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本能の御し方

本日の投稿はここまでです。

「…っふぅ…今日の分は出来たけど…」



 どうも毎日一本武器作りの修行をしている僕です。


 ルシェロさんとカリスさんに剣を届けてから五日…リオさんは自宅に帰り、ユアは変わらず部屋に籠って勉強、白雪は『不死の白蛇(ウロボロス)』をちゃんと扱う為に地下の訓練場に籠って各々の日常を送っているのですが…



「んー…なんかムラがあるなぁ。研ぎである程度誤魔化せるけど…」



 修行はなかなか上手く行かず悩む毎日だけど僕は元気です。



「切れ味も…」



 指に挟んだナイフを全力で投げれば魔気で作った頑丈な鉄マネキンの喉に刺さるが、切っ先が少し刺さる程度でしばらくすると自重で抜けてカランカランと悲しい音を立てた。



「まぁまぁって感じだなぁ…」



 代わりに『黒百合(ノワール)』に魔力を流してナイフの形に変え、手首と指のスナップだけで投げれば額に深々と突き刺さり持ち手部分で止まる。



「何時になったら『黒百合(ノワール)』みたいな武器を作れるんだか…」



 抜くのではなく断ち割る様に上に動かせば刺さった状態から頭が縦に切れて刃が抜ける。



「こんな魔剣を貰った以上、だらしない所は見せたくないんだけど…道は険しいねぇ」



 諦めは一切生まれない、絶対にこの魔剣を超える物を作るという気持ちも萎えていない、これを地道に続けて行けばきっといつかは越えられると苦笑を浮かべているとチリンチリンとベルが鳴る。



「…?誰だろ?」



 噴き出した汗を水球で洗い流し、鍛冶場を出て玄関を見れば───



「…!パトラさん!」


「おう、久しぶりだなシオン」



 相変わらず素晴らしいプロポーションを惜しげもなく晒す大きな袋を担いだパトラさんが居た。



「来てくれたんですね!」


「ったりめーだろ?…つっても、ネリンに滅茶苦茶ゴネられたがな…」


「あ、あはは…今度僕からネリンさんに何か贈り物しときますよ」


「あいつは辛いもんが好きだからその辺がいいんじゃねーか?フルールじゃ香辛料はなかなか手に入らねーしな」


「そうなんですね?見かけたら買っときます」



 世間話も盛り上がった所で僕はパトラさんがフルールから来てくれた件を切り出す。



「それでその袋はもしかして…?」


「ああ、シオンに頼まれてた『ウェルビーコクーン』の抜け殻だ」



 ウェルビーコクーン…それは討伐難易度D-の昆虫型魔獣の名前で、成虫の『ウェルビー』になるまで纏う殻はとても丈夫で軽くしなやか、駆け出しから中級冒険者の初期辺りまでは防具としてかなり愛用される素材が取れるのだが、今回この抜け殻を集めてもらった理由は防具を作る為じゃない。



「結構集めて来たが…これで魔導義肢が完成すんのか?」


「はい!よかったら作業工程見ます?」


「いいのか?」


「ええ、パトラさんなら!」



 食らえ、満面の笑みアタック。



「っ…んじゃ、遠慮なく見させてもらうか…」



 ふっ、決まったな。



「じゃあ遠慮なく上がってください!」



 少し顔を赤らめたパトラさんを連れて作業部屋に入り、テキパキと義手作りの準備を進めていると扉をノックする音が響く。



「マスター、お茶を用意しました」



 来客のベルの音に気付いたのかメイド服ではなく動きやすい訓練服のままお茶を持って来てくれた白雪。



「ん、ありがとう白雪。そこのテーブルに置いといて」


「分かりました」



 そんな白雪に視線を向けていたパトラさんは名前を聞き、一気に驚愕の表情を浮かべる。



「…はっ!?白雪!?」


「そうですよ?魔人化しました」


「初めましてパトラさん、白雪です。他の人の前ではアリアと名乗っています」


「お、おお…」



 おー、僕がお世話になってるからか白雪が最初からさん付けだ。



「いつかは魔人化するとは思ってたけどよ…まさか言葉まで交わせる様になるとは思わなかったぜ…」


「今じゃ王族の前に出しても恥ずかしくないですし、護衛としての能力も十分すぎる程ですよ。僕じゃワンパンですね」


「へぇ…?そいつぁいいな?」



 あっ…これ…



「シオンが怠けて無いか確かめるついでに後で組手でもやっか?シラユキ」


「分かりました、お願いします」



 …意外と白雪も乗り気みたいだしいいか。



「…まぁ、訓練手合わせは一旦置いといて…始めていいですか?」


「おう、わりぃな」



 パトラさんから大きな袋をもらい、一つ出して見れば黄色の抜け殻が顔を出す。



「弾力性あり…硬さも十分…水捌けよし…熱にも強い…熱を加えればちゃんと透明に変わる…傷も付きにくい…最高の素材だ」



 肌触りはプラスチックにとても似ていて曲げても割れず、指で叩けばカツカツと硬い音を返し、水も玉になって滑り落ち、火で炙っても焦げ跡は付かず、熱によって透明になりながら柔らかくなり、爪を立てても傷付かない。


 この素材を知ったのはカーリー工芸品店でアルバイトをした時…あの精巧な人形に使われていた素材だ。


 これで義手を作ればぱっと見普通の腕に見える…そう思ってパトラさんにたくさん用意してもらったのだ。



「まずはこの殻を焦がさない様に溶かして型に流し込み、ある程度の整形をしながらパーツ…部品を作っていきます」



 溶かしたウェルビーコクーンの抜け殻に黒い染料を入れて色付けし、指先、関節、掌、手の甲、手首、前腕部、肘、上腕部、肩と部位別に分けられた型に流し込んで中が空洞になる様に一回り小さい凸型の型で蓋をする。



「本来はその人の腕や脚の型を取って作るんですけど、今回は試作なので平均的な人形の型にしてます。染色に関してはその人の好みで赤にも白にも出来ますし、これが固まったら内側に魔法陣を描き込んで組み立てるだけなんです。意外と簡単でしょう?」


「説明だけなら簡単に聞こえっけど…工程を見る限り結構手間じゃねえか?」


「まぁ…流石に求める人にすぐ提供出来るレベルの生産性は今の所無いですね。なので一旦ルクス陛下に試してもらい、お墨付きを頂いたら魔導義肢を作れる技師を育成したり専門店とかを建てる予定ではありますね。国王のお墨付きともなればある程度融通が利くと思いますし」


「なるほどなぁ…」



 まぁ…誰にお願いするかは決めてるんだけど、断られた時の事を前提に考えとけば支障は無いからね。



「今は時間掛けても仕方ないんでちゃっちゃと冷やしちゃいますね」



 氷魔法で型を冷やし、固まったウェルビーコクーンの抜け殻を取り外せば義手のパーツが完成する。


 そのパーツを全て鑢掛けして成形した後、魔石を砕いた粉と聖水、白の染料を混ぜて魔法陣用のインクを作り魔法陣を描き込んでいく。



「…?この線が魔法陣なのか?」


「そうです。魔道具の作り方には三つの方式、自身の魔力を利用する『魔導回路方式』、魔石の魔力を利用する『魔核駆動方式』、全て魔法陣だけで制御する『古代術式完全制御魔術駆動方式』があるんですけど、これは魔導回路方式と古代術式完全制御魔術駆動方式を組み合わせて両方のいい所取りを実現した僕が開発した新しい魔法陣なんですよ」


「お、おお…?」


「簡単に言えばパトラさんの武術とリベーラさんの剣術合わせたら最強になったって感じです」


「はぁ~ん…」



 理解してもらえるとは思わないけど、今の例えで少しでも伝わったのならよかった。


 …それからパーツの内側に神経の役割を果たす回路を張り巡らし、その線一本一本に役割を与える古代文字を添えていく。


 眩暈が起きそうな程に細かく繊細で緻密な作業をしていれば……



「…何か細々してて気持ち悪くなってくんな…」


「ここも簡略化しないと量産は難しいですね。まぁ、その辺は試行回数を増やして不要な物と必要な物の取捨選択をしていけば最適化出来る筈です」



 こういう知識や技術分野に明るくないパトラさんは目頭を揉み解し、白雪が淹れたお茶に口を付け始める。


 これは終わったらまた声掛けろって事かな?


 それから魔力を流して正常に動いている事を確かめ、動かない場所を修正していく事…30分。



「これで魔法陣は終わりました。後は組み立てて───」



 下部と上部に分かれているパーツを繋ぎ、表面を炙って癒着させて研磨で見た目を整えていく。



「これで完成ですパトラさん」


「…っすげぇな」



 そして完成した義手を持ち魔力を流せば僕のイメージ通りに机の上で義手が動き、パトラさんとジャンケンを繰り広げる。



「後はこれを誰でも扱えるかっつー事だよな?」


「そこに関しても問題ありません。白雪?呼んで来てもらっていい?」


「分かりました」



 パトラさんの懸念に答える様に白雪に指示すれば目の下に薄っすらと隈を作ったユアを連れて来てくれる。



「マスター、連れて来ました」


「ありがとうアリア。…ユア、突然呼んでごめんね?」


「いえ、大丈夫ですけど…こちらの方は?」


「こちらはフルールっていう街で冒険者ギルドのギルドマスターをやってるパトラ・メイガスさん」


「おう、よろしくな」


「ぎ、ギルマス…!?ゆ、ゆ、ユアです…!王都の冒険者ギルドでサポーターをしてま……した…」


「してました…?」



 ユアの言動に首を傾げるパトラさん。



「あの…シオンさん…?」



 助けを求める様にこちらに視線を向けるユア。


 何処までが喋っていいか確かめてくれるのは本当に助かるし、信頼出来るなぁ…。



「僕から説明しますけど、最悪なパーティーに不正契約で1年もサポーターさせられた挙句、新しいメンバーと入れ替える為にモンスターの盾にされて左腕を失って、パーティーから追放されて路頭に迷ってた所を僕が保護したんです」



 そう言えばパトラさんの表情に怒りが滲み出す。



「んだよそりゃ…当然ジゼルは対応したんだろうな?」


「いえ、ちゃんとした雇用契約を結ばなかった、確認しなかったユアの自己管理能力に責任があるし、冒険者になった時点で冒険者同士の問題は当人間の自己責任だと。ギルドとしては事実確認が取れ次第不正に働かされていた分の稼ぎの支払い、ユアを不正に扱っていたパーティーのランク査定にマイナスを付けるぐらいしか出来ないとも言ってました」


「…チッ、胸糞悪ぃ…」



 こうやって立場よりも自分の感情を率先して見せてくれる方が相談してる側は救われるんだよなぁ…。


 組織的には扱い辛い人かも知れないけど、こういう人は組織じゃなく人に好かれるんだ。



「まぁ…ユアの前でこんな事を言うのは憚られますが、正直僕としてはユアを手放してくれたおかげで魔導義肢の完成に大きく近づけたので有難いですけどね」



 苦笑気味でそう言葉を零すとユアを俯きながら笑みを浮かべる。



「…正直、僕もあそこで左腕を失って追放されたおかげでシオンさんに出会えて…こうして誰かの為になる様な事が出来て…僕の新たな道を見つけられてよかったと今では思います」



 そう言って左腕のアームカバーを外し、自在に動く木の義手をパトラさんに見せた。



「…!今からこれを付けんのかと思ったが…もう出来てたのか?」


「はい、今はユアに耐久テストをしてもらっている最中です。今回パトラさんに取って来てもらったこれはルクス陛下用の高耐久で防水性もバッチリな常に付けてられる義手にするんです」


「…ユアっつったっけか」


「は、はい」


「少しその義手を確かめさせてもらっていいか?」


「は、はぁ…シオンさんが良ければ…」


「うん、いいよ」



 それからパトラさんが冒険者目線での使用感をユアに質問し、サポーターとして冒険者をしていたユアは改善点を交えながら話してくれる。


 その問答をメモしながら魔導義肢の改良の幅を広げていると、ピピピと聞き慣れない電子音が部屋に響く。



「…?何だこの音…?」


「あ…ちょっと外に出てきます。アリア、メモ任せていい?」


「分かりました」


「パトラさんすみません、すぐ戻ります」


「お、おう…?」



 急いで外に出て【空間収納】からデバイスを取り出せばココロからの着信が。



「…もしもし?ココロ?」


『…?もしかして何か取り込み中だったか?』


「ちょっとだけね?…連絡して来たって事は準備出来たの?」


『ああ、必要な物は揃えた』


「分かった。こっちもココロが拠点にする場所は用意出来てるし…迎えに行こうか?」


『いや、それは必要ない。今すぐそっちに向かうが…場所はそこでいいのか?』


「ここでいいけど…どのくらいで着くの?」


『その座標なら7分36秒だな』



 …え?早くない?あの研究所からここまで二日三日ぐらい掛ったんだけど?



「それってジェット機でビュンとかそういうのじゃないよね?」


『それに近い方法だな。航空装備での高速巡行だ』



 どんだけ…って今更か…。



「んー…そんなに早く来れるなら僕から連絡するからその時に来てくれない?」


『一応ステルス迷彩で見えないがその方がいいのか?』



 オーバーテクノロジー様様ですねぇ…。



「うん。実は今僕の知り合いが来ててその応対をしててさ…こっちの事を色々教える前に人に会ったら話が合わせられなくて困るでしょ?」


『ふむ…そういう事なら了解した』


「ごめんね?出来るだけ早めにこっちに来れる様にするから」


『別に急ぐ必要は無い。連絡待っている』


「はーい」



 ココロの声が聞こえなくなりデバイスを仕舞う僕。


 遂にココロが現代のこの世界…科学が淘汰され魔法が支配するこの世界に出てくる。


 それはとても危険な事だが、同郷の転移者(迷い人)である東雲博士の一人娘。


 同郷のよしみで背負うと言うのは違うかも知れないけど…この世界で科学も同郷も唯一理解出来る僕が東雲博士の想いを汲み、一人娘を預かるのは間違っていないはずだ。



(せっかく東雲博士が居ない外の世界に出る事を望んだんだ…少しでもこの世界が楽しいと思ってもらえる様にしないとな…)



 自然と零れる笑みを頬を揉んで消し、作業場に戻ればユアだけが作業場に居て白雪とパトラさんの姿が無かった。



「あれ?ユアだけ?」


「あ、えっと…聞きたい事は聞けたから手合わせすっかと言って何処かに…」



 もう始めてたのか…パトラさんも身体を動かしたかったのかなー。



「なるほどね。あれだったら勉強の息抜きに見てみる?」


「いいんですか?」


「魔導義肢を隠す為とはいえずっと部屋に籠らせちゃってるしね」



 そんなユアを連れて地下の訓練場に向かえばユアが目を丸くする。



「地下があったんですか…?」


「うん。もし運動したくなったら好きに使っていいよ」


「は、はぁ…」



 驚くユアを連れてどんどん下っていけばドスンッ!という鈍い音が聞こえて来て、



「お邪魔しまー…え?」



 訓練場を覗けば床に倒れた白雪の眼前に拳を寸止めしたパトラさんが居た。



「…お、来たかシオン」


「マスター…」



 パトラさんの手を借りて立ち上がる白雪。



「すみません…負けました」


「別に負けても怒らないし、パトラさんが強いのは当然だから一回だけじゃなく何回も挑んでみれば?」


「いえ…もう四回負けました」



 …えっ!?あのフィジカルモンスターの白雪がこの短時間で四回…!?



「まっ、あれからアタシも鍛え直したんだ、そう簡単に倒れねぇよ。まだやる気があんなら付き合ってやるぜ?」


「…マスター、いいでしょうか?」


「いいよ、気が済むまでやりな?」


「ありがとうございます」



 許可を出してあげれば白雪はパトラさんと向き合い拳を構え、パトラさんはそんな白雪を見ながら脱力して腰に手を当てて立つ。



「合図はいらねぇ。好きなタイミングで掛かって来な」


「…分かりました」



 全く構える気の無いパトラさん…そんなパトラさんに白雪が一歩踏み出した瞬間、



「…!!」


「消え───」



 爆発したのかと思う程の途轍もない足音を残しながら白雪の姿が消え、



「───ほら、一本だ」


「っ…」


「え、ええ…!?」



 次の瞬間には白雪はパトラさんの足元に倒れていて、さっきと同じ様にパトラさんの拳が眼前に寸止めされていた。



「アリアが何も出来ないなんて…」


「今のままじゃ何本やっても結果は同じだが…やるか?」


「…はい、お願いします」



 その後も白雪がパトラさんに向かう事……二十回。



「…勝てません」



 一撃を与えるどころか開始位置すら動かせず白雪とパトラさんの手合わせが終わった。



「んー……普通ならすぐ分かると思うんだが……種族の違いだなぁ」


「種族の違いですか…?」


「ああ。確かにしら…アリアの力と速さは全力のアタシと同等かも知れねぇが、種族故に全部力任せで解決しようとする。そんなんじゃ何時まで経ってもアタシを動かせねぇぜ?」


「力任せ…どういう事ですか?」


「…おいシオン、見てて分かっただろ?手合わせついでに手本を見せてやれ」


「分かりました。…見ててね?」


「……はい」



 落ち込む白雪の頭を一撫でし、髪を纏めて黒の訓練着に着替えればパトラさんの口角が上がる。



「へぇ…?サボってはないみてぇだな?」


「基礎訓練はちゃんと毎日してますけど、流石に技術の方は…組手する相手いませんし」


「アリアがいるじゃねぇか」


「アリアの速さについていけないですし、一発食らえば全身弾けますって…」



 その場で軽く飛び跳ね身体の調子を確かめながらイメージする。


 白雪が触れず初手で制圧されていたのは単に動きが直線的だったから。


 パトラさんは直線的な白雪を受け止めたり回避せず、その線を意識して力の方向だけを円を描く様に受け流して白雪に自爆させていた。


 …まぁ、あんな速度で曲線的に動けたりしたら凄すぎるけど…それを難なく捌けてしまうパトラさんも十分凄い。



「…いつでもいいぜ?」


「…では、いきます」



 白雪に比べたら止まって見える速度だが、白雪と同じ様に瞬発してパトラさんに接近していく。



(辛うじて分かったのは白雪が右の拳で腹を狙ってた事…同じ様に…!)



 肩を引き、肘を引き、肘から手首までが一直線になる様に構え───



「さぁ、どうだ?」


「ッ!!!」



 パトラさんの腹目掛けて弾丸の様に拳を放てば受け流そうとパトラさんが腕を伸ばしてくる。



(ここっ!!)



 だけど僕は拳の軌道を前から左下に無理やり変え、腕が邪魔になった事でつんのめった身体をそのまま回して回転踵落としをパトラさんの頭に放つ。



「奇抜なだけだな」


「っ!?づぁ!?」



 が、半身で踵落としを避けられ、半身になる動きのまま回転したパトラさんに着地した足を払われ再度僕の身体が宙に浮かぶ。



「これで終い───」



 空中で僕の胸倉を掴んで床に押し付けようとパトラさんが腕を伸ばした瞬間、



「っらあっ!!」


「…!」



 逆に腕を引き込み態勢を前のめりに崩させこめかみに膝蹴りを放つ。



「───っぶねぇ」


「ぐえっ!?」



 だが、本命の膝蹴りは取れなかったもう片方の腕でガッチリと防がれ、僕は床に背中から落ちて情けない声を上げた。



「…まっ、合格でいいだろ」



 そう言うパトラさんの足元を見れば僕の膝蹴りを防いだ所為で開始位置よりもほんの少しだけズレている。



「アリア、シオンとの違いが分かったか?」


「…フェイントでしょうか?」


「それもあるが一番は状況対応能力…つまり考える能力だ。人間っつーのは鍛えりゃ強くなるが、獣人の様に耳も鼻も悪けりゃ速さもねぇし強靭な爪もねぇ、自力じゃどんな種族よりも劣ってるってのが不変の事実だ。だが、劣ってるが故に劣ってるなりに思考し届かない一撃を届ける事が出来る。今みたいにな」


「僕にはアリア並みの速さも力も無いからアリアがどうやって負けてるのかを観察して、どういう動きをしたらどう動いて来るのかを予測して本命の一撃を最後まで取ってたんだ。…まぁ、防がれちゃったけどね」


「考える能力…それがあればパトラさんに勝てるのでしょうか?」


「んや、傲慢になる気はねーがそれだけじゃ足りねぇな。考える能力が培われたら次は技術だ」


「技術…」


「シオン、何でもいいから分厚くて頑丈な壁を感覚を空けて二枚立ててくれ」


「あ、はい」



 パトラさんの指示通り魔気で分厚い頑丈な鉄の壁をパトラさんと白雪分の四枚立てる。



「やっぱ火と水だけじゃ無かったか。今更全属性使えるっつっても驚かねえぜ?」


「あ、あはは…」


「まぁ、いい。アリア、自分のやり方でいいからこいつを拳でぶち抜いてみな」


「…分かりました」



 そうして振り抜かれた白雪の拳は魔気で作った分厚い鉄の壁を余裕で貫き、背後の壁も大きく凹ませた。


 …魔気使ってるのにこれってどんだけ威力あるんだ…。



「…これだけやれちまえば考えなしにぶん殴るって思考になってもしゃーねぇな。見とけよ?」



 パトラさんが苦笑しながら壁に触れた瞬間、鉄壁がバギンッ!と音を立てたが…



「…?何が起きたのですか?」



 触れていた鉄壁にはクッキリ掌の跡が付いているものの大した破損が無い。



「技術を極めりゃ拳を振り被ったり助走すら必要ねえって事だ。後ろを見な」



 言われるがままに壁の後ろを見れば拳二つ分空けた鉄壁が広範囲にべっこりと凹み、中心部分は穿たれ背後の光景を見せていた。



「これが技術…」


「東の方の技術で“鎧通し”っつーらしい。最近習ったばっかでアタシも完全に物にしたわけじゃねーが…本物は表も裏にも余計な傷を一切付けず、狙った部分だけを穿つんだぜ?」



 確かにこれが出来る様になれば盾や鎧で防がれてもダメージを与えられるし、巨大で頑丈な鱗に守られてる魔獣にも効かせられる…武術って奥が深いなぁ。



「アリアは元々デケェし力もあっからこういう小細工も要らなかったかも知れねーが…それだけじゃアタシみたいなのに足元を掬われる。シオンを守りてぇなら───」


「今のままじゃダメ…という事ですか」


「そういうこった。有り余る力を本能のままに振るうのが強いんじゃねぇ、その力を制御し自在に扱うのが強いんだ。…まっ、ここに魔法が関わって来ると色々状況は変わって来るが、魔法が通用しなかったり魔力が切れりゃ最終的に頼れんのは自分の身体だけだ、それだけは変わんねぇ。それが分かれば手合わせした意味があるんじゃねーか?」


「…はい、ありがとうございます」



 …やっぱパトラさんは頼れるお姉さんだなぁ。



「っふぅ、動いたら腹減ったな」


「あ、だったら何か作りましょうか?」


「んや、冒険者ギルドにも顔を出してーから外で食うわ」


「じゃあ、夜は帰って来てください。晩御飯用意しておきますよ」


「おう、有難くそうさせてもらうわ」



 そう言って背を向けながら手をひらひらとさせたパトラさんは、



「それと…そいつをちゃんとした所で寝かしてやりな」


「ええ、最近根を詰めてたみたいなので…運んでおきます」



 最後に壁に凭れて寝ているユアを指差し訓練場を後にした。



「マスター…弱い姿を見せてごめんなさい…」


「んや、白雪は弱くないし相手がパトラさんだからね…気にしなくていいよ」



 そして弱気な白雪の頭を撫でて宥めた僕は、



「ユアを部屋に連れてったら少し外に出たいから護衛してくれる?」


「分かりました…」


「頼りにしてるよ、白雪」


「…はい、任せてください」



 ユアを抱え白雪と共に訓練場を後にした…。

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