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苦悩

本日の投稿はここまでです。

「さてと…早速協力してもらおうか」



 どうも作業部屋で魔道義肢の調整をしている僕です。



「えっと…僕はどうすれば…?」



 ようやく見つけた協力者…ユアが作業部屋に置かれた椅子に座り不安そうに声を出す。


 今のユアは白雪の手によって傷だらけで汚れていた体を綺麗にし、ボロ布同然で機能をちゃんと果たしていなかった服と防具からシンプルながらもちゃんとした服を着せられ、ナイフで乱雑に切られたであろう髪を鋏でしっかりと整えられたから見違える様に可愛くなっている。


 ちなみに髪はウルフカット…本当にその技術は何処で身に付けたんだ白雪は…。



「まず上のシャツを脱いで貰って胸を隠して欲しいんだ。僕は後ろを向いてるからアリアお願いしていい?」


「分かりました」


「え、ちょ!?」



 僕が後ろを振り返れば白雪が戸惑うユアの服を脱がして胸を包帯で隠し始める。


 ぶっちゃけユアが女の子だとは思わなかった…一回体を抱いて飛んだ時は肉が全く無いから男だと思ったんだけどね?



「…大丈夫です」


「ん、ユアも見ていい?」


「は、はい…」



 振り返れば顔を真っ赤にしたユアが居るが、僕は気にせず左腕に巻かれ続けている汚れた包帯を外す。



「なるほどね…ちなみに何で左腕を無くしたの?元のパーティーメンバーを守ったって言ってたよね?」



 ユアの腕に合う様に接合部分を調整しながら問えばユアは少し怒りを滲ませ語ってくれる。



「…Aランク昇格試験で『嵐の谷』の30階層の階層主、『ミノタウロス』の討伐に行ったんです。ダンジョンアタックは順調…僕もいつも通りサポーターとして動いてたんですけど…その道中、23層で『宝物部屋(ボーナスフロア)』を見つけたんです」


宝物部屋(ボーナスフロア)…確かダンジョン内で偶に発生するマジックアイテムとか希少な物を手に入れる事が出来る場所だっけ?」


「そうです。でも…その宝物部屋(ボーナスフロア)のモンスターが予想以上に強くて苦戦してた時、僕を追放した男が新たに生まれたモンスターから奇襲を受けたんです。もしそこで負傷したら一気に均衡が崩れると思って守る為に間に割り込んで…」


「なるほどねぇ…そのモンスターの攻撃で腕は原型を留めなかったの?あればくっ付けられるよね?」


「原型は留めてました…でも…治してくれなかったんです…」


「…は?」


「僕の回復は後回しにして軽傷だった他の人の回復を優先して…僕の番が回って来た時はもう魔力が無いからと…次の日には治してくれるんだと思ってその場は自分で包帯を巻いて止血しました…でも…次の日には僕の左腕が無くて…」


「…それで左腕が無いと」


「はい…」



 …なんだそれ、酷過ぎるだろ。


 もしかして元々追放するつもりで故意に治療を遅らせて左腕を捨てるなり破損させたのか?


 もしそうなんだとしたら……魂が黒く無いとしてもお灸を据えた方がいいな。



「…思い出したくないかも知れないけど、パーティーの名前は?」


「Bランクパーティー『天の剣(ソル・クラス)』…です…」


「ふむ…ユアが摘まみ出された場所はそのパーティーの拠点か何か?」


「はい…」


「なるほどね。…ちなみになんだけどさ、そいつらに復讐したいと思う?」


「復讐…」



 そう問えばユアは俯き…生気の感じられない声色でポツリ呟く。



「殺したいぐらい憎いです。でも…僕にはそんな力が無いので…ダンジョンアタックに失敗して苦しんで死んでくれればいいなって…」


「…いい答えだね?」


「いい答えですか…?普通に醜いと思いますけど…」


「いや?自分で手を下したいと思っても力が無い事を理解出来ている。誰かに頼むなり暗殺者を雇うという思考じゃ無く、ユアは弱肉強食の自然の摂理で死ぬ事を望んだ。しかもここで僕がどう思うかなんて考えず、綺麗事を言わずに自分の中に渦巻く醜い本音を曝け出した…これは僕的には相当点数高いよ?」


「…シオン様は上辺だけの言葉や嘘、裏切りを一番嫌ってる様な感じましたから…」



 …やっぱり今まで虐げられてた所為か人の顔色を伺う事が得意なんだろうな。



「シオンでいいよ。それにユアのその直感は正解。僕は元々人間という生き物が嫌いなんだ。何でもかんでも自分の利益や欲求を満たす為だけに他者を陥れる事に何も感じない欲に塗れた人が多いからね。そういうのは本当にイライラするし反吐が出る」


「……」


「でもユアはそういう欲に塗れたクズとは違う。自分を犠牲にしても、どれだけ自分が絶望に塗れても他者を思いやれる強く気高い心を持っている。そういう人間は好きだし、僕に出来る事があるなら手を貸してあげてもいいと思う」



 ピクリと体を震わせるユア…しばらくするとユアから嗚咽が漏れ始める。



「だけど今からするのは手を貸すんじゃなく…」


「…?」


「ユアの腕を作ってあげようと思うんだ」



 ユアに合う様に調整し終えた木製の魔導義肢を見せれば涙で濡れた瞳をまん丸にする。



「う…腕を…?」


「そう、これが僕の努力の結晶…魔導義肢だよ。四肢を無くして神聖魔法で治せない人に希望を与えられるって僕は信じてるんだけど…少しは希望を持ってくれた?」


「っ…はいっ…!」



 そう言えばユアはさっき以上に泣き崩れ、僕は笑みを浮かべながら白雪と共に魔導義肢を装着していく。



「…っし、ユア、ちょっと立ってくれる?」


「はいっ…!」



 装着している間も泣き続け折角綺麗になった顔を涙と鼻水で汚しながらも笑みを浮かべてるユア。



「腕の長さは問題ない…重さのバランスはどう?」


「す、少しだけ重いです」


「おっけー…」



 白雪が顔を拭い、僕がユアの意見を聞きながら微調整を繰り返し───30分。



「よし!出来た!」



 魔法陣を弄り終え、顔に浮かんだ汗を拭ってデバイスで録画を始める。



「そ、それは?」


「記録するマジックアイテムだよ。…とりあえず今の状態で動かせるか確かめてくれる?」


「わ、分かりました!」



 僕の指示通りに左腕を動かそうとするが、肩が動くだけで二の腕から先の魔導義肢は動かない。



「動かない…失敗ですか…?」


「んや、それで正常だよ。セーフティーはしっかり作動中…今度は魔力を注いで動かせるか試してみてくれる?」


「魔力を注ぐ…」



 魔力を注ぐ事に集中しているのか目を閉じてジッとするが…



「…ダメです、動かせません…」


「…ちょっと待ってね」



 動かず、魔導義肢の中を見てもしっかり魔力が注がれて魔法陣も作動しているのに指先一つ動かない。



「ユアって【魔力操作】の才能って持ってる?」


「持って無いです…」


「なら僕の仮説は正しかったか」



 もう一人の僕が魔導義肢の開発をしていた時に懸念していた動作問題…魔力を注いだだけじゃ魔導義肢は動かない。


 動かすには魔力を操作する【魔力操作】の才能を持っている必要があるのだ。


 これはレーネの魔力操作の訓練を見ていて気付いた事で、本来魔力というのは魔法を発動する為の触媒でしかなく、詠唱という定型文を口にする事で魔力が自分の意思とは関係なく特定の形に動き具現化するという事に気付けた。


 僕が火や水を触手の様に振るったり色んな魔法を開発出来るのは魔力を完全制御下に置き、自分の意志と想像力で操作、具現化しているおかげであって普通は出来ない。


 だから詠唱という物が存在するし、大勢の魔法使いは定型文をなぞるばかりで自由に魔法を行使出来ないのだ。


 そしてそれを解消する為の魔法陣の開発に難航し…苦難の末に開発出来たのは魔道具に利用される『魔導回路方式』を基礎とし、魔法陣の原理を応用適応、一体化させた『思考直結自動操作魔力回路』という線ばかりの魔法陣。


 最早魔法陣ではなく『魔法回路』という新しい物だが、魔導義肢の中は空洞になっていて魔法回路が神経の様に張り巡らされているのだ。



「ユア、ここからが本番だよ。まずは自分の魔力がどれだけ残っているかちゃんと把握出来る?」


「えっと…どう表現すれば…?」


「何か使える魔法はある?」


「『ウォーターボール』、『ウォーターアロー』、『ウォーターランス』、『ウォーターウォール』ぐらいです…」


「水属性…いいね、『ウォーターボール』は今の魔力でどれだけ放てる?」


「ん…20発ぐらいなら?」


「意外と魔力あるね?だったら今からユアの魔力を自動的に吸い上げるから何発分魔力を吸われたか教えて」


「わ、かりました」



 だから思考直結自動操作魔力回路を起動すれば───



「うっ…」


「…大丈夫?」


「はい…いきなり魔力を吸われてビックリしただけです…魔力消費は…『ウォーターボール』5発分。それ以上は吸われてません」


「おっけ。じゃあ左腕を動かしてみて」


「はい…!」



 大きく深呼吸するユア…その木製の左腕はピクリと震え、次第に指先、手首、肘と動いた。



「っ!?う、動きます!!」


「追加で魔力が吸われる感覚はある?」


「ありません!」


「元の左腕との誤差は?」


「やっぱり元の腕と違って物を触った時の感じ…目を閉じて触ってどんな物かは確かめられ無いですけど、握った感じや持った感じは分かります…!」



 遂に僕の努力の結晶…魔導義肢が完成した。



「よかった…後は一日使った時の総魔力消費量の確認と日常生活での耐久性確認とかもしたいからしばらくはこの家で過ごしてね?」


「はい!」


「それと不調とかあったら些細な事でも必ず報告する事。…協力してくれるユアだから言うけど、その魔導義肢はルクス・フォン・ローゼン国王陛下に献上する物だからね?」



 瞬間、喜びの笑みを浮かべてたユアは一瞬で顔を青褪めさせ左腕を凝視する。



「え…え…?えっ…えええええ!?こ、ここここ、国王陛下にけけけけけ、献上!?」


「うん。僕がなかなか事情を話さなかった理由が分かったでしょ?簡単に言ってしまえばユアはルクス・フォン・ローゼン国王陛下御身の為に魔導義肢のテスト…いや、正直に言えば人体実験をしているんだ。そしてユアの頑張りで本当に完成した暁には王家から褒美が出る…クソみたいなパーティーで使い潰されていたいちサポーターが国王陛下に謁見して褒美をもらうんだ。僕の言った通り人生変わるでしょ?」


「こっ…国王陛下に謁見…?ぼ、ぼぼ、僕が…?」


「そう。…でも、褒美を賜るのなら王都に住む、家族の石化を解く、弟の学園入学以外にするんだよ?それは僕からユアに送る報酬だからね」



 魔導義肢だと分からない様にユアの左腕に黒のアームカバーを被せれば大切そうに左腕を抱き───



「…ありがとうっ…ございます…!」



 絶望に塗れた自分の運命が変わった事を実感したのかまたポロポロと涙を零し始めた…。


 さて…久々にあの人に連絡してみようかな。





 ■





「すみません、ギルドマスターのジゼルさんかミミさんに取り次いで貰いたいんですが」



 ユアに魔導義肢を接続した後、僕は白雪と共に冒険者ギルドに訪れていた。



「えっと…っ!?しょ、少々おま…いえ、こちらに…」



 ウォーカーのカードを見て驚いたのか、はたまたあの決闘を見ていたのか、ロビーで僕を残すのがマズいと判断した男性職員に連れられてギルド内の一室に通される。



「今お呼びしますのでこちらで少々お待ちください」


「はい、ありがとうございます」



 食らえ、満面の笑みアタック。



「…!し、失礼します…!」



 ふっ、決まったな。



「白雪も座っていいよ?」


「分かりました」



 白雪もソファーに座らせソファーに体を沈ませれば自然と溜息が漏れる。


 僕がここに来た理由…それは魔導義肢を開発するにあたってパトラさんに連絡を取る事と、ユアを追放した『天の剣(ソル・クラス)』について情報を集める為だ。


 本当ならパトラさんと受付嬢のネリンさんが居るフルールに行ってもいいんだけど…リオさんの鍛冶もあるし、もう一人の僕に向かわせても『空爪駆(あまがけ)』が使えないから時間が掛ってしまう。


 かと言って直接手紙を届ける手段も無ければ郵便に任せて内容を検閲されたり紛失されるかも知れない…だったらジゼルさんかミミさんに頼んで個人的に手紙を飛ばしてもらった方がいいと考えた訳だ。


 ついでにユアを追放したクソ野郎達の情報も得られるから一石二鳥だ。



「んー…折角ならお披露目会をしてもいいかもね」


「魔導義肢のですか?」


「そうそう、後は耐久性とか細々した確認だけだしね」


「そうですか。……」


「…?どうしたの?」



 何かを考えているのか膝丈のテーブルをジッと見る白雪。



「マスター、これから色々な人を招待するのであれば自宅ではなくもう一つ招待するのに相応しい建物を作るのはどうですか?」



 まさかの提案に僕は目を見開いた。



「えっ…必要だと思う?」


「はい。自宅も素晴らしいですが、お披露目をする程人を呼ぶのであれば流石にリビングでは狭いです。それに泊まるとしても男性と女性で分かれて寝れる部屋があってもマスターの交友関係的に女性が多いです。そうすると寝室が溢れますし、現在もリオ…さんにマスターの寝室を占拠されています。唯一気が抜ける自宅なのに気が抜けないのでは?」



 な…なるほど…僕もどうしようか悩んでたけど、まさか白雪が提案してくれるなんて…。


 これが成長…これが親心か…少し誇らしいと共に寂しさもあるね…。



「そうだね…白雪の言う通りだ。前にデザインしたドレスの売り上げもあるだろうから金銭的にも問題ないし…これが終わったら前に土地を売ってくれた所に行ってみようか」


「はい」



 そんな話をしていると部屋の扉が開く。



「本当にいつも唐突だねー?」


「お、お久しぶりですシオン君」


「ジゼルさん、ミミさんお久しぶりです」


「こんにちは」



 瞬間、現れたジゼルさんとミミさんは頭を下げて挨拶する白雪をギョッと見た。



「えっ…マジ…?」


「い、今の…シラユキさんが…?」


「はい、白雪です。他の人が居る時はアリアとでも呼んでください」



 人型になれる事は知っていたが、やっぱり喋れるというのは衝撃なのか驚きの表情のまま対面のソファーに腰を下ろす二人。



「まさか…これを知らせる為に?」


「いえいえ、要件は別にあるんですが…ミミさんにまずご報告を」


「私に…?」



【空間収納】から二枚の紙を取り出し笑みを浮かべる。



「ミミ師匠のお陰で三級薬剤師の資格を取れました」


「…!もう三級薬剤師になったんですね…!」



 自分の事の様に喜んでくれるミミさんの姿にほっこりする。


 …僕が混ざってるとはいえ、これで安らぎを感じるなんて随分人間らしくなったなぁ…。



「二級薬剤師もーって思ったんですけど、まだ上級のポーションの作り方は教わってなかったので…」


「あっ…そうですね…!実は数日前にフルールから帰って来たばかりでまた薬品類を補充しないといけないのでその時に教えますけど…」


「本当ですか?ならその時にお願いします師匠」


「はい!任せてください!」



 お互い笑みを浮かべ合ってるとミミさんの隣からやや呆れた咳払いが響く。



「…それで?一応私達もゆっくり雑談出来る程暇じゃないんだけど?」


「ああ、そうですね…要件は二つ、パトラさんに手紙を届けて欲しいのと、Bランクパーティーの『天の剣(ソル・クラス)』について聞きたいんです」



 要件を伝えればジゼルさんは眉を顰め、ミミさんは可愛らしく首を傾げる。



「…シオン君から他の冒険者の話を聞くのはいい事が無い予兆なんだけど…?」


「別に僕だって厄介事を持ち込みたい訳じゃ無いんですよ?」


「それにパトラに手紙って…普通に郵便で出せばいいじゃん?」


「いやー…時間掛かりますし、内緒話で中身もあまり検閲されたくないので…」



 あははと苦笑を浮かべるとジゼルさんも深い溜息を吐いてじっとりとした視線を向けてくる。



「…で?『天の剣(ソル・クラス)』の何が知りたいの?」


「何でも『天の剣(ソル・クラス)』はAランクの昇格試験に失敗したらしいじゃないですか。またAランクの昇格試験を受けるのかなーって」



 するとジゼルさんは顎を指で摘まみ首を傾げる。



「ん…?『天の剣(ソル・クラス)』にAランクの昇格試験なんて出してないけど?」


「え…本当ですか?」


「うん、そんな事で嘘言っても仕方ないでしょ」



 どう言う事だ…?ユアが嘘を吐くはずが無いし、拠点からユアを摘まみ出したリーダーっぽい男もユアの所為でAランクになれなかったって言ってたよな…?



「…ちなみにパーティーメンバーって何人ですか?」


「…?名前を出すぐらいだから知ってるんじゃないの?」


「いやそれが…ちょっと友人が『天の剣(ソル・クラス)』と揉めまして…」


「え?シオン君に友人と呼べる人なんて居たの?」


「それちょっと酷く無いですか!?」



 事実だけど面と向かって言われると何か傷付く!



「ああ、ごめんごめん…シオン君は大人びてるから同年代とは話が合わないと思ってさ。…で、メンバーだっけ?メンバーは前衛でリーダーの『シフト』、タンクの『カーティス』、斥候の『ノーチ』、魔法師の『レトア』、同じ魔法師で今日入った新人の『カムラ』だったかな?」


「…新人という事は誰かと入れ替わりですか?」


「いや?元々カムラを除いた四人のパーティーだよ?」



 …はぁ?本当にどういう事だ?



「えっと…サポーターのユアって女の子は所属してないんですか?」


「サポーター…そのユアって子がシオン君の友人なの?」


「そうなんですけど…」


「ランクは?」


「Dランクですね」


「ミミ、ちょっと両方調べてくれる?」


「分かりました」



 ミミさんが部屋を出て『天の剣(ソル・クラス)』について調べてくれるが…本当にどういう事だ?



「あの、サポーターってパーティーに加入させてもらえないんですか?」


「いや、一緒に行動する場合は一依頼限りのスポッターでも臨時加入という事で申請書を出すのを義務付けてるよ」



 という事は…『天の剣(ソル・クラス)』はユアをパーティーに加えずサポーターとして扱き使ってたって事か?



「お待たせしました。調べて見ましたけど…『天の剣(ソル・クラス)』の入退歴にユアというサポーターは居ませんね。合わせてユアというサポーターも調べて見ましたが…一年前のスポット加入を終えてから一度も別パーティーに加入していませんね」



 …結構な事してんじゃん『天の剣(ソル・クラス)』。


 要するに不正契約でユアを扱き使って、それがバレない様に左腕を失わせて冒険者を引退する様に仕向けて不正契約の証拠を隠滅しようとしたって事か。



「…どういう事?シオン君」


「友人曰く、Aランク昇格試験で『嵐の谷』の30階層の階層主ミノタウロスの討伐に行った際、23階層で宝物部屋(ボーナスフロア)に遭遇。そのまま宝物部屋(ボーナスフロア)に挑戦し、苦戦を強いられユアは戦況を保つ為に仲間に向けられた不意打ちの一撃をその身で受けて左腕を失いながらも何とか攻略。その後、重症のユアを放置して軽症のパーティーメンバーの治療を優先して魔力枯渇。ユアは自力で応急手当を行い魔力の回復を待っていたが次の日には左腕を紛失。何とか地上までは帰って来れたものの、カムラという人物の加入と合わせて昇格試験を台無しにしたユアは追放。…これが友人から聞いた話です。ちなみに僕も追放の場面に出くわして僕自身の耳でもAランクの昇格試験の失敗の話は聞きました」


「…!何ですかそれ…!!」



 ミミさんが書類をグシャリと握りしめる。



「………Aランクの昇格試験どころかBランクに上がったばかりなんだけど」



 ジゼルさんも冷たく据わった視線を僕でなく何もない空間に向ける。



「…どうやら僕の友人は一年前から『天の剣(ソル・クラス)』に騙され奴隷の様に扱われ搾取され続け、カムラという人物の加入を期に用済みと捨てられたみたいですね」


「サポーターの踏み倒し…ですか…」



 こうやって僕の言葉を嘘だと疑わないで怒ってくれるのはそれだけ信用してくれている証…僕は本当に恵まれてるな。


 ただ…それは個人間だけでの話。


 その間に組織が挟まるなら話は変わって来る。



「公的に記録が無いという事は不正契約に当たりますよね?」


「そうだけど…」


「……まさか、また自己責任ですか?」


「……」



 この“冒険者は自己責任”という酷く曖昧で色んな解釈が出来てしまうルールが僕とジゼルさんの間に溝を作ってしまう。



「義務付けられている事を疎かにしたんですよ?それでも冒険者ギルドとしては動かないんですか?」


「…『嵐の谷』に行ったのなら入退履歴があるはずだから『天の剣(ソル・クラス)』とユアの履歴が確認出来次第公的に罰則を与える事は出来る。…でも、除名処理なんて大事じゃなく、今まで不正に働かせた際の稼ぎの一部、本来ユアに払われるべきだった金銭の支払いとランク査定にマイナス評価を付けるぐらいしか出来ない。それに、ちゃんとした雇用契約を結ばなかった、確認しなかったユアの自己管理能力責任にもなるんじゃないかな?」


「12歳の女の子が…故郷で待つ母親と弟の石化を解く為に、母親に楽をさせたいが為に、弟を学園に通わせたいが為に頑張っていた女の子の前でその言葉をもう一度吐けますか?」


「…言えるよ。だってそういうのも覚悟した上で冒険者になったのはその女の子だよ?」



 そう…あの時はただの一般人だった僕が被害を受けたから冒険者ギルドが動いただけで、これが冒険者同士になればギルドは規約外の個人間の問題として不干渉になる。


 本当に腹立たしく思うけど…こんな一社員の個人的な諍いに社長が出張って首を突っ込む訳が無いし、部外者に迷惑を掛けていないのならノータッチだ。


 …きっと、こうやって当事者のユアじゃなくて部外者の僕が感情的になって突っかかってるのはお門違いなんだろうな…。



「…そうですね、友人が酷い目に遭った所為で部外者の僕が少し熱くなり過ぎました」



 グツグツと煮え立つ怒りを深呼吸で沈めた僕はテーブルにジゼルさん宛ての手紙を置いて立ち上がり、



「これ、パトラさんに送ってもらえると助かります。ジゼルさん達なら中身を見ても構いませんが、国関係の手紙なので気を付けてくださいね」


「国関係…手紙に関しては分かったけど、もしかして前みたいに私刑を与えるつもりじゃないよね?」


「私刑だなんて…最初は殴られ剣を抜かれた事に対しての正当防衛ですし、この前はジゼルさんが立ち合いしてくれた正式な決闘ですよ?一時の感情でユニコードの僕が小物如きの為に手を汚す訳ないじゃ無いですか」


「……」


「それにユアは復讐じゃなく、ダンジョンアタックに失敗して『天の剣(ソル・クラス)』が弱肉強食という自然の摂理でくたばる事を望んでます。友人がそう望むなら僕からは何もしませんよ」


「…じゃあ、何で『天の剣(ソル・クラス)』について聞いて来たの?」


「そういうクズを野放しにしている冒険者ギルドの杜撰な管理体制に苦言を呈しに来ただけです。…あ、勘違いしないで欲しいんですけど、冒険者ギルドに対して不満を述べているだけであって冒険者ギルドに所属していたとしてもジゼルさんとミミさん、パトラさん個人の事はもちろん大好きです。ジゼルさん達は規則に則ってるだけっていうのもちゃんと理解してますし、ギルドの長という立場抜きの個人の感情では今のお話に怒りを示してくれてました。それだけで十分です」


「……」


「それにあーだこーだ言ってますけど…結局は友人を酷い目に遭わされた八つ当たりみたいなものですから、あまり気にせず子供の癇癪だと流してください。では僕はこの後新しい家を見に行く予定があるのでこれで」



 部屋を出る前に一度頭を下げて白雪と共に冒険者ギルドを後にした。



「…はぁ、こんなに痛い所を抉って来る子供の癇癪があってたまるかって…」


「そうですね…やっぱり“冒険者ランクの再査定”は急務になりそうですね」


「だね…」



 そんな二人の苦悩は僕の耳には届かなかった…。

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