第五十一話「軍師、奇跡を演出する」
統一暦一二一七年六月十七日。
ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン北東、街道上。マティアス・フォン・ラウシェンバッハ伯爵
管理者に覚醒したジークフリート王と帝国軍がいた街道の上空にいる。
理由は国王がやれることをやっておきたいと考え、私が帝国軍の救助と消火活動を提案したためだ。
国王は負傷したハルトムートらに治癒魔導を掛けた後、私に聞いてきた。
「この後、私はどうしたらよいのだろうか? 私にできることがあるなら、やっておきたいのだが」
まだ管理者となるかは決めていないようだが、得た力でこの状況を改善できるならやっておきたいと考えていた。
「エーデルシュタインは助かりましたが、まだ帝国軍を襲っている魔神たちがいます。それらを排除し、魔窟が発生することを防いではいかがでしょうか」
「確かにその通りだが、どこへどうやって向かえばよいのだろうか?」
「ここより北東約六十キロの位置に帝国軍はいます。今の陛下ならそちらに意識を向ければ、魔神たちを感知できるのではありませんか?」
そう言うと、彼は北東に視線を向けた。
「……確かに何か良くないものがいる感じがするな。あそこに行くにしても、ここから動けるのだろうか?」
私に聞かれても困るのだが、先ほどから全く動いておらず、困っている感じがありありと分かった。
「この光ごと飛んでいきましょう。目的地は分かるのですから、矢を射るつもりで意識を向ければ、自然と飛んでいくと思いますよ」
割と適当なことを言ったが、国王は私の助言にしっかりと頷く。
「確かに行けそうな気がする」
何となくこのまま飛ぶと危険な感じがした。
考えたことが実行できるのだが、物理法則まで捻じ曲げられるのか不安があったのだ。
「では、矢のように細長くして空気抵抗を減らしましょう。その方が速く着くでしょうから」
「そうだな」
そう言うと、光の球を細長い楕円に変える。
そして、風景が一瞬にして変わった。
加速は感じなかったが、周囲の風景が物凄い速度で流れており、下手をすると音速を超えているのではないかと思ったほどだ。
体感にして二分ほどで到着したから、時間の流れが同じであるなら音速を超えている。
そして、今ここにいるが、未だに魔将たちが魔導を放っていた。
「あれをどうにかしたいが、卿の意見を聞きたい」
ここまで上手くいったことから、私の助言に従う気でいるようだ。
聞かれても困ると再び思ったが、今の状況でやれることをやっておいた方がいいと割り切ることにした。
「魔将たちを消すために魔素を吸収しましょう。イメージは大きく息を吸う感じでやってみてはどうでしょうか」
いい加減な方法だと思ったが、自信をもって進言した。
何となく今の彼ならイメージが掴めさえすれば、何でもできそうだと思ったためだ。
「やってみる」
そう言うと、大きく息を吸い始めた。
私の眼でも魔素がここに流れ込んできているのが分かる。
(大丈夫なのか?)
一瞬そう考えたが、今更別の方法を提案できない。
力が吸い寄せられると気づいた魔将が慌てて逃げ始めるが、それを先回りするように移動する。
「逃げられては厄介です。円を描くように飛んで、追い詰めながら半径を小さくしていきましょう。そうすれば、逃げられませんから」
先ほどより速度は落としているとはいえ、魔将たちより遥かに高速で飛翔しているため、次々と消滅していった。
その中には魔竜と呼ばれる竜もいた。
しかし、竜としての矜持はなかった。ブレスを放って抵抗するようなこともなく無様に逃げようとしたが、あっさりと消滅させられた。
「あれが元凶のようですね」
そう言って魔神らしき存在を指差した。
ここに来て分かったことだが、国王の力の一部を共有しているのか、魔素や力が見えるようになっていた。
魔神は必死に逃げようとしたが、魔竜と同じようになすすべもなく消えた。
「これで魔神たちは排除できたと思うが、次はどうすべきだろうか」
国王も自信を持ってきたらしく、少し楽しげな感じで聞いてきた。
私もここはこの流れに乗るべきだと考えた。
「火災に対処しましょう。火によって魔素溜まりが活性化されますから」
「そうだな。だが、あれほど広範囲の火災を消すにはどうしたらよいのだろうか? 大賢者殿と鷲獅子様がやったように雨を降らしたいが、やり方が分からないのだが」
以前より範囲が広いことと、山地形でないため、上昇気流を作り出しにくい。そのため、時間が掛かると思い、別の方法を提案する。
「焼けているところの空気を止めましょう」
「空気を止める……それで火が消えるのだろうか?」
「火が燃えるためには空気が必要です。温度が下がるまで油断はできませんが、数時間遮断しておけば、今以上に延焼することはありません。ただ帝国兵が残っている可能性がありますから、地上から二メートルほどの高さより上だけでお願いします」
「止めるというのがよく分からないのだが」
「流れができないように固定するイメージではどうですか」
私の言葉に頷き、実行する。
それで煙が全く上がらなくなった。
「できたようだ。他にはないだろうか」
満足げな笑みを浮かべている。
簡単に延焼を防げたことで自信を持ったようだ。
「では魔素溜まりを封じましょう」
私の言葉に国王は驚く。
「あれは四聖獣様でも封じられぬと聞いた。私にできるのだろうか」
「管理者の力を得たのであればできるはずです」
「卿が言うのであれば、できるのだろう。具体的にどうしたらよいのだろうか?」
自信を持って言い切ったものの、具体的な方法を思いついていなかった。
「そうですね……」
そう言いながら考えていく。
魔素の流入を止められないのは、一度流路ができるとその部分は永久に残るからと聞いている。
そのため、力技で押し留めてもそれをやめれば、残っている流路から再び魔素が噴き出すことになる。
また、蓋をしようとしても圧力が掛かって蓋が飛ぶように噴き出してしまうらしい。
(蓋ができないのなら、戻すラインを付けたらどうだろうか? 魔素が水と同じようならあまり意味はないけど、魔象界の魔素密度というか、魔素圧力が一定とは限らない。圧力差があるなら流れができる。その方が絶えず圧力が掛かる蓋より楽になるはずだ)
こう考えた理由は魔素溜まりの特性を知っているからだ。
魔素溜まりは強い魔獣を生み出すものと弱い魔獣を生み出すものがあることが知られている。比較的距離が近くても差が出るので、魔素の密度が違うのではないかと考えたのだ。
「難しいかもしれませんが、複数の魔素溜まりを繋いでしまってはどうでしょうか? 具体的には空間を捻じ曲げて無理やり繋げる感じです……」
魔象界はこの世界である具象界とは異なる世界と言われている。三次元の世界ではどう表現するのかは分からないが、異次元同士なら空間を捻じ曲げるイメージで繋げられると思ったのだ。
「空間を捻じ曲げる? どうしたらよいのだろう」
そう言われても私にも分からないが、イメージさえ掴めればできると考え、自信満々に説明していく。
手の平を見せ、中指と親指の指先をそれぞれ示す。
「平面であれば中指と親指の先端が付くことはありません」
そして、指を曲げて中指と親指で丸を作る。
「ですが、このように指を曲げれば、指先同士は簡単に接触するのです。そのイメージで空間を捻じ曲げて接続するのです」
自分でも無茶ぶりだと思うが、国王は小さく頷いて目を瞑った。
「なるほど。マティアス卿のいう意味が何となく分かった。確かに指のようになっている。それを繋げば……できた」
私の拙い説明でできてしまったらしい。
私は余裕の笑みを浮かべたまま頷く。
「さすがは陛下です。では、他のところも繋いでいきましょう」
コツを掴んだのか、十分ほどですべての魔素溜まりを繋ぎ終えた。
魔素の流出は止まったが、これで恒久的な対策になるかは分からない。それでも最も懸念された魔窟化には対処できたはずだ。
「これで魔窟になることは防げました。負傷者の治癒を行い、皆が待つエーデルシュタインに戻りましょう」
「そうだな。これまでは敵であったが、今は友軍なのだ。助けられるなら助けてやりたい」
そう言うと、エーデルシュタインで行ったように治癒魔導を放った。
「私にはこれほどの力がある……それはよく分かった」
それだけ言うと、エーデルシュタインに向けて移動を始めた。
町に戻ると、本部の上空で止まる。
「もうここから出られるのではありませんか?」
「そうだな。卿のお陰で理解できた。さすがは我が軍師だ」
そう言われると面映ゆい。
今回のことに限れば、進言したことはいい加減なことばかりだったからだ。
「では、今後のことは戻ってから伺います。それでは後ほど」
私がそう言うと、国王は微笑んだ。
この場で聞いてもよかったのだが、何となく答えがわかったからだ。
「そうだな。大賢者殿にも伝えたい。では、後ほど会おう」
それだけ言うとゆっくりと光が消えていった。そして、私の姿も同じように消えていく。
(これで私も戻れたらいいな……)
そんなことを考えたが、すぐに意識が消えた。
「マティ!」
妻の声で目を覚ます。
「よかった! なかなか意識が戻らないから心配していたのよ!」
涙を流している妻に声を掛ける。
「ただいま。何とか生き残れたようだね」
「ええ」
そう言いながら妻は私を強く抱きしめた。
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