗雲はさらに増し、周囲はますます薄暗くなった。見張り台から周囲を見渡す藤甲兵たちは、少し疲れているようで、居眠りをしていた。
そして、豪雨の音は他のあらゆる音を覆い隠していた。
すると、すべての盗賊たちが一斉に行動を開始した。
風雁は身を翻して屋根から飛び降り、垂直な壁をヤモリのように滑り降りていった。
同時に、他の盗賊たちも動き出したのが見えた。
「誰だ?」しかし、運の悪い盗賊たちは巡回中の兵士と出くわしてしまった。即座に藤甲兵に追われ、殺されかけた。
ここの藤甲兵は数が非常に多いため、一度見つかってしまえば、逃げ切ることはほぼ不可能だ。
こうして、正体を露呈した盗賊は藤甲兵に包囲され、足を止めた。
「ふふ、お前たち全員合わせても十人程度だ。俺一人でも相手できる。」その盗賊は短剣を抜き、戦う構えをとった。
「シュッ!」
突然、一本の暗箭が彼の体を貫いた。
「不意打ちか、卑怯者め!」盗賊は地面にひざまずき、罵った。
「シュッ、シュッ、シュッ!」
続いて、さらに多くの暗箭が飛来し、その盗賊をハリネズミのように貫いた。
「危険すぎる」風雁は嘆いた。
「全員、今夜は天候が悪く、明らかに盗賊が増えている。パトロールの速度を上げろ!」
「承知!」藤甲兵たちは猛スピードで巡回した。
つまり、本来なら1周10分かかっていた巡回が、今は5分で済むということだ。これにより、盗賊たちがこっそり移動する機会は減った。
「サササッ!」風雁の耳に、足音が聞こえた。彼の耳は非常に鋭敏で、雨音の中に混じる他の音を聞き分けることができた。
「やばい!」
風雁は即座に、まるで飛鳥のように壁を蹴り、ヤモリが壁に張り付くかのように、高さ約20メートルの屋根へと登った。
何の道具も使わずに素手で屋根に登るということは、盗賊たちが特殊な武術を使っていることを示している。
そして風雁は風属性であり、スピードが速い上に、音を軽減することもできる。
しかし、他の足の遅い盗賊たちは、それほど幸運には恵まれず、藤甲兵に発見され、包囲されて殺されてしまった。
「すでに二十人の仲間が死んだ。」風雁はこれほど緊張したことはなかった。「今回は本当に危険だ。いっそ、今ここで引き返したほうがいい。」
「いや、せっかく来たのだから、試してみるしかない。もし成功すれば、それは想像を絶する富になる。」 」風雁の眼差しは、雨夜の油ランプの炎よりも貪欲だった。
恐怖に駆られた盗賊たちは、去ることを選んだ。そのため、残ったのは五人の盗賊だけとなった。
風雁を含めて。
この五人の盗賊は、精神力においても能力においても、最高峰の存在だった。
だからこそ、今に至るまで痕跡を残すことなく、闇を利用し、絶えず陵園の中央へと近づいていた。
祭祀に使われるその大殿は、最も大きな建造物でもあった。
ついに、盗賊たちはこっそりとその大殿に侵入した。
この大殿の敷地面積は数万平方メートルにも及ぶ。内部は迷路のように複雑で、様々な危険な仕掛けや罠が仕掛けられている。
その目的は、盗賊の侵入を防ぐためだった。
風雁はすでに大殿の内部へと忍び込んでいた。地図がないため、経験だけを頼りに、迷路のような通路を進んでいたのだ。
「ああっ!」突然、悲鳴が響いた。
風雁はその声を聞きつけ、現場へ駆けつけると、前方の地面に窪んだ穴が一つ開いているのを発見した。近づいて確認すると、穴の中には無数の鉄の刃が垂直に突き刺さっており、そこに落ちた盗賊は貫かれて、血を流して死んでいた。
その恐ろしい光景に、風雁の心臓は張り裂けそうになり、彼は胸を押さえ、吐き気を催した。
「サササッ!」
足音は、ほぼ密閉された通路の中で非常に大きく響いた。
風雁はすぐに両側の壁を伝い、上方の隅に身を隠した。
駆けつけてきたのは二人の藤甲兵で、罠にかかった死体を目にした。
「ふふ、また小盗賊か。天山の陵墓を盗もうとは、本当に死にたいのか。この陵墓は、十数年も働いている我々ベテランでさえ、道が全く分からないのだぞ。」
そう言うと、二人の藤甲兵は立ち去った。
その後、風雁はここを離れ、通路の中を模索し続けた。
他の盗賊たちも同様で、地図を持っている者は誰もいなかった。ハエのようにあちこちをぶつかりながら進むしかなかった。
「ドンドン!」ある盗賊が、突然前方から巨大な音を聞いた。彼は慌てて後方へ逃げ出した。
「ドーン!」しかし、背後の石扉が瞬時に閉ざされた。彼には逃げ場がまったくなかった。
前方では、あの巨大な石球が通路全体を押しつぶし、結局、その盗賊の末路は想像に難くなく、真っ赤な染料と化した。
こうして、盗賊たちは知らず知らずのうちに次々と仕掛けを起動させ、最後には全員死んでしまった。一方、藤甲兵はただ見物に来ただけで、死体を片付けた後は、まるで何もなかったかのように立ち去った。
物音が完全に消えるやいなや、経験豊富な藤甲兵は即座に「全員死亡」と判断した。
しかし、事実はそうではなかった。
一筋の黒い影が、こっそりと陵園から逃げ出した。それは風雁だった。彼は暗がりから、その壮大な天山陵墓を眺め、思わず感嘆の声を漏らした。
「どうやら、ハエ一匹さえも中に入れないようだ。」そこで、風雁は麒麟の鍵を諦めた。
代わりに、彼は標的を藤原桜司へと移した。
「もし、誰も天山陵墓の地図を持っていないのなら、藤原桜司なら持っているはずだ。」
今、風雁はこっそりと赤葉荘園、藤原桜司が住む邸宅の屋上にやって来た。
ここ数日、彼はこっそりとここに潜み、藤原桜司の一挙一動を密かに観察していた。
彼は、藤原桜司のそばに「問刀」という名のボディーガードがいて、彼とかなり親しくしていることに気づいた。
風雁は数日間観察を続けたが、藤原桜司が天山陵墓の地図を持っている様子は見当たらなかった。しかし、彼には予期せぬ収穫があった。
その日、数人の豪華な装いの人々が赤葉荘園を訪れた。
「若殿、これは、あの上等な完成品宝器『寒氷匕』に関する全情報です。」その中の一人が、一通の手紙を手に取り、藤原桜司に手渡した。
「ありがとう」藤原桜司は言った。
藤原桜司が去った後、風雁はこっそりと彼の部屋に入り、机の上に一枚の紙が置かれているのを見つけた。
そこには、宝器の説明が書かれていた。
「寒氷匕?」その紙には、黒い短剣が描かれていた。
「上等完成品、氷属性宝器、価値:五億両の黄金!」
その金額に、風雁も心を動かされた。
「だが、この宝器はまだ聖手煉器殿にある。盗み出そうと思えば、そこへ行かなければならない。」
風雁は目尻を上げて笑うと、すぐにその場を後にした。
それから数日後、金泉町ではある噂が広まった。あの五億両の価値がある上等な宝器「寒氷匕」が、完成した直後に盗まれたというのだ。
煉器殿は、いかなる代償を払ってもその宝器を取り戻そうとしている。
「ゴロゴロ!」
またしても雷雨の日だった。
風雁は、赤葉荘園、問刀が住む屋敷の屋上に横たわっていた。
彼の手には、まさにその盗まれた「寒氷匕」が握られていた。
黒い短剣、全長二十センチの小型の湾曲した刃、五億両の黄金の価値を持つ短剣だ。
「この宝器は、氷の属性だから、雷や炎を弾く特殊能力があるんだ。高所での雷雨作業を要する私のような特殊な職業には、まさにうってつけだ」と風雁は笑った。
この精巧な短剣には、刃を収納するための専用の鞘があり、その表面には龍亀の模様が刻まれている。
「さらに『寒氷刺』という特殊能力も備えており、敵の体内に突き刺せば、瞬時に敵を凍結させることができる。」
「この希少な宝物は、私と実に相性が良い。」風雁は感嘆した。
しかし、彼の視線は下へと移った。
「この部屋に住む男は、問刀という名だ。数日間観察した結果、彼が『噬刀』という宝器を所持していることが分かった。これは宝材を喰らい、レベルアップできる特殊な宝器で、この能力だけでも一億ゴールド以上の価値がある。」
「盗賊として、こんな宝物を目の前で逃がすわけにはいかない。だから、絶対に手に入れる。」
風雁は突然、蜘蛛のように逆さ吊りになり、頭を下にして窓辺まで降り、部屋の中を観察した。
問刀はすでに眠っているようで、部屋の明かりはすべて消されていた。
風雁はストローを取り出し、部屋の中に粉末を吹き込んだ。
これは麻酔薬の粉末で、吸い込んだ者は深い眠りに落ちる。
問刀が確実に気絶したことを確認すると、風雁はブランコを漕ぐようにして、問刀の部屋へと飛び込んだ。
「噬刀」を盗み出すつもりだった。




