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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

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第六十六話「ジークフリート、力を封印する」

 統一暦一二一七年六月十八日。

 ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、総督府軍兵舎内。国王ジークフリート


 大賢者殿たちと話し合った後、管理者(ヘルシャー)の力を封印するためにマティアス卿と二人だけになった。

 彼は驚くべき方法を提案してきた。


「これを読みながら強く願ってください。それで力を封印することができます」


 そう言って二十行ほどの文章が書かれた紙を渡してきた。

 私は彼の言っていることが理解できなかった。


「文章を読むだけで封印できるのだろうか?」


「言葉には力があります。それは“言霊”と言って、人の魂に強く刻み込むことができるのです。この文章は前哨戦を含めた我が軍の犠牲者二千九百四名を忘れないと共に、世界を守るという使命に対する強い思いが込めてあります。犠牲者を忘れないことで力を封印し、世界を守るという使命感で封印を解くことができるのです。そのことを強くイメージしながらやってみてください」


 彼がそう言うのであれば、その通りなのだろうと、文章を読み始めた。


「我が軍の忠勇なる兵士にして、我が戦友である二千九百四名が世界を守るために命を散らした……」


 読んでいくうちに身体が熱くなってきた。

 そして、僅かに自分が発光していることに気づく。しかし、そのことは意識から追いやり、封印するという強い意志を込めて読んでいった。


「……彼らの犠牲は尊いものであったが、避けることができたものでもあった。彼らに対する責任を私は強く感じている。そして、残された遺族に対し……」


 思いが身体に刻まれるような、不思議な感じがしていた。

 更に読み進めていくが、戦友たちのことを思い、涙が浮かび、そして頬を伝って落ちていく。


「……私は彼らに誓う! 彼らの死を無駄にすることなく、世界を守ると! そして、同じような危機が迫った時、私は世界を守るために最善な方法を選択する! 二度とこのような悲劇は繰り返さない! そのことを彼らの魂に誓う! 統一暦一二一七年六月十八日。グライフトゥルム王国国王ジークフリート」


 読み切ると、光が消え、フッと力が抜けた気がした。


「これで封印できたと思いますが、どうでしょうか?」


 マティアス卿がいつもの笑みを浮かべて聞いてきた。

 剣術の修行の時のように魔導器(ローア)を意識して力を込めてみるが、それまでのような圧倒的な力は消え、以前の私に戻っていた。


「力は感じない。これで封印できたようだ」


「この封印を解くためには強い意志の力をイメージしながら、この文章を読んでください。それで封印は解けるはずです」


 封印ができたのであれば、解除も同じなのだろう。

 これだけの文章を一読しただけで、一言一句間違えずに覚えておくことは難しい。間違って封印が解かれることがないように、長い文章にしたようだ。


「分かった。では、この紙は大切に取っておかなくてはならないな」


 いざという時に使えないと困るので、きれいに折りたたみ、近くにあった封筒に入れる。


「はい。私も同じものを持っています。ですので、万が一紛失しても問題はありません」


「使うことがないことを祈るが、よろしく頼む」


 こうして管理者の力の封印はあっさりと終わった。


「それにしても卿の知識は凄いものだな。言葉に力があると言うのは初めて知った」


 私の言葉にマティアス卿が一瞬苦笑したように見えたが、真面目な表情で話し始めた。


「言葉には力があります。陛下も演説で兵たちが奮い立つのを感じたことがあるのではありませんか」


「確かに感じたことがある」


「しかし、同じ言葉でも気持ちが伴っていなければ、力は乗りません。今回の方法も同じです。ただ読んだだけでは封印は解けません。そのことはお忘れなきように」


「肝に銘じておく」


 そう答えながら、彼に相談してよかったと考えていた。


(あの力を持ったままでは、私はいつか心が壊れただろう。もっと幼い頃なら神話の時代の英雄のような力があればいいのにと思っていたが、王となった今、力を持つことの怖さを実感している。これも彼が私に教えてくれたからそう思えるのだ。私は幸運だった……)


 翌日、午前十時頃にラウシェンバッハ師団の偵察隊が皇帝に接触したと、マティアス卿が報告してきた。


「第三偵察小隊がマクシミリアン帝とその護衛三百人程度の兵士と接触しました。あと二時間ほどで到着する見込みです」


「では昼過ぎに会談することになるな」


「はい。我が方の出席者ですが、陛下、私、ラザファム、イリスの四人を考えております。中立の立場ですが、大賢者様にも出席していただくようお願いしました。四聖獣様のお言葉を大賢者様から伝えていただいた方が会議を有利に進められますので」


「承知した。基本的には卿に交渉を任せる。私が発言した方がよい場合はいつでも振ってくれたらよい」


 本来なら国王として私が積極的に発言すべきだが、マクシミリアン帝はマティアス卿を苦手としているから、私は出しゃばらない方がいい。


 その後、ラザファム卿、イリス卿、ハルトムート卿ら派遣軍の主要メンバーが集まった。


「午後から皇帝と交渉することになるが、基本的な方針は先日話し合った通り、戦死者に対する弔慰金の交渉と不可侵条約締結に向けた下準備だ。交渉には私、ラザファム卿、マティアス卿、イリス卿が出席する」


「「「御意」」」


 三人が同時に頷く。


「皇帝が総督府に入る際、兵たちを整列させて我が軍の威容を見せつける。ハルトムート卿、ヘルマン卿、グスタフ卿、卿らは軍司令官として兵たちを統率してくれ」


「「「御意」」」


 こちらも三人が同時に頷く。


「皇帝は被害の大きさに意気消沈していたと聞く。我が軍の威容を見れば、更に落ち込むはずだ。それによって交渉を有利に進める。マティアス卿、何か付け加えることはあるか?」


「ございません」


 一応確認したが、彼に言われていたことを伝えただけであるため、微笑みながら頷くだけだった。


 正午前、皇帝を出迎えるため、中央大通りに出た。


(今回の戦いの最後の後始末だ。死んでいった戦友(とも)のために少しでも有利な条件を取り付ける。これが私にできる唯一のことだ……)


 気合いを入れていると、横に立つマティアス卿が小声で話し掛けてきた。


「お気持ちは分かりますが、もう少し力を抜いてください。意気消沈しているとはいえ、相手はあの皇帝なのです。気負っていると気づかれれば、余裕を取り戻すこともあり得ます」


「なるほど。私が泰然としていた方が皇帝はより焦るということだな」


「その通りです。陛下は四聖獣様に怒りをぶつけられるくらいの豪胆な方なのですから、皇帝を相手に気負う必要もないでしょう」


 そう言って笑っている。


「それを言われると返す言葉がなくなるな……」


 私は苦笑することしかできなかった。

 しかし、これはマティアス卿の策の一環だったようだ。


 私たちが笑っているのを南部総督のアンドレ・サイツが見て、顔を引き攣らせていた。また、護民官のエリク・プレヴィンも驚いている。

 皇帝と会う私にこれだけの余裕があることが意外だったのだろう。


 皇帝の一行が見えてきた。

 先頭には馬に乗ったマクシミリアン帝がおり、その後ろに歩兵がきれいに行進してくる。しかし、兵たちの装備は薄汚れており、敗残兵と言われてもおかしくないほどだった。


「ゾルダート帝国皇帝、マクシミリアン陛下に敬礼!」


 ラザファム卿が命令を発すると、私以外が一斉に敬礼する。

 その一糸乱れぬ姿に帝国側が怯んだ気がした。


「ご無事だったようで幸いです、マクシミリアン殿」


 先に私が声を掛けた。

 マクシミリアンは馬から降りると、私に向かって歩いてくる。


「此度は我が民を守ってくれ、感謝する」


 そう言って右手を差し出してきた。


「世界を守るために全力を尽くしました。その結果、我が軍にも大きな犠牲が出ていますが、その価値はあったと思っています」


 そう言いながらも口の中に苦いものがあった。

 今回の犠牲に価値があったという言葉が言いたくなかったためだ。


「立ち話もなんだ。午後にゆっくりと話をさせてもらおう」


 皇帝はそう言うと、ラザファム卿と握手をした後、マティアス卿の前に立つ。


「今回も活躍したようだな。見事なものだ」


 皇帝は右手を差し出した。

 マティアス卿は笑みを浮かべながらその右手を取る。


「お褒めの言葉、ありがとうございます。私の活躍など兵たちに比べれば微々たるものです」


「そうか……」


 皇帝は何か言いたそうな表情を浮かべたが、何も言わずにイリス卿と握手をした後、総督府に入っていった。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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