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新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

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第四十四話「グレゴリウス、軍師の策に気づく」

 統一暦一二一七年六月十七日。

 ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、総督府軍本部上空。元第二王子グレゴリウス


 一つ目巨人(クークロープ)にエッフェンベルクらがいた建物を破壊するよう命じた後、空に舞い上がった。

 中にいるであろうジークフリートとラウシェンバッハが逃げ出してくるのを待ち構えるためだ。


 舞い上がった後、北に視線が向いた。


(火災が広がっていない……先ほどまでの勢いなら、町中が火の海になっていてもおかしくないはずだが……)


 城壁での戦いに夢中になっていたため、城内での戦いに意識を向けていなかった。

 さっき見た時も上の方しか燃えていないなと少し疑問に感じていたが、激しく炎が上がっていたため、それほど気にしていなかった。


 しかし、冷静になってもう一度見ると、明らかにおかしい。

 何がおかしいのか直接確認するために近づいたのだが、そこで再び嵌められたことに気づいた。屋根の上に麦藁を束ねたものが設置されていたのだ。その事実に怒りが爆発する。


「ラウシェンバッハの小細工か! 悪魔どももなぜ気づかぬ!」


 そこで手近にいた上級悪魔(グロースデーモン)に命令を伝えた。


「屋根を狙わず、一階の窓を狙え! この程度のことになぜ気づかぬ! 早くしろ!」


 上級悪魔は俺の怒りを受けて這う這うの体で飛び去った。

 これで大規模な火災を起こせると満足し、先ほどの場所に戻る。

 戻りながら、なぜこのような小細工をしたのかと考えていく。


(屋根が燃えていれば火災が起きたように勘違いする。だが、いずれ気づくのだから意味はない……いずれ……僅かな時間でもいいから時間を稼ごうとしているのか? 大賢者が戻ってくることを期待しているにしてもあまり意味はないが……)


 この小細工では長くても二十分程度の時間しか稼ぐことはできない。

 その程度の時間なら誤差だ。


(大賢者が早期に戻ると確信しているのか? だが、連絡する手段はないはずだ。叡智の守護者(ヴァイスヴァッヘ)の魔導具でも二十キロが限界なのだから……だが、あのラウシェンバッハが無意味なことをするとは思えぬ……ペテンに掛けられている気分で不愉快だ……)


 そこで北に意識を向けた。

 そして、ごく僅かだが北東から魔導の力を感じた。


(大賢者が戻ってきているのか? あと十キロもないぞ……くそっ! このために時間を稼いでいたのか!)


 大賢者は帝国軍に向かう時とは異なり、力の放出を抑えているようだ。


(どうやったかは分からんが、大賢者に連絡したのか! 戻ってくるまでの時間を稼ぐ作戦か!)


 まんまと引っかかったことに怒りが爆発する。


「大賢者が来る前にこの町ごと吹き飛ばしてやる! 消し飛んでしまえ!」


 そう言って俺が使える最大級の魔導を発動しようと力を集める。


「強力な魔導を使うつもりです! 導師たちよ! 彼を攻撃しなさい! 魔導を発動されたら、この町は住民ごと消え去ります! 早く!」


 森人の魔導師が叫び、光の槍の魔導を俺に飛ばしてきた。

 しかし、俺は避けることなく、それを受ける。

 光の槍は俺に届くことなく、消滅した。


「無駄だ。その程度の魔導では邪魔することすらできぬわ」


 更に魔導が飛んでくるが、結果は同じだった。


 その間に一つ目巨人たちが建物に体当たりを続けている。

 バキバキという柱や梁が折れる音が響き、大きく揺れていた。そのため、魔導師らは立っていることすらできない。


 魔導を放とうとした時、足元から思わぬ声が聞こえてきた。


「グレゴリウス兄上! やめてください!」


 少し離れたところに白い鎧に身を包んだジークフリートが立っていた。


■■■


 統一暦一二一七年六月十七日。

 ゾルダート帝国南部エーデルシュタイン、護民官公邸。国王ジークフリート


 魔神との戦いが始まった。

 私は護民官の公邸の一室に待機しているが、総司令部からの情報は適宜入っており、やきもきしていた。


 特に魔神が現れ、南の城壁をあっという間に制圧したと聞き、クローゼル中将らラウシェンバッハ師団の猛者たちがどうなったのか気になって仕方がなかった。


 そのため、部屋の中を落ち着きなく歩き回り、護衛の(シャッテン)、ヒルデガルトに呆れられていた。


「陛下がここで歩き回っても事態は好転しません。それよりもいつでも脱出できるように心の準備をしておく方がよいと思いますよ」


「ヒルダの言っていることは分かるのだが……もちろん、私にできることはない。それでも戦闘の音が聞こえる中で、兵たちに声を掛けることすらできないのが辛いのだ」


 そんな話をしていると、南の城門が破られたという情報が入った。


「そろそろ脱出の指示が出ると思います」


 彼女の言葉に大きく頷くが、その直後にハルトムート卿が行方不明という情報が入り、思わず立ち上がってしまう。


「ハルトムート卿が……」


 詳しい情報は聞けていないが、魔神と直属の一つ目巨人(クークロープ)ら大型魔獣の部隊に攻撃を仕掛けたらしい。


「ラウシェンバッハ閣下より、大賢者様はここより北東三十キロの位置にあり、あと十五分ほどで到着される見込みと連絡がありました」


 その言葉にほっと息を吐き出す。


「大賢者殿が来てくれるのだな。これで何とかなる」


 しかし、事態は急変した。

 情報は入ってこないが、南から激しい破壊音が響いており、大型魔獣が建物を破壊していることが分かる。


 更に北でも拡声の魔導具を使った命令が緊迫感を増しており、激しい戦いになっていることが窺えた。


「エッフェンベルク閣下より指示がまいりました。陛下には直ちに脱出していただきたいとのことです」


 私に同行する通信兵が報告する。


「了解した。では下水道に降りるとしよう」


 下水道に降りるには屋外にある点検用の縦穴を降りていく必要がある。縦穴は公邸の南側の通りにあり、そこまで急いで移動する必要があった。


 公邸を出ると、木が燃える匂いが漂い、ドンドンやガンガンというような何かを激しく叩く音が響いている。


 南に視線を向けると、百メートルほど先にある総督府軍本部の建物を一つ目巨人が激しく攻撃している様子が見えた。


「大丈夫なのだろうか……」


 私が一瞬足を止めると、ヒルダが急ぐように促す。


「ラザファム卿やマティアス卿だけでなく、大導師シドニウス様もいらっしゃいます。我々は先を急ぎましょう」


「そうだな……」


 そこまで言ったところで南に向かう兵士の一団がいることに気づく。


『一つ目巨人をこれ以上北上させるなという命令だ。急げ』


『魔神はグレゴリウス殿下らしいが、奴の言葉に耳を傾けるな。姿は殿下のものであっても魂は魔神なんだからな』


 その言葉に立ち尽くしてしまった。


(グレゴリウス兄上が魔神に? 兄上の心が残っているなら、止められるのではないか……)


 グレゴリウス兄上と直接話した経験は少ないが、魔神に乗っ取られた状態をよしとする方ではない。


「総司令部に向かう! グライフトゥルム王家の者として兄上を止めなければならない!」


「いけません! 魔神に魂を奪われたら対処のしようがないのです!」


「大賢者殿もすぐにやってくるんだ! それまでの時間を使って説得する!」


 ヒルダの言葉に従わず、走り出していた。

 巨人たちが破壊しようとしている建物にはマティアス卿を始めとした、私にとってかけがえのない者たちがいるのだ。

 それを救うことなく逃げ出すことなどできなかった。


「危険です! 魔神は強力な魔導を使おうとしています! すぐに地下へ!」


 彼女に言われるまでもなく、私も強い力を感じていた。その力は素人の私でも地下に逃げた程度では無駄だと思うほど強い。


 身体強化を使って走り出すが、僅か百メートルしかなくても間に合うとは思えなかった。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


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