表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/114

異国の訪問者

本日はもう一話あります。

「んー…起きる気配なしだな…」



どうも大きないびきを掻きながら僕の寝室で爆睡してるリオさんに苦笑する僕です。


何でリオさんが僕の寝室で寝ているのかと言うと…リオさんの右腕を治した後、肉じゃがを作るのに時間が掛るから先にお風呂にという事で使い方の説明も含めて白雪と一緒にお風呂に入ってもらった。


だけどリオさんはお風呂でもドワーフの命雫を楽しんでいたらしく、お風呂から上がって肉じゃがを振舞う時は大分出来上がっていて…肉じゃがを食べながら飲んだらすぐにテーブルに突っ伏してリビングで寝てしまったのだ。


だから僕の寝室にリオさんを寝かせ、僕も十日も寝て鈍ってた体を動かす為に地下の訓練場ずっと起きてたんだけど、起きてるかな~と思って戻ってくれば腹を出して凄く気持ちよさそうに寝てた。


流石はドワーフ寝かしという通称に恥じないお酒…僕は絶対に飲まない様にしよう。



「とりあえず書置きを残しておけば問題ないよな」



寝ぼけて見ない事も鑑みて枕元、机の上、ドアノブ、ドアの隙間にメモ書きを置いて部屋を出る。


ここまでして見ないなら…どうしようもないと割り切ろう。



「さてと…白雪、お願いしていい?」


「分かりました」



そう言って白雪と共にリビングに入れば紙を敷いた椅子が用意されていて、その椅子に座れば首に布を巻いて髪を切り始めてくれる。


何時の間にそんな事が出来る様に…?と思ったんだけど、もう一人の僕の記憶を漁れば教育の一環で街を周っていた時に散髪屋を見学し、もう一人の僕が魔導義肢を作っている時間に髪の切り方を練習したらしい。


…白雪からしたら僕の髪留めという特等席を整えるベッドメイキングになるのかな?


しかも指先に火魔法を纏わせて温めてるのか髪を一房摘まんで撫でると髪が白雪の想像通りにセットされていく…もうプロとしか言いようが無い。


職人の技術を見て覚えるのも凄いけど、白雪は普通に地頭がいいんだよなぁ…。



「…どうでしょうか?」



鏡を見れば前髪は目の高さで流され、横は鎖骨に掛るぐらいの長さでふんわり、後ろは腰までの長さになっていて益々可愛らしい女の子の外見になったし普通にプロの仕上がりになっていた。



「滅茶苦茶いい感じ!凄いね白雪!」


「ありがとうございます」



ブラシで髪を落として鏡で仕上がりを見ていると不意に【直感】さんが反応する。



「…?何に反応したんだ…?」



部屋を見渡して何に反応したのか探せば白雪に反応し、白雪の何に反応したんだろうとしばらく観察すれば白雪がゴミ箱に近づくにつれて反応が強くなり頭痛に変わる。



「っ…ちょっと待って白雪…」


「…?どうしました?」



髪を紙で包んで捨てようとしたのを止め、その切った髪を包んだ紙を貰えば取っとけと告げてくる。


自分の髪を取っとけって何だろ…?



「その切った髪、捨てないで取っといた方が良いみたい…?」


「そうですか。これからは捨てずに取っておきますか?」


「一応そうしてくれる?」


「分かりました」



よく分からないけど切った自分の髪を【空間収納】に入れ、もう一人の僕が用意してくれていた服…白のワイシャツに青のネクタイ、黒のズボンに白を基調とした青の差し色が入ったアウターを纏う。



「マスター、もう少し髪を弄らせてもらってもいいですか?」


「ん?いいよー」



そのまま白雪に髪を任せれば後ろ髪を二つに分けて青いリボンで三つ編みに纏められ、サイドにも青いリボンを編み込んでいく。



「これで問題ありません」


「益々女の子にしか見えないね…」


「気に入らなければ戻しますが」


「いやいや、僕に似合うからやってくれたんでしょ?ありがとね白雪」



そう言って頭を撫でれば白雪が微かに笑みを浮かべる。


本当に人間ぽくなって来たなぁ…これが娘を持つ父親の気持ちなのかな?



「…今回は別の国の偉い人も居るし、白雪が聖女だって出来るだけ隠したいから白蛇の姿で居てくれる?」


「分かりました」



白蛇の姿になって繋いでいた手からシュルシュルといつもの定位置、特等席に移動する白雪。



「面倒事に巻き込まれない様に出来るだけ長引かせない、僕があの時のユーリだと悟らせない、そして白雪が聖女だと見抜かせない様にする…胃が痛くなるなぁ…」



そして僕はお腹を擦りながら白いショートブーツを履いて王城に向かう…。









「───シオン・ユニコード・ラザマンド様ですね。馬車は利用されますか?」


「大丈夫です」


「畏まりました」



12時…ルクスにもらった徽章を門番に見せて城門を潜り、鋼鉄魔法で生み出したなんちゃってローラーブレードで滑っていく。



(おー…激しいねぇ…)



木剣がぶつかり合う音が響く庭…そちらに視線を向ければ騎士団の面々が打ち合いをしていてその中には王国騎士団団長補佐のルシェロさんと、王国騎士団副団長補佐でありリュートさんの想い人のカリスさんも居る。


以前見た訓練は木剣の打ち合い、基礎の確認という動きをしていたが、今は魔法も絡めたより実践的な訓練になっていて眺めてる今もカリスさんの爆破魔法で誰かが吹っ飛んでいった。



(あー…リュートさんの想い人で思い出したけど…リベーラさんの婚約話を持ってきたスレイン家ってどうなったんだろ…あれだけまだしっかり調べられてないんだよなぁ…)



何も裏が無くてただ単にリベーラさんに好意を寄せ、リベーラさんもそれでいいとなれば僕としては問題ないけど…少しでも後ろ暗い事をしてるなら徹底的にぶちのめさないといけない。



(魔導義肢も一段落してるしリオさんも夜まで起きそうにない…これが終わったら少し調査するか…?)



自分が積み上げたとは言えタスクが減らない事に苦笑しつつ、早く済ませようとスピードを上げた時、



「ぐっ!?…っ!?危ない!!」



打ち合いですっぽ抜けたか弾き飛ばされたか、僕の顔面目掛けて木剣が飛んでくるが…



「…おー、白雪ありがとね?」



髪を伝って顔の横まで来ていた白雪の尻尾に叩き落とされた。



「も、申し訳ございません!お怪我はありませんか!?」


「いえ~、訓練頑張ってくださいね」



駆け寄って来た騎士に叩き落とされた木剣を投げ渡し、ニッコリ微笑めば騎士の顔が真っ赤になり何度も頭を下げて訓練に戻っていく。



「ほんと、白雪は僕の守護者だね?」



頬に頭を擦り付ける白雪…可愛い奴め。


そうして小さなハプニングがありながらも城門から城の入り口まで辿り着けばいつものセバスさんではなく、



「…シオン・ユニコード・ラザマンド様、お待ちしておりました」


「「お待ちしておりました」」



メイド服姿のルナティアがリオンとシエラを後ろに控えさせて待っていた。



「あー…ティ───」


「それではルクス・フォン・ローゼン国王陛下の元へご案内致しますのでこちらへ」


「あ、はい」



言葉を遮られ有無も言わさず連れていかれる僕。


いつも通りの豪華な廊下を歩いて色んなメイドさんに頭を下げられながら魔法式のエレベーターに乗り込むと…



「…はぁぁぁぁ…本当に体調不良で寝込んでたの?」



ルナティアの態度が豹変してジットリとした疑いの視線を向けて来た。



「アリアから聞いたでしょ?」


「聞いたけど…シオンの事だから面倒って適当な理由付けて躱しそうだから」


「信用無いねぇ…でも、体調不良で寝込んでたのは本当だよ?」


「…あっそう、ならいいけど」


「あはは…ちなみに三日もズレちゃったけど大丈夫だったの?」


「まぁ…相手方は一月王都を見学する予定だから問題ないかな」


「ほえぇ…」



一月も王都を見学か…人間と他種族の交流の仕方とかを学ぼうとしてるのかな?



「それにしても突然だね?」


「…なんかリテュアリス神聖国で人神至上主義を撤廃して同一人種主義を掲げる事になったんだって」


「それこそ突然だね…?リテュアリス神聖国は人間は神が定めた見本だって言ってたのに…」


「それを先導してた黒幕のアルナ・アーチ・アラライズが死んで、その派閥に汲みしていた人も軒並み死んでいったらしいよ」


「えぇ…?じゃあ僕の仕返しは?」


「もう矛先を向ける奴が死んじゃったから出来ないんじゃない?」


「マジか…目には目を歯には歯をを信条としてるのに…でも、いきなり軒並み死ぬって穏やかじゃないね?アルナ・アーチ・アラライズが悪魔との契約で何かミスったのかな?」


「さぁ…?そこは詳しく語らなかったけど、今の教皇が邪魔者達を大粛清したんじゃないの?」


「ふぅん…大粛清ねぇ…大胆過ぎる決断をしたもんだ」



…よし、完璧な誤魔化しだ。


僕がやったなんて思いもしないだろうな。



「……シオンが何かやったんじゃないの?」



…は?何でいきなり僕がしたって疑ってるの?


表情も声色も言葉も何も疑われる様な要素は出さずに無知を装ってるのに何で…?



「そうやって疑われる意味が分からないんだけど…僕、ずっと家でアレの開発を頑張って進めてたんだけど?」


「それがおかしいんだよね…」



何がおかしいの!?



「シオンがあれだけブチ切れてて、目には目を歯には歯をを信条にしてるのに大人しくアレの開発を進めてたってのが…」



……怖すぎるだろ。



「シオンなら一人で突っ込んでカチコミに行ってもおかしくないと思ったんだけど?」


「そんな事したら確実に国際問題になるし、盗賊団を壊滅させれたとしても国の中枢に単独で突っ込んで何事も無く帰って来る技量も力も無い。僕をどれだけ考えなしの凶悪人物だと思ってるの…」


「……」



またもジットリとした視線を向けて僕の真偽を図るルナティア。



「なんかさぁ…信頼は出来ても信用は出来ないんだよね…」


「久々に顔を合わせたのに大分辛辣だね?」


「だって今話した感じはアレの開発を教えてくれた時の真っ直ぐな感じじゃ無くて、あたかも本当の事を話してる、だから信じて?信じてくれるよね?みたいな感じがするんだよね」



……観察鋭すぎない?普通に怖いんだけど…。



「まぁ…アレの開発は僕が絶対成し遂げたい事だから熱量が高くなるのは当たり前じゃない?それに本当に何もしてない事を僕がやった、裏で何かやったってこじつけられても普通に困るんだけど…」


「…そうやって納得させる様な言い方も信用出来なくなる要素なんだけどね」



流石にこれ以上疑われるのも鬱陶しいし…少しきつめに言うか。



「…あんまりやっても無い事をこじつけて疑われると流石にティア相手でも気分悪くなるよ?」



そう言うとルナティアは深く考え込み…小さく頷く。



「今のはシオンっぽかった」


「僕っぽい?」


「私がこれだけ疑っても食って掛かるんじゃ無くて私を納得させようとしてたのがシオンっぽくなかった」



…男子三日会わざればとは言うけど、変わり過ぎだろ…。


普通に追い詰められそうだったんだが?



「…それはティアを認めたからであって、ティア以外の人から今みたいに疑われてたらイライラのブチ切れだよ。関係値が違うんだし」


「…あっそ。まぁ、考えた所でシオンの行動や何を考えてるかなんてシオンじゃないから分からないんだけどさ」


「あはは…」



僕が渇いた笑いを漏らせばエレベーターが目的の階に止まり、またルナティアに連れられて歩いて行く。



「それにしても…顔は相変わらず女としか言えないけど、いつもみたいなドレスじゃないんだね?」


「流石に男っぽい服も用意しとかないとって思ってね?」


「ふーん…いつも女っぽい格好しか見て無かったからなんか変な感じ。今も十分男か女かは一目じゃわからないけど」


「え?似合ってない?」


「いや、似合ってるけど…本当に男なんだって思っただけ」


「あはは…似合ってるならよかったよ」



そうしてルクス達が待つ部屋の前に辿り着けばルナティア、リオン、シエラが入念にボディーチェックをしてコンコンとノックを響かせる。



「お話し中失礼致します。ルクス・フォン・ローゼン国王陛下、シオン・ユニコード・ラザマンド様がお見えになりました」


「そうか、入れ」



扉の奥からルクスの声が響いてリオンとシエラは部屋の外で扉を守る配置に着き、ルナティアが開けてくれた扉を潜る。



「召喚に応じて参りました、シオン・ユニコード・ラザマンドです」



左胸に手を置いて敬礼しながらチラリと部屋の中を伺う。


ローゼン王国側はルクスとシルヴィさんがソファーに座り、その護衛にセバスさんとハウンドの風こと羊型獣人族のフラウがソファーの後ろ、僕の後ろにルナティアが立っている。


そのセバスさんとフラウの影には花ことダークエルフのリカ、鳥こと竜人族のレイドが潜んでいるのが分かる。


そして相対しているのはリテュアリス神聖国の現教皇、綺麗な白髪を伸ばし紫色の瞳をした純白の法衣を纏うフリューゲル・ホープ・リテュアリスがソファーに座っていて、そのソファーの後ろに綺麗な銀髪を伸ばし金色の瞳をした白い騎士服を纏ったアルメリア・パラディア・ティクセント、同じ白い騎士服を纏った綺麗な水色の髪を短く整えた水色の瞳の女性聖騎士が居た。



「まぁ…この方が…」



初めて聞いたフリューゲルの声色は誰もが安心する様なものだと感じるが、その声には若干の戸惑いが見え隠れしている気がする。



「そうだ、シオンこと我がローゼン王国の聖女であり、我が国の中核を担う重要人物だ」



そこまで言うかルクス…流石にむず痒いんだが。



「そうですか…シオン・ユニコード・ラザマンドさん、この度はリテュアリス神聖国の大司教、アルナ・アーチ・アラライズが貴方とローゼン王国に多大なるご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ございません…」



そう言ってフリューゲルがソファーから立ち上がり頭を下げるとアルメリアともう一人の聖騎士も深く頭を下げる。



「…頭をお上げください。アルナ・アーチ・アラライズがした事は許せませんが、それを全てリテュアリス神聖国に責を求める様な事は致しません。ただ、アルナ・アーチ・アラライズには厳粛な処罰を与える事を望みます」



エレベーターの中であらかた話してくれたルナティアは“聞いたくせに…”みたいな雰囲気を僕の背中にぶつけてくるが、フリューゲルはそれに気付かず思った通りの言葉を投げかけてくる。



「寛大なお心に感謝を。…ですが、アルナ・アーチ・アラライズに厳粛な処罰を与える事は出来かねます」


「…それはどういう事でしょうか?まさか───」


「アルナ・アーチ・アラライズは既にこの世にはおりません」


「この世にいない…?それは…?」


「アルナ・アーチ・アラライズは大罪と定められている悪魔と契約を交わし、その悪魔によって取り殺された…という事になっています。そしてアルナ・アーチ・アラライズの悪魔の手法で操られ、アルナ・アーチ・アラライズを狂信していた者も一緒にこの世から去りました」



なるほどね、僕の皆殺しは悪魔の仕業にしたって事か。


それなら少し大雑把で話に穴があっても悪魔ならそんな事出来るって勝手に脳内補完してくれるか。



「そうですか…であれば私の方から何かを要求する事はありません。裁かれるべき悪が裁かれず、頼りにしていた悪魔に取り殺され破滅したと言うのも自業自得ですしね。…ですが、悪魔の召喚にはそれ相応の贄…対価が必要なはずです。そして悪魔は無自覚に周囲に悪意を振り撒き破滅に誘う者…そう言った被害に遭われた方…大多数は人間ではなく他種族の方が被害に遭われてると思います。その方々はどうされているのでしょうか?」


「こちらが迷惑を掛けてしまったのに我が国の事をそこまで考えてくださる慈悲…流石聖女です。リテュアリス神聖国では長らく悪習が続いておりました。人間は神が定めた見本でありそれ以外は贋作、人間こそ神が定めた基準であり模範だ、と言う悪習です。その悪習の所為で数多な人達が犠牲になり、アルナ・アーチ・アラライズは色んな人を贄に悪逆非道を重ねて来ました。その様な悪習に晒された方々、アルナ・アーチ・アラライズによって絶望に晒された方々は私の…私達の考えに賛同してくださる方々の手によって保護されています。…そして聖女様とのお話の途中ですが、ここからが私達がローゼン王国に訪れた理由、お願いに関わってきます」



そう言うとフリューゲルは僕から視線を外しルクスとシルヴィさんに意志の籠った視線を向けて言う。



「ルクス・フォン・ローゼン国王陛下、シルヴィ・フォン・ローゼン王妃陛下、我がリテュアリス神聖国を去りたいと願う方々を受け入れてもらう事は出来ませんでしょうか」



もう一度下げられる教皇の頭…下げてはいけない頭を何度下げたとしてもこれだけは通して見せると言う意志の表れか、僕に下げた頭よりも深く頭が下がっている。


それは後ろにいるアルメリアともう一人の騎士も同じ…アルメリアとフリューゲルだけの理想じゃ無くなった事に少し笑みを浮かべれば、僕とフリューゲルのやり取りを静かに見守っていたルクスが口を開く。



「…頭を上げてくれ、フリューゲル・ホープ・リテュアリス教皇。今までの陳情がそなたの目に触れなかった原因も、何故我が国で暗躍していたのかも前回の会談で分かった。謝罪も受け入れる…が、そなたの要求を呑む訳にはいかない」


「っ…」


「いくらアルナ・アーチ・アラライズが自己判断でやっと事とは言え、それを管理しきれなかったそちらの不手際であり、それを阻止出来ず野放しにして被害を被ったのは我が国だ。何故被害を被った我が国がそちらの肩を持たなければならないのだ?」



そりゃそうだ、これは個人的ないざこざじゃなく歴とした国際問題だ。


ルクス個人であれば受け入れたであろうが、その移民に混じってリテュアリス神聖国のスパイが紛れるかも知れないし、その移民が問題を起こしてローゼン王国に不和を生むかもしれない。


国王としては移民を拒否するのは正解…受け入れるにしても何かしらの対価が必要だ。


その対価を今のリテュアリス神聖国が出せるかどうかだけど…きっと出せないだろう。


出せるとしたら同盟、もしくは属国…ただ、国家間の中立という立場から同盟という事になってしまえば一気に各国のバランスが崩れて敵対視されるし、神聖魔法が使える人が多い国が特定の国に肩入れすれば今度はローゼン王国対リテュアリス神聖国ではなく、ローゼン王国とリテュアリス神聖国対不特定数の他国という構図になりやすくなる。


だからルクス個人、国王の立場的にも同盟は成り得ない。


もう一つ出せるとしたら神聖魔法が使える人員の派遣…昔のリテュアリス神聖国では絶対にあり得ないし、今のリテュアリス神聖国なら可能だが、それをしてしまえばリテュアリス神聖国での問題が長引くし、ローゼン王国に派遣しているという事が他国にバレれば他国からも要請があるだろうし、秘密裏に何かを進めている、同盟を結ぼうとしていると勘ぐられる。


…ここが正念場、ここを乗り越えられれば夢物語みたいな理想に一歩近づける。


頑張れアルメリア、頑張れフリューゲル。



「ルクス・フォン・ローゼン国王陛下が仰る事はその通りです。…ですが、私達は国民の幸せを考えたいのです。今、リテュアリス神聖国は激動の渦中にあります。悪習を常識だと拘り今だ他種族を排斥、迫害しようとする者もいます。私達の考えに賛同した者達が悪習に異議を唱え対立する事もあります。その激動の渦中に晒されても尚、私達とリテュアリス神聖国の為に力を貸してくれる他種族の方も居れば、もうリテュアリス神聖国に居たくない、平和に過ごしたいと思う者もいます。その者達だけでも受け入れて欲しいのです」


「…その民を想う心は素晴らしいと思う」


「…では───」


「信仰国家であるリテュアリス神聖国であればその様な神の代弁、神の慈悲とも取れる感情論の弁舌で民衆を纏める事が出来るのであろうが、ここはローゼン王国だ。我が国にとって有益か無益かで判断する。ただでさえ我が国の聖女を奪おうとして国際問題で戦争をしようとしていた国…初めから関係は最悪なのだからそれを覆す様な明確な利益が無いのであれば受け入れる事は無い」



冷たく突き放されフリューゲルの後ろに控える聖騎士が狼狽えるが、アルメリアとフリューゲルは狼狽えずルクスから視線を逸らさずに続ける。



「明確な利益…神聖属性の魔法を扱える神官を派遣し、ローゼン王国での慈善活動をさせて頂くのはどうでしょうか?」


「慈善活動…その言葉を信じられる程の信用がリテュアリス神聖国には無い。フリューゲル・ホープ・リテュアリス教皇猊にその意思は無くとも、部下が行った事は他国に対して拭いきれぬ不信感を与えている事を再度自覚して欲しい」


「っ…なら同盟はどうでしょうか…?」


「論外だ。同盟などすれば他国との微妙な均衡が崩れ、今度は我が国が他国の標的になる」


「で…では…我が国の特産品の───」


「更に論外だ。我が国はリテュアリス神聖国に対して何も求める気はない」



無慈悲な拒絶…流石にフリューゲルも取り付く島が無いのか顔を伏せてしまう。



「…これが現実であり、今までリテュアリス神聖国が積み上げたものの結果だ」


「そう…ですか…」



膝の上でギュッと拳を握り現実と無力感を噛み締めるが…



「…発言をお許し頂けないでしょうか、ルクス・フォン・ローゼン国王陛下、シルヴィ・フォン・ローゼン王妃陛下」



後ろに控えていたアルメリアが小さく手を挙げ発言の許可を求めた。



「…ええ」


「…構わん、申せ」


「はっ。…先程、フリューゲル教皇猊下より再度ご説明がありましたアルナ・アーチ・アラライズとその手の者の末路について…今回は聖女様もいらっしゃるので真実を話させて頂きたいと思います。…続けてもよろしいでしょうか?」



そう言うとアルメリアの隣に居る聖騎士は初耳だとばかりに驚き、ルクスとシルヴィさんは眉を顰める。



「真実…それは私達に虚偽を伝えて支援してもらおうとしてたのかしら?」


「いえ、これは聖女様が同席しているからこそ語れる真実でございます」



僕が居るから語れる…?もしかしてアルメリアが持ってる【虫の知らせ】が反応したのか…?



「もし、聞いて頂けるのでしたらこの場にルクス・フォン・ローゼン国王陛下、シルヴィ・フォン・ローゼン王妃陛下、シオン・ユニコード・ラザマンド様のみ残して頂きたい」


「…人払いを申し出られる立場だと思うのか?」



ルクスがもっともの反論をするが、アルメリアは僕をジッと見つめながら言う。



「先程のシルヴィ・フォン・ローゼン王妃陛下のお言葉を借りるのでしたら…私達にシオン・ユニコード・ラザマンド様が聖女だと虚偽を伝えているのではないでしょうか?」



顔には出さないがルクスとシルヴィさん、セバスさん達に一瞬の緊張が走る。


やっぱり僕が聖女じゃない事ぐらい見抜けるか。



「その虚偽も我々が信用出来ないという結果…我々の積み重ねの所為だと痛感しております。ですが、今のリテュアリス神聖国が昔のリテュアリス神聖国では無いと証明する為に、その信用の為に手掛かりとなる真実を伝えたいのです。どうか…私達の要求を寛大なお心で汲んで頂けないでしょうか」



今度は頭を下げずにそう言い放てばアルメリアとルクス達の間に一触即発の雰囲気が漂い…ルクスの小さな溜息で霧散した。



「…セバス」


「ですが陛下───」


「危害を加えるのであればシオンが居れば問題ない」


「……はっ」



渋々部屋から出ていくセバスさん達だが…今の駆け引きも上手い。


一見追い出される事に不服を申し立てる様に見えて僕一人居ればどうとでもなるという圧を与え、リテュアリス神聖国側が高圧的に出れない様に牽制した。


己が主人の為にすぐに意図を汲み取り有利になる様に場を整える…僕じゃ絶対に出来ないな。



「…そちらの要望通り我々は誠意と歩み寄りを見せた。その真実とやらが我々にとって信用に足らないと判断した時、王都の見学を拒否し即刻帰国してもらおうか」


「寛大な処置、痛み入ります。…フリューゲル様、よろしいでしょうか?」


「ええ…貴女の口から今のリテュアリス神聖国を語ってください」



そうして一度深呼吸したアルメリアは───



「…私、教皇直属近衛聖騎士第一席次アルメリア・パラディア・ティクセントは『死神』の手を借り、私達同一人種主義派閥と対立するアルナ・アーチ・アラライズ含め『人神至上主義』派閥を粛清…虐殺しました」



とんでもない事を言い放った…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ