第四十話:宝箱
それは巨大な黒熊で、その爪は炎の光の下で、まるで鏡のように光を反射していた。
3階級の妖獣。武道三段の人間と同等の存在だ。肉体がエネルギーの洗礼を受け、変異を遂げたのだ。
そのため、この鉄爪熊の爪はすでに鋼鉄のように堅固で、その長さは実に30センチもあり、まるで湾曲した刀のようだった。
鉄爪熊は、いつものように洞窟の中へ這い入った。その鼻は、とっくに誘惑的な匂いを嗅ぎ取っていた。足を止めると、普段眠っている洞窟の中に、2人の人間がいるのが見えた。
鉄爪熊の口からは、よだれが垂れ落ちていた。その両目は、まるで血のように赤い灯りのようだった。恐ろしい圧迫感と、妖獣特有の匂いが、顔面に襲いかかってきた。
初めてこの巨大な化け物を見た藤原桜司は、全身が震えていた。
「これは3階級の妖獣だ。恐らく貪鬼と互角に戦えるだろう。」
「恐れることはありません、若殿」問刀は噬刀の柄を押さえながら言った。「3階級の妖獣は、人間の武道三段に相当しますが、通常、宝器や武法を持っていないため、それほど手強い相手ではありません。」
「そうだったのか。」藤原桜司はその言葉を聞いて、警戒を解いた。
「それなら、今月の鍛錬の成果を試させてくれ。」
藤原桜司は、鉄爪熊を完全に侮っているようだった。そして、手にした木槍を掲げ、突進していった。
彼にとって、その走りの速度はすでに限界だった。
しかし、鉄爪熊の目には、取るに足らないものに見えた。
鉄爪熊は、武器を手に走ってくる人間を不思議そうに見つめた。その速度では、普段狩る草食動物にも及ばない。
「ガシャン!」
藤原桜司の槍の穂先が、鉄爪熊の頭部に命中した。奇妙なことに、この妖獣の頭はまるで砲丸のようだった。
それどころか、摩擦によって槍の穂先から火花が散った。
「これは……」藤原桜司は驚いて唾を飲み込み、喉仏が動いた。
「言い忘れていました、若殿。3階級の妖獣、あるいは武道三段の人間の場合、この時、体内のエネルギーが増強されることで、身体も完全に変異します。」
「この金属属性の鉄爪熊は、その頭部がすでに鋼鉄へと変貌しています。ですから、恐らく斧でも切り裂くことはできないでしょう。」
「だが、幸いなことに、3階に突破して間もないため、人間の武道三段初級に相当する実力に過ぎない。だから、その身体は、わずか3分の1しか変異が完了していない。」
「つまり、頭部と爪は鋼鉄になっているが、頭部より下の胴体はまだ変異しておらず、攻撃可能な部分なのだ。」問刀が分析した。
「なるほど。」
藤原桜司は突然その意味を理解し、再び長槍を振るって鉄爪熊の腹部を突き刺した。
「ガオーッ!」
鉄爪熊は怒号を上げ、爪を振りかざすと、瞬く間に木製の槍の柄を切り落とし、同時に槍の穂先を掴み取った。
「ガリガリ!」
すると、鉄爪熊はなんと金属製の槍先を口に放り込み、それを飲み込んでしまった。
藤原桜司は全身の毛が逆立つほど驚いた。「こ、こいつ、槍先を食ったぞ!」
「ゲップ~」鉄爪熊は満足げにげっぷをし、噛み砕いた槍先を胃袋へと飲み込んだ。
「そ、そんなことがあり得るのか!」藤原桜司は飛び上がりそうになった。
「よくあることだ」問刀は続けて説明した。「武道二段、つまり2階級の妖獣になれば、すでに体内のエネルギーへの適応が完了しており、内臓や経絡、骨は完全に変異している。」
「この鉄爪熊の胃などの内臓は、すでに鋼鉄のように硬くなっているため、金属をそのまま食べることができるのだ。そして今や3階となったこの熊は、筋肉や毛皮といった体表の変異を遂げている。もし4階に達すれば、この鉄爪熊の全身の隅々までが鋼鉄のように堅固になり、その毛さえも釘のように硬く鋭利になるだろう。同様に、武道4段の人間もまた、全身に変異が生じ、エネルギーと完全に共存するようになるのだ。」
「恐ろしい!」藤原桜司は後方へ跳び、問刀のそばへ駆け寄った。
「3階級の妖獣は、武法や宝器による強化はないものの、武道2段初級の若殿であるあなたにとっては、やはり階級による圧力が働きます。」
「しかし私は、武道3段上級であり、この鉄爪熊とはわずか1級の差です。宝器や武法で補うことができます。」
「しかし、もしあの非常に聡明な妖獣に遭遇し、宝器や武法を利用されてしまえば、埋め合わせは不可能だ。」
「幸いなことに、この鉄爪熊は、おそらくそういったものを持っていないだろう。」
問刀がそう言うと、噬刀を抜き放った。
「それでは若殿、最も安全な場所にいてください。」
問刀が藤原桜司を一瞥すると、藤原桜司は後方の石床に身を隠した。
赤いエネルギーが、問刀の骨や経絡などの輪郭を赤く輝かせ、周囲の薄暗がりを照らし出した。
一方、鉄爪熊は黒い金属のエネルギーを帯びており、その黒い毛皮と相まって、エネルギーの軌跡を見分けるのは困難だった。しかし、かすかに見えるのは、鉄爪熊の毛皮の上に、暗雲のようなぼんやりとした闇が覆いかぶさっていることだった。
「ドーン!」
鉄爪熊は体を低く構えた。そのどっしりとした体躯と自身のエネルギーが相まって、足元の地面は瞬く間に楕円形の窪みとなった。
その身体も反動の爆発的な力によって、砲弾のように跳ね飛ばされた。
放物線を描いて、低空へと舞い上がった。
この洞窟は上部が空洞になっており、高さ10メートルもあるため、戦闘を行うには十分な広さがある。
鉄爪熊は問刀の眼前へと跳び上がり、その瞳には渇望と勝利への確信が満ちていた。この人間は、まもなく自分の餌となるのだ。
高速で移動する巨大な鉄爪熊がもたらす空気の圧迫により、前方には強力な気圧が形成され、暴風のように問刀の体に吹きつけた。
問刀は両手で噬刀の柄を握りしめ、刃でそれを受け止めた。
「ガシャン!」
短剣のように鋭い熊の爪が、初めて喰刀と激突した。
鉄爪熊は、自らの蛮力に大きな誇りを持っていた。妖獣、すなわち修練可能な獣として、その知能はとっくに普通の動物を超え、ほぼ人間と同等であった。
だからこそ、人間と同じような表情を見せ、口元に笑みを浮かべた。
しかし、その期待した光景は、起こらなかった。
その巨大な力でも、問刀を後退させることはできなかった。
問刀は鉄の壁のように、微動だにせずその場に立ち、すべての衝撃を耐え抜いた。
「……」鉄爪熊は驚愕の眼差しを浮かべ、口を開けた。この人間が、まさかこれほどの力を持っていて、自分の攻撃に耐えられるとは想像もしていなかったのだ。
問刀の両手は少し痺れていたが、その時、彼はこの妖獣の顔に、人間と変わらないような困惑の色が浮かんでいることに気づいた。
「中級武法:断欲斬!」
問刀が怒号をあげると、血のような赤い金属のエネルギーが経絡の中を、まるで蛍のように狂ったように流れ、手にした黒い噬刀の刃が突然、血のような赤色へと変わった。
問刀は突然、刃の攻撃方向を変え、斜めに猛烈な速さで斬り下ろした。
「ガオー!」鉄爪熊は反応しようとしたが、その不器用な身体では、もはや逃れるには完全に遅すぎた。
すると、黒い金属のエネルギーが、まるで鎧のようにその腕を覆った。
しかし、血のような赤い刃が、鋼の爪を切り裂いた。その黒いエネルギーの鎧と、巨大な鉄爪熊の胴体は、この一撃によって真っ二つに断ち切られ、地面に落下した。
血のような赤いエネルギーが、問刀の血管から腹部の丹田へと回収されると、体から放たれていた光は完全に消え去った。
「もし、この鉄爪熊が武法を習得していたら、これほど簡単に倒すことは難しかっただろう。」
「それなら、夜食と明日の朝食は確保できたな。」
問刀は、自身の服で噬刀の血痕を拭い、刀身を鞘に収めた。




