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新しい家族

本日の投稿はここまでです。

「んー、そろそろだと思うんだけど…」



 どうも新しい家の庭で空を眺めてる僕です。


 時刻は17時頃…パトラさんとの手合わせを終えて晩御飯の材料を買い込んで今に至るのですが…



「…白雪は何してるの?」


「鎧通しの練習です」



 ずっと白雪が自分で立てた水の壁に触れて押していた。


 それだけパトラさんに手も足も出なかったのが悔しかったのかな?



「あれは習得するのに相当時間掛かると思うよー?」


「どんな敵からもマスターを守れるなら頑張ります」


「…そっか」



 どんどん頼もしくなってくなぁ…嬉しいけど寂しい親心って感じだ。



「なら、パトラさんがこっちにいる間は一緒に稽古付けてもらおうか。『不死の白蛇(ウロボロス)』の扱い方は武術が基礎だし、短剣は指と手首の動きが重要だけどそこは僕が教えられるし…槍はどうしようかなぁ」



 リベーラさんなら剣だけじゃなく槍も扱えそうだけど…どうなんだろ?



「…あ、来たかな?」



 そんな考えをしていると【直感】さんが何かに反応し、反射的に空を見上げればキラリと光る何かが見えると僕の背後から聞き慣れたピピピという音が響く。



「もしもし?」


『肉眼でこちらに気付くとは思わなかった。このまま降りて問題ないか?』


「うん、問題ないよ。緩衝材は必要?」


『いや、不要だ』


「分かった、出来るだけ素早く降りてね?」


『了解した』



 “SOUND ONLY”と表示されたホログラムから低減された風の音とココロの音が聞こえ、表示が消えると空に見えるキラキラとしたものが輝きを増して落ちて来る。



「白雪、今からここで一緒に暮らす人が落ちて来るよ」


「…受け止めますか?」


「んや、必要無いよ」



 鎧通しの練習を止めて空を見上げる白雪。


 徐々にキラキラしたものが人の形?をしながら落ち───



「───待たせたな」



 長い銀髪を膨らませて着地するココロ。


 黒とオレンジのボディースーツに身を包んだココロの身体には強烈なGから体を守る為の物々しいパーツが装着されている。


 背後には空気の壁を突き破る為に先端が先細りした戦闘機の様なシルエットをした機械の外殻が追従しながら浮かび、三対六枚の黒とオレンジのカラーリングが施されたその羽からは景色を歪ませる程の熱が呼吸する様に何度も吐き出されていた。



「久しぶりだねココロ」


「久しぶり?さっきも通話しただろう?」


「こうやって顔を合わせて会うのがだよ」


「…?ビデオ通話で顔は合わせているが?」


「生身では久しぶりでしょ!?」


「そう言う事か。私としては久しぶりという程の時間は経っていないと思うが」


「じゃあいいよ久しぶりじゃなくて…」



 現実的というか機械的というか無感情と言うべきか…これも人間特有の機微なのだろうと苦笑した僕は、これから共同生活をしていく為にお互いの自己紹介を進めて行く。



「とりあえずまぁ…自己紹介しようか。僕はシオン・ユニコード・ラザマンド、ココロの生みの親の東雲 エリカ博士と同じ異世界の記憶を持ってる。だけど異世界の記憶を持っている事は殆どの人に内緒にしてるから他の人の前で喋らないでね?…で、こっちがタイラントサーペントっていう魔獣の突然変異個体の白雪。僕の家族として殆ど一緒に行動して護衛を務めてくれてるんだけど、魔獣から人になるのはなかなか無い事だから白雪が魔獣だって言う事は内緒。この姿で他の人と会う時はアリアって呼んでね」


「ああ、分かった」


「で、こっちが東雲 心。人間にしか見えないけど神代の時代(ヒストリア)の科学技術が詰め込まれた全身が機械のオートマタ。これからは暇な時に僕の技術面をサポートをしてもらう予定だよ」


「分かりました。…ちなみに私と同じ従者という事でしょうか?」


「いや、ココロは───」


「ああ、従者で構わない」


「えっ?」


「元々シオンが格納庫に立ち入らなければ私は目覚めていなかったし、シオンが東雲様と同じ同郷の記憶を持っていなければ言葉を交わしていなかったし、シオンが外の世界に誘わなければ私は自身のデータを消去し自壊していた。シオンを私の新たな所有者(マスター)として承認しても何も問題ない」



 え、えぇ…?そんな気持ちだったの…?



「そうですか。でしたら私の事は白雪、人前ではアリアと呼んでください。私もココロと呼ばせてもらいます」


「ああ、よろしく頼む白雪」



 なんか勝手に従者が増えちゃったけど…これだけはちゃんと言っておこう。



「…従者という立ち位置は分かったし了承するけど、僕は二人に上下関係を強要するつもりも無いし家族だと思ってる。だから本当は嫌だけど命令されたから嫌々やるんじゃなく、ちゃんとお互い嫌な事は嫌って言い合える関係性にしたい。したい事はちゃんとさせられる様に考えるから意見もちゃんと言って欲しい。…分かった?」


「…ああ、了解した」


「…分かりました」



 ココロはインプットしているのか顎を摘まみながら深く頷き、白雪は少しだけ小首を傾げ頷く。


 本当に分かってくれたならいいんだけどねぇ…。



「じゃあ、早速だけどココロの部屋にいこうか」


「分かりました」


「ああ」



 そんな二人を連れて新しい家に上がる僕達。


 ココロに渡す地下は通常の方法ではいけない様になっていて、魔導昇降機で特定の操作をしないといけない。



「駆動音が全くしないがこれはエレベーターか?」


「そう、魔法式のね。ここには地下に行くボタンが無いんだけど、一階にエレベーターがある時は一階のボタンを押してから開けるボタンを五回、二階の場合は二階を押してから開ける五回、三階の場合は三階押してから開ける五回で地下に入れるよ」



 この魔導昇降機はかなりの自信作で緻密に配置した魔法陣が───



「…無駄が多いな」


「え…け、結構作るの大変だったんだよ?」


「意見を言えと言ったのはマスターだろ?問題がないなら指紋と網膜認証式、もしくはカードキー認証に変えてもいいか?」



 ぐっ…!僕の努力の結晶が…!でも、この辺は科学に勝てないのは僕が一番知ってるんだよなぁ…。



「う、うん…その方が偶然入れる可能性もゼロに出来るからいいね…」


「ただ…魔法に関しては未知の力程度にしか情報が無いから競合出来るかが分からない。最悪、エレベーターの新規設置になるかも知れないな」


「まぁ、そこは好きにしてもらっていいよ?」


「分かった」



 早速お役御免になってしまった魔導昇降機をショボショボしながら動かし地下に移動すれば東館、中央館、西館を一つに繋げた巨大な地下空間が広がる。



「…これは広すぎないか?」


「んー…だってどれくらいデカい機械を使うか分からなかったし…だから必要な部分だけ使って使わない部分は別の何かに使おうかなって思ってる」


「いや、これ程の空間を用意してもらえるとは思っていなかったから最小限になる様に留めていたが、ここを使わせてもらえるのなら最大限サポート出来ると約束しよう」



 そう言うとココロは纏っていた機動殻をバチバチと電気が弾ける黒い穴に入れ、代わりに白い立方体…掌にギリギリ収まる大きさの箱を取り出す。



「それは?」


「これは『拠点端末装置(ターミナルコア)』と言って事前にプログラミングされたホログラムマップに沿って二律空間に保存している物の設置をし、足りないものは二律空間に保存されている物質を分解してホログラムプリントで出力してくれるものだ」


「…え!?それってチアラさんの『構築分解(リビルド)』と同じって事!?」


「…?何を言っているか分からないが、リビルドという言葉からして同じものだと考えて良さそうだが…」



 マジかよ…オーバーテクノロジー過ぎないですか…?



「まぁ、見れば同じかどうか分かるだろう」



 徐に拠点端末装置(ターミナルコア)を起動すると青白い光が発せられ、巨大な地下空間に格子状の線が走っていく。



「所々この空間に合わせる調整は必要だが…」



 拠点端末装置(ターミナルコア)から浮かぶホログラムの仮想モニターを眺め、ココロがキーボードを叩き始めると見た事ない機械のホログラムが地下空間に構築されていく。



「…これが科学というものですか?」


「そうなんだけど…ぶっちゃけここまで来ると魔法と何も変わらないよね…」



 珍しく驚いてる白雪に苦笑していると空間がホログラムで埋め尽くされ、メカニカルでファンタジーな光景が出来上がった。



「後はホログラムに沿って出力するだけだ」



 そして仮想キーボードを叩き終えモニターもキーボードも消えると拠点端末装置(ターミナルコア)がひとりでに浮かび、石材で固められた地下空間を放射状に光で照らしていく。


 すると光が当たった場所から白くツルツルとした清潔感のある抗菌材の様なタイルが張られ、次第に床から壁、壁から天井へと大きな正方形の白いタイルが埋め尽くしていった。



「すっご…ちなみにこの建材って何なの?」


「混合絶縁材だ。色んな物質の原子を混合させていて何を使っているかと説明するならば543種の物質を説明しなければいけないが…」


「要するにオーバーテクノロジーだから僕じゃ扱えないって事ね?」


「私が使えるから問題ないだろう?」


「…それもそうだね」



 全く…頼もしい家族が増えたもんだね。



「次は動力源だ」



 次に変化が起きたのは地下空間の中央…そこには飛び切り大きなシリンダーの様なホログラムがあり、そのシリンダーを囲む様に小型のシリンダーが十基立っている。


 また拠点端末装置(ターミナルコア)から発せられた光がシリンダーのホログラムに当たると足元から徐々に出力され、中に何も入っていないガラスシリンダーが出来上がった。



「…よし、動力源の動作は問題ないみたいだな」



 ココロが近づきシリンダーを稼働させるとガラスの中に球体が浮かび、次第にバチバチと雷光の様な物が発生して傍にチューブで設置された小型のシリンダーに青白い光が溜まっていく。



「…これ、原子力とかでいきなりバーンとか無いよね…?」


「問題ない。これはプラズマだからな」



 ぷ、プラズマって…何だ…?確か原子炉より安全だとかそんなのは聞いた事あるけど…原子炉じゃないならいいか…?



「次は配電線だが…これも問題ないみたいだな」



 小型のシリンダーを起動すると床、壁、天井に張られたタイルの隙間が青白く光り始める。



「え…もしかしてこれが電線なの?コンセントみたいに壁に刺して~とかじゃないんだ?」


「何時の時代の話をしているんだ…?基本はこの床や壁、天井に触れさせれば勝手に給電されるが…」



 …もう突っ込むのはやめよう、僕のなけなしの現代知識じゃ理解出来ないや。



「とりあえず全て出力してしまっていいか?」


「あ、ああ、うん。好きにしていいよ」


「そうか」



 それからホログラムに沿って出来上がっていくココロの拠点にいちいち驚き───



 ………


 ……


 …



「これがここに入る為のカードキーと…白雪用のデバイスだ」


「ありがとうね」


「ありがとうございます」



 時刻は19時…巨大な地下空間はココロの研究室兼居住区へと様変わりしていた。



「それで?これからどうするんだ?」


「うーん…とりあえず夜になるから今日は休んで…明日辺りに今の知識を仕入れる為にみんなで図書館にでもいく?」


「図書館か…了解した」


「白雪もそれでいい?」


「問題無いです」


「よし、じゃあ明日はみんなで図書館だね」



 白雪もココロも頷いてくれるが…一つ問題がある。



「そうなるとココロの服を用意しないとね」


「服?これじゃダメなのか?」



 首を傾げるココロ。



「これじゃダメなのかって言うけど、全身ボディースーツで体のラインが完全に浮き彫りになってるんだよ?」


「…?それの何が悪いのかよく分からないが、マスターが着ている様なものを着ろという事だな?」


「そうだね。白雪、ココロの採寸をしてくれる?」


「分かりました」



 メジャーを渡せばテキパキと測ってくれる白雪。



「ちなみにさ、そのボディースーツって何か特別な機能とかあるの?」


「ああ、防刃、防弾、光学屈折、身体の温度を一定に保つ機能がある」


「じゃあ、脱いでも活動に支障は無いのね?」


「無いが…」


「無いが?」


「……脱がないとダメか?」



 …え?ほぼ裸と言ってもいい程のピッタリなボディースーツを着てプロポーションを曝け出してるのにそこは恥ずかしがるの?


 あ、もしかして結構メカメカしてる外見なのかな?



「その下って僕達と同じ皮膚じゃないの?」


「いや、マスターと同じ皮膚だが…」



 ふむ…肌が隠れてるから何も恥ずかしくない理論という事か。



「まぁ、別に脱ぎたくないなら脱がなくてもいいよ。そのボディースーツを着たまま体型を隠せるような上着とかにすればいいからね」


「あ、ああ…」


「マスター、終わりました」


「ありがと白雪」



 白雪から数字をもらいココロに合いそうなデザインを描き起こしていく僕。



「普通に上着とショートパンツで体型隠せればいいか…てかさ、ココロってご飯食べたりするの?」


「食べられるぞ。常に動力が確保出来る訳じゃ無いから土や石、鉄なんかを租借し動力に変えられる様になっているからな」


「すっご…味は感じるの?」


「味覚の機能をオンにすれば」


「ふーん…普段はどうやって動力を得てるの?」


「通常行動であれば常に私の中で生み出される動力で賄えるが、行動を起こした場合は食事での追加の動力補給とスリープモードでの動力消費低減、もしくはここでの動力補給だな」


「じゃあ、定期的にここに帰らなくても人間と同じ食事と睡眠で動力は賄えるのか。だったら遠出とかも問題なさそうだね」



 つくづく人間と変わらない…やっぱり東雲博士はココロに人間として生きて欲しかったんだろうな。


 だったら美味しいご飯もいっぱい食べさせてあげないとね。



「んじゃ、今日は一旦これ着ててよ」



【空間収納】から僕が着ていた『何でも屋 猫の手』の制服とも言うべき白の猫耳アウターを渡せばココロは首を傾げる。



「…?何で猫の耳が付いてるんだ?」


「僕が開く予定の『何でも屋 猫の手』の制服みたいなもんだからね」


「制服…それを渡すという事は私も従業員という事か?」


「従業員になりたいなら僕も白雪も歓迎するけど、他にもやりたい事があるかも知れないし今すぐ決めなくていいよ。それを渡した理由はこれから僕達のもう一つの家に帰るからだよ」


「ここが私の家じゃないのか?」


「それじゃあ一人で格納庫に居た時と何も変わらないでしょ?せっかく外に出る決心をしてこうして家族になったんだから今更一人になんてさせないよ」



 そう言って笑えばココロの目が見開かれ、すぐに呆れと恥ずかしさが入り混じった様な表情で口元を緩めた。



「…厄介なマスターだ」


「勝手に東雲博士から預けられたと思ってるからね。白雪も帰るよ」


「分かりました」



 そして僕達は新たな家族を迎え、三人で我が家へと帰る…。





 ■





 Side.パトラ・メイガス



「次の方どうぞ」


「おう、パトラ・メイガスが来たってジゼルかミミに伝えてくれねーか?」


「…!?しょ、少々お待ちください!」



 冒険者ギルド…受付嬢が慌ただしく受付の裏に消えていく。


 正直言って王都の冒険者ギルドはフルールの冒険者ギルドとは規模も依頼の質も実績も実力も違う。


 掲示板を見ればAからGまでの冒険者が満遍なく依頼を受けれて稼げねぇなんて事は無いし、依頼の達成率も95%とほぼほぼ成功する。


 待機してる冒険者が身に纏っている装備も殆ど一流の品でボロボロの武具を使ってる様な奴は一切いない…が、



(なんつーか…レベルが下がってんな…)



 カウンターに寄り掛かりながら辺りを見渡せば私の姿を見ただけでビビッて視線を外す奴や、喧嘩を売る気もねーのに裏でコソコソと俺の方がとか言ってる奴が多い。


 要するに過去の栄光にしがみ付いて自分より下を見下して優越感に浸ってる雑魚や、装備を自分のステータスとして見せびらかす偽物が多くなった。



(あんなのを野放しにしてるとかジゼルは何やってんだ…だからサポーターの踏み倒しとかが起きんだろうが…)



 シオンから聞いたユアの話を思い出して苛立ちがぶり返してくる。


 あー…クソ…前に前に進んで行くシオンを見てっから余計腹立って───



「なぁ、『嵐の谷』で絶望の刻(エンディング)が発生したらしいぞ」



『嵐の谷』で絶望の刻(エンディング)…?



「どうせデマだろ?」


「いや、絶望の刻(エンディング)を超えた奴がいたんだよ」


「は…?どのパーティーだよ?」


「『天の剣(ソル・クラス)』っつー最近Bランクに上がったばかりのパーティーだよ」


「Bぃ?一気に噓くせぇ…絶望の刻(エンディング)ってAからSにランクアップする時の条件の一つだろ?Bランクパーティーに超えられる訳ねえって」


「いや、無傷で超えた訳じゃねえよ。パーティーはほぼ全滅、たった一人新規加入してた女だけが仲間の遺品を持って帰って来たのを見た奴がいるんだよ」


「はぁ…?本当かよそれ…」


「マジだって!!」



 絶望の刻(エンディング)の話が出るっつー事は少なくとも生存者がいる証拠だ。


 まぁ、情けない死に方をして話を盛ってる可能性もあるが…もし絶望の刻(エンディング)を超えてんならSランク一歩手前だ。


 なのにBランクのパーティーに新規加入…?その新参が超えた…?なーんか話が噛み合わねぇな…。



「ぱ、パトラ・メイガス様、こちらに」


「…おお」



 もう少し話を聞きたかったが真相はジゼルに聞きゃいいだろ。


 そうして受付嬢に連れていかれた部屋に入れば───



「よう、ジゼル、ミミ…と、誰だ?」



 ジゼルの着物と同じ東の巫女服?を着た銀髪碧眼の狐がジゼルとミミの対面に座っていた。



「本当に唐突に来るよね…彼女はBランク冒険者カムラ。色々あって事情聴取中なの」


「ほーん…事情聴取ねぇ?」



 見た感じ何かをやらかしそうな感じはしねーが…。



「…そちらの方は?」


「フルールで冒険者ギルドのギルマスやってるパトラ・メイガス。何でここに居るかは私も分からないけど」


「よろしくな」


「どうも…」



 軽い自己紹介を終えるとミミが飲み物と椅子を持って来る。



「座ってくださいパトラさん」


「おう…っつー事はアタシも事情聴取に参加しろって事か?」


「聞いておいて損は無いかな」


「ふーん…んじゃ、遠慮なく」


「パトラさん、飲み物を」


「おう」



 椅子にふんぞり返り作法も関係なく出された飲み物を飲み干せばカムラは眉を顰めるが、ミミはいつも通りもう一杯飲み物を用意してくれる。



「で?何の事情聴取だよ?」


「…『嵐の谷』で絶望の刻(エンディング)が発生したのよ」


絶望の刻(エンディング)ねぇ…?ホールでも噂になってたが本当かよ?」


「それが本当かどうかはカムラの話と…ネロの調査次第かな」


「あ?ネロが動いてんのかよ?」


絶望の刻(エンディング)が再発する可能性があるしね。ウキウキで行ってくれたよ」


「あいつらしいな…」



 まぁ、ネロが調査してんなら万が一はねーと思うが、コイツの話が絶望の刻(エンディング)に関わるっつー事はコイツが噂の絶望の刻(エンディング)を超えた『天の剣(ソル・クラス)』唯一の生き残りか。


 …とても絶望の刻(エンディング)を超えられるとは思えねぇけどな。



「話を続けるけど…30層の階層主部屋で出て来たのはミノタウロスじゃなくて黒いドロドロした液体を垂らした球体…だったっけ?」


「はい…その球体から滴った液体が地面に落ちると本来頭がある部分に紫色の炎を灯した黒い甲冑の騎士の形になって…一瞬でパーティーメンバーが全滅しました」



 そう言うとカムラは背後の空間を歪ませ【空間収納】から真っ二つになった大盾と杖と剣、血染めのバンダナと上着、パーティーメンバーのギルドカードをテーブルに並べた。



「たった一振りでタンクと斥候の胴体が斬られ、尻もちを突いたリーダーとヒーラーの首が落ちました。…私は最後尾で魔法を詠唱していたので本当に紙一重で避けれましたが…とても私が敵う様な存在では無かったです…」



 黒い球体にドロドロの液体…マジで絶望の刻(エンディング)みてぇだな。


 私達が現役の時に発生した絶望の刻(エンディング)も同じ黒い球体からドロドロの液体が滴って本来の階層主とは別のモンスターが現れた…が、やっぱり引っかかる。



「じゃあ、どうやって絶望の刻(エンディング)を超えたの?」



 そうだ、自分自身で敵わねえって分かってるのにここに生きて居る意味が分かんねぇ。



「だな。階層主の部屋は討伐するかアタシら侵入者が全滅して死体がダンジョンに吸収されるまで開かねえ。どうやって生きて絶望の刻(エンディング)を超えた?」


「それは…」



 少し突っ込んで問えばカムラは口籠る。



「信じてもらえるかどうか…」


「それはこっちで判断するからカムラは体験した事をそのまま言ってくれればいいよ」



 ジゼルが諭せばカムラは息を吐き、自分の影をジッと見つめる。



「…私の影に潜んでいた情報屋に救われました」



 その言葉にアタシ達は示し合わせた訳でも無く顔を向け合い首を傾げた。



「その情報屋っていうのは…情報を売る情報屋?」


「本人はそう言ってました」


「面識があんのか。…お前もその情報屋を利用したりして知り合ったのか?」


「いえ…利用した事は無いです。ただ、私が『天の剣(ソル・クラス)』に入った後に情報屋の方から私に接触して来ました」


「何で接触して来たの?」


「えっと…何で『天の剣(ソル・クラス)』に入ったのか、『天の剣(ソル・クラス)』がどういうパーティーか知ってるのか、と」



 するとジゼルとミミは心当たりがあるのか些細な反応を示す。



「…それって白い髪に水色の瞳のすっごい可愛い子供じゃないよね?」



 は…?何でそこでシオンが出てくんだ?



「…?いえ、情報屋は黒猫の獣人族で瞳の色は金色でした。見た目も20代ぐらいで子供という印象は…」


「そっか…」



 何故か安堵するジゼルとミミ…どういう事だ?



「おい、何でそこであいつが出てくんだよ?」


「いやさ…少し前にあの子が『天の剣(ソル・クラス)』について聞いて来た事があってさ、その内容が“友人が『天の剣(ソル・クラス)』に不正契約で働かされてた挙句、左腕を失ってパーティーから追放されたのにギルドは何もしないんですか?”って詰めて来てさ…」



 …あれ?待てよ?つー事はシオンが言ってた最悪のパーティーは『天の剣(ソル・クラス)』で、ユアはその『天の剣(ソル・クラス)』に不正契約で働かされて新しい人材と入れ替えるモンスターの盾にされて左腕を失って…その新人がコイツって事か?


 何だかバラバラだったパズルがいきなり嵌った気がすんなぁ。



「しかもその時の温度感がかなり高くてほっといたら私刑でもするんじゃないかってぐらいでね…」


「…流石にそれはねえだろ?」


「いやいや、あの子前科二つあるからね?」


「は?」


「一つは飲み屋で『渡り鳥(ウルグス)』ってパーティーの友人がBランク冒険者と喧嘩になってボコボコにされてたんだけど、止めに入ったら殴られたって言ってBランク側の三人の両手足へし折って顔面の原型が留めないぐらいに殴ってたし、二つ目はその両手足へし折った側の知り合いが冒険者ギルドであの子に喧嘩吹っかけて決闘する事になって…見せしめにするとか言って『ファイヤーランス』400発ぶっ放して文字通り骨も残らず相手を消したんだよ」



 おいおいシオン…なかなかぶっ飛んだ事してんじゃねえの…。



「だからあり得るかと思ったけど…ちなみにその情報屋の名前は?」


「ヨル、と言ってましたが…偽名か?と聞いたら偽名だと」


「んー…偽名なら考えるだけ無駄か…ごめんね、こっちの話で脱線させちゃって。その情報屋…ヨルについてもう少し聞きたいんだけど、そのヨルと協力して絶望の刻(エンディング)を超えたの?」


「いえ…私は勝てる訳無いと戦意を喪失してて…死を受け入れようとした時に私の影からヨルが飛び出してきて助けられました」


「…という事はヨル一人で絶望の刻(エンディング)を超えたの?」


「はい…正直Sランク冒険者と言われても違和感が無い実力でした…」



 へぇ…?アタシ達と同等ねぇ…?戦ってみてぇな。



「戦闘スタイルは?」


「血塗れの…明らかに呪われていそうな鉈と闇属性魔法を使う斥候…暗殺者の様でした」


「ふむ…他に何か特徴は?」


「…ふざけた喋り方をします」


「ふざけた喋り方?」


「その…にゃんとかにゃ…とか…」


「んー…他には?助けてもらった後、地上まで護衛してもらったんじゃないの?」


「いえ…それがヨルが絶望の刻(エンディング)を超えた後、緊張が解けて気絶して…気付いた時は1層の入り口前に『天の剣(ソル・クラス)』の遺品と一緒に寝かされてて…」



 アタシ一人でも30層から1層まで戻るのに全開で3時間…絶望の刻(エンディング)を超えた後にすぐ1層まで気絶してる奴を抱えて戻れるもんなのか…?



「…パトラならどう?」


絶望の刻(エンディング)がどんなもんかによるが、1層まで気絶してる奴を移動させるとなると…かなりしんどいな」


「だったら間違いなく私達Sランクと同等の身体能力を持ってるって事になるのかな…」



 そして情報屋ヨルというSランク冒険者にも匹敵する謎の人物を思い描いている時、



「そんな人材が居るなら是非ウォーカーに欲しいねー!」



 この場の誰でも無い絶対に忘れない声が聞こえ、アタシの頭に慣れたウザったい重みが乗った…。

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