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絶望の刻

本日の投稿はここまでです。

「ははーん…だんだん理解出来て来たぞ『空間転移魔法陣』…」



どうも自宅で魔法陣の勉強をする僕です。


豪華な家を建ててから二日後…あれからリオさんはずっと鍛冶場に籠りっきりで、ユアも貸してる部屋に図書館から借りて来た本を持ち込み籠りっきりでとても落ち着いた時間を過ごしている最中です。



「っし、いっちょ試してみるか」



デバイスの写真を見ながら空間転移魔法陣を二枚の紙に模写し、魔法陣の一部分を訂正して自分の言葉を刻んでいく。


空間転移魔法陣は『魔力供給』『座標指定』『物質保護』の三つで構成されていて、手を加えるのは座標指定の部分だ。


空間転移魔法陣は転移先となる場所、座標の指定は経緯度で示しているらしく、この経緯度を調べて確定さえ出来ればその経緯度に物質を転移させる事が出来る。


だけどこの科学技術が発展していない世界では経緯度を正確に求める方法は無い…が、僕にはココロからもらった最先端科学技術が詰め込まれたデバイスがある。


デバイスのGPSで完璧な座標を取得し、座標指定の部分を作業部屋(現在地)からリビング(転移先)に変えて転移させる石ころを魔法陣の上に置き、最後に空間転移魔法陣を作動させる為の魔石を手に持つ。



「白雪?リビングでこの石ころが転移されるか見ててくれない?」


「分かりました」



親指を立ててリビングに向かう白雪。



「後は一回の転移でどれだけ魔石を必要とするかだな」



【空間収納】から今まで集めて来た魔石を取り出し【真眼】で一つずつ調べながら魔法陣に魔力を注いでいく。



「んー…毎回こうやって灰にするのも勿体ないし、疑似魔石みたいな魔道具があればいいんだけどなぁ…」



指先程の低品質の魔石を75個程灰に変えると魔法陣が光を帯び───



「成功するかどうか…!」



一度強く発光すると魔法陣の上に置かれていた石ころは僕の目の前から消えていた。



「これで白雪が戻ってくれば成功だけど…どうだ…?」



ジッと白雪が戻って来るのを待っていれば扉が開き、掌に粉々になった石ころを乗せた白雪が現れた。



「マスター、石ころは来ましたが…」


「石が粉々か…という事は物質保護にまで魔力が行ってなかったのかな?」



ダンジョンで体験した空間転移と違う点は座標指定と使用した魔石。


石ころがリビングに転移した時点で座標指定の部分に問題は無い…となれば使用した魔石が違う事による魔力供給量の差にあるはず。


今回は低品質の魔石を一つずつ使って空間転移魔法陣が発動するギリギリまで溜めた所為で物質、人体を保護する物質保護の機能が働かなかった可能性が高い。



「もう一回試してみるからお願いしていい?」


「分かりました」



もう一度白雪にリビングに行ってもらい今度は黒樹の大森林で拾った討伐難易度Aのアサシンリープの魔石を使えば、



「マスター、今度は成功です」



粉々どころか欠けすらない石ころが掌の上に乗っていた。



「なるほどね。なら物質保護が発動するまで転移が発動しない様にストッパーになる文言を魔法陣に描き加えて…」



それから時間と魔石が許すまで何度も試行錯誤を重ねて───



………


……




「んー!出来たぁ!」



時刻は日が沈み始めた17時頃…遂に念願の移動手段である空間転移魔法陣をものにした。



「お疲れ様です、マスター」


「ありがと白雪!…ただ、魔石の消費量が激しいねぇ…自前で魔力を溜めるにも僕の全魔力で一回飛べるだけだから往復は難しいし…」


「無いよりはマシでは?」


「…まぁね?これでいつでもここに帰って来れるし死体が用意出来次第黒樹の大森林に里帰りしよっか」


「そうですね」



魔法陣を【空間収納】に仕舞い白雪が用意してくれた紅茶で一息吐く。


…そういえばウォーカーのシフォンさんのお姉さんがシールズを作った人なんだっけか…何か遺品でも探してもいいかもなぁ。


そんな考えを頭の中で回しながらこれからの予定を立てていると、ふいに作業部屋の窓がコンコンと音を発した。



「……あっ!?忘れてた!!」



【空間収納】を見れば折り畳まれた紙が数十枚積み重なっていて、最新であろう紙を見て急いで窓を開けると黒い影が勢いよく部屋に滑り込んで来た。



『…あのさぁ、何が言いたいか分かるよね?』



黒猫のダウナー系お姉さんに姿を変えたもう一人の僕にジットリと睨まれる僕。



「ご、ごめん…空間転移魔法陣の解析と改良に熱中し過ぎて忘れてた…」


『はぁ…我ながら一つに集中し過ぎる癖をどうにかした方がいいよ本当に…まぁ、口で説明するより情報共有した方が早いね』


「そ、そうだね…」



僕に叱られ呆れられるという不思議な状況に苦笑しつつ、黒い靄へと姿を変えたもう一人の僕を受け入れると頭痛と一緒に数日分の見知らぬ記憶が流れ始め、



「っ…ごめん白雪、少し仮眠するから傍に居てもらっていい…?」


「分かりました、マスター。安心して寝てください」


「ありが───」



白雪に抱き留められたという感触を最後に僕の意識は途切れた…。









 Side.カムラ



「はぁっ、はあ…!くそっ…!」


「ちょっ…待って…!」



休憩地点(レストポイント)で別のパーティーと遭遇した翌日…私達は冒険者の中で恥ずべき行為とされている後追い(ストーキング)で30層を目指していた。



「あいつら速すぎる…!こんな速度で進むとか何者なんだ…!?」



タンクのカーティスが重鎧をガチャガチャと鳴らしながら愚痴る。


道はやや広く岩が繰り抜かれた様な洞窟で、視界も悪ければ曲道も多くマッピング能力に長けていなければすぐに迷ってしまう迷路になっている。


足元も悪い中、重鎧を着てほぼ全速力で走り続けていれば愚痴りたくもなるが…それを差し引いても前を走るパーティーの踏破速度が異常に早い。



「なぁ、エイン。あいつらまだ付いて来てんのか?」



そしてそのパーティーに所属している男の声が獣人の耳には聞こえてくる。



「付いて来てるよ?千切れない程度の速度で進んでるけど…千切る?」



私達が後追い(ストーキング)している事は既にバレている…しかも後追い(ストーキング)出来る様にワザと踏破速度を落としているらしい。



「いや、この速度でいい。ちょっと無理すれば付いて行ける速度である程度体力を削ってから速度を上げる。命の危険を感じれば後追い(ストーキング)を止めて流石に大人しく地上に戻るだろ」



遠くから聞こえてくるパーティーの声を『天の剣(ソル・クラス)』の面々に伝えるつもりはない。


ここで私が何か言ってもシフトは聞く耳を持たない…だから私の中にあったなけなしの情は消え、ただ契約を契約のままに遂行して早くパーティーを抜けるという最低限の義務と体裁しかない。



(ただ…生きて帰れるのか…)



“近い内に『天の剣ソル・クラス』はダンジョンのにゃかで壊滅するにゃ。巻き込まれたいにゃらそのまま『天の剣ソル・クラス』に加入したまま死ね。死にたくにゃいにゃら抜けろ”


…あの情報屋の言葉が嫌でも脳裏に過る。


今の後追い(ストーキング)に夢中になって消耗している状況は確実に壊滅に近づいている。


この状態で30層に辿り着きすぐ階層主に挑む事は無いだろうが…異常な速度での踏破は自分達が思っている以上に心身を削る。


それを癒す為にいくら休憩したとしても命が確実に保証されていない場所で碌な食事も取らず快適な寝具が無ければ疲労は蓄積されて動きは精彩を欠いて…最後には死ぬ。



(生きて帰れたとしたら…あの緑髪の女、エインとやらに食料を分けてもらった礼をしよう)



刀の柄頭に額に付けて誓いを立てていると、後追い(ストーキング)に集中していたノーチが声を上げる。



「前の奴等、階層主の部屋に入ったみたいだ!」


「…!そうか!扉が見えたら扉前で休息する!もう少し頑張れ!!」


「うぐっ…」


「ちょぉ…もう…!!」



ようやく見えた終わりに皆が様々な文句を言いながらも速度を上げ、たった数時間で21層から30層までを踏破してしまった。



「はぁ…ノーチ、ここまでのマッピングはしっかりしてるな?」


「ああ…ミノタウロスを倒したら一直線に地上に帰れる。…それにしても前のパーティーは何者なんだ…?」


「さぁな…だが、おかげで一度も迷わずここまで短時間で来れた。長めに休息を取ってミノタウロスに備える!カムラとノーチはこのまま警戒してくれ!」


「あ、ああ」


「………分かった」



疲労の濃いレトアとカーティスを扉前に座らせるとシフトはレトアに付きっ切りとなり、私はノーチと共に少し戻った場所で警戒するが…



「…わりぃ、少し休ませてくれねえか?」



皆の姿が見えなくなったタイミングで一番疲れていたノーチが私の返答も聞かず座り込んでしまう。



「……好きにしろ」



結局一人で警戒する羽目になった私は階層主の部屋へと繋がる背後の一本道を守る為に分岐路に立ち、疲れた身体を少しでも休める為にエインと呼ばれた女からもらった四角い金属ケースに収められてるサイコロ状の固形物を口に放り込む。



(美味いな…今の保存食はこんなにも美味いのか…)



舌で転がして唾液を絡めればゆっくりと溶けて濃い味が口いっぱいに広がり自然と口角が上がってしまう。



(全部色が違うが別の味なのか…?)



さっき口の中に入れたのは黄色で、そのケースには他にも茶、薄茶、赤、桃、橙、緑、白、紫が残っている。


まだ口の中に残っていた黄色を噛まず全て溶かし、【空間収納】から水を取り出して口の中を綺麗にしてから茶色を放り込めば、



(…!?これはカレーの味…!?こっちでは馴染みがないものだと思っていたが…まさかこんな所で味わえるなんて…)



故郷では馴染み深い味を異郷の、それも死がいつ訪れるか分からないダンジョンの中で味わえた事に目元が潤みそうになるが、それを堪えてゆっくりと舌で転がしているといつの間にか満腹になり、しばらくすれば身体の怠さが無くなるどころか力と魔力が湧いて来る感覚があった。



(補給食一つでここまで楽になるとは…)



これから死ぬかも知れない戦いの前にこれだけ充実出来るものかと余韻に浸りながら集中力を高めていると、離れた所からギギギギ…と重い扉が開く音がする。



「…もう階層主を討伐したのか」



階層主の部屋は中に侵入した者が階層主を倒すか、階層主に殺され死体がダンジョンに吸収されるまで開く事は無い。


その扉が開いたという事は二つの意味がある。


一つは倒したか死んだかの二択だが、私は難なく倒し31層に降りたのだと確信する。


そしてもう一つは、



「カムラ、俺達の番だ」


「………ああ」



刀を杖に立ち上がり、ノーチと共に戻れば呼吸も整い顔色も良くなったシフト達が雑な装備チェックをしていた。



「戻って来たか。これから30層の階層主、ミノタウロス討伐の作戦会議をする。よく聞いてくれ」



そう言うとシフトは地面に石を置いて皆の大まかな位置を指示していく。



「階層主のミノタウロスは斧と鉈を持った奴が一体ずつ出現する。まず、カーティスは最前線で鉈持ちのミノタウロスを惹き付け、ノーチは斧持ちのミノタウロスを惹き付けて逃げ回ってくれ。最初に鉈持ちミノタウロスを俺、レトア、カムラで倒した後、ノーチが惹き付けた斧持ちミノタウロスを全員で叩く。基本的にミノタウロスは武器の振り回しと突進しかしてこないから落ち着いて対処すれば何も問題ない」



綿密とは言えないが、細かく連携に齟齬が生まれない様に作戦会議を続けていくが…



(…何だこの胸騒ぎは…)



足元から冷気が這い上って来る感覚、心臓を見えざる手で握り締められている不快感…手が自然と心の拠り所にしている刀に伸び、強く握りしめてしまう。



「…?どうしたカムラ?」


「いや…何でもない」



深呼吸で震える左手を落ち着けるが、嫌な感覚はどうしても拭いきれず───



「よし、階層主を倒してAランクに上がるぞ!」



正体不明の違和感を抱えたまま私達は階層主の部屋に突入した。



「カーティス!ノーチ!ミノタウロスの惹き付けは頼んだぞ!」


「おう!」

「ああ!」


「レトアは回復魔法をカーティスに厚く掛けてくれ!カムラは初手に上級魔法を放て!」


「ええ!!」

「…ああ」



不快な音を立ててゆっくりと閉じていく背後の扉…カーティスは大盾を構え、ノーチは短剣を抜いて中腰で構え、シフトは長剣を正眼に構え、レトアは杖をカーティスに向け、私は刀を杖代わりに詠唱を始める。



「…?何だ…?何でミノタウロスが現れない…?」



だが、どれだけ待ってもミノタウロスは現れずシフトが不可解そうに声を漏らした時、



「「「「「っ!?」」」」」



私を含めた皆が空気が変わったと感じた。


例えるなら天井が落ちて押しつぶされた感覚、水中に引きずり込まれた様な窒息感、腰から下が沼に落ちた不自由感…明らかにおかしい現状を理解しようと皆が無言で目だけを動かし周囲を確認していれば、



「は…?何だよあれ…」



私達の前方の空中、そこにはドロドロと粘着質な何かを地面に零す黒い球体が浮かんでおり、次第に地面に零れた黒い何かが蠢き形を作っていく。



『──────……』



それは頭部に紫色の炎を灯し、全身を禍々しい黒い鎧で覆った騎士の様な出で立ちのモンスター。


そのモンスターは今だ零れて来る黒い何かに手を伸ばし、手に零れた黒い何かは騎士の身体を膨らませ、両手で振るう様な巨大な剣を手の中に形作っていく。



「おい…おいおいおい…何だよこれ…」



最前線に立つカーティスが震えた声を漏らす。



「ミノタウロスじゃない…こっ…これっ…ヤバいんじゃないか…!?」



状況を理解し始めたノーチが焦りと悲壮を混ぜて叫ぶ。



「こ…こんなの聞いてない…!何とかしてよシフト!!」



圧倒的な存在感に当てられたレトアは安息を求める様にシフトに抱き着く。



「あり得ない…何でだよ…!何で今『絶望の刻(エンディング)』なんだよ…!!!」



剣こそ手放さないが全身が震え真面に立っていられないシフトはレトアと共に地面にへたり込み、



「もうおし───」


「…は?」



お終い…その言葉がシフトの口から零れる事は無くなった。



『──────……』


「ありえ…ないだろ…」



私の前方には巨大な剣を振り抜いた騎士の姿があり、その手前には大盾ごと胴を斬られたカーティスとノーチ、半狂乱になり間合いに入ってしまったレトアと戦意を失ったシフトの首が地面に落ちていた。


たった一瞬…四人が目の前で呆気なく死んだ。


自分の腹を見れば斬れた着物の内側から私の腹が顔を覗かせている…後一歩前に進んでいれば私もカーティスとノーチの様に胴を斬られて死んでいた。


恐怖で尻もちを突いていればレトアとシフトの様に首を斬られて死んでいた。



「くそっ…!」



揺れる身体に活を入れ、生き残る為に刀を構え直すが…



「っ!?ど、何処に…!?」



既に騎士の姿は無く、



『──────……』


「なっ───」



途轍もない殺気に振り返れば背後に居た騎士の剣が私の首目掛けて振り抜かれていた。



(すまない母上…先立つ不孝を許して欲しい…)



ゆっくりと首に迫って来る剣の切っ先(死の現実)から逃れる様に目を閉じれば母上との思い出が駆け巡り、



「無念っ…!」



母上の腕に抱かれ───



「無念にゃら死んでる暇にゃくにゃい?」



聞き覚えのある気怠げでふざけた喋り方の声が聞こえる。



「…!?じょ、情報屋!?」



辺りを見渡せばあの騎士は剣を振った姿のまま遠く、私は情報屋の黒猫の腕の中で横抱きにされていた。


私はこいつに助けられた…?というか、こいつは何処から現れたんだ…?


それにこいつはこのモンスターが出る事を予見してあんな忠告を私にしたのか…?


まさかこれがこいつの仕掛け…?



「忠告したのに死にに行くにゃんて…お前は馬鹿にゃのか?つか、重い」


「ぐっ!?」



どんどん湧き出てくる疑問を遮る様に私の身体を地面に落とした黒猫は【空間収納】に手を差し込み何かを探り始める。



「おまっ…!何をする!?」


「まずは助けてくれてありがとうございますヨル様って感謝するのが先だと思うけどね?…あっれー?にゃんで私の武器がにゃいんだ…?」



私を無視して両腕を差し込み武器を探している黒猫。



「あれだけあるのににゃんで一本もにゃいんだ…?あんまり魔力は使いたくにゃいんだけど~…まぁ、これでいいか…」



そう言って取り出したのは長方形の分厚い刀身を付けた血濡れの鉈と形容すべき呪われてそうな赤黒いナイフ。



「おい…お前まさか…あの騎士と戦うつもりなのか…?」


「それ以外にゃにに見えるか教えて欲しいにゃ」



長い髪を払えば何処かから漂って来た黒い靄が黒猫の身体に纏わり付き、背中を大きく露出させた身軽そうな黒装束に変わっていく。



「あの騎士の強さを見ていないのか!?」


「お前の影のにゃかからずっと見てたけど?」



まさか初めて会った時からずっと私の影の中に潜んでいたのか…?いや、それよりもあの騎士は―――



「一瞬で四人殺したんだぞ!?」


「だから?」


「だから…!?お前も死ぬぞ!?」


「にゃにそれ、あいつらが雑魚かっただけでしょ?」


「なっ…!?」


「それにあれを倒さにゃい限りここから出られにゃいんだから雑魚は大人しくそこで見てにゃ。…それと、大した経験にゃんてしてにゃい雑魚の尺度で私の事を勝手に測るにゃ」



赤黒いナイフを弄びながら無警戒に近づいていく黒猫。


その足取りは散歩道を歩く様に軽やかで恐れも緊張も感じさせない、何ならステップを踏んで何処か踊る様にすら見える足取りで騎士に近づいていく。



「真正面からの戦いは苦手にゃんだけど隠れる場所にゃんてにゃいし…正面ガチバトルかぁ」


『──────……』



大剣を水平に構え迎え撃つ準備をする騎士。



「頭部は炎だから致命傷ににゃり得にゃい…心臓…その鎧のにゃかにあるのかにゃいのか…人型だし手っ取り早く四肢切断でいこうか」



ノーチの死体の傍に転がったナイフを踏み付けて空いていた左手に持った黒猫は、歩きながらベッドに倒れ込む様に自然体のまま前のめりに傾き───



「ッ!!!」



地面スレスレ、出っ張った胸を地面に擦りかけない超低空で地面を這う様に瞬発する。



『──────!!』



その黒猫を叩き潰そうと上段から大剣を振り下ろす騎士。



「っ!?ヨル!!!」



騎士の大剣は正確に黒猫を両断する軌道で降り下ろされ、縦に一刀両断される姿を想像して思わず声を上げるが…



「まずは二本!」


『──────!?』


「はっ!?」



一刀両断されたはずの黒猫は遠く離れていた騎士の懐にいつの間にか潜り込んでいて、騎士の右腕と左腕を肩から叩き切り、



「追加で二本!!」


『──────!!』


「チッ…」



そのまま脚を落とそうとするが、騎士は両腕を捨てて勢いよく後方に飛び退いて躱す。



「なっ…どうやって懐に…」


「黙って見てろ、集中してんだ」


「っ…」



その言葉通りに黒猫の表情はきつく吊り上がり、両腕を失った騎士を睨みつけている。



「…そんなのありかよ」



ふざけた喋りをせずにそう呟く黒猫に釣られて騎士を見れば、落とした両腕が黒い液体に変わり肩口に集まって無くした両腕を復活させる。



「あんなの…勝てるのか…?」


「だから黙ってろ、あいつにビビッて早々に脱落した雑魚が」


「……」


「お前が勝手に絶望に浸って泣きべそかくなら自由だ。だけどそれに私まで巻き込むな、勝手に一人で堕ちてろ」



そう吐き捨てた黒猫はもう一度超低空で瞬発し、両腕を戻した騎士も同じ動きで黒猫目掛けて瞬発する。



『──────!!!』


「くっ…!流石に真正面からの打ち合いは分が悪い…!!」



目にも止まらぬ剣戟の嵐…騎士は大剣を感じさせない素早い振りと一撃一撃が必殺を孕んだ剛剣。


黒猫は影の様にスルリと潜り抜け受けるのでは無く流し滑らせ懐に、背後にと死角に滑り込み必殺を狙う暗殺の技であり柔剣。


故郷では“柔よく剛を制す”と言う言葉があるが、騎士の剛が柔を寄せ付けず、黒猫の柔が剛を躱し続けている。


だが…



「ほんっと嫌んなる…!!」


『──────!!』



騎士の腕や脚を落とし続けているのには変わらないが、その動きの中で紙一重で躱していた一振りも大きく避けたり、剛剣を流す衝撃で腕にダメージを負ったのか流す動きが目に見えて悪くなっていく。



「ヨル…!」


「だーかーらー…!!」



私が声を出せば苛立つ黒猫。



「くっそ…!こんな事になるなら剣を教えてもらっとけばよかった…!」



黒猫がそう呟いて大きく背後に飛んだ時、



「っ!?ヨル!!後ろだ!!!」



「は───がっ!?」



黒猫の影から大剣の切っ先が伸びて背から串刺しにして宙に縫い留めた。



「あ゛ー…しくじ…ったー…」


「ヨルっ…!」



口から大量の血を零す黒猫は四肢を力なく垂らし二本のナイフを両手から放す。



「ごりゃー…ダメ…か…」


『──────……』



好敵手を失った騎士は大剣をだらりと下げ、地面を削りながら黒猫に近づいていく。



「やめろ…近づくな…」


『──────……』



私の懇願なんて騎士は聞かない。



「それ以上近づくな…!!」


『──────……』



騎士は黒猫にトドメを刺す為に近づいていく。



「それ以上近づくなと言っているんだ!!!」


『──────……』



気付いたら私は黒猫と騎士の間に割り込み刀を構えていた。



「…何…してんの…」


「見て分からないのか馬鹿猫!!お前を守ろうとしているんだ!!」


「敵う訳…ないっしょ…」


「分かっているなら早く抜け出せ馬鹿猫が!!」



黒猫の身体は背から滴る血の所為で滑り、徐々に抜け出せない程深く突き刺さっていく。


私じゃこの騎士は絶対に倒せない…倒せる可能性を持つのはこの黒猫しかいない。


だから……その可能性に賭けて一秒でも長く時間を稼ぐ…!!足掻いて見せる!!



『──────……』


「っ…来い…!化け物!!この黒猫には指一本たりとも触れさせない!!!」



振り上げられる大剣、震える刀、激しく燃える紫の炎、涙で歪む視界…そして───



「あーあ…黙って見てれば怖い思いしなくて済んだのに…」



黒猫が呆れながらも優しい声色でそう呟いた。


瞬間、



『──────!?!?!?』


「……え…?」



バキンと硬質な何かが砕ける音が響くと騎士が頭部の炎を激しく揺らめかせ、振り上げていた大剣を手放し胸を押さえ始めた。



「な、何が……!?」



突然の出来事に面食らっていると騎士は胸を掻き毟りながら膝を突き…背後に隠れていたその原因を露わにした。



「…黒猫!?」



姿を現した黒猫の腹には貫かれた傷は無く、二つに割れた頭部程の大きさの特大魔石を両手に持って立っていた。



「ふぃー…結構手こずったけどにゃんとかにゃったねー」


「な…おま…ど、どういう事だ…?」



背後に守っていたはずの黒猫を見れば姿どころか身体から溢れた血すらも無く…まるで今までのが全て夢だったかの様な現状に追い付けないでいると、黒猫は魔石を【空間収納】に仕舞い両手で狐手を作る。



「狐に化かされたみたいにゃ表情だね?」


「……馬鹿な事を言ってないで説明しろ…」


「説明ねぇ…説明する程の事じゃにゃいけどにゃあ」



徐々に崩れダンジョンに還っていく騎士に視線を向けた黒猫は渋々ながらも語ってくれる。



「まぁー…簡単に説明するにゃらコイツの弱点を割り出して、その弱点を突く為に自分を囮にした…でいいかにゃ?」


「…分からん」


「察しろし…だからー、初手で打ち合いしてたのは弱点を探ったりコイツに状況を見極めたり学習する知能があるか確かめてたの」


「あの攻防の中ででか…?」


「どう見ても真正面から戦って勝てる相手じゃにゃかったでしょ。初手で『シャドウダイブ』を使って懐に入って腕を落とせたから不意打ちが効く事は分かったし、攻防のにゃかで私の動きに対応してきたから本能のままに動くタイプじゃにゃいって分かったし、私の動きが悪くにゃればにゃるほど隙を突く様にゃ動きが増えて来てたから知能と学習能力があるって分かったし、手足に攻撃しても反応イマイチにゃのに胸辺りを攻撃すると過剰に避けようとしてたからそこに弱点があるって分かったし…だから攻防中に影のにゃかに潜みつつ、分身に戦わせてワザと攻撃を食らって油断させて背後から弱点一突き。…これでいい?」


「…待て、分身だと?」


「そ、分身」



黒猫が手を横に翳すと黒い靄が瓜二つの黒猫を形作っていく。



「よく出来てるでしょ?」


「…じゃあ、なにか…?私は分身の為に身体を張ったという事か…?」


「だから言ったじゃん。黙って見てろって」


「なんだそれ…」



分身の肩を指で突けば黒い靄になって霧散する…その光景を見た私は全身から力が抜け落ち───



「まぁ…勝てにゃい相手って分かってるのに立ち向かうのはかにゃり勇気がいるし、頑張ったんじゃにゃい?」


「…お前のその上から目線…どうにか…ならん…のか…」


「実際格上だし。…嫌にゃら強くにゃるんだね」


「本当にムカつく…や…つ…」



生き残った事実に張り詰めていた糸が完全に切れた。



「…もしもーし?…気絶しちゃったか。てか、さっきのモンスターは何だったんだ…?確か絶望の刻(エンディング)とかって言ってたけど…『渡り鳥(ウルグス)』は大丈夫なのかな…?」



一抹の不安が残る中、黒猫は狐を背負い部屋に隠された空間転移魔法陣を起動させる…。

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