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疑いの後処理

本日の投稿はここまでです。

 Side.カムラ



「そんな人材が居るなら是非ウォーカーに欲しいねー!」


「───な、で、ん、じゃ、ねえ!!ネロ!!!」



 全くの気配を悟らせずギルドマスターのパトラさんの頭を撫でるネロという人物…身長は180㎝を超えてると思われる長身で、胸の主張が途轍もない人は屈託のない満面の笑みを浮かべていた。



「いいじゃーん!パトラ可愛いし、パトラ見てると撫でたくなっちゃうんだよねー!」


「猫扱いすんじゃねえ!!」



 逃げようとしたパトラさんを逃さないとばかりに椅子ごと後ろから抱きしめればパトラさんの額に青筋が浮かび、抱きしめられている腕を掴む腕にも途轍もない力が入っているのかしなやかな筋肉が浮き上がって来る。



「久々なんだからいいでしょー?」


「は…!な…!せ…!!」


「え…えっと…こちらの方は?」



 この空気と状況に耐え切れずもう一人のギルドマスター、ジゼルさんに問えば呆れながらも教えてくれる。



「この人はネロ・リンセント…私とパトラとミミともう一人の仲間が現役の時にリーダーだった人」


「…!という事はこの方もSランク冒険者…」



 元とは言え余り見かける事の無いSランク冒険者がここに四人も集まっているなんて…一体どうなっているんだ…。



「今は冒険者じゃないけどね。…それで?ここに居るって事は調査終わったんでしょ?ネロ」


「んー…一応終わったけど特に変わった事は無かったんだけどー」



 藻掻き苦しむパトラさんをガッチリと捕まえ何事も無いかの様に話すネロさん。



「でも、絶望の刻(エンディング)が起きたのは確実かな?ダンジョンの中の魔力がかなり乱れてるのかモンスターの発生も偏ってたりしたし…まぁ、一番は感だけどね?」


「そう…」



 そんなふんわりとした根拠の乏しい話でいいのか…?そう思っているとジゼルさんは深く考え込み頷く。



「…分かった。カムラ、この時点であなたに対するパーティー殺害の容疑を完全に取り消し、絶望の刻(エンディング)発生によりパーティーは壊滅したと処理させてもらうわ。監視も解くから安心してね」


「…容疑が晴れてよかったです」



 どっちにしろこれで疑われないのならよかった…。



「それと形式上はまだ『天の剣(ソル・クラス)』に加入している事になっているから『天の剣(ソル・クラス)』のパーティー資産は生き残りのカムラに移譲されるけど…どうする?」



天の剣(ソル・クラス)』のパーティー資産…か。


 あんな奴等の資産など私としてはいらないが…



「がめつい、意地汚い、恥知らず、どんな風に思われてもいいですが…頂きます」


「別にそんな事は思わないよ。これは正当な権利だからね」



 拘束から逃れようとしていたパトラさんが私に意外そうな視線を向けて来る。


 受け取らない様に見えていたのならよかったが、誤解を解く為に言おう。



「受け取って…その全てを私が加入する事になった所為で追放されたサポーターに渡したいのですが、それは問題無いでしょうか?」


「…なるほどね。受け取った後はカムラの物だからカムラの好きに使うと良いよ」



 そう言うとパトラさんの目が一瞬だけ優し気に変わり、すぐにきつく吊り上げてネロさんの拘束を外しに掛かる。



「ミミ、『天の剣(ソル・クラス)』の資産移譲と解散の処理をしてくれる?」


「分かりました」



 そう言うとサブギルドマスターのミミさんは手続きの為に一人部屋を出ていく。


 これで少しでも不当な扱いを受けたサポーターが報われるといいのだが…



「あ、それで一件落着なら私、ヨルって情報屋の事もっと知りたいんだけど!」



 話しの切れ間に元気のいい声を響かせるのはネロさん。



「ネロ…もうこの一件は終わりなんだけど?」


「えー!?気になるじゃん!ね!?パトラ!」


「アタシに振る前に放せネロ!!……まぁ、気になるっちゃ気になるな。お前もどうせ気になってんだろ?ジゼル」


「…まぁ、そうだけど…こっちは五日間も殺人容疑掛けて監視とかしてたから流石にこれ以上拘束したり根掘り葉掘り聞くの申し訳無いんだけど?」



 別にこちらとしては何も悪い事をしていた訳でも無いし、するつもりも無かったから苦は無かったが…私としてももう一度あの情報屋、ヨルに会いたい。



「いえ…私もヨルにはもう一度会って命を救ってくれたお礼も言いたいので探してくれるというのなら覚えてる限り伝えます」



 そう言うとジゼルさんは小さく溜息を吐いてずっと置かれていた飲み物に口を付ける。



「そう…じゃあ、どうやってその情報屋と会ったかから話してくれる?」


「分かりました」



 私も緊張で手を付ける気になれなかった冷めきったコーヒーを一口飲んで記憶を辿る。



「…最初に会ったのは『天の剣(ソル・クラス)』に加入して初めて合わせをした後でした。もうすぐAランクに上がると言っていたのに『天の剣(ソル・クラス)』のちぐはぐ感…戦闘面では確かにAランク相当だと思ったのですが、それ以外が配慮不足で新人冒険者でも気を付けるべき事を気を付けない行動に違和感を感じてました。そんな違和感を抱えながら宿に帰ろうとしたら…薄暗い路地から余りにも不快な物言いで突然話しかけられました」


「いいねぇ、いいねぇ!如何にも情報屋っぽい登場の仕方じゃん!」


「ネロ…興奮するのはいいけど黙って聞いててよ…」


「ったく…ほんとお前そういうの好きだよな…」


「えー!かっこいいじゃん!」


「…続けても?」


「いいよー!」

「ごめんね?」

「おう」


「…その物言いに私の機嫌が損なわれ、さっさと追い払おうと刀を抜いて脅したんですが…手に持ってた酒瓶を割って、私の首に刺さるか刺さらないかの完璧な寸止めで返されました。正直…その時の表情は人を殺す事を躊躇しない…“本物のそれ”でした」


「本物ねぇ…それで言ったら私達も本物かな?」


「…ネロ」


「はいはーい」


「…それでですね、私にして来た一つ目の質問は“君は何で『天の剣(ソル・クラス)』に入ったの?”でした」


「…カムラは何て答えたの?」


「それは───」



 一瞬、Sランク冒険者に隠し事をするのはダメだと口を滑らせそうになるが、何とか飲み込み情報屋にも言った答えを口にする。



「…ダンジョンを踏破して私自身のランクを上げる為です」


「まぁ…何か事情があるのは察したよ」


「っ…そんなに私は分かりやすいですか…?」



 元々私は嘘が吐けない性分なんだ…。



「まぁね。別にそこまでは聞くつもりないから続けて」


「はぁ……それで次の質問は“『天の剣(ソル・クラス)』がどんなパーティーか知らずに入ったの?”でした」


「やけに『天の剣(ソル・クラス)』に入った理由を聞きたがるねー?」


「私も同じ様に問いました。そしたら“『天の剣(ソル・クラス)』はサポーターを食い物にしてる外道パーティー”だと…それからそのサポーターがパーティーにどう扱われ、どういう目に遭わされていたのかを聞かされて最初に感じていた違和感に納得いきました。そして私はそのサポーターから追放の原因になった私に復讐でも頼まれたのかと問いましたが、そのサポーターは復讐なんて望んでいないと」


「んー…じゃあ、ますます接触してきた意味が分からないね?親切心?」


「情報屋もそう言ってきて流石にその時は流石に信じられませんでしたが…最終的に私が生きてここに居るので本当に親切心だったんだと思います。…情報屋は最後に私が何も知らずに『天の剣(ソル・クラス)』に加入したと分かると“近い内に『天の剣(ソル・クラス)』はダンジョンの中で壊滅する。巻き込まれたいならそのまま『天の剣(ソル・クラス)』に加入したまま死ね。死にたくないなら抜けろ”と忠告して来ました」



 その言葉を聞いたネロさんは楽しむ様な雰囲気を消した。



「…まるでその情報屋は絶望の刻(エンディング)が起きる事を知ってたみたいな忠告だねぇ。益々興味出て来ちゃうなぁ」



 私も最初はそう思えたが…あの首なしの騎士と戦ってる時の情報屋は計画を立てていた様には見えなかった…。



「本当に起きると分かっていたかは本人に聞いて見ないと分かりませんが…情報屋が言うには『天の剣(ソル・クラス)』の雑用を全て一人で担っていたサポーターが抜けた時点で遠からず破滅すると…」


「んー……絶望の刻(エンディング)を示唆したのか、実力を見誤ってどっかで野垂れ死ぬと見たのか…はたまた消す予定があったのか…判断に迷っちゃうなぁ」


「多分、消すつもりは無かったと思います。本当に消すつもりなら私に忠告せずに不意打ちで殺せますし…何より情報屋の強さなら『天の剣(ソル・クラス)』が束になっても勝てないですから」


「肩を持つねぇ?自分の手を汚したくなかっただけかもよ?」


「それもあると思いますが…あの情報屋が手を汚す事に躊躇するとは思えなくて…」


「一理あるねー。まっ、本人に聞いて見るしかないかぁ」



 気になった事を聞き終え満足そうなネロさんはパトラさんを解放し窓枠に腰を下ろす。



「…他には何か言ってたりした?」



 他に…ああ、そういえば…



「…例のサポーター今は凄い人に保護されてるとかなんとか。これ以上は何も」



 そう言うとネロさんとジゼルさんは首を傾げたり何かを思い出そうとしてるのか斜め上を向くが、パトラさんだけは虎耳をピクリと震わせた。



「凄い人…それが誰とかは?」


「いえ、わかりません…」


「凄い人か~…パトラは心当たりあるんじゃない?明らかに反応してたし」


「…んーまぁ…そのすげぇ奴なら心当たりっつーか…何処で誰に保護されてんのか知ってんぜ」


「…!?本当ですか!?」


「は…?何でパトラが知ってんの…?」


「だってそいつは───」



 そこまで言うとパトラは一瞬だけ目を見開きしまったと額に手を当てる。



「…え?は?そこまで言って渋る気?」


「出来れば私も一度会って謝罪したいのだが…」


「あー…ほら、そんな事になってからまだ全然日が経ってねーだろ?今すぐ会っても頭の整理がついてねーだろうし、不可抗力とは言え左腕を失うきっかけになった奴の顔を傷心中に見たいとはなんねぇんじゃねえか?」



 …確かにそうかも知れないが、余りにも不自然過ぎる言い訳では…?



「はぁ…?その謝罪を込めて『天の剣(ソル・クラス)』のパーティー資産を渡す話になってんだよ?」


「…とにかく今は時期がわりぃしアタシの一存で会わせていいのかも分かんねぇ。気になる様な事を言っちまったのは謝るが、こっちにも言えねー事情があんのは察してくれ」



 そう言うなりパトラさんは答えないと示す様に腕を組んで顔を伏せてしまう。


 これ以上聞き出すのは無理か…。



「…では、会える様になったら教えてもらえませんか?」


「…ああ、それまでアタシがこっちに居られるか分かんねーが…そんときゃジゼルに伝えておくから聞いてくれ」


「分かりました」


「はぁ……他にカムラに聞きたい事がある人は?」


「私は無いかな~」


「アタシも特にねぇな」


「そう…なら話はここで終わりかな」



 これで私は無罪放免…何だか色々あり過ぎてドッと疲れたな…。



「色々な手続きはこっちでやっとくし、『天の剣(ソル・クラス)』は脱退じゃなく解散という事にしておくね」


「…ありがとうございます」


「こっちこそ色々面倒掛けたね」



 そして完全に開放された私は刀を手にし、



「…ああ、そうだ。最後に一つだけ」


「…?何でしょう?」


「明日正式に発表するんだけど、今度冒険者ランクの再査定を行うからランクを上げたいなら鍛えるなり勉強なり頑張ってね」


「再査定…?何故そんな事を?」


「何故ってカムラは体験したばっかでしょ?」


「あ…はい…」


「だからそういうのを無くしたり冒険者全体の意識改善と引き締め、注意喚起も含めてやるからちゃんと参加するんだよ?参加しなかったら冒険者資格はく奪で最低ランクから再スタートだから」


「…分かりました、必ず参加する様にします」


「うんうん…みんなカムラみたいに素直ならいいんだけどねぇ。それじゃあこれからも頑張ってね~」


「はい、失礼します」



 久しぶりに図書館に行って勉強するのもありか、そう思いながら私は部屋を退出した…。





 ■





 Side.パトラ・メイガス



「…で?さっき言いかけたのは私達になら言えるんじゃないの?」



 カムラが部屋を出た後、ソファーに体を沈ませたジゼルがアタシに視線を向けて来る。


 正直流れで言いそうになったがユアはシオンが開発した魔導義肢の被験者だ。


 魔導義肢自体完全に完成していないし、完成するまでは秘匿する様にシオンにも言われている…。


 …ほんっとしくじったぜ。



「はぁ…シオンだよシオン」


「あー…シオン君か…友人って言ってたし…」


「あー!パトラのお気に入りかぁ!」


「は?ネロも知ってんのか?」


「知ってるし普通に試合して負けたよ?あの子強いよねー!」


「はぁっ!?ネロと試合!?」


「しかもマッピング能力とか調査能力も凄くてさー?今ではウォーカーの期待の新人だよ?」


「ウォーカー!?何でシオンがウォーカーに入ってんだよ!?」


「それは~…私とミミ…主にミミかなぁ…?」


「はぁっ…?何でミミが…」



 するとタイミングがいいのか悪いのか部屋にミミが帰って来る。



「ジゼルさん、処理の方は終わりまし…た…?」


「…おい、ミミ」


「え、え?何ですかパトラさん?」


「シオンにウォーカーを薦めたってマジかよ?」


「は、はい…もちろん最初はギルドで誘いましたけどシオン君の出す条件に合わなくて、でもダンジョンには入りたいと言ってたのでウォーカーを薦めましたけど…何かマズかったですか?」



 …なるほどな、ジゼルはともかくミミが考えなしにウォーカーを薦める訳ねーか。



「…ちょいちょい、今失礼な事を考えてたでしょ?」


「ああ、ジゼルはともかくミミが考えなしにウォーカーを薦める訳ねーかってな」


「……ぶっ飛ばすよ?」


「やれるもんならやってみろよ?言っとくが…今のアタシは現役の時よりつえーぞ?」


「ハッ!そんなの私だってそうだけど?」


「シオンに首絞められて陸に上がった魚みてぇになってたもんな?あんな負け方じゃ鍛えたくなっても仕方ねーか?」


「はぁ!?!?アンタだってシオンに舐めて掛かって口ん中に水突っ込まれて負けてんでしょ!?」


「ちなみに私は居合されたり雷落とされたり部屋いっぱいに水を溜められて鞭で縛られて鳩尾に剣を一突きだったなー!」



 ネロのその言葉にアタシ達はいつもの口論を止めた。



「…殺意高くねーか?」


「…何か私達よりも派手じゃない?てか、私だけ魔法使われて無いんだけど…」


「まぁ、入団試験だったからねー。…それよりさー、久々に四人集まったんだしフォリアも呼んで五人でご飯でも食べにいかない?」



 飯か…久々だしいいが…



「私は問題ないけど?」


「わ、私も空いてるので問題無いです!」


「パトラはー?」


「あー…わりぃ、今日じゃ無くて明日じゃダメか?」



 そう言うとジゼルは目を丸くする。



「は…?何?予定でもあんの?」


「まぁー…晩飯を一緒に食う約束しててな」



 すると今度はミミが目をキラキラと輝かせながら詰め寄って来る。



「も、ももも、もしかしてデートですか!?」


「はぁ!?パトラがデートぉ!?」


「えー!?パトラの体が汚されちゃーう!!」


「んなんじゃねぇよ!!」



 悪ノリしてきたネロに空になったマグカップを全力で投げつければ僅かな持ち手部分に指を通して割らずに受け止められる。


 …ったく、本当にコイツは…。



「…ただ、しばらくの間シオンの家に泊めてもらうからその流れで一緒に食べましょうって誘われただけだ」


「…ほんっとうにパトラはシオンの事気に入ってるんだねぇ」


「おい、その顔止めろ、ぶん殴るぞ」



 ニコニコしてるネロを睨みつけると窓を開けながらとんでもない事を言い放つ。



「じゃあさ、シオンの家でご飯にしない?」


「はぁ!?」


「私もシオンの料理食べた事あるんだけどめっちゃ美味しかったんだよね~。また食べたいな~」


「えっ?えっ!?シオン君の家にお邪魔するんですか!?」


「シオン君の料理が美味しいのは知ってるけど…流石にいきなり押し掛けるのはマズくない?」


「マズいとかじゃなくて非常識だろうが!!」


「シオンなら歓迎してくれるっしょ。じゃあ、私はフォリアを誘って来るねー」


「あ、ちょ!?ネロ!!」



 勝手に決めるだけ決めて窓から外に出て行ってしまうネロ。



「…ああなったら本当にフォリア連れて来るよ?」


「…ああ、クソが!!何であいつは勝手に決めんだ!!」


「い、今に始まった事じゃ無いですよパトラさん…今するべき事はシオン君に伝える事だと思います…」



 ………


 ……


 …



「うっくしゅん!…ん…ごめん白雪、もう少し食材買い足していい?」


「足りなかったですか?」


「足りなかったっていうか足りなくなりそうな…【直感】さんがもっと買っとけって」


「そうですか、分かりました」


「ココロもいい?」


「ああ、問題ない」



 ………


 ……


 …



「…あー、もう…せめて食費はネロに出させんぞ」


「何かお詫びのお土産買ってこうかな…」


「わ、私もそうします…」



 いつもネロが絡むとこうなるんだよな…。


 とりあえず今は───



「はぁ…後一つ寄る所があっからもう行くわ。シオンに話を通しておくから何か用意しておけよ?」



 ちゃっちゃと顔出し終わらせてシオンに人数が増えちまった事を伝えに行かねーとなぁ…。



「…そこは出入口じゃなくて窓なんだけどねぇ…」


「みんなあの窓から出て行きますよね…」





 ■





 Side.リベーラ・ラザマンド



「連絡も無く来たと思ったらシオンの家に泊まるとか…お前には礼儀と遠慮が無いのか?」



 私の執務室でソファーにふんぞり返る虎に問う。



「あぁ…?こっちはシオンに呼ばれて来てんだ。なのに礼儀に遠慮だぁ?礼儀としてこうやって挨拶しに来てやってるだろ?」


「…シオンが呼んだのか?」


「はぁ…?」



 怪訝な表情でパトラが見て来るが…シオンに何かあったのか?



「…その様子だと最近シオンと会ってねーだろ?」


「いや…一週間…二週間前に会った」


「はぁ!?…お前さぁ……」



 頭を抱えながら溜息を吐き、人差し指を向けてくるパトラ。



「仮にもお前はシオンの母親で家族なんだろ?なんか母親らしい事はやってんのか?」



 その問いに私の心臓が強く跳ねる。



「それは…」


「…どうせ記憶持ち(リスタート)で手が掛からねぇ、仕事の忙しさに理解があるっつって放置してんだろ?記憶持ち(リスタート)だろうがシオンはシオンで“記憶持ち(リスタート)の誰か”じゃねえ。だったらお前の息子はどんな記憶を持ってようが10歳の子供なんだぞ?んなの育児放棄と変わんねーぞ?」


「うっ…」



 パトラの正論に私の体が石みたいに硬くなっていく。


 確かに今の私は仕事ばかりでシオンに対して母親らしい事を何もしていない…。



「そんなのでよく息子にするだとか言えたもんだなぁ…?こんな体たらくならアタシの方が母親出来るぜ?」



 私に発破を掛けようとしてくれているんだろうが…確かにパトラの方がシオンの母親としては適任───



「…ハッ、ほんっとお前の悪ぃ癖だ。自分に非があると分かれば現状を改善すんじゃなく受け入れて諦めようとする。そこだけが唯一嫌いな部分だ」


「……本当に私がシオンの母親役として相応しいとパトラは思っているのか…?」


「じゃなかったら上辺だけ取り繕って何考えてっか分かんねー、目を離した隙に何すっか分かんねービックリ箱のシオンが養子になる訳ねーだろ」



 そう言うとパトラは視線を私の隣に移す。



「アンリ、聞きてーんだが…リベーラが居ねーと商会は回んねぇのか?」


「いえ?私達は定期的に休んでシオン君との時間を取ったらどうですか?と薦めている方ですよ。ですが、何でもかんでも自分でやりたがったりチェックしたがる人ですからねー…副団長は」


「何処まで真面目人間なんだよ…」



 そんな事言ったってしょうがないだろう…これが私の性分なんだから。



「…シオンを連れて旅行でも行ってみたらどうだ?」


「旅行…?どこに?」


「それはシオンと決めるなり自分で考えるなりしろよ。何でアタシがそこまでしてやんねーといけねぇんだ」



 お前が母親らしい事をしろと言うからだろう…!?


 ……いや、そういう事を考えるのも母親の役目なんだろうな…。



「リベーラが居なくても商会が回んなら長めに休みとってシオンと計画でも立てたらどうだ?そんぐらいはしてやれんだろ?アンリ」


「ええ、問題無いですよ」


「むぅ…」


「どうするかはお前が考えろ。余りにもひでぇならアタシがシオンを育てりゃいいしな」



 そう言って呆れた様に鼻を鳴らしたパトラは天井を見上げて私の返答を待たずに話を切り替える。



「まぁ…この話はここまでにして、実は今日な…シオンの家で晩飯を食う事になってんだが…」



 だが、パトラの歯切れはとても悪く何か申し訳なさそうな雰囲気が漂って来る。


 晩飯を一緒に食べるだけで何故そんなに…?私に気を使って───



「何か分かんねーけど流れでアタシ、ネロ、ジゼル、ミミ、フォリアの五人で行く事になっちまった」


「………はぁ?どうしてそうなるんだ?」


「なんつーか…ネロのいつもの悪ぃ癖が出たっつーか…多分そっから酒飲んで泊まる事になんじゃねーかな…」


「おい、さっきお前は記憶持ち(リスタート)でも10歳の子供には変わらないと言ってたじゃないか。10歳の家に大の大人が酒飲んで入り浸るのはどうなんだ?」


「アタシは最初からシオンに呼ばれて好意で泊めてもらう事になってたんだ、文句ならネロに言ってくれ…なんなら文句言いに来てくれていいぜ?リベーラがネロを追い返せんならその方がシオンの負担が減るかも知れねぇしな」



 パトラからちょくちょく話は聞いてたが、ネロという人物は随分と破天荒な性格をしているんだな…。


 そのまま放置して酒を飲み始めたら何が起きるか分からないし、パトラが歯止めになろうとしてもそれを突破しそうだしな…。



「……分かった。アンリ、今手を付けているものは終わらせるが残りは任せていいか?」


「いいですよー。可能ならそのままシオン君と晩御飯食べて来てください」


「済まないな」



 悪い大人からシオンを守る為に手を早めるが…一つ気になる事がある。



「さっきは話の流れで埋もれてしまったがシオンに呼ばれたと言ってただろう?何で呼ばれたんだ?」


「あー、そういや言ってなかったか。これの材料を持って来たんだ」



 そう言いながら左手を何度も握るパトラ。



「…!材料という事はもう完成するのか…!?」


「完成するじゃなくて完成しただな。一足先に見せてもらったが学のねぇアタシには完璧に見えたぜ」



 遂にあの魔導義肢を完成させたのかシオン…!



「…これもマメに顔を会わせてりゃアタシより先に知れたのにな?」


「ぐっ…!」


「こうやってアタシにぐちぐち言われたくねーなら少しは身の振り方考えな。つーか早く仕事終わらせろよ」


「お前な…!!」


「手ぇ止まってんぞー」



 …はぁ、とりあえず今はこの仕事を終わらせるのが優先だ。


 それとアンリ、さっきから何クスクス笑ってるんだ…。

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