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新しい師匠

本日の投稿はここまでです。

「…落ち着いた?」


「はい、すみません……もう大丈夫です」



 どうも殺しの使命を明かしても尚受け入れてくれた嬉しさでボロ泣きしてしまった僕です。


 僕が泣き止むまで何も言わずハンカチを貸してくれたエルルさんに笑みを向け、掌に浮かべた水球でハンカチを洗って返した僕は一息吸って気持ちを落ち着ける。



「…少し話が逸れましたね。エルルさんにも明かした以上、ある程度は答えられると思いますけど…」



 そう言うとずっと黙っていたメルクリアさんは口につけていたお茶をテーブルに置き、ようやく本題に入れるとばかりに溜息を一つ吐いて口を開く。



「そうね…シルヴィから会談の内容を聞いたのだけれど、今回リテュアリス神聖国で人神至上主義派閥を皆殺しにしたというCランク冒険者のユーリという人物…あなたと同じ【魂視】の権能、神の贈り物(ギフト)を持っていたそうね?」


「らしいですね。アルメリア・パラディア・ティクセントという聖騎士がそう言ってました」


「それで【魂視】の共通点からシオンが何かしたんじゃないのかと疑い、今回の謝罪に繋がった…で、いいわよね?」


「…そうですね。大師匠も疑ってますか?」


「…別にシオンが大量虐殺をやってたとしてもそれは神の使命を全うしただけだし、どうでもいいわ」



 本当に理解のある人…いや、身内以外はどうでもいいと切り捨てる合理的で冷たい人…でもそれが今は本当に有難い。



「私が聞きたいのはシオン以外に死の女神の眷属が居るかどうかよ」


「僕以外にですか…?」


「ええ、【魂視】なんて“選別”に長けた権能を持つ者が他にも居るのか、同じ使命を受けた者が居るのか…はたまた【魂視】の権能、もしくは神の贈り物(ギフト)を持つ者は死の女神の眷属なのか、それ以外の神の眷属なのか、眷属以外にも授かりえるのかが知りたいわ」



 僕以外の眷属…僕以外に居たら嫌だなと思うのが素直な感想で、居るか居ないかを考えるのなら───



「…直接聞いた訳じゃないので確実ではないですが…多分、死の女神の眷属は僕以外に居ないと思います」


「そう言える根拠は?」


「……死の女神が慈愛に満ちているから…ですかね?」



 そう伝えるとメルクリアさんの眉がピクリと動く。



「慈愛に満ちてる…?」


「ええ。さっきも言った通り、僕にこんな使命を背負わせたくないとずっと反対してくれていたんです。…どちらかと言うと、生の女神ルミナの方が最初に提案して交渉までしてきたんですよ?」


「…名前から受けるイメージとまるっきり真逆ね」


「そうですね…でも、ルミナも一切信仰が得られないヘイルを心配している様な感じでしたから残虐という訳では無いと思います」


「ふむ…」


「なので別の神から同じ様な使命を課せられた眷属は居るかも知れないですけど、死の女神の眷属は今の所は僕以外居たりしないと思います。【魂視】の様な“選別”に長けた権能や神の贈り物(ギフト)に関しては死の女神以外の神の眷属にもあるかも知れないですし、生まれや境遇によって神の贈り物(ギフト)として授かってる者もいると思います」



 持論を述べればメルクリアさんは相槌も打たずにこめかみに指を添えて深く考え込み…



「………今の話しぶりだと、あなたが受けた死の女神と生の女神の使命は神全体の総意では無いという事なのかしら?」



 不穏な言葉を呟いた。



「え…?師匠、それって…」



 エルルさんが怯える様に、慎重に問えばメルクリアさんは考えた最悪を口にする。



「さっきシオンが言っていた“僕がその使命を受けなければ使徒が善悪区別なく世界を蹂躙して世界を保ち、それが成されないのであれば世界そのものを崩壊させる”という言葉と、シオンが語る神の話は常に神全体ではなく死の女神ヘイル、生の女神ルミナの視点でしか話されていない事に引っかかっているの。シオンが二柱を特別贔屓していたとしてもここまで別の神の話をしないとなると…二柱以外の神は使徒による善悪関係なしの蹂躙、世界の崩壊、終わりを望んでいて、二柱の使命に従って正確な“選別”による少ないダメージと犠牲で世界を存続させようとするシオンや二柱は他の神にとって邪魔者じゃないのかしら」



 余りに飛躍した考えにそんな事…と否定したくなるが、



「…もし、死の女神ヘイル、生の女神ルミナ以外の眷属がこの世界に顕現した時、僕と対立する…と言う事ですか?」


「もしくは眷属ではなく、強硬手段として善悪区別なく蹂躙する使徒が対立するかもしれないわね。神の考えは分からないけれど……もし、私が神なら二柱の間引きや選定による時間を掛けた改善と維持をするより、一度全てを無にして今回の成功と失敗を糧に一から作る方が明らかに時間も掛からないし簡単で、今よりもいい世界を作り上げるわ」



 メルクリアさんの無慈悲で効率的で現実的な考えに納得せざる負えなかった。



「まっ…待ってくださいよ師匠…神がそんな事───」


「神とは本来傍観者。その傍観者が特定の個人に肩入れする方が異常なのよ。簡単に例えるなら……エルル、チェスの最弱の駒、ポーンに感情移入をした事はあるかしら?」


「…いえ」


「それと同じよ。世界は盤、人はポーン。そのポーンが明らかに突出した能力…神の贈り物(ギフト)を持つ者をナイトやルーク、ビショップ、クイーン、キングに据え、盤上に生まれた駒をプレイヤーの神が気まぐれに盤面を進める。…二柱がしようとしているのはたった一つのポーンに神の贈り物(ギフト)や権能を与えて盤上のルールに則って汚れた、罅割れた、欠けてしまった全ての駒を刈り取り、時間を掛けて新たに生まれた、育てられた綺麗な駒で盤面を揃え直す事で、他の神はそんな面倒な事をせずに盤上のルールなんて無視して盤面を腕で薙ぎ払って全く新しい駒を並べ直し、それが達せられなければ盤をひっくり返してを新しいものに変える事よ。感情も魂も無い、倫理観なんて適用されないただの無機物の駒として考えた時、エルルならボロボロの戦況をもう一度やり直すとしたらどうするのかしら?」



 エルルさんも盤をひっくり返すのか口を閉じてしまう。


 …もし、同じ質問をされれば僕もエルルさんと同じく盤をひっくり返すだろう。



「…シオン、覚悟しておいた方がいいわよ?」


「そうですね…あり得ないと言えない以上、他の眷属や使徒に狙われる可能性がありますしね…」



 新たな敵の示唆に腹の中が重くなる様な不快感を覚えていると、メルクリアさんが場の雰囲気を変える為かわざとらしくカップソーサーをカチャリと鳴らす。



「さて…話が横道に逸れてしまったけれど、一番考えたい事はリオンとシエラが施した『魔界の門の招来(カオスゲート)』の情報と痕跡がリテュアリス神聖国に残ってるかどうかよ」



 ……僕がきっちり情報も痕跡も消し去ったけど、ユーリは僕じゃないと否定した手前そうは言えないよなぁ…。



「だからリテュアリス神聖国に赴いて情報や痕跡が無いか調べたいのだけれど…どうしたものかしらね」



 このままじゃメルクリアさんに無駄足を使わせる事になる…何か───【直感】さん?



「…そうだ、リオンとシエラに潜入してもらうのはどうでしょう?」


「リオンとシエラ…?」


「はい、彼女達なら『魔界の門の招来(カオスゲート)』を施そうとした本人ですし、リテュアリス神聖国の土地勘もあればアルナの手先として動いてた分、隠し施設をある程度知ってるんじゃないでしょうか?」


「ふむ…」



 僕の提案でこめかみに指を添えて深く考え込むメルクリアさん。



「………そうね、それでいきましょうか。ワイズ」


「ピィ!」



 そう呼びかければメルクリアさんの執務机の上で透明になっていたワイズが元気よく返事をし、スラスラと書かれた手紙を胸元の袋に入れて部屋から飛び立った。



「さて、私の方の用事は済んだのだけれど…何で新しい家なんて建てる事になったのかしら?」


「別にそこまで大した理由は無いんですけど…あの家は過ごしやすいですけど誰かを招くにはちょっと狭いなっていうのと、今後薬品関係の素材を自給自足する畑とかも欲しいですし、テイムした魔獣が増えたら手狭になって来ちゃうなと思って」


「…畑は分かるのだけれど、テイムする魔獣を増やすつもりなのかしら?」


「はい。今回は縁が無かったですけどやり取りを任せる鳥型の魔獣だったり何だったり…まぁ、縁に恵まれればって感じですね」


「そう…あまり派手な事にならない様にしてちょうだい」


「分かりました」



 ようやく話し合いが終わり、席を立った僕は、



「……こんな僕を人間にしてくれて、こんな僕を受け入れて肯定してくれてありがとうございます、師匠、大師匠」



 心の底からの笑みを浮かべた…。





 ■





「───なるほどねぇ」



 エルルさんとメルクリアさんとの話し合いの後、自宅に帰って来た僕はデバイスでもう一人の僕が残した音声メッセージを聞いていた。


 内容は『天の剣(ソル・クラス)』のメンバーであるリーダーのシフト、カーティス、ノーチ、レトアの4名は魂が黒、カムラは白寄りの灰色である事、そのカムラと接触して忠告した事、『天の剣(ソル・クラス)』が近い内にダンジョンアタックを仕掛けるという事がダウナー系のお姉さん声で録音されていた。



「近い内ってなると『渡り鳥(ウルグス)』と鉢合わせる可能性があるのか…まぁ、みんな強くなったから問題ないだろうし、ユアが居ない『天の剣(ソル・クラス)』はどこまで潜れるのかお手並み拝見だね」


「マスター、お茶を」


「ん、ありがとね白雪」



 デバイスを閉じ、白雪が淹れてくれたお茶を飲みながら新居の図面とデザインを書き起こしていると作業部屋をノックする音が聞こえる。



「はい?」


「あの、ユアです…」


「ん、入っていいよ」



 お風呂上りなのか少し髪を湿らせたユアが部屋に入って来る。



「どうしたの?なんか魔導義肢に不具合があった?」


「いえ、そういう訳じゃ…魔導義肢は問題なく動いてます」


「そっか、ならどうしたの?」


「その…なんか僕にも出来る仕事とか手伝いとか無いですか…?」



 今まで奴隷の様に扱き使われてた弊害か、そもそもユアの性格的に何もしていない事に落ち着かないのかは分からないが、現状この家でユアが出来る事は魔導義肢のレポートぐらいしかない。



「んー…悪いけど、今の所は魔導義肢の動作耐久テストぐらいしか無いかなー」


「そうですか…美味しいご飯も食べれて、ふかふかのベッドでも寝れて…お風呂まで入れてるのに何もしてないのは申し訳なくて…」


「もう一度言うけどその左腕の完成品が国王陛下に献上されるんだから何もしてない訳じゃないよ。それでも暇だって言うなら…今後の事とか考えた方がいいんじゃない?」


「今後の事…?」


「そう。今回の動作耐久テストが終わればユアは僕からの報酬で金貨200枚と家族の王都移住、お母さんと弟君の石化解除に弟君の学園入学が手に入る訳だ。でもさ、金貨200枚だけで一生遊んで暮らせる訳じゃない。国王陛下からの褒美で一生遊んで暮らせる金銭を貰う事も出来るだろうけど…もしそうじゃなければどうやって稼いでいくかを考えなくちゃいけないでしょ?」


「それは…はい…」


「サポーターを続けるか、サポーターじゃなく冒険者としてやっていくか、はたまた全く別の安定した職に就くか…あ、12歳なら学園に入学するのもいいんじゃない?」


「私が学園に…?」


「うんうん、色々考えれば選択肢も出て来るし、今の暇な時間を使って努力しとくのが一番いいんじゃないかな~」



 そう言うとユアは少しだけ俯き…しばらくして口を開く。



「…『何でも屋 猫の手』で働く事は出来ないですか…?」


「え…」



 まさかの提案に素で声を漏らしてしまう僕。


 ぶっちゃけ裏切りを懸念しなくちゃいけない“人間の従業員”は取るつもりないんだよなぁ…。



「んー…まだ正式に稼働してる訳じゃないし、今の所は取るつもりないんだよねぇ」


「そうなんですか…」


「それにさ、折角自由になったんだからもう少し時間を掛けて色々考えた方が良いよ?今はユアの望みを全て叶えてるから僕が特別に見えてるかも知れないけど、周りを見たら案外そうでもなかったり何でも屋以外にもやりたい事見つけられるかもよ?」



 ユアの心情的にはどん底に居た自分を掬い上げ、自分じゃ出来ない事を何でもしてしまう僕を特別視してしまうのは仕方のない事。


 それが行き過ぎれば妄信から狂信に変わり、僕の言う事を何でも聞いてしまう盲目的で主体性の無い人間になってしまう。


 そうなってしまえば『天の剣(ソル・クラス)』に居た時と何も変わらない。


 だから一時の感情に振り回されず落ち着いて色んな物を見て学び、蓄積させた経験から生まれる数多の選択肢の中から『何でも屋 猫の手』で働くという選択肢を選ぶのであれば…その時は従業員として雇ってもいいかなぁ。


 …まっ、わざわざそんな事を言って選択肢を狭める様な事はしないけどね。



「とりあえず今は…よく食べてよく寝て、その痩せた心身を年相応に戻して体力付ける所からじゃない?何かを頼むにしても今の状態じゃ掃除や荷物持ちすら任せられないしね」


「…わかりました」



 力無く笑みを浮かべるユア…落ち込んでいる様にも見える表情だが、この部屋に入って来た時の追い詰めた様な影がある表情ではなく、何処か安心した様な表情に見える。


 …何と言うか、エルルさん達と話した後だからこうやって気遣ったりするのは自分が変わった気がしてむず痒いな。



「本当に助けてくれてありがとうございます」


「ん、こちらこそ実験に付き合ってくれてありがとね」



 そう伝えればユアは一度頭を下げて部屋を出ていき、また白雪と二人きりになる。



「…マスター、少し変わりました?」


「え?そう?」


「はい、優しくなった気がします」



 白雪にまでそう言われるのか…だったら変わったんだろうなぁ。



「前までの僕と今の僕、白雪的にはどっちがいい?」


「どちらもマスターなのでは?」



 全肯定ですか、そうですか。



「ならいいか。それより白雪、新しい家に何か欲しい部屋とか機能はある?」


「欲しい部屋…機能…」



 僕が書いている図面とそっくりな家の模型を水魔法で作り出し、白雪の希望に沿う様に模型の形を変えてあーでもない、こういうのがいいんじゃない?と新しい家の構想を練っていると───



「…ん、この世界だとやっぱり聞き馴染みないなぁ」



 デバイスからピピピという軽い電子音が鳴った。



「ん、ココロどうしたの?」


『シオンか。…その隣に居るのは動画で見せてくれた白蛇の白雪か?』


「そうだよ~」



 ビデオ通話なのかデバイスのホログラムには研究所にいるココロが居て、僕と一緒にいる白雪に視線を向ける。



「マスター、こちらの方は?」


「ココロ・シノノメ。このデバイスをくれた人だよ」


「そうですか、白雪です。よろしくお願いします」


『ああ、よろしく頼む』



 魔獣とオートマタの邂逅…何とも珍しい光景だけど僕は通話を掛けて来たココロに問う。



「それで?何か用があったの?」


『…その、なんだ?色々思考してみたんだが…私も外の世界に出てみようと思ってだな…』


「お、決心付いたんだ?」


『ああ。…それで、私が外に出る時は最大限手助けしてくれるのだろう?』


「するする。…というか、今来てくれるなら丁度いいんだよね」


『丁度いい?どういう事だ?』


「実は新しい家を建てる事になっててさ、今なら同じ土地にココロの住む場所も用意出来るんだよね」


『そう言う事か。確かに拠点があるのは助かるが…ボディや武装の整備は出来るのか?』


「んー…そういうのはそっちから機器を持って来て欲しいかな。結構広いから設備を置くのも問題ないと思うし、電力が必要なら僕が魔法で何とか出来ると思うよ」


『ふむ…』



 カメラに背を向けて背後にある機器を操作し大量のホログラムを処理し始めるココロ。



『その私に割り当ててくれる拠点は好きに改造していいのか?』


「地下なら好き勝手していいけど、メルトレールガンみたいな巨大兵器とかは流石に持ち込めないよ?」


『持っていく訳がないだろう』


「ならある程度好きにしてもらっていいよ?あー…でも、拠点を用意する代わりに一つお願いしたい事があるんだけど…」


『なんだ?』


「僕の物作りに協力して欲しいんだよね」


『物作り?どういう物を作るんだ?』


「簡単に言っちゃえば乗り物とか?」


『乗り物…車か?』


「そういうのもゆくゆくは。どちらかと言うと電車を作りたくてね?」


『電車か…』



 そう言うと操作していたホログラムが倍に増え、その中の一枚をカメラに向けてくれる。



『設計図ならあるぞ』


「マジ?」


『ああ。部品なんかも出力すればすぐに作れるぞ』


「マジで凄すぎだろ神代の時代(ヒストリア)のテクノロジー…ちなみに電子レンジとかは?」


『あるぞ』


「冷蔵庫は?」


『あるぞ』


「…義手、義足は?」


『あるぞ』



 科学に作れない物は無いって事ね…降参です。



「まぁ、そういう感じで兵器以外の物作りを頼みたいなーって思っててさ」


『それはいいが…科学技術を今の世界に広めていいのか?』


「そのまんまは流石にマズいから僕がこの世界の基準に合わせるよ」


『そうか。魔法や魔術に関してはからっきしだからその辺は任せるしかないが』


「それでいいよ。…って事は了承って事でいい?」


『ああ、手助けしてもらうと言っても何もしないのは違うからな』



 よし、ココロも魔道列車の開発に加わってくれるならもう完全成功間違いなしだな。



「それじゃあどうする?デバイスで位置情報は分かるんでしょ?何時頃こっちに来る?」


『そうだな…必要な物を纏め次第向かう。また連絡していいか?』


「了解。待ってるよ~」



 ココロが映った映像が消え、電子音を発しなくなったデバイスを【空間収納】に仕舞った僕は、



「んじゃ、新たな同居人が増える事だしもう少し考えよっか」


「分かりました」



 白雪と共に明日の新居の為に設計図を描いていく…。





 ■





「───まさか本当に対策しちまうとはなぁ」


「は、ははは…」



 次の日の朝…僕は全身から汗を垂らしながら精一杯の笑みをリオさんに向けていた。



「まぁ、お前がこの環境で耐えられんのは分かった。が、そんな状態で満足に打てんのか?」



 美しい緋袴とサラシ姿のリオさんの手に握られているのはカリスさんの細剣。


 その細剣は一目見ただけでどんなに硬い装甲も穿ち断ち切り貫く鋭さを持っていると分かる一本で、薄く細い刀身は僅かに周囲の魔力を纏って淡く光っている。


 そんな細剣をこの地獄の様な環境で打てるかと言われれば強がったとしても無理だ。


 気力の精密な操作、槌を振り下ろす強弱、その槌を振り下ろす場所や角度、素材を一番いい状態で保ちつつ最高の性能を引き出す技術…今回の見学で見せられた最高峰の技術は一朝一夕で会得出来る物では決して無いし、それこそ一生を賭けて会得出来るか出来ないかという技術だった。


 でも…リオさんの技術は絶対に会得したい。



「…絶対に師匠が唸る様な武器を打ちます」


「ハッ…一体いつになる事やら」



 啖呵を切ればリオさんは気の強い笑みを浮かべてカリスさんの細剣を鞘に納める。



「まぁ、いいぜ。地獄に耐えて高みを見せつけられても尚萎えてねぇんだったらお前をウチの弟子として認めてやるよ」


「…!本当ですか!?」


「ああ。まずは手始めに…師匠として弟子にウチがどれだけスゲェのかちゃんと分からせてやるよ」



【空間収納】にカリスさんの剣を仕舞い、代わりに黒いインゴットを一つ取り出すリオさん。



「今からお前専用の魔剣を打ってやる。今持ってるアビスナイトドラゴンの投げナイフとか使えそうな素材全部出しな」


「…えっ!?僕専用の魔剣ですか…!?」



 それは願ったり叶ったりだけど、でももし打ってくれるなら…



「…あん?さっさと出せよ」


「あの…我儘言ってもいいですか?」


「我儘だぁ…?…んだよ?」


「実はリオさんの技術を会得出来たら使いたい素材があったんです」


「ほお?それは何だよ?」


「ちょっとついて来てもらっていいですか?」


「あぁん…?」



 まだまだやる気十分なのか赤髪のリオさんを連れて鍛冶部屋を出ると、部屋の外で待っていた白雪が冷気を漂わせたタオルを渡してくれる。



「どうぞ」


「ありがとうアリア。ちょっとついて来てくれる?」


「分かりました。リオ…さんもどうぞ」


「おう」



 白雪も連れて地下の訓練場に向かうとリオさんが呆れた様な溜息を吐く。



「んだよここ…こんなもんが地下にあるとかどうなってんだよ?明らかに家のデカさと合ってねぇだろ」


「あはは…」



 そんなリオさんに苦笑を返した僕は何も分かっていない白雪に向き直る。



「…アリア」


「何ですかマスター?」


「リオさんが僕専用の魔剣を作ってくれるらしいんだけど…使っていい?」



 そう問えば白雪は首を傾げ、数舜考え込んだと思えばベタに掌に拳を落として納得した様な表情を浮かべる。



「私の母の死体ですか。マスターなら何も問題ありません」


「…は?母の死体…!?」



 白雪の包み隠さない物言いにリオさんが驚愕の表情を浮かべる。



「僕の師匠になってくれたリオさんなので明かしますが───」



 そんなリオさんにアリアこと白雪の正体、僕と白雪の関係、黒樹の大森林でマンティコアに殺された白雪の母とアビスナイトドラゴンの事、その白雪の母とアビスナイトドラゴンの亡骸がある事を説明すれば、リオさんは長い沈黙と共に訓練場に横たわる白雪の母とアビスナイトドラゴンを見る。



「……この二体と今お前が持ってるアビスナイトドラゴンの武器、しばらくウチに預けられるか?」


「それはまぁ…リオさんならいいですけど…」


「安心しろ、ちゃんと全部綺麗に解体してやるし使わなかった部分は全部返す」



 そう言うとリオさんは徐に僕の体を満遍なく触り、特に肩から腕、手先を入念に触っていく。



「…成長途中と考えてもかなり仕上がってんな。筋肉ねぇけど」


「あはは…」



 触り終えると今度は白雪の全身を満遍なく触っていき、また肩から腕、手先を入念に触っていく。



「…魔獣が人になる事もあるっつーのは聞いた事はあったが…こうも人間と何も変わんねぇとはな。マジで正体明かされなかったら分かんねぇぞ」


「…何故私の体を触る必要が?」


「んなのお前のも作ってやるからだよ。母親の形見として持っとけ」


「母親の形見…」



 母親の形見、そう呟いた白雪は何かを考える様に僕と母の亡骸を交互に見て小さく頷く。



「…分かりました、お願いします」


「おう。解体すんのにしばらくここ借りるぜ」


「僕も手伝いましょうか?」


「あぁ?自分の母親を娘に解体させんのかよ?」


「いや、流石に僕だけですよ…そんな事させる訳ないじゃないですか」


「ハッ。…まっ、少しコイツ等と“対話”してぇから手伝わなくていいぜ」


「対話?」


「今のお前には分かんねぇよ。変わらず鍛冶場は借りっから好きな事してろ」


「見学は?」


「まだお前に魔剣の技術を見せるつもりはねぇ。大人しく出来るのを待っとけ」


「…分かりました、お願いします師匠」



 僕の最後の言葉が聞こえてたかは分からないが、リオさんは真剣な表情で訓練場に横たわる二体の亡骸を見つめ、



「…んじゃ、僕達は新しい家の方に行こうか」


「分かりました、マスター」



 僕達は徹夜して書き終えた設計図を持って新しい家の土地へ向かう…。

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