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神匠の弟子

本日の投稿はここまでです。

「あの時はリオに気を取られてて気づかなかったが、まさかシラユキが喋れる様になってたとは…」


「はい、練習しました。こうして人の姿をしている時はアリアと名乗っています」


「アリアか、ならその時はそう呼ぼう」


「お願いします」



 どうも年末から約束していたお疲れ様会をようやく開けた僕です。


 時刻は22時…このお疲れ様会の参加者はリベーラさん、アンリさん、ユウリさん、突然参加のリオさん、『渡り鳥(ウルグス)』の皆で、本当はメルクリアさんやエルルさん、チアラさんとかも呼びたかったんだけど新しい新入生を迎えたばかりの学園が忙しかったり、模型作りで忙しかったりと欠席になってしまった。


 まぁ、突然だったし仕方ないよね。



「それでだがシオン…少し二人で話さないか?」



 お疲れ様会も終わりの雰囲気が漂って来た頃、リベーラさんからのお誘いが来た。



「そうですね、僕も色々リベーラさんに伝えておかないといけない事があるので。…アリア、しばらく任せていい?」


「分かりました」



 家の事は任せてリベーラさんと庭に出て切り株のベンチに座れば丁度いい風が上がった気分を落ち着けてくれる。



「…なんかこうして二人だけで喋るのも久々に感じるな」


「そうですね…僕も随分久しぶりに感じます」


「そうか。…それで何だがシオン」


「…?何ですか?」


「以前話したスレイン家との見合いの話は無くなった」



 あれ…僕が調査しようと思ってたんだけど断る事になったんだ?



「そうなんですか?」


「ああ。実は少し前にレクトフォーナーの店主のフォリア・セレステ氏が共同出資の事業について話し合いに来たんだが、その時にスレイン家が裏で色々やっている事を教えてくれたんだ」



 フォリアさんが…?もしかして制裁していたらスレイン家に辿り着いたのか?


 僕が盗賊共から奪って渡した資料にはスレイン家の情報は無かったけど…フォリアさんが教えたという事はそう言う事だったのかな?



「で…フォリア氏が言っていたんだ、“リベーラはんの息子からもらった情報のおかげやな。恩を母親に返しとくわ”と。シオンは何をしたんだ?」


「あー…あれですね、この前メルクリアさんと一緒に盗賊団を壊滅させに行ったんですよ」


「盗賊団を壊滅って…そんな気軽に言う事じゃないけどな…?」


「あはは…僕もそう思います。…それでその盗賊団が貴族と取引してて、尻尾切りをされないようにか、もしくは逆に脅す為か依頼書とかを几帳面に残してたんですよね。その書類に書かれている情報が正にフォリアさんが管理してる狩場を襲ったりする内容だったので渡したんですよ。そしたら急に用事が出来たとか言って…多分その貴族に報復制裁を繰り返したらスレイン家に辿り着いたんじゃ無いんですかね?」


「なるほどな…ちなみに何でいきなり盗賊団を壊滅させる事になったんだ?メルクリア殿には何か考えがあるんだろうが…」


「その理由はこれですね」



 右腕を差し出し黒と金の三連ブレスレットに姿を変えている『黒金の杯』を見せる。



「綺麗なブレスレットだがこれは?マジックアイテムの類か?」


「多分リベーラさんなら知ってると思うんですけど…『生者喰らい』って言う王城の禁物庫に封印されてた杖を知ってます?」


「知っているが…まさか…」


「はい。僕がルクス陛下を身を挺して守った褒美で宝物庫の武具を何か貰える事になったんですが、『生者喰らい』が何故か禁物庫から移動してたみたいで…それを知らずに触っちゃったら理性を持つ武具(レリックウェポン)だったらしく所有者に選ばれちゃったみたいなんですよね」


「なっ…」



『生者喰らい』の曰くを知ってるのか顔を青褪めさせるリベーラさん…そりゃ心配だよな。



「で、選ばれたのはまだ良かったんですけど…」


「いや、良くないんだが?」


「あはは…その後、僕の魔力を常に吸っていたのか一月ぐらい魔法が使えないしずっと魔力欠乏症が出て大変だったんですよ」


「やっぱり良くないじゃないか…」


「それで流石に困ったな…ってなったんですけど、エルルさんが使ってる杖の事を思い出したんですよ」


「エルル氏の杖?」


「ええ、あの杖も『生者喰らい』と同じ理性を持つ武具(レリックウェポン)らしく、全魔力の七割を注いだら主として認めてもらったと。なら認めてもらうにはどうしたらいいんだろ?と思ってメルクリアさんの所に行って色々考察と検証を重ねた結果…『生者喰らい』と名付けられた所以、人を殺す事なんじゃないかと」


「…それで盗賊団を壊滅させる事に繋がる訳か」


「です。それからメルクリアさんは冒険者ギルドで生死を問わない盗賊討伐の依頼を受けて来てくれてそれをこなしたんですけど、やっぱり僕とメルクリアさんの考え通りで…今ではこんな感じです」



 ブレスレットから金の鎖が絡みつき金の輪が三つ浮かぶ杖の形に変え、コツンと地面を叩けば火、水、風、土、爆、氷、雷、鉄、光、闇の小さな球が無数に周囲に浮かぶ。



「すっ…凄いなこれは…光は聞いてたが、闇も使えるのか…?」


「この杖に認められたからか魔力量も増えて魔法の制御も上手くなったんで練習したら習得しました。まぁ、エルルさんとメルクリアさんからしたらユニコードなんだから出来て当たり前なんですけどね?」


「基本四属性に上位四属性、系統外の光と闇を扱えて当たり前か…本当に末恐ろしいな…」



 杖をブレスレットに戻せば蛍の様に浮いていた球も弾け、隣の酒場の喧騒が聞こえてくる。



「後、言わないといけない事があって…」


「…?何だ?」


「実は三級薬剤師になったとか、危険地域の調査隊であるウォーカーに入団したとか、白雪が聖女とか、もう少しで魔導義肢が完成───」


「ま、待て待て待て!今変なのが混じっていなかったか!?」


「変なの…?」


「白雪が聖女というやつだ!どういう事だ!?」



 それから語る事が無くなるまでお互い驚き合ったり問い詰め合ったりと今まであった事を存分に語り合い───



 ………


 ……


 …



「結局泊まる事になって済まなかったな」


「いえいえ、久しぶりにいっぱい喋れて嬉しかったですよ」



 翌日の7時頃、僕はリベーラさん達の見送りをしていた。



「私達も一緒に泊まってごめんなさいね…折角の親子の時間だったのに」


「そうだね…今度は水入らずのタイミングを作るよ」


「いえいえ、いつでも一緒に来てください」



 申し訳なさそうにするアンリさんとユウリさんに笑みを向け、昨日の内に作っておいたお弁当を渡せば二人も笑みに変わる。



「一応冷めても美味しい物にしてあるので仕事の休憩中にでも食べてください」


「ああ。…それとシオン、あまり危ない事はするなよ?」


「あはは…気を付けます」


「それとリオの奴にも言っておけ。変な気を起こしたら容赦しないとな」


「は、はは…言っておきます…」



 そんな怖い伝言を預かりながらもリベーラさん達を見送り、少しだけ肩の荷が下りた軽い体で自宅の鍛冶場に戻れば、



「師匠、戻り───」


「おう」



 そこには美しい緋袴とサラシ姿のリオさんが居た。



「…あ?何マヌケな面してんだ?」


「いえ…美しいなと…」


「あぁ…?んな馬鹿な事言ってねえで準備しろ」


「わ、分かりました」



 集中してるのかいつもよりキツく吊り上がった目に一瞬気圧されながらも『耐火』『耐熱』『環境耐性』『耐衝撃』の魔法陣を施した黒いマスクと手袋、黒の長袖のシャツとズボンに着替えて最後に髪をバンダナの中に仕舞い込んでいく。


 この格好は昨日の内にリオさんに用意して置けと念を押された物で、これが無いと人間の皮膚じゃ重度の火傷を負ったり肺が焼けたり髪が燃えるらしい。


 だからリオさんもかなり真剣に僕の家が火事にならないか鍛冶場を調べてたみたいだけど、こうしてやる気になっているという事は問題が無い様だ。



「…準備出来たか?」


「はい、問題無いです」


「………よし、始めるか」



 髪をポニーテールに纏めるリオさん…更に集中力が高まり、まだ火を入れていないのに鍛冶場が熱く息苦しくなった気がする。



「台」


「はい」



 熱で燃えない様に土魔法で岩の台を作り、固定化の魔法陣を刻むとリオさんが【空間収納】から色んな物を取り出し並べていく。



「まずは眼帯の奴の剣だ」



 王国騎士団長補佐のルシェロさんの剣に使う材料は五つ。


 鈍く青い輝きを宿す青い鉱石の塊、鮮やかな青をした何かしらの鱗、穴がポツポツと開いた灰色の石、周囲の風景を鏡の様に映す銀色のインゴット、白と茶の何かしらの羽が置かれていて、一つずつ【真眼】で確認すると鉱石の塊は『アダマンタイト原石』、甲殻は『シードラゴンの甲殻鱗』、灰色の石は『エアガルドの岩盤石』、銀色のインゴットは『祝福された聖銀塊』、白茶の羽は『グリフォンの落羽』だと分かる。



「見ただけで高級そうな素材ですね…」


「まぁな。んで、こっちがリベーラもどきの剣に使うやつだ」



 リベーラさんもどきって…確かに似てるけど…。


 …そんな王国騎士団副団長補佐のカリスさんの剣に使う材料は九つ。


 血よりも赤い透き通った宝石の様な鉱石の塊、透き通った無色透明の氷の様な結晶塊、綺麗なガラスの瓶に入ったキラキラとした液体、赤色、緑色、青色のキラキラとした何かしらの粉末が三つ、不思議な波模様のある琥珀色の玉、周囲の風景を鏡の様に映す銀色のインゴット、綺麗な水色をした水色のインゴットが置かれ、また【真眼】で一つずつ確認すれば赤い宝石の様な鉱石は『緋色金』、透明な結晶塊は『魔力結晶塊』、キラキラとした液体は『精霊の水』、三色の粉末は『ルビーの粉末』『エメラルドの粉末』『サファイアの粉末』、琥珀色の玉は『カルネラの樹宝』、銀色のインゴットは同じく『祝福された聖銀塊』、水色のインゴットは『ミスリルインゴット』だと分かる。



「ルシェロさんの剣と違って宝石類が多いんですね?」


「魔力を流して剣を杖に見立てて触媒にするっつってたからな。…今から火をぃ入れるから覚悟しろよ」


「わ、分かりました」



【空間収納】から取り出した拳大の黒い石を炉の中に放り込み、一緒に取り出した鉄の棒とナイフを擦り合わせて何かの液体が染み込んだ紙にメタルマッチの要領で火を点ける。



「青い火…」



 そうして燃え盛る火は青で、その紙を炉の中に入れると先に入れた黒い石が勢いよく燃え始めてすぐに鍛冶場の温度を上げていく。



「うっ…凄い…何を入れたんですか?」


「『炎竜石』っつー石だ。普通の石炭や薪なんかじゃ出せねぇ火力を維持し続けられる火種だ」



 その炎竜石を起点に満遍なく炉の中を掻き混ぜ、青い火から炎にまで育てていると石壁とかが触っていられないぐらいの熱を持ち、魔法陣と才能の耐性を貫通して僕の全身から汗が浮き出してくる。



「…師匠は熱くないんですか?」


「慣れりゃ熱くねえよ。もう音を上げんのか?」


「い、いえ、僕と違って汗一つ掻いてないみたいなんで…」


「ハッ…こればっかりは仕方ねえだろ」



 そう言いながら作業を進めるリオさんの顔には一切汗が浮かんでいない…本当に熱くないんだろうな。



「…っし、ここからはウチの感覚で作業すっから黙って見てろ。何かさせるならそん時に指示する。何か質問があんなら全部終わってからにしろ」


「分かりました」



 そしてリオさんの、鍛冶師の界隈ではユニコードと同等の高み、神匠と謳われる『グリム』の作業が始まる…。





 ■





 Side.リオ・グラム



 はぁ…何でこんな事になったんだか。


 ウチはちゃんと言ったんだぜ?下手したら見学だけでも死ぬかも知れねえって。


 そしたらこのガキは“死なない様に対策しないといけないですね。何で見学だけで死ぬかも知れないんですか?”とか笑顔で言って来やがって本当に対策してこうして見学してやがる。


 まず、グリムの技術は人間じゃ会得出来ない…その理由は“熱に弱い”からだ。


 グリムの技術の基本はどんな素材でも溶かして合金に変える超高温の炎を作り出す事で、その炎は人間が近づけば熱で火傷するし、エルフや魚人族なんかが近づけば簡単に死ぬ可能性がある。


 前提としてグリムの技術は種族的に熱に高い耐性があるドワーフにしか継承出来ねえし、過去には竜人族にもグリムの技術を扱う事が出来る奴が居たらしいが…それも砂の一粒で今は誰も継承してねえ。


 だから拒絶してリベーラの息子を巻き込まねえ様にしてたっつうのに…



「───」



 ダラダラと汗を垂らし蒸発させながらも瞬きせず、ウチが素材を混ぜ合わせて合金を作る一挙手一投足を見続けている。


 正直…コイツが怖え。


 前の研ぎの時にも感じた突き刺す様な、魔獣が獲物に向ける捕食者の様な視線が怖い。


 だけど、その視線を向けられると最近感じなくなった物作りへの情熱が、最高の物を作り上げる為に張り詰めさせていた緊張が、手癖の様にやる気無く動いていた腕が、炉から漏れる熱に乗って意味を思い出す様に全身に駆け巡る。


 このガキが…シオンが何処まで本気でグリムの技術を自分の物にしようとしてるのかは分からねぇが…不甲斐ない作業は絶対に見せられねぇ。



「…!髪が───」



 シオンが何か言った気がするが今はどうでもいい。


 炎の音と素材が溶けて泡立つ音だけ聞こえれば今は何も聞こえ無くていい。


 青い炎が揺らめく光景だけ見えれば今は何も見え無くていい。


 …これだけ目の前の物に命を吹き込む為に集中するのは何時ぶりだったかなぁ…。



「……炉から坩堝を出す。少し離れろ」


「はい…っ…」



 青い炎を宿したままの二つの坩堝を取り出せば部屋の鍛冶場の温度が一気に上がり、土魔法で作った一切の不純物が無い砂型に流し込めば徐々に青い炎が勢いを失っていく。


 その上から更に土魔法で作った砂を振りかけて青い炎を消し、ゆっくりと温度を下げて複数の素材を一つに馴染ませ急速に冷やしても爆発しない温度になったらスライムを混ぜて蒸発しなくなった水に入れて合金に仕上げる。


 昔はこのスライム水に入れた時に放出される熱と炉の熱に耐えきれなくて気を失ったんだよなぁ…そんときゃ師匠に無理すんなっつってしこたま説教されて…懐かしいな。



「……」



 …なのにシオンは集中力を途切れさせずジッと作業を見つめている。


 シオンの学ぶ姿勢は本物…もし本当にやる気があるなら弟子にしてやってもいいかもなんて気になって来る。


 だが…限界だな。



「…え?火を消すんですか…?」


「ああ、もう汗出てねぇし、まともに立ってられねぇだろ。今日は終いだ」


「い、いえ!まだぼ、くは───」



 大丈夫だって言おうとしたんだろうが、鼻血ダラダラ出してウチの胸に倒れ込んでちゃ世話ねぇだろ。



「ったく…仕方ねぇな…」



 抱き上げて初めて分かる軽くて華奢な体、女にしか見えねえ顔。


 なのに中身は正真正銘の男で───



「…ハッ、まだウチもこんなに熱くなれたんだな…」



 真っ赤な髪に両腕に浮かび上がる神印(メモリア)…ウチをもう一度この姿にさせるぐらい熱くしてくれる最高の男でウチの一番弟子だ。

ちょっと今回の話は1万文字描き切れませんでした…。(別に絶対に毎話1万文字という縛りはしてないんですけどね…)

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