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新たな門出

本日の投稿はここまでです。

「───という訳で、『渡り鳥(ウルグス)』の新たな門出に…かんぱーい!」


「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」


「…乾杯」


「か…乾杯…」



 どうも『渡り鳥(ウルグス)』のお別れ会を始めた僕です。


 このお別れ会の参加者は『渡り鳥(ウルグス)』のアルト、リウ、セーラ、エイン、レーネ、リリカの六名と僕、白雪、ユアの三名、計九名で、リオさんは僕の寝室で爆睡中です。



「へー!ユアちゃんってサポーターなんだ!?ランクは?」


「D…です」


「D!私達と同じじゃん!」


「そ、そうなんですか…?てっきりAランクだと…」


「えー!?そう見えるの!?だったらシオン君の訓練のおかげだね!」



 エインがユアを構ってる光景に笑みが零れる。


 冒険者ギルドで手紙を出すついでにジゼルさんに八つ当たりしてしまった後、僕と白雪は二つ目の自宅を購入する為にこの自宅の土地を売ってくれた組合に赴き、内見ならぬ立地確認をして来た。


 その中で二つほど立地が良さそうな場所があって、一つは王城のある貴族街区に建てられた今は亡き貴族の屋敷、もう一つは学園区域にある古くなって廃棄された学寮の土地。


 泊まっていく人に一人一室と考えればかなり大きめの建物が欲しいし、大きな土地があれば後から何かも追加しやすくなる。


 ただ、僕が貴族街区に建てればユニコードが気になって貴族共からの横やりが入るかも知れないし、学園区域に建てればユニコードと知らずとも悪戯やらなんやらされる可能性がある。


 それに管理までするとなると大きさを見極めねば…と考えた時、白雪が、



「今後、マスターに付いて行く事を選んだ魔獣を人の姿に変えて管理を任せればいいのでは?」



 そんな事を言い出したのだ。


 魔人化する事自体が稀有なのにそんな軽々しく言い放つなんて…てか、白雪はそんなに増えると思ってるのかな?


 あんまり多すぎても困るんだけどと反論すれば私が教育しますとか頼もしい事も言っちゃうし…まぁ、そんなこんなで第二の拠点を学園区域に構える事になりました。


 ちなみに土地代だけで白金貨30枚、金貨換算で3,000枚。


 滅茶苦茶高い買い物をしてしまった所為で持ち金は金貨50枚まで減ってしまった。


 …まっ、払ったお金はマンティコアの素材を売った時の貯金と今まで殺した奴らが持ってたお金だから痛くも痒くも無いんだけどね。


 リベーラさんからもらうデザイン料も残ってるし、それを使ってチアラさんに依頼しよう。



「にしても…シオンの訓練は本当に地獄だったぜ…」


「だね…初めて二月ぐらいは本当にしんどかった…」


「だからと言ってサボってたらすぐに弱くなるんで気を付けてくださいね?」



 アルトとリウのボヤキに笑顔で釘を刺せば全員が苦笑を浮かべる。


 まぁ…あの酷い状態からここまで成長したのは素直に凄いけどね。


 それに満足して気を抜けばすぐに抜かれて挫折するだろうが…流石にそこまでは面倒見切れないし、頑張って欲しいものだ。



「…?シオン様…さんは高名な魔道具技師では無いのですか?」


「え?そうなの?」


「え?」


「…え?」



 魔道具技師としての僕しか見ていないユアと、ユニコードであり訓練をつけた僕しか見ていないエインが首を傾げながら僕を見る。



「魔道具は趣味の一環だよ。それにみんな忘れてると思うけど、僕の本職はテイマーだから」


「テイマー…?」



 皆の疑問の声が重なるけどそこは揺るがない事実だし納得してもらうしかない。



「で…『渡り鳥(ウルグス)』の皆さんはこれからどうするんですか?」



 深く追及される前に話題を変えればレーネが少し考え込みながら今後の予定を口にする。



「とりあえず…ダンジョンアタック用の食料の買い込みと調理ね。野営道具とかは年末セールの時に揃えてリリカに入れてもらってるし、魔法が使えなくても治療出来る様にポーション系も買い込んで…それが終わり次第ギルドに行ってダンジョンの情報収集を一日掛けてして全員に知識を入れてもらう。その次の日には挑戦するつもり」


「ふむ。レーネさんの予想ではどのくらいで踏破出来そうです?」


「…最短で一月」


「最短で一月…なかなか大きく出ましたね?僕の調べだと普通は大体三月は掛るみたいですけど」


「今の私達なら一日もしない内に十層までは簡単に降りられる。…これは自惚れじゃなくて事実として」



 …レーネも随分変わったねぇ。


 最初は全てを警戒し過ぎて怯えた犬みたいだったのに、今は自信に溢れてる…それも見栄じゃなく確固たる確信で。


 魔法師という非力な体で僕の訓練に耐えた事だけはあるね。



「ただ、実戦として戦うのは久しぶりだから訓練の安全な空気感で進めるのだけは絶対に避けたい。だから下級殺しの洗礼がいる十一層から二十層までで空気感を取り戻して二十一層に挑みたい」


「そこから先は?」


「さぁ…?知識と違う所もあるだろうし、そこからは臨機応変…本番って感じ」


「なら一層からニ十層までは感覚の調整をするウォーミングアップ区間と?」


「そうなるかな」



 いい配分…絶対前のレーネじゃ考えもつかなかったであろう強引な考えに僕は笑みを浮かべる。



「それなら本当に一月で踏破しちゃいそうですね。…ちなみにSランクに上がる資格がある冒険者はソロで一日以内に踏破するらしいですよ?」


「知ってる。…嫌味?」


「いえ、ちゃんと今のレーネさん達がどこに立ってるのか分かってるかなと」


「Bランクは確実…良くてAランクになれるぐらいだとは思ってる。…シオンに本気を出させる事が出来ればSランクになれるんじゃないかとは思ってるけどね?」


「またまた…僕は良くてAランク止まりですよ。人外の…いや、超人の域にはとてもとても」


「あっそ」



 謙遜すれば不服そうな鼻音を付けてスプーンを口に運び料理に集中するレーネ。



「リリカ、そこにある野菜炒めとって」


「ん、はい、セーラちゃん」



 利き手ではない左手に箸を持ってリリカから皿を受け取り零す事も無く綺麗に食べて行くセーラ。



「それにしても随分左手の扱いに慣れましたね?」


「…今じゃ左の方が利き手に感じるぐらいには練習したから」


「最初の時は赤ちゃんみたいに口の周りと服を汚してたもんね」


「別にそれは言わなくていいでしょリリカ…」



 ムスッとした視線を向けるセーラに笑みを返すリリカ…リリカも最初のおどおどした雰囲気はもう一切感じられない。


 魔法師から近接に転向するのには本当に驚いたけど、エインとのハイレベルな組手を見た者は最初は魔法師だったと言っても、最初は話しかけられるだけでビクついていたと言っても信じないだろう。


 その後も楽しいお別れ会は順調に進み───



 ………


 ……


 …



「…ありがとねシオン君。私達をここまで強くしてくれて」



 次の日の早朝、『渡り鳥(ウルグス)』を代表して僕が作ってあげた防具兼服を身に纏ったエインが笑みを浮かべる。



「いえ、スポンサーとして面倒を見ただけなので気にしないでください」


「…そこはどういたしましてでいいんじゃないかな?うん?」


「あはは…どういたしまして」



 僕も笑みを返せば『渡り鳥(ウルグス)』の皆は少し寂しそうな表情を浮かべるが、すぐに表情を改める。



「シオン、俺達は俺達のやり方でSランクになって見せる」


「…そうですか」


「だから俺達がSランクになったら…何処かを一緒に旅しようぜ。護衛しながら案内してやるよ」


「それは楽しみですね」



 拳を突き出すアルトに拳を返し、



「もっと強くなって、Sランクになって…今度は掠らせるんじゃなく、キッチリ一撃入れてみせるよ」


「…では、その時は僕も本気を出しますよ」



 手を差し出すリウに握手を返し、



「…私はそういうべったりしたのは苦手だけど…シオンを驚かせる魔法を生み出すよ」


「…ユニコードを驚かせるのはSランクになるより難しいと思いますよ?」


「知ってる。…でも、目標にするには丁度いい」


「そうですか。…楽しみにしてます」



 レーネとは小さく笑みを交わし、



「……」


「……」


「…何?」


「いえ?セーラは何も無いんだなと」


「…こん中でシオンに一番ボロクソにされたのは私なんだけど?」


「まぁ…ボロクソにしましたね?」


「ほんっとムカつく…………鍛えてくれたこの借りは絶対返すから」


「はい、頑張ってくださいね」



 鼻を鳴らしてそっぽ向くセーラに笑みを返し、



「次会う時は私達が『嵐の谷』を踏破した時ね!」


「はい、その時はまた祝勝会でも開きましょう」



 両拳を差し出すエインに僕も両拳を当て、



「…シオン君」


「…?どうしたんですか?」


「その……一瞬目を瞑ってくれる?」


「はぁ…?」



 リリカの指示通り目を瞑った時、リリカの顔が近づいている雰囲気を感じた時には僕の頬に何かが触れてチュッという音と、リリカ以外の皆が驚く声が響いた。



「ちょっ…リリカ!?」


「…シオン君は私を今の私に変えてくれたから…そのお礼と…予約?」



 予約って…随分と大胆になったものだね?



「リリカずっるい!私もお礼と予約!」



 エインもリリカとは逆の頬にキスをしてくれるが…僕の頬にキスした二人はクスリと笑い、僕に背を向け歩き出す。



「んじゃ、またねシオン君!」


「またね?」


「…はい、皆さん頑張って夢を追いかけてくださいね」



 そして僕も笑顔で手を振って『渡り鳥(ウルグス)』を見送り、



「さてと…何だかこの家も広く感じるなぁ…」



 僕の日課が始まる…。





 ■





「…昨日今日で耐えられる様になってるとかどういう事だよ?」


「リオさんの作業を余す事無く見る為に頑張ったんですよ?」


「…そうかよ」



 灼熱の鍛冶場…僕の対策は確実に成功していた。


 まだ火を育てている段階だが、そのタイミングで僕は滝の様な汗を垂らしていたのに、今の僕は一切汗を掻かず笑みを余裕で浮かべられている。


 その笑みを見てリオさんはギョッとしたけどすぐに炉に集中する。



「……っし、だったらまぁ…今日中に二本とも打っちまうか」



 前回作った様々な素材を混ぜたインゴットを【空間収納】から取り出す。


 色的にルシェロさんのインゴットだ。



「…シオン」


「何ですか?」


「一本目はただ見てろ」


「分かりました」



 そう言うと【空間収納】からかなり頑丈そうで重たそうな金床から火鋏など様々な道具と色々な形をしたハンマー、かなり粘性の高そうな油を取り出した。


 この温度でも蒸発しないし燃えないという事はかなり特殊な油なんだろう。



「……」



 大きな鋏でインゴットを持ち、炉の中に入れると徐々にインゴットの色が変わっていく。


 素人目ではただ熱せられているとしか感じないが、その僅かな何か、変化を見逃すまいとリオさんの目つきが鋭くなり、黒髪から赤髪、両腕に『神印(メモリア)』が浮かぶ。



「…行くぜシオン、耐えろよ?」



 その言葉の意味を問う前にその答えが僕の耳と腹に届く。



「ぐぅっ!?」



 ただ熱せられて赤熱したインゴットを形成する為にハンマーで叩いただけ…なのにその音は爆発したのかと思う程に大きく、音は衝撃になって僕の内臓を揺さぶった。



「口、開けときな」


「っ!?!?」



 一回、二回、三回とリズムを刻んで振り下ろされるハンマーの爆音と衝撃は慣れず、何度も何度も僕の耳と内臓を蹂躙していく。


 これがグリムの鍛冶…よくドワーフは耳が遠いって言うけど納得だ。


 こんな音をずっと聞いていれば耳はおかしくなるし、内臓を震わされれば食べた物は吐き出してしまう。


 そしてその振るったハンマーの衝撃と支えたインゴットから伝わる衝撃…きっと人間が同じ衝撃を手に受け続ければ確実に壊れるし、何なら一撃目で骨が折れるかも知れない。


 リオさんが人間じゃ習得出来ないって突っぱねる訳だ…。



「───」



 リオさんがインゴットを炉に入れ焼き直す時に僕に向かって何かを言うが、もう耳が使い物にならなくて何を言っているか全く分からない…もしかしたら鼓膜が破れてるかも知れない。


 けど、唇の動きからして『大丈夫か』と言っているのか?とりあえず頷く。


 熱の対策は万全だったのにまさか音と衝撃が次の障害になるとは思わなかった。



「───」



 また何か僕に向かって言って来るけどもう分からない。


 今更音の対策をした所で聴覚が戻ってくるのは白雪に回復魔法を掛けてもらった時だろうし…はぁ、まだまだ対策する事があるなら先に言ってくださいよ師匠…。


 …でも、本当に凄いなぁ。


 ハンマーを振り下ろす度に凄まじい音と衝撃で不純物が花火の様に散って形をグニャリと変えていく。


 振り下ろすハンマーの感覚は一定、リズムも一定…だけど内臓を揺らす衝撃だけは強かったり弱かったりするから腕力の微妙な変化で調整してるのかな?…耳が聞こえないから分からないけど。


 それに気力の纏い方も微妙にだけど変化している。


 最初は両腕とハンマーに分厚く纏わせていたけど、今は薄く伸ばしてハンマーの打撃面を広げる様に纏っている。


 そして剛力によって不純物を叩き落とされ鍛え上げられたインゴットはルシェロさんが希望した長さ、幅、薄さへと姿を変え、特別な油の中に真っ赤な身を沈ませる。


 その油に漬けられた刀身は赤みが徐々に薄れていき、次に姿を現した時は暗い青紫の刀身を炉の炎で煌めかせていた。



「───」



 もう僕の耳が聞こえていない事に気付いているのか手招きで僕を呼ぶリオさん。


 次にする作業は刀身を磨く研磨なのか二種類の砥石が並べられ、リオさんが僕の手を取って表面を触らせる。


 一つは爪に掛かる様なかなり細かい荒さのある砥石で、もう一つは爪に掛からず肌で擦っても肌が削れないぐらい滑らかな砥石。


 砥石を確かめ終えるとリオさんはそのまま僕の手を取って刀身を握らせ、僕を後ろから抱きしめる様にして砥石に向き合う。


 僕の指の位置を微調整し、リオさんが僕の体に密着するのを感じながらまずは荒い砥石に油が残る刀身を満遍なく擦り付けていく。


 僕の手を覆っているリオさんの手に合わせ、僕の体を覆っているリオさんの体の動きに合わせて動かせば指先に微細な振動が伝わる。


 その振動は擦る場所によって大きかったり小さかったり…偶に掛かる様な様な僅かな違いがあって、その振動を確かめながら指先に全神経を集中させる。


 そして全てが同じ感覚の振動を返してくる様になるまで整え、まだ刀身に残る薄い油を指で伸ばしてもう一つの砥石に擦り付けていく。


 リオさんの指から伝わる力はさっきの砥石の時と違ってとても繊細で…ただ乗せて滑らせる様な、でも確かに力が入っている様な力の掛け方だ。


 そんなもどかしい作業を丁寧に行えば暗い青紫の刀身は深みのある透き通った青紫の刀身になっていて、まだ炉の中で燃える青い炎が映る。



「───」



 最後にするのは柄作り。


 金床の上に革を敷き、刀身を寝かせ、革で包んで金床に付いていた留め具で刀身を固定。


 金床からはみ出た持ち手部分にも革を乗せ、小指の太さぐらいの筒型の鑿に薄く鋭く気力を纏わせながらその上からハンマーを打ち付ければ革ごと綺麗に繰り抜かれる。


 丸い穴が二つ開いた持ち手部分に持ちやすそうな薄い楕円の木材を当てて型を取り、その中心部分を鑿で丁寧に削って空洞を作っていく。


 その空洞の中に革を巻いたままの持ち手部分を差し込み、柄頭をハンマーで叩いて刀身を奥まで差し込んで柄と刀身を固定させる鉄の芯を開けた穴に通す。


 最後に穴を開けてない新しい革を持ち手に巻けば、



「───」



 完成だ、リオさんがそう口を動かした気がする。


 出来上がったルシェロさんの剣は僕が横になれば全身を隠せる程に幅広で、切っ先は将棋の駒の様に徐々に先細りして先端部分で急な角度を付けて鋭くなっている。


 見た目からは重剣に見えるが手に取ってみれば羽の様に軽く、リオさんが抜いた一本の髪を刀身に力なく落とせば断ち斬れてしまう鋭さを持っていた。


 これがグリムの剣…刃に触れれば何の抵抗も無く指が落ちると【直感】さんが頭痛と一緒に警告してくる程の…人殺しの剣。


 このままカリスさんの剣を作るのか、ルシェロさんの剣に革をグルグルと巻き付け【空間収納】に仕舞ったリオさんは、



「───」



 炉の中で揺らめいていた青い炎を消してしまった。



「あれ…カリスさんの剣は?」



 耳が聞こえないからちゃんと発音出来ていたかは怪しいが、リオさんは僕の顔を見て眉を顰めてワザとらしく溜息を吐く動作をしてから耳を指差す。



「───?」



 もう聞こえてねぇんだろ?そういう仕草をして完全に炎を消してしまった。


 …また僕の所為でリオさんの邪魔をしてしまったのか…。



「…すみません、また僕の所為───いだっ!?」



 眉を顰めた手刀が頭に振り下ろされ、すぐに手をヒラヒラとさせて鍛冶場を出ていきお風呂に行くリオさん。



「…今度は音と衝撃の対策をしないとな」



 リオさんの邪魔しかしていない悔しさと、そんな僕を気に掛けてくれてる嬉しさが混ざった複雑な気持ちが僕の表情に笑みを浮かべさせた…。





 ■





「───という感じです」


「ふむ…なるほどね」



 胸に包帯を巻いた上半身裸のユアと向き合い左腕の魔導義肢を見る僕。


 リオさんがお風呂に入っている間、白雪に耳を治してもらって魔導義肢の経過を見て見たが、最初に起動時に魔力を持っていかれただけで魔力の追加供給は無いとの事。


 ただ、重い物を持ち上げたりする時に若干魔力が吸われた感覚があるらしい。


 それは人間でも重い物を持つ時に筋肉を使うのと同じ原理だから仕方ないだろうなぁ…。



「ありがとう、後はしばらく普通に過ごして耐久性とか見たいかな」


「分かりました」



 黒のアームカバーを嵌めてあげればユアもシャツを着てくれる。


 さて、今日やるべき事は全て終えたから後は自由時間だけど…何かをするなら音と衝撃の対策、転移魔法陣の解析、薬学の勉強、もう一つの家の整備…お灸を据えに行くのどれかだ。


 音と衝撃の対策に関しては風魔法でどうにかなるし、水や氷みたいに鍛冶場の温度も下げないから対処は簡単。


 転移魔法陣は今進めてもこの家と新しい家を繋ぐ…後はココロが居る第六戦略兵器格納庫ぐらいにしか使わないし緊急性は無い。


 薬学の勉強もミミさんに上級ポーションの作り方を教わるぐらいだし…となればもう一つの家の整備と『天の剣(ソル・クラス)』のお灸の方がいいか。


 時刻は15時…この時間ならチアラさんはエルルさんと一緒に模型作りで王都の空に居るだろうから見つかるし…『天の剣(ソル・クラス)』の動向はもう一人の僕に探らせてるから問題ないだろう。



「…よし、ちょっと出かけてこようかな。アリア、家の事とユアの事お願いしていい?」


「分かりました。どちらへ?」


「エルルさんとチアラさんの所。昨日買った家の事について相談したくて」


「そうですか、分かりました」


「んじゃ行って来るね」


「はい」



 家とユアの事を白雪に任せて外に出た僕はひょいと屋根上に飛び【鷹の目】を意識して空を見渡す。



「…あれか?…ってか、あれしかないだろうな」



 空に浮かぶ物を見つけ、『空爪駆(あまがけ)』で体を上に弾き飛ばし氷魔法で背中から氷の翼を広げ、氷の翼の下から風魔法で風をぶつけて空を飛ぶ。


 …ただ風魔法で体を浮かし続けるのはメルクリアさんに怒られたし、これならユニコードらしい飛び方だから怒られないだろう。



「一応騒がれない様に…」



 指を鳴らして光の板、『ミラージュコート』で姿を隠せば道行く人は僕に気付かずいつも通りの日常を過ごしている。


 そうしてエルルさんとチアラさんの方に近づけば遠くでエルルさんがこちらに振り返ったのが見えた。


 …この距離で僕の魔力を探知するって凄いな…だってまだ【鷹の目】でも豆粒にしか見えて無いんだよ?5㎞以上は離れてるんだよ?


 そんな事を思いながらゆっくり近づいて行けば、



「───やっぱりシオン君だった!」


「この前ぶりです、エルルさん」



 エルルさんが満面の笑みで迎えてくれ、チアラさんはエルルさんの杖の後ろに座りながらこちらにギョッと視線を向ける。



「っ!?ど、何処から現れたんっすか!?」


「魔法で姿を消してこれで飛んできました。チアラさんもこの前ぶりです」


「そ、そうっすね…」



 僕の氷の翼を見て驚くチアラさんだが、エルルさんは僕の氷の翼を見て目をキラキラと輝かせる。



「ねぇねぇ!それどうやって飛んでるの!?氷魔法だけで飛んでるの!?」


「いえ、氷魔法と風魔法です。方法はとっても簡単で、翼に下から風を当てて浮かんでるだけですよ」


「はえー…!流石シオン君!」


「いえいえ、こんな回りくどい事をしなくても空が飛べる師匠には敵いませんよ」



 食らえ、満面の笑みアタック。



「きゅん!」



 ふっ、決まったな。



「え、えっと…シオン君はどうしてここまで来たんっすか?もしかして私の仕事が遅いってせっつきに来たっすか?」


「いえいえ、そんな事しないですし無理ない程度に進めてくれればいいですよ?」


「ふぅ…ならよかったっすけど…?」


「今日来た理由は新しい家を建てる土地を買ったんですよ。その土地に家を建てたくて依頼しに来たんです」



 そう言えばチアラさんもエルルさんも目を丸くする。



「もう第二の家っすか?早くないっすか?」


「えー?あの家もいいじゃん!」


「あの家がいいのは僕自身が一番分かってるんですけど、やっぱり集まりを開いたりする時は結構な地位の人ばっかじゃないですか。更に泊まってもらうにはちょーっと狭いかなー?失礼じゃないかなー?って…」



 主に新居のお披露目をした時の事を思い出したのか二人は確かに…と小さく言葉を漏らす。



「それにユニコードやラザマンドの名前を名乗ってる僕があの一軒家だけって言うのも貴族からの見栄え的にどうなのかな…?と」


「なるほどねぇ~…なら私も何処かに家を構えた方がいいかなー?」


「エルルさんは何時も何処で寝泊まりしてるんです?」


「普通に学園だよ?ちなみに師匠もだけど」



 それは普通なのだろうか…?


 メルクリアさんは何と言うか効率とかを考えて…いや、ただ単に面倒くさがりなだけな気がする。



「…あれでしたら僕の買った土地に家建てます?結構広いですし学園区域なんですよね」


「え!?いいの!?…って!年頃の男女が一つ屋根の下で…しかも師匠と弟子なんて…!」



 くねくねしながら脳内妄想を垂れ流すエルルさん…あれぇ?エルルさんってこんなキャラだったっけ…?


 それにとしご…いや、何も考えて無いし何も言ってない。


 エルルさんの見た目は10代にしか見えないしね、うん、年頃だ。



「僕はまだ10歳ですし、小さな紳士なのでそんな不埒な事しませんよ。…って、すみませんチアラさん、勝手に話しを進めちゃって」


「あー…全然いいっすけど、もう図面とか出来てるんっすか?」


「いえ、そこは前みたいに一緒に相談しながらと思って」


「ふむ…でもそうなるとこっちが遅れるっすよ?」


「ずっと同じ作業をしてるより、一回違う事を挟んだ方が気が晴れません?それに期限は無いんですし」


「…シオン君がそう言うならそうするっすか」



 年明けからずっと同じ作業をしていたチアラさんは一息吐いて笑みを浮かべ、手に持っていた精巧な模型を腰袋型の空間収納に入れてエルルさんの腰に腕を回す。



「じゃあ案内しますね?」


「「おお…!」」



 僕が氷の翼を羽ばたかせれば氷の粒がキラキラと舞って二人が感嘆の声を漏らしてくれる。



「私もその飛び方練習してみようかなー…」


「僕は杖に乗って飛んでる方が好きですけど、試してみるなら教えますよ?」


「そ、それって鋼鉄魔法でも出来るっすか?」


「鋼鉄魔法…そうですねぇ」


「「っ!?」」



 氷の翼を魔力に還し、無防備に空中に体を投げ出すと二人共驚くが、



「こんな感じでどうですか?」



 鋼鉄魔法で角度の付いた四枚羽の傘の様な物を生み出し、羽が高速回転すると徐々に片手でぶら下がる僕の体が浮上して二人の高さまで戻る。



「えっ…えええっ!?ど、どうやって飛んでんっすか!?」


「こう、羽の部分に風魔法で風を当ててです。ちなみに風魔法で上手く調整しないと───」


「「ええっ!?」」



 テールローター代わりの風魔法の制御を止めればプロペラと一緒に僕の体が回り始めて一瞬で吐き気がこみ上げてくる…。



「こっ…こんな感じで…自分がグルグルするんで…あれなら…教えますよ…?」


「い、今のを見て教えてもらおうと思えないんっすけど…!?」


「あはは…」



 そんな馬鹿な事をしながら三人で空を飛びながら目的地へと向かい、



「ここが僕が新たに買った土地です!」



 そう紹介した時、



「え…ここ…私が学生時代住んでた寮だ…」



 エルルさんがそうポツリと言葉を零した。

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