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魔剣と衝撃的な出来事

本日の投稿はここまでです。

「『渡り鳥(ウルグス)』の30層踏破、『天の剣(ソル・クラス)』壊滅、謎の階層主…なかなかな事になってるねぇ」



 どうももう一人の僕と情報共有を終えた僕です。


 数日の情報共有をするのに10時間寝込んですっかり早朝になりましたが僕は元気です。



「ユアを起こしてきましょうか?」


「んー…いや、この事は僕からは伝えない方がいいかな。伝えたら何で知ってるのか疑われるし、もしかしたら冒険者ギルドでカムラっていう人がもう一人の僕…ヨルを探してるかも知れないしね」


「分かりました」



 それにしても絶望の刻(エンディング)か…確かに人生の終わりを象徴する程に強かったなあの騎士…。


 気力と魔気が使えればまだ楽に倒せただろうけど、もう一人の僕の身体は魔力で出来ているから気力と魔気は使えない。


 かと言って魔力を使えばどんどん身体能力が下がっていくし…便利な能力にもちゃんと欠点があるんだねぇ。



「リベーラさんが暇な時に剣を教えてもらおうかなぁ…」



 これで師匠が五人…どれだけ浮気性なんだと苦笑を浮かべると、無遠慮に作業部屋が開け放たれる。



「おい、シオン」


「の、ノックぐらいしてくれません…?」



 そこには緋袴姿で汗だくのリオさんが居て、髪色が赤から黒に変わっていく最中だった。



「んなだりぃ事してられるかよ。お前らの魔剣、出来たぞ」


「…!本当ですか!?」


「ああ、鍛冶場に来な」



 武器と素材を渡して数日、気にしない様にしてたけど本当は滅茶苦茶気になっていた魔剣の完成にテンションが上がった僕は素直に鍛冶場に向かう。



「久々に打ち甲斐があったが…しばらくは休みてぇなぁ…」


「やっぱり魔剣を打つのは師匠でもしんどいんですか?」


「まぁ~……な。打ち始めたら手は止めらんねぇからな…今も手の感覚は曖昧だし耳も水ん中にいるみてぇだよ」



 欠伸を噛み殺し目尻に涙を浮かべるリオさん。


 あの地獄で一切休憩が許されない魔剣作りを思い浮かべて自然と僕の頬がヒクヒクと痙攣してしまう。



「だからしばらくウチは休業だ。…っつー事で、これがお前らの魔剣だ」



 そう言って鍛冶場に着いたリオさんは武器立てに掛かっていた一枚の布を取り去った。



「うわ…!凄い…!」


「これは…」



 見つめていると吸い込まれる様な感覚に陥る程の圧倒的な存在感を放つ全く飾り気の無い、なんなら持ち手も無く刀身だけが剥き出しになった白と黒の番の剣と、小ぶりだが番の剣に負けない存在感を放つ同じく飾り気の無い刀身だけの白い短剣が立て掛けられている。



「正直…今まで打った魔剣の中で一番の出来だ。だが、お前らがこの魔剣に“認められるか”どうかは別の話だ」



 リオさんはそう言いながら刀身だけの白と黒の番の剣を僕の前に、白の短剣を白雪の前に差し出す。



「認められる…もしかして意思を持つ武具(ミスティックウェポン)って事ですか?」


「へぇ、知ってんのか。だったら話は早ぇ。今のこの姿は仮の姿、謂わば素体だ。この魔剣に血を吸わせ、認められれば魔剣自らお前らに合った本当の姿に変わるんだ」


「おお…!」


「ただ…認められなければその程度っつー事でこの魔剣達は折らせてもらうし、今後お前らに魔剣は打たねぇ」


「お…折る!?この魔剣を!?」


「それが嫌なら意地でも魔剣を認めさせろ。俺が主人だ、私が主人だってな」



 一気に目の前に差し出された魔剣が存在感…威圧感が増した気がする。



「覚悟が決まったら魔剣に意識を集中させろ」


「………ふぅ…」



 だけど差し出されたナイフを手に取った瞬間に僕の意識は落ち着きを取り戻した。


 慣れ親しんだ刃物の形、重さ、冷たさ…刃を直に握り込めば更に心が暗く、冷たく、重く落ち着いていく。


 握り込んだナイフを引けば掌から鮮血が溢れ出すが、今の僕に痛みは無い。



「…いきます」


「おう」



 鮮血を滴らせる手で白と黒の魔剣を手に取った時、魔剣が眩く光り鍛冶場を真っ白に埋め尽くす。



「…!師匠、これ…!?」


「ああ…魔剣がお前を認めた証拠だ」



 そして眩い光が徐々に弱くなり───白と黒の番の魔剣は真の姿を僕に見せてくれる。



「これが僕の魔剣…」



 右手に握るのはアビスナイトドラゴンの素材で作られた黒の魔剣。


 何の模様も無い光を飲み込む漆黒の刀身は細身の両刃で切っ先は片側が長く片刃にも見える。


 ここまでであればただの黒剣だが、特異なのは刀身から生み出されている黒い霧。


 振れば影を棚引かせて軌跡を包み隠し、相対すれば刀身を包み隠して正確な形と間合いを悟らせない。


 まるで『俺』の様な剣…ただ、この黒い霧は刀身や軌跡を包み隠す為ではないと【直感】を使わずとも本能で理解…否、この魔剣が教えてくれる。



「…やってみるか」



 魔力を流せば刀身から黒い霧が噴き出し完全に姿を覆う。


 そして黒い霧が晴れれば黒の魔剣は刀身を縮ませて馴染み深いナイフへと姿を変えた。



「…すげぇな、無形の魔剣は初めて見たぜ」


「何か出来る気がしたんですよね…」


「だったら他の形も試してみろ」


「分かりました」



 更に魔力を流せばナイフは斧、槍、鞭、弓、なんならただの棒にすら姿を変えてくれる。



「ここまで自在とはな…おい、シオン」


「はい…え、ちょ、あぶな!?」



 いきなり僕から魔剣を奪おうとするリオさん。


 こんな凄い魔剣の刃、触れただけで指が落ち───



「…え!?」



 だが、リオさんの手は僕の魔剣を捉えられず黒い霧となりまた僕の手で形を取り戻した。



「…んじゃ、今度はウチに渡すって思いながらその剣を渡してくれ」


「は、はあ…」



 リオさんの言う通り渡す事を思い浮かべながら手渡せば今度は黒い霧にならずリオさんの手に握られる。



「なるほどなぁ…持ち主が許可した相手以外にゃ触れられねぇってか。しかも許可されても持ち主以外が使おうとすりゃあクソ重いし…刀身が死ぬのか斬れねぇな」



 相当重いのか魔剣を持つリオさんの腕には隠れていた筋肉が浮かぶ程に力が籠められ、腕に当てて勢いよく引いても腕に擦った跡を残すだけで血は出ない。



「おお、盗まれたり悪用される心配は無いですね」


「…なんかズレてるよなぁ、お前」


「そうですか?」


「まぁいい。…で?そっちの魔剣はどうなんだ?」



 羽の様な重みの魔剣を返してもらい今度は左手に握られた白雪の母…突然変異個体のタイラントサーペントの素材で作られた白の魔剣を見る。


 模様の無い純白の刀身は細身の両刃で切っ先は中心に向かって鋭く伸び、淡く光る刀身を振れば光の尾が棚引き夜空を切り裂く流れ星の様に見える。


 黒の魔剣同様ここまでであればただの白剣だが、またも【直感】ではなく魔剣が教えてくれる。



「これは…なるほどね」



 魔力を流せば刀身が徐々に赤く色付いて輪郭がぼやけ始め、更に魔力を流すと炎を象徴する様な力強くも不定形な姿に変わり火の粉がチラチラと舞い始める。



「これも無形…いや、純粋な属性剣か?」


「みたいですね」



 今度は水を思い浮かべると刀身が青く色付いて水を象徴する様な流線型で流動的な姿に変わり周囲に水が浮かび上がる。



「魔法が得意なお前にはピッタリな魔剣じゃねえか」


「そうですね…両方とも凄くしっくりきます」



 土であれば重く分厚く頑丈な刀身に、風であれば軽く鋭く透明な刀身に、爆破であれば衝撃と爆破を生み出す触れられない刀身に、氷であれば切り結べば切り結ぶ程身体を蝕み停滞させ砕く刀身に、鋼鉄であればどんな攻撃も防いでしまう盾の様な刀身に、雷であればどこまでも伸び身体を痺れさせ無力化する刀身に、光であれば魔法を弾く鏡の様な刀身に、闇であれば魔法を吸い込む刀身に変わってくれる。


 本当に『僕』の様な剣…流石に毒や魔気はここで試せないが、新たな魔剣に微笑んでいると困惑した声が聞こえる。



「…は?お前、全属性使えんのか?しかも光と闇まで…」


「あ、言ってなかったですか?僕、ユニコードに弟子入りしてるのである程度魔法は得意ですよ?」


「はぁっ!?ユニコード!?」



 胸倉を掴まれ吊り上げられる僕。



「テメェ…ユニコードとグリム、どっちにも弟子入りするたぁいい度胸じゃねえかよ?グリムの技術なんか片手間で覚えられるってか?舐めてんのか?」


「ちょ、そんな事言って無いですし話を聞いてくれません!?」



 胸倉を掴まれながらユニコードの弟子がどういうものかという事、僕には『何でも屋 猫の手』を経営する夢がある事を、その夢の為に他にも薬師の弟子にもなっている事を誤解を生まない様にしっかりと説明すればリオさんは胸倉を放し頬杖を突きながら大きく溜息を吐く。



「何でも屋ねぇ…その為に魔法の最高峰ユニコードの弟子になって?鍛冶の最高峰グリムの弟子になって?Sランク冒険者に体術を教わる弟子になって?怪我が絶えねぇ超大人数の組織を支えてる冒険者ギルドの薬師の弟子になって?…今度は何の弟子になんだ?」


「リベーラさんに剣を教えてもらおうかと…」


「元王国騎士団副団長、『剣姫(シュバラ)』の弟子と来たか。どんだけの大物を捕まえる気だよ?」


「…僕に足りないものを持ってる人全てですかね…?」


「…ったく」



 またもリオさんは大きく溜息を吐くが、怒りと言うよりも呆れが強く渋々ながらも納得はしてくれた様だった。



「まぁ、いい。もうその魔剣はお前のもんだ、名前でも付けたらどうだ?」


「名前ですか…」



 確かにこれだけ凄い魔剣を白の魔剣、黒の魔剣と呼ぶのはあれだし…刀じゃないから和風の名前はしっくり来ない…あ、



「……『白百合(ブラン)』、『黒百合(ノワール)』にします」


「ふぅん…いいんじゃねーの?」



 白の魔剣『白百合(ブラン)』、黒の魔剣『黒百合(ノワール)』…僕の魔剣に笑みが零れるとリオさんの手が伸びてくる。



「剥き身じゃやべーだろ。鞘作っから貸せ」


「あ、はい」



 リオさんに二本とも渡せば同じ素材で既に作っていたのか微調整だけで白い鞘と黒い鞘が出来上がる。



「ほらよ、腰に吊るすなり【空間収納】に仕舞うなり好きにしな」


「ありがとうございます師匠!」


「調子のいい奴だな…で、問題はシラユキの方だ。魔人が魔剣を扱うなんて聞いた事ねぇし、扱えるか分かんねぇけど…やってみな」


「分かりました」



 僕の血を拭ってナイフを渡せば緊張も戸惑いも躊躇もなく刃を握って引き、鮮血が滴る手で真っ白な短剣を手に持つと僕の時と同じ様に眩い光が部屋を埋め尽くす。



「…!」



 そして光が収まれば白雪が目を見開いていて、手には純白の刀身で刃は白雪の血を吸って深紅に色付いた牙の様に湾曲した中抜きの紅白の短剣が握られていた。



「どうやら認められた見てぇだが…」


「…白雪?」


「……」



 だけど白雪の様子がおかしい。


 紅白の短剣をジッと見つめたまま動かない。



「どうしたの白雪…?」



 もう一度声を掛けると白雪はゆっくりと目を閉じ───初めて涙を零した。



「っ!?白雪!?」


「…何でもありません。…ただ、“頑張って、幸せになって”と言われました」



 淡く光る紅白の短剣を抱きながら静かに泣く白雪。


 その姿に、その呟きに『白百合(ブラン)』が震え、僕に“娘達を頼んだ”と言った気がした。



「…そっか、預けられた僕も頑張らないとね」



 それから家族として白雪が泣き止むまで頭を撫で───



 ………


 ……


 …



「…すみません、何故か涙が止まらなくて…」


「それが家族を失う悲しさで、親に大切にされていた、想われていたっていう嬉しい感情だから忘れちゃダメだよ?」


「…はい、マスター」



 泣き止んだ白雪の目元は赤くなっていたが、口元にはほんの少しの笑みが浮かんでいる。


 最初に比べて表情も豊かになって来たし、成長してるなぁ…。



「あー…それで?その魔剣はどういう魔剣なんだ?」



 気まずい空気を切り替える様に魔剣に話を持って行くリオさん。



「……こんな感じでしょうか」



 最後の一滴を拭った白雪は抱いていた紅白の短剣を構えゆっくりと魔力を注いでいく。


 すると紅白の短剣の持ち手が伸びていき、最終的に槍…形的に紅白の薙刀へと姿を変えた。



「おお!短剣としても使えるし槍としても使えるんだ!?」


「はい。多分…魔力を注げば何処までも伸びるかと。それと…」



 不自然に言葉を切って更に魔力を注ぐと紅白の薙刀はグニャリと曲がり、自身で伸長を繰り返し蛇の様にうねりながら宙を走り始める。



「こんな感じで勝手に動いてくれます」


「…え?それってリーチ可変で途中で軌道を変えてくる極悪性能じゃ…?」


「…シオンの魔剣も相当ヤバいと思ったが、それ以上が来るとはな…」


「後は…マスターの『白百合(ブラン)』と同じで火になったり水なったりです」



 そう言って形を変えて火の粉を散らしたり水滴を浮かす紅白の短剣。


 …白雪も僕の触手の様な攻撃手段を得ちゃったかー…本当に僕の身内でよかった…。



「なるほどな。…名前はどうするんだ?」


「名前…」



 紅白の短剣と語り合う様にジッと見つめる白雪。



「…マスターが付けてください」


「僕?」



 命名を任されるが…うーん…何かいい名前…



「…『不死の白蛇(ウロボロス)』とかどうかな?」


「『不死の白蛇(ウロボロス)』…それにします」



 魔力が尽きなければ不死という特性と白蛇を安直に繋げただけだけど気に入ってくれてよかった…。



「んじゃ、鞘作っから貸しな」


「お願いします」



 そしてリオさんに『不死の白蛇(ウロボロス)』を渡せば短剣用の白い鞘が出来上がる。



「ありがとうございます、リオ様」


「おう」



 お…?リベーラさん以外に様付けするのは初めてじゃ?



「…完成した事だしお前らに一つ言っておく」



 真剣な表情で切り出すリオさん。



「『白百合(ブラン)』、『黒百合(ノワール)』、『不死の白蛇(ウロボロス)』は使い手と共に成長していく。ぞんざいに扱えば鈍になるし、使い続けりゃ理性を持つ武具(レリックウェポン)に至るかも知れねぇ。それをどう扱うかはお前ら次第だが…間違えんなよ?」


「…はい、肝に銘じます」


「分かりました」



 僕達の答えを聞くと限界が来たのかリオさんは大粒の涙を浮かべる程の大欠伸をし、【空間収納】から一つの袋と二本の剣を取り出す。



「……この袋ん中に今回使ってないタイラントサーペントとアビスナイトドラゴンの素材と火竜石、砥石、ドラゴンの油を入れてある。最初の修行としてアビスナイトドラゴンの素材を使ってナイフでも何でもいいから毎日一本打ってしっかり研ぎまでやって週一でウチん所に持って来い。いいか?毎日一本だ。二本でも三本でもねぇ。一日も欠かすんじゃねえ」


「毎日一本…分かりました」


「それとこれを眼帯とリベーラもどきに届けろ。ユニコードなら面倒な手続き無しで王城に入れんだろ?」


「それはまぁ…入れますけど…」


「んじゃ、頼んだ。ウチは…帰って寝る…」


「その状態だとあれですしもう一日泊ったらどうです?」


「……」



 そう言うと本当の限界を迎えたのか返事も無く玄関ではなく二階に向かっていくリオさんの背に頭を下げ、



「ありがとうございます師匠。これからもよろしくお願いします」


「……おう」


「白雪、僕は剣を届けに行くから後は頼んだよ」


「分かりました、マスター」



 後を白雪に任せて王城に足を向ける。





 ■





「シオン・ユニコード・ラザマンド様ですね、馬車はご利用されますか?」


「いえ、必要ありません」


「分かりました、どうぞ中にお入りください」



 ゆっくりと開く城門…開けてくれた門番に笑みを返し、鋼鉄魔法でなんちゃってローラーブレードを作りコロコロと滑っていく僕。



(15時…この時間ならこの辺で訓練してると思うんだけど…)



 凹凸の無い綺麗な石畳を滑りながら中庭に視線を向けるがそこに騎士団の姿は無い。



(んー…外で訓練して無いって事は前の訓練場か?)



 訓練場に進路を変えてコロコロ滑っていると───



(…!すっごい音と振動…力入ってるなぁ…)



 訓練場から金属が悲鳴を上げる音と、巨人が歩いてると錯覚する程の揺れが外にまで伝わって来る。


 そんな訓練場に今から入るのかと少しビビッてしまうが、出来るだけ気配を消して訓練場に忍び込むとそこでは騎士団長のジンさんと、教皇直属近衛聖騎士第一席次アルメリアが真剣で相対していた。



(うわぁ…国のトップ同士の模擬戦迫力凄いなぁ)



 ジンさんが一歩踏み込むと地面が揺れ、アルメリアが避ければ光が炸裂し金属の悲鳴が上がる。


 お互い全力では無いだろうが常人とは明らかに一線を画す身体能力と技術に自然と視線が釘付けになる。


 それはこの場に居る他の騎士達も同じで僕が訓練場に入った事にも気付いていない…だが、



「「……」」



 剣をぶつけ合い衝撃でお互いが後退り距離が離れた時、二人の視線が僕に刺さった。



「……これ以上は本気になってしまうな。ここらで休憩にしたいと思うのだが、どうだ?」


「……そうですね、ジン殿の剣を受け過ぎて感覚が無くなっていた所ですので有難い申し出です」


「ははは、ワザと俺が対応出来る速度に落として打ち合ってくれてたんだろう?そんなに謙遜する必要はない」


「いえ、そちらも私が受けれるギリギリまで力を抜いてくださったではありませんか。もう少し力が入っていれば数合切り結んで私の腕に罅が入ってました」


「だが、簡単に躱せてしまうだろう?」


「ジン殿こそ当てようと思えば当てられるのでは?」



 謙遜と譲り合いをしている筈なのに何故かバチバチとし始める二人。


 相手を立てつつ本当の実力を探り合うのは武人の性なんだなぁ…と思っていると、僕の目当ての人が大きな咳払いをした。



「これにてローゼン王国、リテュアリス神聖国の交流試合を終了とする!各自休憩のち鍛錬へ戻れ!」



 ルシェロさんがそう声を上げると円形の観戦席に居た騎士達は今の模擬戦について語り合いながら出ていく。



(んー…このままここに居ると巻き込まれるって【直感】さんが言ってるし、さっさと渡しちゃうか)



 今だこっちを向いているジンさんとアルメリアの視線に苦笑し、氷の翼を広げて優雅に観客席から飛び降りる。



「…何とも派手な登場だな?」


「ジンさん程屈強な身体じゃないんであんな高い所から普通に飛び降りたら両脚ぐちゃぐちゃですよ。アルメリアさんもお久しぶりです」


「ああ、その節は」



 リオンとシエラの一件以来一度も顔を合わせて無いからか若干棘のある対応をして来るジンさんと、胸に手を当てお辞儀をしてくれるアルメリア。



「…それにその剣…」



 僕の左腰に吊った『白百合(ブラン)』と『黒百合(ノワール)』に視線を向けて来るがニッコリ笑みで躱してルシェロさんに視線を向ける。



「今回はルシェロさんとカリスさんに用があるんです。カリスさんはどちらに?」


「カリスならリュート副団長に付いていると思うが…用とは?」


「ゴゴ爺からのお届け物ですよ」



 そう言うとルシェロさんは眼帯で隠れてない目を見開き口角が上がるのを必死に抑える。



「そ、そうか…すぐにカリスを呼んで来るから待っててくれ」


「分かりました」



 そして小走りで去っていくルシェロさんを見送れば…この場には僕、ジンさん、アルメリアの三人だけが残る。



「ゴゴ爺が遣いに出すという事は…弟子になったのか?」


「ええ、弟子にしてもらいましたよ」


「ユニコードに続きグリムにも弟子入りするとは…凄いものだな」


「運がよかっただけですよ」


「…その腰に下げた二振りはゴゴ爺が?」


「ええ、弟子に師匠の凄さを、高みを見せてやると」


「見せてもらう事は出来るか?」


「まぁ…いいですけど」



【空間収納】に仕舞っとくべきだったなぁ…でもさ、新しい凄い武器を手に入れたら身に付けたいじゃん…?


 …なんて後悔しつつ手渡せば『黒百合(ノワール)』は黒い霧になってジンさんの手を避けた。


 あれ?ちゃんと持つ事を許可したつもりだったんだけど…。



「…!?まさか魔剣…いや、意思を持つ武具(ミスティックウェポン)…?」


「はい、一応こっちも同じですけど…試してみます?」


「…ああ」



白百合(ブラン)』を手渡せば今度は眩く発光し、ジンさんの手からジュッと皮膚が焼ける音がした。



「っ…まさかここまで拒否されるとは…」



白百合(ブラン)』は拒否する時は熱を帯びるのか。


 僕は熱くないし…不思議だなぁ。



「一体どういう剣なんだ?」


「んー…僕らしい剣ですよ」



 この流れはとても悪い…どうせ次に来る一言は───



「…その魔剣を使って手合わせしないか?」



 ほらね、思った通りだよ。



「しません。僕はルシェロさんとカリスさんに物を届けに来ただけなんで」


「……」



 キッチリ拒絶すればジンさんは不服そうに溜息を吐く。


 というか、騎士団のトップがホイホイ色んな人に突っ掛けていいのかって話なんだけどね?


 …あ、そうだ、いいタイミングだし聞いて見るか。



「さっきはルシェロさんとカリスさんに用があると言いましたが、アルメリアさんにも用事があるんでした」


「…?私にですか?」


「ええ、今、フリューゲル・ホープ・リテュアリス教皇猊下はどちらに?」


「フリューゲル教皇猊下はルクス・フォン・ローゼン国王陛下と今後について話し合いをしているはずだが…」


「であればフリューゲル・ホープ・リテュアリス教皇猊下に言伝をお願いしてもよろしいですか?」


「言伝…?」



 高身長のアルメリアの耳元へ背伸びし、足りない分はアルメリアが屈んでくれる。



(興味がありましたら本当の聖女に会わせる事が出来ますよ、と)



 するとアルメリアは目を見開く僕を見つめて来る。



「それは…シオン殿の一存で決められる事なのだろうか?」


「はい。…まぁ、もしそうするとなればその後に少しだけ大切なお話をさせてもらいたいので時間を取って頂けるとありがたいですね」


「…概要だけでも聞かせてもらえないだろうか?」


「そうですねぇ…四肢欠損者の救済処置、とでも。場合によってはリテュアリス神聖国の今後に大きく影響が出てしまうかも知れませんとも付け加えて置きます」



 目つきも声色も鋭く圧のあるものに変えるアルメリア。



「それは…穏やかならない意図と捉えた方がいいだろうか?」


「いえ、親切心です。本当であればアルナ・アーチ・アラライズに手を出された腹いせとしてリテュアリス神聖国に経済的大打撃を与えようとしてた計画だったのですが、ルクス国王陛下が手を貸すと決めた以上、それを知らせずに実行するのは忍びありませんし、可能なら手を組めたらなとすら思っていますよ」


「…その話し合いに応じなければ内容を開示せずに行うと?」


「ええ。ですが、経済的大打撃にならない様に配慮するつもりです。秘密裏とはいえ、今は手を取り合っている状態ですから」



 食らえ、満面の笑みアタック。



「………」



 効かないか…。



「…分かった、フリューゲル教皇猊下に必ず伝えよう」


「ありがとうございます。もしお話を聞いてもらえる事になったらここに住んでいますので手紙を送るなりなんなりして頂ければ」



 僕の家までの地図を渡せば丁度いいタイミングでリュートさんを連れたルシェロさんとカリスさんが近寄って来る。



「シオン、連れて来たぞ」


「すみません、お待たせしました」


「やあ、シオン君」


「カリスさん、リュートさんこんにちは」



 ニッコリ微笑んで二人を迎えて───気付く。



「…ご婚約おめでとうございます?」



 カリスさんの左手の薬指に綺麗な銀色の指輪が嵌っていて、リュートさんの左手の薬指にも同じ指輪が嵌っていた。


 それを指摘するとカリスさんは顔を真っ赤に染め、リュートさんは幸せそうに微笑む。



「え…ええ…有難い事に…」


「有難いのは俺の方なんだけどね」


「何時頃正式にご結婚と式を?」


「んー…流石にまだそこまで具体的には決まってないけど、今年中に出来たらなとは思ってるよ」


「そうですか、その時はお祝いさせてもらうので絶対に呼んでくださいね?」


「ああ、是非」



 身内の幸せに立ち合えてよかったが…ルシェロさんがもう我慢の限界らしい。



「それではお届け物です」



【空間収納】から二本の剣を手渡せばルシェロさんもカリスさんも目を見開き、魅入られる様にリオさんが打った新たな剣を見つめる。



「これは…」


「…この出来は言葉も出ませんね…」


「試し斬りもしたければどうぞ」



 つま先でコンコンと地面を鳴らして鉄の柱を立てれば二人共目つき鋭く剣を構え、全く力を感じさせない洗練された綺麗な振り方をすると剣が音も無く鉄の柱をすり抜けた。



「どうです?満足しました?」


「ああ…最高の出来だったと伝えて欲しい。これは前金の残りだ」


「私も同じ様に伝えてください。残りの代金です」


「…言伝と代金、確かに預かりました」



 重い金貨袋を【空間収納】に仕舞い、氷の翼を生やした僕は、



「それでは僕はこれで。アルメリアさん、先程の話お願いしますね?」


「ああ、必ず伝えよう」


「では、また」



 空を飛んだ事に驚いた皆に笑みを向け仕事を終えた…。

最近地下世界を探索するゲームにドハマりしてしまい…出来るだけ執筆活動に影響でない様にしたいと思います。

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