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迷い人と迷子

本日の投稿、今年の投稿はここまでです。

ここからは既に投稿したものの誤字修正等をしますので何か見つけたらお気軽に誤字修正をお願いします。

「……何時まで…そこに居るつもりだ…」


「んー…君が泣き止んでお話出来るまでかなぁ…」



どうも近未来的な研究室の床で女性が泣き止むまで待ってる僕です。


僕は今、神代の時代(ヒストリア)で発展した科学技術…現代日本の知識を持つ僕からしても明らかなオーバーテクノロジーの粋を集めた研究施設、第六戦略兵器格納庫と言う過去の遺跡(アーキエイジ)を見つけ、興味本位で侵入したらそこで活動していたと思わしき女性と遭遇し、その女性に残酷な現実を突き付けた所です。



(…疑ったり警戒せずにこんな気持ちになるのはやっぱり人間じゃないからなんだろうなぁ…ほんと、僕って人間が嫌いなんだな…)



泣き崩れる女性の胸には人間や動物であればあるはずの魂が見えない。


人間相手に何も疑わずに何とかしてあげたい、救ってあげたいなんて気持ちになる事は絶対に無いのに…と、そんな柄にも無い事を考えながら火傷した腕を傷跡も無く癒せば傍からガシャリと音がする。



「……」


「…泣き止んだ?」


「泣いていない…」



人間じゃないのにここまでの応答と感情再現が出来るのは素直に凄いし、完全武装したメカニカルな姿と魂が無い事を除けば完全に人間にしか見えない。



「なら泣いてないでいいんだけどさ…まず、君の名前は?」


「…『戦闘シミュレートAI搭載完全独立思考自立型魔人殲滅機プロトタイプオートマタ』」


「…それは君の型番名称とか製造番号でしょ?僕が聞いてるのは君の個体識別番号、名前だよ」


「……」


「エリカ・シノノメ博士は君に個体識別番号をくれなかったの?」


「…………『ココロ・シノノメ』」



ココロ・シノノメ…となれば、エリカ・シノノメ博士はこの女性、ココロを特別視していたという事か。



「へぇ、ココロ…いい名前だね。エリカ・シノノメ博士は君に人間と同じ様に接してたんだろうね」



そう言うとココロはまだ潤んでいる瞳を隠さず目を見開いて僕を見る。



「何故そんな事が分かる!?」


「そりゃ分かるよ。きっと自分の娘みたいに接してたんだろうなって。君が付けられたココロ・シノノメのシノノメは、エリカ・シノノメ博士の家族だって証明だからね」


「家族…」


「そう。…それに心は人間を構成する為に一番必要なもので、人間が色んな事に興味を持ったり思考したり、誰かを愛したり嫌ったりする感情…人間らしくいる為に必要なものなんだ。そんな愛情の籠ったいい名前を付けられた君が、エリカ・シノノメ博士にとって不要だったり大切にしなかったりする訳ないと思ったんだ。きっとエリカ・シノノメ博士は君を本当の娘…人間の娘の様に育ててたんだろうなってね」



我ながらクサい台詞を言っているなと思うけど、相手は人間じゃ無くオートマタ。


純粋な人間じゃ無ければ複雑な感情の機微や言い回しじゃ伝わらないだろう。



「私が…シノノメ様の娘…」


「うん。名前って想像以上に名付け親の色々な想いが込められてるんだよ。君の事を殆ど知らない僕がこうやって考えられるぐらいにはね」


「……なら、お前の個体識別番号は何と言うんだ?」


「僕はシオン・ユニコード・ラザマンド。シオンって呼んでくれればいいよ」



そう言うとココロは唖然とした表情を向け、すぐに敵意に満ちた視線で僕を見る。



「……ユニコード…?お前…ソラリス・ユニコードの子供なのか?」



ソラリス・ユニコード…それはエルルさんから聞いたこの世界の創造神ソラリスと同じ名前であり、メルクリアさんの師匠だった人物の名前だ。


まさかここでその名前を聞くとは思わなかったから色んな事を聞きたいけど…この状況でその人物について深く追求するのは良くない。


もしここで自分の欲求のままに質問に質問を重ねればココロが折角開きかけた懐を閉じ、今向けられている敵意のままに僕を敵と認識して排除行動に出る可能性もある。


それにここで知識を詰め込めばもう一人の僕と情報共有した時が怖い…ここは一旦ココロを優先するべきだな。


世界の秘密、最奥、深淵、真実を覗くのはまた今度にしよう。



「いや、僕は子孫じゃないよ。ただ、そのソラリス・ユニコードが育てた娘の弟子って感じかな」


「…?どういう事だ…?お前はさっき人間はそこまで生きられないと言っていただろう。何故ソラリス・ユニコードの娘が生きているんだ?魔人だからか?」


「あー…えっとね、さっき言ったエルフ族は人間や魔人よりも凄く長生きなんだ」


「…何故長生きなんだ?」


「いやー…そういう種族だからとしか言えないんだけど…」


「そういうのは解剖して組織構成を調べるものだろう?何故未知をそのままにする?人間に転用出来るかも知れないじゃないか」


「うわー…凄く科学的で進歩的で先進的…この世界でそういう考え初めて聞いたよ…」



今の魔法という幻想で溢れている世界でそんな犠牲を伴って先に進む現実的な事をすれば異常者扱いだろうなぁ…。



「…?さっきからお前は何を言っているんだ?」


「さっきも言ったけど、今の世界は君が知る世界よりも随分と技術的に衰退しているんだ。君からしたら木の枝削って刺し合ったり殴り合う、病気になったら葉っぱを煎じて飲む原始的な世界だよ」


「なん…だと…?」


「それ程4万年という月日は長いし、ある物が無くなって無い物が生まれる、ある物が想像もつかない物に変化していたり無い物が忘れられるのには十分な時間なんだ」



僕の言葉に酷く動揺するココロだが、敵対的な視線はその動揺で無くなった。



「だからさ、お互いの事を知る為に色々話をしたいんだけど…このまま話し相手になってくれる?」



そう言えばココロはしばらく考え…



「……」



何も言わずオーバーテクノロジーの武装を外して僕と同じ様に壁に背を預けた。


これで敵対する可能性は限りなく低くなった…ふぅ、よかったよかった。



「そうやって何も言わず武装を解除して話す姿勢を取るなんて…感情の機微や応答も本当に人間と見分け付かないね?」


「…さっきから意味が分からない。何故そう言うのに私が人間じゃないと見抜いた?それにお前の科学に対する理解の深さは何なんだ。お前が言う事が正しければ外は木の枝で刺し合い殴り合う、草を食べて病を癒す程度の低い世界に成り下がったんだろう?何故そんな原始的な世界のお前が我々の技術を理解出来るんだ?」



ごもっともな疑問ですこと…。


何処まで僕の事を明かすべきか…いや、外の世界を知らないココロなら多少明かしても問題ないし、ここは下手に隠さず真摯に向き合うべきだな。



「んー…それを説明したいんだけど、前提として僕がこの世界とは別の世界の記憶を持ってるって言ったら信じる?」


「この世界とは別の記憶…?転生や“迷い人”と言う事か?」



迷い人…?転生と並べて言うって事は異世界転移って事か?


でも、メルクリアさんは異世界の記憶を持った人は初めてって言ってたし、迷い人って聞かれなかったから答えなかったなんて意地悪する人でも無いし…。


いや、全世界を探せば誰か一人ぐらいは居るだろうけど、全世界の人間と面識を持つなんて物理的に不可能な話だ。


もちろんメルクリアさんが知らない事だってある…あの人の振る舞いで全知全能な認識を持ちがちだけど、あの人は神じゃ無く人だ。


だったらココロが言っている話はメルクリアさんが生まれる前の神代の時代(ヒストリア)の話…?それか神代の時代(ヒストリア)は転生者じゃなく、転移者が多かったのか…?


そうであれば神代の時代(ヒストリア)の悲劇を繰り返さない様にとメルクリアさんに教え伝えたソラリス・ユニコードが教えてそうなもんだけど…



「…?おい?」


「あっ…ご、ごめん…迷い人って何だろって深く考えちゃった…その迷い人って言うのは?」


「は…?そういうオカルティズムな話は神とやらを信仰している宗教家、魔法や魔術を使う魔人の領分だろう?」


「オカルティズムって…なかなかな言葉を使うね…今の世界では生まれ変わる前の記憶を持ってる人は記憶持ち(リスタート)って呼ばれてるんだ。だけど、迷い人っていうのは初耳なんだよね…語感的に別の世界から迷い込んだ人って事?」


「…私もよくは知らないが、シノノメ様は…迷い人だったと言っていた」


「え?エリカ・シノノメ博士も迷い人だったの?その時の事を何か言ってなかった?」


「シノノメ様はニホンという───」



そこまで聞いた僕は反射的にココロに詰め寄っていた。



「日本!?それ本当なの!?」


「っ!?な、なんだお前!?」



まさか同郷の人が居たなんて…!


でもそうなると最初に考えた神代の時代(ヒストリア)のオーバーテクノロジーの根幹が異世界の知識技術を持った迷い人が齎した可能性が一気に上がった!



「僕もその日本で過ごしていた記憶を持っているんだ!エリカ・シノノメ博士と同じ同郷の記憶を!!」


「な、何!?それは本当なのか!?」



今度はココロが僕の顔に頭突きする勢いで顔を近づけてくる。


至近距離で見ると肌も、髪も、睫毛も、唇の柔らかい雰囲気も、瞳の色彩も人間にしか見えない。



「ちょ、近いって…」


「お前が近づいて来たんだろう!?それよりもシノノメ様と同じ記憶を持つというのは本当なのか!?」



熱量はココロの方が上だったのか離れようとココロの肩を掴もうとした両手を取られ、そのまま床に押し倒され馬乗りになられてしまう。



(…!?何だこの力…!?抜け出せない…!)


「そ、それを証明するから一旦退いてくれない!?」


「早く言え!」



今のココロは武装をする為に必要だったのか体のラインが分かる黒のボディースーツを着ていて、傍から見る者がいれば少年を襲う痴女の様な光景になっている。



(はっ!?身動ぎ一つ出来ない…!?戦闘用に作られたって言うのは伊達じゃない…!)


「だから退けって!」


「早く証明しろ!じゃなきゃ逃がさん!!」



ココロの体から【風の声】を意識したとしても僅かにしか聞こえないモーターみたいな音が鳴り始め、どんどん僕の手首を握る力が強くなっていく。



(いだだだだ!?やばい!?腕折られる…!力つえぇ…!!)


「っ~!お前…!日本語…漢字!シノノメ博士の漢字を書くから一旦手を放せ!!」


「漢字…」



そう呟くとココロの手が離れ、僕の両手首には痛々しい赤紫の痣がクッキリと刻まれていた。



「…早く書いて見せてくれ」


「つぅ…これ、内出血コースじゃん…全く…」



【空間収納】からメモと万年筆を取り出し“東雲”と書くと、ココロはそのメモを取ってジッと見つめた後に胸に抱く。



「…確かにこれは漢字…日本語だ…本当にお前は東雲様と同じ日本の記憶があるんだな…」


「信じてもらえたなら腕と脚焼かれて、両手首にこんな跡を付けられた甲斐があったよ…で、これが君の名前、東雲 心だよ」



もう一枚書いて渡せば同じ様に抱いて涙を流すココロ…今度はハンカチを渡して泣き止むまで丸まったココロの背中に背を預けて傍に居続ける。



「何の…つもりだ…」


「別に。丁度いい背もたれがあったから背を預けてるだけ」


「……」



背中から感じる熱、しゃくりを漏らす度に引き攣れる体、熱の籠った息遣いに眼から零れる涙…本当に何一つ人間と見分けが付かない。


少し興奮しちゃったけど…とりあえず今は僕の知的好奇心を満たすより、取り残されてしまったココロの心を救う事に注力しよう。


もし、ココロが未練を断ち切り今の世界を旅したいと言うのなら最大限助けるし、ここに残り続けるなら友人として偶に寄って話し相手になってもいいし、一人はもう嫌だというのなら…自宅の警備でもしてもらおうかな…?









Side.ココロ・シノノメ



「…離れろ」


「泣き止んだらね」



何なんだこの魔人の子供は…。


東雲様のIDで管制管理室が開かれたから帰って来てくれたとスリープモードを解除して来てみれば…何なんだ本当に、何が起きているんだ…。



「別に泣いていない…」


「ふーん、僕を騙したいならもう少し嘘を吐く練習をした方がいいかもねぇ」



私の背に遠慮なしに凭れ掛かってくるこの魔人の子供は本当に何なのだ…。


…はぁ、この魔人の子供が言うには既に戦争は終わっていて、私達は負けたらしい。


こうやって魔人の子供が私を恐れずに接してくる時点でそうなのだろう…認めたくは無いが。


だけど…そうなのであれば何故東雲様は私を戦地に送らなかった…?


何故私だけを残して他のオートマタを出撃させた…?


私は戦う為に生み出された戦闘型のオートマタ、他のオートマタとは比べ物にならない戦闘力を有していたのに、私を出撃させていれば戦争に勝てたかも知れないのに、私さえ戦っていれば東雲様を守れたかもしれないのに何故…。



「…お前」


「シオン」


「…………シオン、聞きたい事がある」


「うん?」


「私は…魔人を殺す為に生み出された戦闘特化のオートマタだ」


「ノータイムで避ける事も出来ない速度で腕と脚を焼かれたし、両腕で掴まれて本気で抜け出せなかったし、こんなクッキリした痣を作れる馬鹿力もあるもんねぇ。相当強いのは分かるよ」


「…ああ。なのに東雲様は私だけをここに残し、同じ場所に居た汎用量産型のオートマタだけを戦争に出撃させた。何故だ…?私は汎用量産型オートマタ1,000機が束になっても大した消耗も無く無傷で破壊出来るし、独自の思考が搭載されているから戦闘しながらAIをアップグレードし続けて戦場に適応し、独自の特別な動力源があるから動力源が壊れるまで戦闘を継続し続けられる。汎用量産型オートマタ1,000機を導入するよりも戦果も期待出来るしコストも掛からない…なのに何故私はここに残されたんだ…?」



こんな事をこの魔人の子供に言っても仕方が無いのは分かる。


東雲様じゃないのだから答えが分かるはずが無いのも分かる。


だけど…この魔人の子供は迷い人だった東雲様と同じ世界の記憶を持っている。


もしかしたら東雲様と同じ様な考えを持っているかもしれない。


そう考えたらつい口を開いていた…明らかな思考のエラー、魔人の子供に答えを求めるなどバグだ。


なのに…この魔人の子供が、東雲様と同じ世界の記憶を持つシオンが何て言うのか聞きたいと思ってしまう…。



「んー…そうだなぁ…」



背中をくっ付けるだけじゃ無く頭まで私に凭れさせて完全に体を預けてくる…本当にシオンに戦闘する意思は無いのだろう。


こんな簡単に無防備になる意味が分からないが…。



「東雲博士は君に…ココロに生きて欲しいと思って戦争に出撃させずここに残したのかもね」


「…何?」



戦闘型のオートマタとして作ったのに戦わせず生きて欲しい…?


それは私が生まれた意味と矛盾している。


戦闘が起こればどちらかが死ぬまで続くもの…なのに生きて欲しいというのは…私の存在否定では無いのか…?私は東雲様を守りたかったのに…。



「東雲博士が僕と同郷ならまず間違いなくそうだと思うよ?」


「…その根拠は何だ」


「日本って場所はさ、滅茶苦茶平和なんだよ。殆どの人が武器なんて持った事が無いし、人の死というのも寿命や病じゃなければ触れる事も殆ど無い…犯罪や事故に巻き込まれれば別だけど、それでも極端に少ないんだ。そんな所で生まれた人がこっちの殺伐とした命の価値が低い世界に知り合いもいない状態で迷い込めば価値観や倫理観、状況のギャップに戸惑うんだ。そうなるとこの世界に適応する為に今までの自分を捨ててこの世界に染まるか、今までの自分の価値感や倫理観を曲げずにこの世界に抗おうとすると思うんだよね」


「…シオンはどっちだったんだ…?」


「僕はちょっと特殊だったけど…前者だね。日本で培った価値観も倫理観も全部捨てて…いや、今までの自分を殺して、新しい人格まで作ってこの世界に全力で適応した。おかげで今じゃ日本で生きてた時の記憶と、この世界で生きた記憶の二つ持ってるよ」



そう言って笑うシオンだが、すぐに笑い声は消えて真剣な声色に戻る。



「まぁ、簡単に壊れるぐらい同郷の人間は精神的にも肉体的にも脆い、この世界で言えば野生の動物に殺されるぐらい弱いし、野生の動物が死んでいるのを見るだけで心が酷く揺れるんだ。そんな人間がココロを作るまでの道のりは険しかった…のかは分からないけど、君だけを他のオートマタとは違う、特別なオートマタにして自分の名前と人間に必要な心って名前を付けたのは何かしらの意図、願い、想い、祈り…そんなものを感じるんだ」



意図…?願い…?想い…?祈り…?


私は東雲様から何の願いも託されていない、想いも知らない、祈りもされていない、唯一残っていた魔人を殺す為の兵器としての存在理由、意図においても戦争に出撃させてもらえずここに残され、守りたかった東雲様も失っている…。


シオンが何を言っているのか全く理解出来ない…。



「私には…分からない…」


「親の心子知らずって所かな」


「…なんだ、それは?」


「日本での諺…まぁ、教訓っていうか風刺と言うか…そういうのがあるんだよ」


「…ならその親の心子知らずの意味はなんだ?」


「親子の間で気持ちがうまく伝わっていない様子とか、親の愛情や思いやりにも気づかずに子どもは勝手な行動をしている…とかかな」



…なんだそれは。


何も伝えられず、何も命令されずに分かれと、理解しろという事なのか…?



「…なら東雲様は…私にどうして欲しいと思っていたのか…シオンなら分かるのか…?」


「同郷の人間として予想は出来るけど、流石にそれが正解かなんて東雲博士じゃないから分からないよ」


「ならシオンは…どう予想するんだ…?」


「さっきも言った通り、ココロには生きて欲しい、かな」


「……じゃあ、何故私を戦闘型のオートマタとして作ったんだ…戦争で魔人を殺す為なんじゃないのか…?」


「んー…どちらかと言うと、戦争で魔人を殺す為って言うより傍で守ってあげられないから一人で考えて行動出来る様に、自分の身は自分で守れる様に思考能力と自衛手段を与えただけだと思うかな」


「守ってあげられない…?一人で行動…?自分の身は自分で守る…?自衛手段…?私は魔人を殺す為につくら───」


「だったらココロにそんな面倒な事を考える思考を与えないし、一番最初に戦場に送り出してるだろ」



私の背に預けていた頭で背中に頭突きし、怒りを感じる声色に変わったシオン。



「それがさっき言ってた親の心子知らずだ。東雲博士はどんな形になってもココロに人間の様に生きて欲しかったんじゃ無いの?…僕の予想だけどね」


「…分からない…本当にそうなのか…?」


「さぁね。予想だって言ったでしょ?真意は東雲博士にしか分からない。…でもさ、そんな色々な事を考えられる思考を与えたのも、動き続けられる動力源も、明らかに過剰な戦闘能力も、こうして触れていても全く分からない人間の様な体も、誰が見ても美しいって感じる容姿も、東雲博士を想って流した涙も怒りも…僕からしたら世界を自由に見て周ったり、他の人間に混じって人間として暮らせって言ってる様にしか思えないけどね」



世界を自由に見て周る…?他の人間に混ざって人間として暮らせ…?


東雲様は本当にそんな事を思って私を作って…私に個体識別番号…名前を与えたのか…?



「じゃなきゃココロに考える能力を与えず泣いたり怒ったりさせる必要も無い、魔力を持った魔人だけを殺せってプログラムした殺戮兵器にするし、人間の体なんて可動域も耐久性も優れない体にせず、美醜関係なく可動域と耐久性を限界まで上げた機械丸出しの機体にする。殺すだけを目的としていたら何の戦術アドバンテージも無いその思考も感情も人間の体も容姿も持たせるだけ無駄。…なのに戦闘に無駄な要素を持って生まれたのであれば少なからず東雲博士の何らかの想いがあるんだよ」



シオンにそう指摘されて初めて考えた。


確かにシオンの言う通り、人間の様な見た目も悲しいと感じるこの思考も戦闘には不要な物だ。


それが不要な物だと感じなかったのはそう作られたからであって、自身の姿形に疑問すら思わなかった。


この姿形、思考や感情も東雲様の何かしらの考え、想いが込められているなんて考えもしなかった…。



「…シオン」


「何?」


「鏡…と言って分かるか?」


「流石にそこまで原始的じゃないよ、外の世界は。自分の姿を見たいの?」


「ああ…見た事が無いんだ…」


「ん、ちょっと待ってね」



そう言うとシオンは魔力を集めて空中に穴を開けて手を差し込む。


ワームホール的なもので何処からか鏡を持ってこようとしているのか…?本当に魔法というものは理解不能だ…。



「…あった」



そうして穴から等身大の鏡を取り出したシオン。



「気の済むまま見ればいいけど…結構高いから割らないでね?」


「…ああ」



その鏡で初めて自分の姿を見た私は───自分の視覚映像を疑った。



「東雲…様…?」



傍からえ?とシオンが困惑する声が聞こえるが、見間違えるはずが無い…私のこの外見、容姿は東雲様と同じだ。


栗色の髪色と黒味が強い茶色の瞳では無いが、眼の形や鼻の形、顔のパーツは全て同じ。


身長や体格は東雲様よりは大きいが…間違いなく私の容姿は東雲様と同じ…正確に言うなら酷く酷似している。



「何故…私の容姿が東雲様と似ているんだ…?」


「…なるほどねぇ」


「…?何がなるほどなんだ…?」



シオンは何か分かった様に何度も頭を振ってうんうんと声を漏らすが、



「ココロ、君は正真正銘東雲博士に愛情を注がれて生まれた娘だ。これは予想じゃない、事実だ」



今までとは違う優し気な声色、優し気な表情でそう言われ…一瞬だけ私のメモリに残された東雲様の表情と声色が一致した。



「……」


「…?どうしたの?」


「…いや…何故シオンはそう思うのかと…」


「そりゃあ…ココロの容姿が東雲博士と似てるからだよ」


「…似ていたらそうなるのか?」


「ココロは見た事ないかも知れないけど、人間の子供の容姿って言うのは基本的に親に似る傾向にあるんだ。何故かというと母親のお腹の中で遺伝子、DNAを受け継ぐからね。こういうサイエンス的な話はココロの方が分かるでしょ?」


「あ、ああ…」


「そんな東雲博士がわざわざ自分の容姿をココロに与えた…ならそれは自分の遺伝子をココロに受け継いだと同義だ。きっと自分の娘ならこんな風に成長するのかな、こんな風に成長して欲しいなって思いながらココロを作ったんだと思うよ」



私が東雲様の娘…遺伝子を受け継いだ娘…?


でも私は魔人を殺す為に生み出された戦闘型オートマタであり兵器で、東雲様と同じ人間ではなく作られた機械───



「自分に娘が居たらと想像しながら容姿と似せ、家族の証明と同義の自分と同じ東雲の姓を与え、オートマタである君に人間に必要な心なんて名前も与え、そんな規格外な戦闘能力も武装も与えてるのに戦争に向かわせなかった…それは戦争に行かせたくない、死なせたくないと娘の身を案じる母親、母親に愛された娘じゃん」



そんな私の思考を遮る様にシオンは私の腹部に指を当て、また東雲様と一致する優しい表情で言う。



「お腹を痛めて生んだか、頭を悩ませて生んだかの違いはあるかも知れないけど…どちらにせよココロの母親は東雲博士ただ一人。そして母親の願いは一つ、一人娘には幸せになって欲しい、だ」



その瞬間、私のメモリに東雲様との…母親との思い出が繰り返され、眼から大量の涙が零れ出した…。

あっという間に一年が過ぎ去りましたが、残り数日体調に気を付けてお過ごしくださいませ。

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