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過去の遺産

本日の投稿はここまでです。

「…これで終わりか」



 どうも岩だらけの山の頂上で【空間収納】から今まで殺した奴の死体を取り出し更に山を作った僕です。



「ほんと、お前は生きてるだけで害悪なクソ女だったよ」


「───」



 足元に転がった拷問の末に茫然自失になったロゼットを蹴り上げ死体の山に凭れさせた僕は、



「もう自我は無いだろうけど一応聞いておく。最後に言い残したい事は?」


「───」


「…無駄か」



 何かの手違いで転生しない様にソウルイーターを発動させた『黒金の杯』でキッチリと息の根を止め、五指をゴキゴキと鳴らし右手を突き出し握りしめる。



「『飛穿(とびうがち)緋焔桜(おうか)』」



 死体の山が見えない炎によって肉も骨も残さず灰になっていくのを眺めながら、無意識に出た深い、とても深い溜息で仕事の終わりを実感した。



「髪も伸びてきたな…」



 地面に付くぐらい伸びた自分の白髪を指に巻きながら思う。


 あの聖都の大教会襲撃から一月半…暦上では既に四月。


 僕は一月半をリテュアリス神聖国で過ごし、聖都だけでなく街や村、人が集まる場所に赴き人神至上主義派閥の皆殺しとロゼッタが残した仕掛けの破壊や物品等を集め続け…今日、全てやり遂げたのだ。


 悪魔と結託していた事から嫌な予感はしていたが、聖都には六つ『魔界の門の招来(カオスゲート)』の召喚陣が描かれ、街や村にも最低一つは描いているという事をロゼットから聞いた時は本当に呆れてしまった。


 それからロゼットの復讐に無理やり利用されていた者を開放したり、他種族を虐げる様に先導していた黒い魂の奴を殺しまわったりと、色々忙しくも世界を綺麗にしているという充実感のある仕事だったのだが…この仕事で唯一面倒だったのはロゼットの自殺を止める事だった。


 情報を全て引き出す前に死なれるのは論外だし、もしソウルイーターでトドメを刺す前に自殺して転生を遂げたら溜まったもんじゃない…だから細心の注意を払いながら今までの悪行を悔い改めさせる為に生かさず殺さずの拷問を続け、余す事無く情報を抜き取る為にずっと監視をし続けたおかげで僕の可愛い顔にクッキリとした隈が出来てしまった。


 でもまぁ…絶望と狂気の中で十分苦しんでくれたとは思うからこの隈は甘んじて受け入れよう…どうせすぐ消えるだろうし。


 そして、その一月半の間にリテュアリス神聖国は教皇を続ける事になったフリューゲル・ホープ・リテュアリスの宣言によって歴史上類を見ないぐらいに揺れに揺れた。


 その宣言とは“人間以外の他種族を我々と同じ人間と定める”…これにより人神至上主義を掲げ続けた生粋のリテュアリス神聖国人はその宣言を受け入れられず、聖都では大教会の襲撃や他種族への過剰な暴力等の暴動も起きたみたいだが、アルメリアを筆頭にその暴動を即座に鎮圧、鎮圧によって傷付いた者をフリューゲルが癒した事ですぐに納められ、人と他種族が同じ立場で手を取り合う為に本格的に動き始めたらしい。


 今では“この決定に従えない者はリテュアリス神聖国を去れ”という確固たる意志を込めた教皇の言葉を受け入れられない者は国を離れているらしいが…そんな奴がいつもの調子のまま他国でも上手くやっていける筈が無い、体のいい厄介払いならぬ国外追放だ。


 そして今まで虐げられていた他種族には“この国で暮らしたくないと願う者はリテュアリス神聖国に属する全ての街や村に使者を派遣するので、その旨を伝えてくれれば受け入れてくれる国が見つかるまで最大限の支援を行う。もしこの国に残って人間と手を取り合い共存を選ぶ優しき心と慈悲の持ち主が居るのならそれ以上の支援を行う”と宣言し、聖都は日夜てんやわんやの大賑わいだそうだ。


 ちなみにユーリの死体はアルメリアが気付く様に放置し、死体に“頑張れ”と記した手紙を残したから血眼になって探す事は無いだろう。



「っ…流石に髪切らないとな…」



 風が吹き、僕の髪を揺らしながら灰と肉が燃えた不快な臭いを消し飛ばし、自然の香りを運んで僕の鬱屈とした気分も吹き飛ばしてくれる。



「まっ、これで戦争も起こらないし僕にちょっかいを掛けてくる奴も消えた。清々しい事この上ないけど…一月半か…」



 だけど僕には一つ、どうしても避けられない悩みというか恐怖がある。



「もう一人の僕と情報共有して頭おしゃかにならなきゃいいな…」



 そんな恐怖を怯えながら伸びすぎた白髪を揺らし、『空爪駆(あまがけ)』でリテュアリス神聖国からローゼン王国への帰路につく。



 ………


 ……


 …



「…うん?」



 が、一日と半分ほどの時間を掛けてもう少しでローゼン王国に入るというタイミングで【直感】さんが何かに反応した。



「んー…このまま全力で進めば深夜に家に帰れるけど…【直感】さんにハズレは無いからな。ここで休憩するか」



 時刻は17時…眼下はかなり傾斜が付いた小高い山で囲まれた水溜まりの様な湖で、浮島みたいに水面から頭を覗かせる中央の岩と水の中でも腐らず背を伸ばす細い木々が印象的。


 例えるならソンブレロという麦わら帽子の中央と持ち上がったつばの間に水が溜まった様な湖だ。



「…この湖に反応したんだろうけど…流石に一日で全部調べるのはきついな…」



 僅かな足場と言ってもほぼ傾斜でテントも張れないどころか寝転ぶ事すら出来ない、腰と背を預けるのに丁度いいぐらい傾斜の短い草を踏みながら周囲を見渡す。


 だが不自然な点は無く、地形によって自然と溜まった湖にしか見えず自ずと中央から頭を出す岩に視線が向いてしまう。



「んー…?もしかして水の中に何かある…?」



 念の為に水を手で掬い、匂いや味を確かめても無味無臭。


 飲み水としても利用出来そうだし潜って飲み込んで腹を壊すという心配はなさそうだ。


 まぁ、新しく芽吹いた【悪食】と【鉄の胃袋】の才能があるからお腹は壊さないけど、気分的にね?



「とりあえず潜ってみるしかないか」



 着ていた暗殺服を脱いで長すぎる髪を纏めて氷魔法でゴーグルを作り、水中での動きやすさを重視して黒のタンクトップとホットパンツ、何かあった時に素肌が触れない様に二の腕と太腿をまでを覆うアームカバーとレッグカバーを纏い、何かを採取したり湖に潜む何かに攻撃された時用に太腿と二の腕にナイフホルダーを巻いた僕は、何度か深呼吸をしてから胸いっぱい自然の空気を取り込んで頭から湖に飛び込んだ。



(地形的に雨とかで出来た湖だと思ってたけど水質はかなり綺麗…地層的には土と岩混じり、木の根が隙間から伸びて苔がびっしり…これのお陰でろ過されて綺麗な水質になってるのか?…で、こんな地形だから魚は居ない…てか、滅茶苦茶深いな…水深50m程はある…)



【混沌】の権能があるから光が無くてもクッキリと水底が見えるが、水底にはびっしりと水草が生えていて、そこから成長した木が水の浮力のお陰で細くても折れず真っ直ぐ上に上にと伸びている光景が広がっている。


 まるで水中の草原…そう例えるのが一番この光景にピッタリだ。



(適当に泳いでもう一回【直感】さんが反応するのを期待するか)



 光景が光景なだけに空を飛ぶ様に【人魚の舞】を意識しながら泳ぎ、【直感】さんが何に反応したのか調べていく。



(とりあえず一周ぐるりと調べてみたけど浅い部分には特に感じるものは無し…となるとやっぱり水底だよな…)



 一度水面に顔を出してから深く潜り、水底を30秒程調べては浮上、という工程を何度も繰り返して調べていれば時刻は26時。



(…んっ!?反応があった!)



 水底に生えた水草の茂みに手を伸ばし、土や砂利が荒らされた事で立ち昇る黒靄を躱しながら手探りで探し続けると指先にその何かが触れた。



(これはカード…?)



 苔がびっしりと付いた掌程の大きさの薄い何かを手に水面に上がり、水と指で苔を取り除いていく。



「ぷはっ…ここで死んだ冒険者のギルドカードか…?でも骨も遺品らしき武具も無かったし…」



 そうして苔を剥がし姿を現したのは───僕にとってはとても馴染み深いものだった。



「これ…クレジットカード…?いや、カードキーか…?」



 苔に塗れていたのはプラスチックの様な材質の水色の板で、上部には読み取り部分である黒い磁気ストライプがあるカードだった。



「何でこの世界に…」



 陸に腰掛けて観察するが文字などは無く全くの無地。


【真眼】や【解析】で注意深く観察しても得られる情報は『磁気カード』のみ。


 そんな面白みも無いカード、だけどこの世界では明らかに異質で珍しいカードを眺めていると、脳裏にエルルさんの言葉が思い起こされる。



神代の時代(ヒストリア)の超高度の兵器、超常現象の魔法…人と人の対立は発展し過ぎだ時代を終わらせるには十分だった』



「…もしかして“魔法概念”がまだ存在しなかった“科学”が発展した神代の時代(ヒストリア)の遺物…?」



 エルルさんが教えてくれた事を思い出し、もしここが過去の遺跡(アーキエイジ)だとしたら何か科学知識や昔の事が知れる資料なんかがあるかも知れない。



「ストライプは余り傷付いて無いから使えそうだけど…ちょっと本格的に探してみるか…!」



 そして調査を再開した僕は…



 ………


 ……


 …



(やっと見つけた…!こんなの分かる訳無いだろ!!)



 十日後、中央の岩の中腹辺りにカード一枚差し込めるぐらいの綺麗な隙間を見つけた。



(散々探し回ったんだ…!これでカードが読み込まれなかったりショートするならこの岩を破壊して無理やり侵入してやる…!)



 気が狂いそうになる程に潜って調査してを繰り返していた僕は、今までのイライラをぶつける様に隙間…苔を除去したスリットを睨みつけながらカードキーを差し込む。


 するとスリットから緑色の光、何かをスキャンする様な光がカードキーを何度も往復し、亀裂も不自然な跡も無かった目の前の岩が左右に動き───



「んげっ!?」



 人が二人並んで入れる程の空間が岩の中から現れ、水に押される様にその空間に押し込められる。



『排水を開始します。酸素ボンベを着用している場合はこのまましばらくお待ちください』


「っ!?」



 そして機械的な女性の声が響くと扉がガチンッ!プシュー!と空気を吐き出しながら閉まり、空間に入った水を床から排出していく。



『排水中です。少々お待ちください』



 水の中でも聞こえるアナウンスが何度か再生されて水が完全に抜け切ると、この世界では見ないツルツルとした素材で作られた壁が割れ、これまた僕にとっては馴染み深いダイビングスーツとシュノーケル、酸素ボンベが収められたロッカーが現れた。



『排水を終了します。使用済みの潜水装備を回収致します』


「す…すご…」



 酸素ボンベを取り出しワザと酸素を抜いてもう一度ロッカーに戻せば壁は閉じ、すぐにシュルル…と小さな音を立てながらふわりと体が軽くなる様な下に降りている感覚が来る。



「エレベーター…技術レベルは現代日本…それ以上の技術レベルだ…」



 どれぐらいの速度で降りているのかは分からないが、5分程降りている感覚を感じているとエアロックが外れる空気の音がして扉が開いた。



「マジで研究施設だ…」



 エレベーターから一歩出ると左右の通路に照明が点き、手前から奥に向かって順番にパチパチと音を立てて通路を照らしていく。


 露わになった通路を見ればエレベーターの壁と同じツルツルした材質が使われており、苔を取る時に汚れた指で擦ってみれば汚れは付かず、髪から滴った水滴も弾いてるのか息を吹きかければそのままコロコロと転がっていく。



「埃とかも溜まってる感じしないしかなり清潔感があるな…」



 この建材の材質のお陰なのか、それとも掃除ロボット的なものがあるのか、そんな事を考えながら僕は壁に視線を向ける。


 その壁にはこの施設の案内図があり、古代文字で書かれている文字を読めば『第六戦略兵器格納庫案内図』と書いてある。



「第六戦略兵器格納庫…という事はここ以外にも第一から第五格納庫、もしかしたら第六から先まであるって事か…魔法に対抗する為に科学技術を詰め込んだ神代の時代(ヒストリア)の戦略兵器…絶対に世に出しちゃいけないものもあるんだろうな…」



 地図をメモに書き写して歩兵兵装格納庫と書かれた場所に立つと、繋ぎ目も無い真っ新な壁がドアの形に光り上にスライドして開く。


 そして中にある物を見て僕は目を見開いた。



「なっ…!?ホログラム…!?」



 白い台座から浮かぶ緑色の光…その光はハンドガンからライフル、奥に進めば手榴弾やロケットランチャーらしき物を模したホログラムが各武装の取り扱い説明も合わせて空中に映し出されている。



「じゅ、銃は予測出来たけど…ホログラムまで…マジで技術レベルが高い…『ベレッタM92F』…『M1911コルト・ガバメント』…」



 銃の知識は全く無いが、ホログラムで映し出される説明文を読みながらM1911コルト・ガバメントが映し出されている台座に触れると台座から機械音声でアナウンスが流れる。



『M1911コルト・ガバメント、アタッチメント無し、試射用、.45ACP弾、装填弾数7発、生成します。少々お待ちください』



 それからしばらくの間、台座が緑色の光を断続的に光らせ続けると台座の上部が開く。



『試射用M1911コルト・ガバメント生成終了。使用後はコンソール側面のダストボックスへ銃本体と薬莢を破棄してください』


「…本当に銃だ…なんか剣とかナイフに比べて持つのが怖いな…」



 黒々としてひんやりした感覚を寄越す銃…剣とは違う命を奪った感触を寄越さない命を容易く無感動に奪ってしまう兵器。


 その兵器、ハンドガンをコンソールから取り上げれば20m先に人の形を模したホログラムの的が浮かび上がる。



「えっと…安全装置を外して…」



 両手でしっかり握って構え、ホログラムの頭の部分を狙って引き金を引けばバンッ!と弾ける音と強烈な衝撃が響き、金色の薬莢が排出されて床を甲高い音を立てて転がった。



「っ…凄い衝撃…しかも当たってないし…」



 結果はハズレ、その後も続けて片手で撃ったりカッコつけて撃ってみたりしたが、的に当たったのは頭に二発だけだった。



「意外と難しいな…ってか、この世界に火薬なんてあったのか…?いや、魔法が発展してるからそういう研究が進んでないのか。爆破属性の魔法があるんだし掘削用のダイナマイトとか必要ないし…」



 コンソールのアナウンスに従って弾切れの銃と薬莢をダストボックスに入れれば中からバキバキ、ゴリゴリと粉砕している様な音が響く。



「生成って言ってたしリサイクルして資源の節約でもしてるのか…?」



 その後も気になる銃を手に取って試射をしてから歩兵兵装格納庫から出た僕は、広い施設内を散策して一番気になっていた第六戦略兵器格納庫管制管理室の前まで来た。



「…?開かない…ってそりゃそうか」



 開かない事に一瞬首を傾げ、水色のカードキーを近くのコンソールに読み込ませる。


 すると、



『お帰りなさいませ『エリカ・シノノメ』様。前回の訪問から4万2,779年360日12時19分経ちました。パスワードの変更を推奨します。変更する場合は管制管理室にて変更手続きをお願いします』



 そんなアナウンスと共に右、上、左、下にと四枚重ねの扉がスライドして部屋の中が露わになる。


 部屋の中は僕が想像したよりもこじんまりとしていて、正方形の部屋に椅子と白いテーブルの様な物がコの字にせり出しているだけの無機質な部屋だった。


 てっきりSF作品に出てくる司令室とか、宇宙船の操縦室みたいによく分からない機械が並んで大人数で操作するみたいな光景が広がってると思ったけど…そんな事より気になる事をアナウンスが言っていた。



「エリカ・シノノメ…滅茶苦茶日本人染みた響きだな…それに4万年前…?想像が全然つかないし、そんな前の施設が現役で動いてる方がおかしいだろ…魔法より有り得ないぞ…?」



 部屋に一歩入ればプシュッと空気の音がして四枚扉が閉まり中の照明が消えて真っ暗になる。


 そしてすぐに真っ暗な部屋はパソコンの画面と同じウィンドウのホログラムで埋め尽くされ、せり出していたテーブルには黒い手袋が一組とホログラムのキーボードが浮かび上がっていた。



「か、カッコいい…」



 男心をくすぐる近未来的光景にウズウズしたものを感じつつ、椅子に腰を下ろしてホログラムキーボードの横にある長方形の台の様なものにカードキーを置いてみる。



『お帰りなさいませ、エリカ・シノノメ様。現在使用されているパスワードは長期使用による脆弱性があると判断致します。変更致しますか?』



 目の前に出て来たホログラムウィンドウに書かれている文言をアナウンスが読み上げる。



「こういうのって大体現在のパスワードも必要になるし、ここまでのオーバーテクノロジーなら網膜認証とか血液…もしかしたらDNA認証とかもあるかも知れないし…」



 人差し指でホログラムキーボードを触ろうとするが、当たり前の様にすり抜ける。



「なるほど…この手袋でホログラムを操作出来る様になるのか」



 着けていたアームカバーの上から手袋を嵌めれば機械的な硬さを感じ、この手袋にもオーバーテクノロジーの技術が扱われているとすぐに分かる。



「本当に凄いな…」



 その手袋を嵌めてホログラムのキーボードを触れば反応し、そのままポチ、ポチ、ポチと操作してパスワード変更をしないを選ぶ。



『パスワード変更手続きを一時中断致します』



 すると展開されていたホログラムが全て消え、もう一度ホログラムが展開されると第六戦略兵器格納庫内の映像が浮かび上がる。



「監視カメラの映像…それらしい物が無かったけど、監視カメラも光学迷彩とかで隠してたとか…?」



 通路、倉庫、部屋等が映されている映像のホログラムを手に取って観察していると…一つの監視カメラの映像が目に付く。



「…人影…?」



 一枚の映像をタブレットの様に指を開いてズームしていくと暗い部屋に人型らしきものが映る。



「流石に映像越しじゃ【混沌】の権能は効かないか…考えるならアンドロイド…場所も合わせるなら戦闘型アンドロイドかな?」



 軍事施設と言っていいか分からないが、そんな所にある人形が平和な人形なはずが無い。



「もしかしたら侵入者として排除行動を取るかも知れないから近づかないでおこう…」



 そう思いながら自前で用意したメモの地図にここ危険と記そうと目を離した時、



「…!?ドアが開いてる…!?」



 暗かった映像が通路の光を取り込み部屋の詳細を映すが、そこに僕が見た人影はいなかった。



「マズい…!バレたか…!?」



 机に置いていたカードキーと操作用の手袋を【空間収納】にぶち込み通路を出ると、通路の奥、曲がり角からカツン、カツンとヒールの様な音が響いて来る。



(侵入者排除にしては動きが遅い…?)



 もしかしたら排除行動じゃないかも知れないが、警戒して曲がり角から管制管理室の方を伺う。


 カツン、カツンとヒールの音がどんどん大きくなり、二の腕に付けているホルスターからナイフを抜いて構えていると───



「……シノノメ様…」



 長い銀髪にオレンジ色の瞳、頭には黒とオレンジ色の角の様なヘッドギアとロボットスーツとしか言えないメタリックなオーバーテクノロジーの完全武装をした女性がもぬけの殻となった管制管理室を見つめ寂しそうに呟く。



(…もしかしてあのカードキーの持ち主のアンドロイド…?)



 胸に見える筈の魂は無い…だからオーバーテクノロジーで作られた人形、アンドロイドだと分かる。


 だけど、今聞いた声は寂しそうで…そのままジッとアンドロイドらしき女性を観察していれば静かに涙を零した。



(えっ…!?な、泣いた…?感情があるのか…!?)



 その涙は誰かの帰りを待ち続ける寂しさの涙なのか、それともプログラムされたオーバーテクノロジーの産物による比喩表現なのか…そう思った時に管制管理室を開いた時のアナウンスを思い出した。



(4万年…そんな長い時間、ここで一人で待ち続けていたのなら…)



 ちょっとした感傷の様なものを感じた僕は、気付いたらナイフをホルスターに戻しその女性の前に姿を現していた。



「…侵入者…魔力反応を検知、魔人と推定」



 女性は姿を現した僕に視線を向けるとロボットスーツの背部に付いた八枚の機械の羽の様なものを向ける。



「魔人かどうかは分からないけど…今、シノノメ様って言ったよね?」



 両手を上げながらカードキーを指に挟んで見せれば女性の目は見開かれ眉を顰める。



「何故魔人がシノノメ様のカードキーを…まさか…」



 殺意の籠った視線に変わり、背部の羽だけじゃなくキィィンと超音波を発する白い板みたいな剣を抜いて構えた。


 そして確信する…この女性には感情があると、それならば交渉の余地はあると。



「僕は危害を加えるつもりは無いし、ここを破壊する気も無い。そしてエリカ・シノノメさん…この場合は博士と言った方がいいかな?その博士も殺していない。このカードキーは拾ったんだ」


「拾った…?一体何処で…?」


「この施設の外。僕に戦闘の意思は無いからそんな物騒な物を向けないでくれない?」



 ナイフに手を伸ばせばピクリと女性が反応するが、カードキーを盾にすれば女性の動きが止まる。



「…ほら、僕が持ってる武器は外した。魔力に関しては…どうしようもないから魔力を抑える装備とかがあるなら貸して」


「何故…?」


「そうすれば本当に戦闘の意思が無いって伝えれるでしょ?」



【空間収納】に体に巻いていたナイフを放り込めば剣は下ろしてくれるが、まだ背後で浮いている八枚の羽は僕に向き続けている。



「…そうする意味が分からない」


「君に対して敵意が無い事を示したいから。ほら、魔力を封じる物があるなら貸してよ」


「…何故そんな事をする?」


「君と話したいから」


「…何故?」


「ここがどういう場所だったのか、君がどういう人物なのか、君が待つエリカ・シノノメ博士はどういう人だったのか…知れる事は知りたい」


「…それを知ってどうする?魔人の味方を連れて襲撃するつもりか?」


「別にそういうつもりじゃ───」



 無い、そう言おうとして思い至る。


 まだこの女性にとっては神代の時代(ヒストリア)の科学と魔法が淘汰し合う戦争が外では続いているのだと。


 それにさっきの涙…まるで親に捨てられた娘の様な辛く悲しい涙に見えた。


 こんなの僕の柄じゃ全然無いけど、誰もいないこの場にずっと一人で居るのなら、真実を知らずにずっとこの場で待ち続けるのなら…残酷だと分かっていても、希望を摘み取ったとしても、お節介だったとしても真実を告げて誰かが帰って来るという幻想を砕いて、自分の為に残りの時間を生きさせてやりたいと思った。


 それだけあの涙は僕にとって衝撃的だったんだ。



「いや…言葉を変える。もう外で戦争は起きていない」


「何…?」


「科学は魔法に負けた。世界は魔法主体の世界になってるんだ」



 そう言えば浮いた羽からノータイムで緑色の光が放たれ僕の右腕と右脚を掠める。



(…やっばい、速過ぎて全然反応出来なかった…でも、【直感】さんが反応しなかったという事はそう言う事、必要経費だったって事だよな…?)


「…無抵抗なのに酷いね…?」



 視線だけで腕を見れば掠めた所は焼け焦げよく嗅いだ嫌な臭いが白煙と共に立ち込める。



「…我々が負けただと…?あり得ない!!我々が負けるはずなど無い!!」


「事実だよ。外の世界ではこんなオーバーテクノロジーは使われていないし、君みたいな人はいない。居るのは僕みたいな人間、獣の耳と尻尾を持ち身体能力に優れた獣人族、自然との親和性が高く妖精や精霊と心を通わせ魔力の扱いに長けたエルフ族、屈強な体と腕力を持ち鍛冶や物作りに長けたドワーフ族、ドラゴンの身体機能を分け与えられ空を支配する竜人族、戦闘に優れた体と驚異的な再生能力を宿す鬼人族…他にも多種多様な種族が魔獣、魔力によって突然変異した動物の脅威に晒されながら王を掲げて国を興し、その国の中で手を取り合いながら暮らしてるんだ。こんな施設とは比べ物にならない、君が生きていた時代からしたら低レベルな生活水準だけどね」


「…嘘だ…!そんなの嘘にきま───」


「嘘じゃ無いよ。なんなら今から僕とこの鳥籠を出て外の世界を見に行く?」


「っ…」



 ずっと僕に向いていた背部の羽は垂れ下がり、女性も体を震わせて顔を伏せる。



「…こんな事言いたくないけどさ、普通の人間は4万年も生きられない。君が帰りを待っていたエリカ・シノノメ博士が神でも人間の枠を超えた超越者でも無かったら───」


「それ以上言うな!!!!!!!!!」



 その場でガシャリとへたり込み息を殺して泣き崩れる女性…



(…はぁ、こんなの僕の柄じゃ無いんだけどなぁ…)



 そんな嗚咽を聞きながら僕は慰める訳でも無く離れた所に座り、【治癒】で火傷を治しながら泣き止むのを待った…。

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