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新居と進退

本日の投稿はここまでです。

「あ、来た来た!シオン君ー!」


「エルルさんこんにちは。エルルさんだけですか?」


「チアラさんならもう来て作業してるよ!」


「そうなんですか?」



どうも白蛇姿の白雪と共に新しい家を建てに学区に買った巨大な空き地に来た僕です。


時刻は13時頃…既にいる筈のチアラさんが見当たらず辺りをキョロキョロ見渡すと、陥没した土地を隠す為にメルクリアさんが張った幻惑の結界から顔だけが出てきた。



「お、来たっすか?」


「チアラさんもこんにちは。もう作業してたんですか?」


「うっす!ちょっと地盤が問題ないかどうか調べてたっす!」



チアラさんに手招きされて幻惑の結界に入れば陥没した土地が露わになり、地面には等間隔に並べられた鉄の棒が何本も突き刺さっていた。



「この広さを一人でやってたんですか?」


「違うっすよ!エルルさんが一発でズドンっす!」


「魔力操作の修行がてらね!」



そう言ってエルルさんが杖を翳すと空中に10mは超えるであろう長さの鉄棒が無数に浮かび、一斉に地面に向かって放たれ地中深く突き刺さる。



「こんなもんでいい?」


「うっす!ちょっと調査しながらっすけど打ち合わせするっすか!」



簡易的に設置された階段を降りて僕は両手に図面を広げ、エルルさんは両手に杖、チアラさんは片手に鉄棒を持って歩きながらエルルさんが打ち込んだ鉄棒を殴って鈍い音を響かせる。



「結局どんな家にするんっすか?」


「えっとですね、まず本館となる建物を中央に置いて本館後ろ辺りのこの辺りを温度や光量を調節出来る薬草畑。その右側のこの辺にしっかりとした鍛冶場と試し振りの小さな訓練場。入り口付近には昇降収納が出来る格納庫とある程度の大きさの動物や魔獣を休ませられる厩舎。外壁をぐるりと敷設して目隠しの木を外壁部分と土地の空白部分に植えてこの辺に花が咲いた泉とか作りたいですね」


「ほぉー…なるほどっす。でも、流石に木は私の『構築分解(リビルド)』じゃどうにもなんないっすね…」


「あ、苗木とか種さえあれば私が魔法で育てられるよ?」


「え、そんな魔法あるんですか?」


「あるある。エルフなら大抵扱える系統外の木属性が使えるからね!」



あらかた魔法は使えるつもりだけど、やっぱりエルルさんとメルクリアさんに比べたら全然だなぁ…。



「んじゃあ、そこはそっちでお願いするっす。…っと、この辺緩いみたいなんで固めてもらっていいっすか?」



チアラさんが殴る鉄棒は根元がしっかりと支えられていないのかさっきまで聞こえていた音よりも少し響きが弱く、二度三度と殴ると徐々に傾いてしまう。



「りょーかい!ズドン行くからちょっと離れててね!」



そう言うとエルルさんは杖を掲げて極太の鉄柱を空に浮かべ、勢いよく振り下ろして宣言通りズドン!!という音と共に地震を起こし僕の足を地面から浮かす。



「流石ユニコードっすねぇ…本当は木を組んで石とか落として固めるんっすけど魔法一発っすか」



違う音を出してた鉄棒を叩けば他の鉄棒と同じ音色に変わり、凹んでしまった部分に土を持って均す。


その後も音色の違う部分は徹底的に圧縮して均していく事───2時間。



「まーじ楽っすねぇ。もう殆ど終わったっすよ」



陥没していた土地は道と同じ高さにまで戻り、平で何もない頑丈な土地が出来上がった。



「後はこの図面通り目印立てて私の『構築分解(リビルド)』で基礎作り、基礎が完成したら細々した細工をして完成させてくっす。手伝ってもらっていいっすか?」


「分かりました」


「はーい!」



鉄棒を利用して糸を張り終えるとチアラさんは腰袋型空間収納に左手を入れ、光る右手から基礎となる頑丈そうな土台を作っていく。



「私の魔法なんかより全然凄いと思うんだけどなー…」


「隣の芝生は青く見えるってやつですね」



パズルの様に徐々に敷かれていく土台を眺める僕とエルルさん。



「…っし、今度は壁の目印っす。このインクが付いた糸で目印付けるんで端持っててもらっていいっすか?それとあの木材ももらっていいっすか?」


「分かりました」



真っ新な土台に上がりチアラさんの腰袋型収納袋にありったけの黒樹の大森林産木材を詰め込み、指示通り部屋の間取りを糸で目印を付けて一階部分の壁を作っていく。



「んー、こんなもんっすかね?」


「本当に凄いですね『構築分解(リビルド)』…こうもイメージ通りに作れるなんて…」


神の贈り物(ギフト)様様っす。次は床っすねー」



そう言って部屋ごとに木材だったり石材だったりと素材を変えて床を張っていくチアラさん。



「流石に土足禁止には出来ないし汚れ防止の魔法陣は必須だねー」


「そうですね。この規模だと魔法陣もたくさん用意しないといけないですし…自分で描けなかったらどれだけお金が吹っ飛んでたか…」


「だねー…」



高度な技術故に施工費が高い魔法陣を学んでてよかったと心底思いながらチアラさんの作業を見ていると、一階部分の全壁、全床の施工がたった10分程で完成してしまう。



「うっし、これで一階部分終了っす。こっから階段作って二階、三階、屋根、最後に地下を作ってくっすよー」



それからチアラさんは建築、僕とエルルさんは魔法陣の描き込みを並行して行き───



………


……




「───これで本館は完成っすね!」



約3時間…豪邸としか言い様の無い三階+地下の四階建ての本館が完成した。



「部屋数約80、巨大食堂に見た事ない巨大キッチン、巨大な浴場に豪華なホール…高級宿より凄くない?」



出来上がった本館を見ながらエルルさんが呟く。


今回建てた本館は中央館、西館、東館の三館構成になっていて、中央館は三階から来賓を招くホール、娯楽室、エントランスと巨大厨房があり、西館は僕を含めた本館で寝食と労働をする者達の居住区、東館は来賓の居室と従者の居室になっていて、どの館にも上下階の移動は階段と魔導昇降機…魔法を利用したエレベーターが10機程設置されている。


特に拘ったのは厨房と浴場で、厨房は現代日本のレストランを参考にした錆び、傷、汚れに強い金属と石、魔獣の素材を使った清潔感溢れ大人数で調理出来るキッチンになっていて、浴場は現代日本の健康ランドに負けないぐらいの豊富な種類に加えて和風と洋風を選べる様にしてある。


エルルさんにも協力してもらい本館全ての部屋に魔法陣と魔石を利用した冷風と温風を出せるなんちゃってエアコンや生活を便利にする魔法陣をてんこ盛りにしてあるのだ。


そして地下は倉庫という事になっているが、ココロの居住区兼研究室に使う予定だ。



「いつか宿屋経営してもいいかも知れないですね?」


「一泊金貨10枚でも足り無さそう…」


「まー、宿屋として利用するかは任せるっすけど、次の薬草畑に取り掛かっていいっすか?」


「あ、お願いします」



完全に仕事モードに入ってるチアラさんに連れられ向かうのは西館の後ろ。


薬草畑はとても簡単で、イメージとしてはビニールハウスだ。


ただ、ビニールなんて素材は無いから代用としてガラスの温室にし、太陽光を取り入れつつ雨風が強い時はガラスが割れない様にシャッターを取り付けるだけだ。


だから建築自体はすぐに終わるのだが…



「うーん…」


「…?どうしたんですか?」



エルルさんがガラスの温室に対して悩まし気な声を漏らした。



「いやー…このガラスの温室自体はめっちゃいいんだけど、薬草の中には常に風に当たってないと育たないものとか火に炙られてないとダメなもの、朝昼夜で最適な温度が変わって来る薬草とか色々あってさぁ…シオン君の構想的にはここで何でも安定して育てられる様にしたいんでしょ?だったらこのシオン君が作った環境耐性の魔法陣だけじゃ足りないと思うんだよね」



火に炙られてないと育たない薬草ってなんだよ…そんなの流石に想定してないって。



「んー…流石に全適応は無理なので特殊な薬草はそれ専用のガラスケースで育てたりとかの対応が必要そうですね」


「そうなっちゃうかー…余計な茶々入れてごめんね?」


「いえ、僕自身最適な土と最適な温度、最適な光だけあれば殆ど育てられると思っていたのでそういう特殊なのもあると知れてよかったです」


「まぁ、暇があればその都度手直しするっすよ」


「ありがとうございます」



薬草畑も作り終え、今度は少し離れた場所に鍛冶場を作っていく。


鍛冶場はリオさんの自宅にある作業場を意識し、大型の武器でも打てる様に大中小の炉を作ってもらい熱気を効率よく開放する為に壁の一面を全開放出来る様にしてもらっている。



「鍛冶って音とか熱の所為で近所に配慮しないと苦情が来るんですけど、これだけ広い敷地なら近所に配慮しなくていいから楽ですね」


「普通の一軒家に鍛冶場を作るのが普通じゃないんっすけどねぇ」



そして最後の建築、魔獣用の快適な厩舎と来賓が乗って来た馬車の格納庫に手を付ける。


まず厩舎は大型魔獣でも寝れる大きさで作り、環境耐性と消臭、汚れ耐性で快適な温度と空間を保ちつつ、更には専用の調理場も用意して快適に過ごせる様にしてある。


馬だけであれば50頭は優に収容出来るし、緊急時には避難所としても利用出来るのがポイントだ。


昇降式の格納庫に関しては馬車の規格が殆ど統一されているおかげで縦横三台ずつ並べても余裕を持って格納出来る地下空間を作り、雨が降っても浸水しない様に細工して中でもくつろげる様なこじんまりとした休憩所を作るだけで終わった。



「これで完成っすけど…ほんっと魔法陣って凄いっすねぇ。本当なら下に浸水しない様に色々しないといけないのに魔法陣一個で完結…私も魔法陣学学ぶべきっすかね?」


「もし学ぶなら僕が教えますよ?」


「私も暇な時なら教えれるよん!」


「マジっすか。なら教えてもらいたいっす…って言いたいっすけど、まずは模型作りと魔道列車作りを終わらせないとっすね」


「そうですね、それさえ終わればお互い長い時間を作れると思うのでその時にしましょうか。建築に役立ちそうな魔法陣を作ってみますよ」


「んじゃあ私は役に立ちそうな既存の魔法陣を集めておこっかなー」


「あざっす!」



時刻は19時…施工を始めてから約6時間、僕の新しい家が完成した。



「チアラさん、エルルさん、今日は本当にありがとうございました。時間も時間ですし今日はこの家に泊まっていきます?ご飯も用意しますけど」


「んー…エルルさん疲れたっすか?」


「んや?」


「じゃあ今から模型作りしてもいいっすか?なんか今なら効率よく作れそうっすわ」


「いいよー!」


「じゃあまた今度ですかね?」


「っす。今回の支払いはある時払いの催促無しっすから余裕ある時でいいっすよ」


「ありがとうございます。…まぁ、全額払う算段はついてるのでそう待たせる事は無いかと」


「早いに越したことはないっすけど…聖金貨1枚と白金貨10枚っすよ?」


「近い内にここを使って色んな人を呼ぶ予定なのでその時に教えますよ」


「ふむ…じゃあ、その時になるまで楽しみにしとくっすよ」


「はい、楽しみにしててください」


「んじゃ、シオン君またねー!」



そう言うとエルルさんは杖の後ろにチアラさんを乗せて空を飛びすぐに姿が見えなくなる。



「…白雪、新しい家を作ってみたけどどう?」


「完璧かと」



人の姿になって親指を立てる白雪…どこで覚えたんだ。



「そっか。…ただ、魔法陣を施してると言ってもある程度掃除はしないといけないし、僕達二人で掃除したり管理するとなると結構大変だよ?」


「そこは私に考えがあります」


「考え?」


「黒樹の大森林にいる私の家族を連れて来ようかと」


「え…みんな連れてくるの?流石にみんなを満腹にさせる程の食料は王都には無いと思うんだけど…」



だって討伐難易度S-のタイラントサーペントが100体以上だよ?白雪一人でも大分食費凄いのに…。



「縮小化が出来て魔人化も出来そうなのを何体か選びここの管理と新しくマスターがテイムした魔獣の教育をしてもらうつもりです」


「教育?」


「はい、人に紛れても違和感がない様に人としての常識の勉強を」



なんか知らない内に白雪が頼もしくなってるんだけど…一体何処で学んでるんだ?


でもまぁ、白雪が自分で考えた事なら信じてあげるか。



「分かった、その辺は白雪に任せていい?」


「分かりました、任せてください」



今度は無表情で両の親指を立てる白雪…意外とユーモアがあるのかな?



「ただ、マスターに用意してもらいたいものがあります」


「うん?何?」


「魔人化させる為の人の死体を何体か用意して欲しいです」



そういえば白雪もケルベロスを動かしてたドルチェの死体を食って人になってたなぁ。



「もちろん魂が黒く死んでもどうでもいい奴で構いません。出来るだけマスターが気に入る見た目の死体を男と女どっちも用意してくれると助かります」


「…なんか言葉だけ聞いてると凄い猟奇的だなぁ」



と言っても【空間収納】に入れてた死体はリテュアリス神聖国を出る前に全て燃やしちゃったし…用意するしか無いか。



「10:10で用意しとけばいい?」


「それだけあれば当分問題ないかと」


「分かった、用意するよ」


「ありがとうございます、マスター」



人の姿から白蛇の姿に戻った白雪が僕の髪を纏め、



「とりあえずこれで魔導義肢を発表する会場が出来た。後やる事は…」



自分がやるべき事を指折り数えながら帰路に着く。









Side.カムラ



「───クソっ!!また行き止まりかよ!!」



シフトの咆哮が響く『嵐の谷』21層…私は呆れを通り越して後悔していた。


ダンジョンアタックを仕掛けて三日目…本当であれば既に29層まで辿り着いている筈が斥候を担っているノーチのマッピング能力が思ったよりも低く、1層から10層までを一日、11層から20層まで二日掛け、余計な消耗の所為で20層の階層主であるジャイアントエイプで更に消耗しながらも討伐し…今に至る。



「どうしたんだノーチ!?何でこんな凡ミスばかりするんだ!!」


「すっ…すまん…」



そしてこの責任の押し付け合いも肉体ではなく精神の消耗の原因…日の光も届かない閉鎖的な空間では肉体の疲労はもちろんだが、精神の消耗は肉体が万全であっても動きに多大なる影響を与えるし、パーティーの連携にも齟齬が生まれてしまう。


だからお互い足りない部分を補い助け合いながら進むのが鉄則なのだが…



「はぁっ…はぁっ…」



重鎧と大盾でモンスターの攻撃を一身で受け続け続けるカーティスは予定外の道迷いの所為で肉体的疲労が目に見えて現れ、



「ほんっと使えないグズ…どれだけ私達を歩かせるつもりよ!?もう回復魔法掛けないわよ!?」



ずっと身形ばかり気にして髪を弄り続けるレトアは自分の心情を保つ為にシフトと一緒にノーチを責めている。


かくゆう私も───



「……」



そんな四人を咎めるも宥めるもせず、自分だけは生き残る為に自分で用意した食料とポーションで体力の回復に努めている。



「本当に済まない…明日こそ30層まで案内して見せる…」


「…はぁっ…カーティスの体力も限界に近い。もう少し進んだら『休憩地点(レストポイント)』があるはずだ。そこまでの案内なら出来るだろ?」


「あ、ああ、任せてくれ」


「散々迷っといて任せてくれってよく言えるわね?あんたの所為でこうなってるって事、自覚してんの?」


「っ…」


「レトア、それは休憩地点(レストポイント)に着いてからやってくれ。カムラ」


「…何だ?」


「まだ体力があるんだろ?先頭を歩いてノーチのサポートをしてくれ」



…は?こいつは何を言っているんだ?自衛程度に刀を扱えるが、私は後衛の魔法師だぞ?



「…私は魔法師だ。先頭を歩くなら前衛のシフトが最適だろう」


「リーダーの指示が理解出来なかったのか?俺が前に行けと言ったら前に行け」



こいつ…判断が最悪過ぎる。



「だったらレトア、ジャイアントエイプでは温存していたしお前も体力を余らせてるだろ。私と交代で前を───」


「は?私はあんたみたいに刀も使えない純ヒーラーなんだけど?あり得ないでしょ」


「刀は使えなくても攻撃魔法はいくらでも使えるだろ。温存した分働け」


「いや、馬鹿なの?純ヒーラーを前に出すとか…獣の頭じゃ正常な判断出来ないの?」


「…何だと?男に媚を売り続けるしか能がない女よりは正常な判断をしているつもりだが?」


「…何ですって?」


「二人共やめろ。俺はカムラ一人で前に行けと指示したんだ。レトアは純ヒーラー、俺が守らないといけないからさっさと進め。言い合ってる時間が無駄だ」



恋仲のレトアを腕に絡ませ私に指示してくるシフト。


これが忠告を無視したツケ…か。


だったらあの黒猫の情報屋が言っていたサポーターの件も本当の事なんだろう。



「…確かに時間の無駄だな」


「分かったのならさっさと───」


「この先の休憩地点(レストポイント)までは私が先導する…が、私はこのダンジョンアタックを終えた後、『天の剣(ソル・クラス)』を抜ける」


「……は?『天の剣(ソル・クラス)』を抜けるだと…?」


「ああ。シフト、お前が言った通りこれ以上『天の剣(ソル・クラス)』に足を引っ張り続けられたら私の時間が無駄になる」


「何だと…!?」


「それにお前達、噂に聞いたが私を入れる代わりにずっとお前達を献身的に支えてくれていたとあるサポーターに酷い仕打ちをして切り捨てた様だな?」



そう問えば全員がピクリと反応する。


この反応…はぁ、私は本当に馬鹿で世間知らずだった。



「…根拠の無い噂を信じるのか?」


「こんな体たらくではその噂もあながち間違いでは無いと実感している。ダンジョンアタックは心身共に疲弊する…なのに碌な食糧も無く、料理の技術も無く、マッピングの技術も無く、色恋にかまけて鍛錬も怠り判断も誤る…大方、そのサポーターに炊事もマッピングも、雑事の一切を押し付けていたんじゃないのか?」



もし今の発言が事実無根であれば否定してくるが、心当たりがあるのか誰も口を開かない。



「…無責任なお前達と違ってお前達の野営道具を【空間収納】に預かっているからここで放り出すなんて無責任な事はしないが、このダンジョンから出たら正式に抜けさせてもらう」



そうして空気の重い四人を連れ、遭遇するモンスターを私一人で屠りながら進む事───1時間。



「……休憩地点(レストポイント)だが…どういう事だ…?」



後数十m進み角を曲がるだけでモンスターが生まれない休憩地点(レストポイント)に辿り着けるが、獣人の鼻と聴覚が異変を伝えてくる。



「…何───」



疲労からか不用心に声を掛けてくるシフトを手で制して五感に意識を集中させる。


すると耳に伝わってくるのは男女のくごもった話し声と僅かに漂って来る食欲を掻き立てて来る肉の匂いを感じる。


ただ…それはおかしい。


私達が『嵐の谷』に入る前、入場の管理しているギルド職員からは挑戦している者はいないと聞いていた。


なのに休憩地点(レストポイント)に先客が居るという状況がおかしい。


私達の後から入場し、迷っている間に抜かした可能性もあるにはあるが…ダンジョンでは何が起こるかは分からない。


既に『天の剣(ソル・クラス)』と共にダンジョンアタックをして選択を間違えている…それに情報屋はダンジョンの中で壊滅するとも言っていた。


ここは慎重過ぎる程に慎重に動いた方が良いだろう。



「…休憩地点(レストポイント)に先客が居る」


「何だと…?」


「一応言っておくが、私達がダンジョンに入る前に先行していたパーティーは居ない。相手はまだこちらに気付いていないが───」


「なら俺達の後から入って抜かしていった手練れが居るって事だろ。そいつらと接触し、後をつけて正確なルートと30層までの露払い、泣き落としで食料を譲ってもらおう」



…はっ!?こいつ、今なんて───



「ノーチ、カーティス、先行して接触しろ」


「わ、分かった」


「ああ…」


「…!待てシフ───」


「カムラ、リーダーは俺だ。それに終わったら『天の剣(ソル・クラス)』を抜けるんだろ?だったら早く地上に帰りたいんじゃないか?」


「っ…!それでも『後追い(ストーキング)』は冒険者として恥ずべき行為だ…!」


「自分の命とプライド、どっちが大切だ?プライドを守って死ぬのが高尚か?」


「何だと…!?」


「お前はそうかも知れないが、俺達は意地汚くても自分の命が大切なんだ。同意出来ないなら今すぐここから地上を目指して帰ればいい。…まぁ、その疲労で無事に地上に戻れるかは分からないがな」


「くっ…!」



 休憩地点(レストポイント)があるからとここまで来るのに少なくないモンスターを屠った所為で魔力は二割程度…肉体にも疲労の色が出始めてまともに刀を振れるのは精々数分…そんな状態でただ一人別行動をすれば確実にダンジョンに殺される。



「…よし、いくぞ」


「…はっ」



何も言い返せない私を鼻で笑って先に行くシフトとレトア。


………結局私もこいつらと同じ穴という事…か。



「…別に同じ休憩地点(レストポイント)を使う事は構わない。けど、こっちはこっちのペースで攻略を進めてるの。だから食料を分ける事は出来ないし、過度に干渉しないで」


「ちょ…ダンジョンの中では助け合いだろ…?」


「助け合い?さっきからあなたの発言からは自分の不準備を棚に上げて情に訴えかけて恵んでもらおうとしてるのが透けて見えるんだけど?」



そうして休憩地点(レストポイント)に着けばノーチと高圧的な紫髪の女が口論していて、その後ろには少し気の弱そうな桃髪の女が食欲を掻き立てる匂いを放つ鍋を掻き混ぜながら心配そうに見つめている光景があった。



「…冒険者は助け合うものだろ…?」


「助け合うといいながらあなた達は自分の要求だけでこちらを助けるつもりが無いじゃない。それに“冒険者同士が出会ったら見て見ぬふりをしろ”とも言うわよね」



その後もこちらの助け合いと言う名の身勝手な要求は続くが、不意に口論中の紫髪の女が私に視線を向けたと思ったら目を見開きすぐに視線をノーチに戻す。



(…?今の視線は…?)



そう考えた時、何故こちらに視線を向けたのか理解する。



「あなたはあっちの四人とは違うね?」


「…!?」



身軽な装備をした斥候らしき緑髪の女が全く存在を悟らせず私の左後ろにピッタリと立っていた。



「何て言うか…波長が違う?毛色が違う?もしかして人数合わせ(スポッター)?」



緑髪の女の立ち位置は右利きで左腰に刀を下ろしている私にとって完全に刀の死角になる立ち位置…相当出来る人物であり、こうして話しかけて来たという事は敵意は無い…か…?



「…そんな所だ。このダンジョンアタックを終えた後、私はこのパーティーを抜けるつもりだ」


「ふーん…じゃあ、さっきあそこの二人と言い争ってたのは演技じゃ無いって事か」



言い争ってたのは演技じゃない…?もしかして、



「…私が先客が居る事に気付いた時には既に監視されていたのか?」


「まぁ、警戒は私の仕事だし?」


「ここは一本道のはずだ…何処から見ていたんだ?」


「天井に張り付いてだけど?」



その言葉で無意識に視線を上に向けるが、視界の先に見えるのは突起も少なくつるりと傷一つ無い高い天井だけ。


あの高さの取っ掛かりも無い天井に張り付いていた…?強靭な爪を持つ獣人なら分かるが、ただの人間が…?



「だからあなた達が私達の後追い(ストーキング)をしようとしてるのも知ってるし、自分達の食料を減らさない為に私達の食料を狙ってるのも知ってるんだよね」


「…なら何故無意味な口論を続ける?」


「私とあなたが喋る為の時間稼ぎだよ。さっきあなただけは後追い(ストーキング)に反対していたから何か変だなーと思って、真意を探ってみようかなーってね?」


「なるほどな…」


「まっ、あなただけあの四人と違うって言っても同じパーティーに入ってる間は何も支援してあげられないけど…頑張ってね」



そう言うと後ろにいた緑髪の女の気配がふっと消え、気付いた時には遠く離れた紫髪の女に耳打ちしていた。



「───なら最大限の譲歩として一食金貨10枚、五人で金貨50枚出すなら売ってあげてもいいけど?」


「はぁ!?そんなの無理に決まってるだろ!!」


「じゃあ、交渉決裂と言う事で。これ以上こっちに干渉しないで」



そして紫髪の女が力強く地面を踏みしめると拒絶を示す様に分厚い石の壁が休憩地点(レストポイント)を二分する。



「くそっ…!足元見やがって…!」


「……まぁ、いい。とりあえず休んでいつでも出れる様にしよう。カムラ、野営道具を出してくれ」


「ああ。…?」



使い古されたボロボロの野営道具を出そうとした時、左手に何かが握られている事に気付いた私は、



「…?どうした?」


「いや、何でもない」



野営道具を取り出すフリをしてあの緑髪の女が分けてくれた美味しいと評判のアトワールの新作保存食を仕舞った…。

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