表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新グライフトゥルム戦記~運命の王子と王国の守護者たち~  作者: 愛山 雄町
第十章:「奮迅編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

356/411

第十七話「大賢者、皇帝に直談判する」

 統一暦一二一七年六月三日。

 ゾルダート帝国東部、帝都ヘルシャーホルスト、白狼宮内。大賢者マグダ


 夜遅く、帝都に到着した。

 今日一日で二千キロメートルも移動し疲れていたが、それを押して皇帝への謁見を求めた。


 当初、宮殿の衛士はこのような時間に髪を振り乱した老婆が現れたことで、文字通り門前払いしようとした。


「儂は助言者(ベラーター)のマグダじゃ! 世界の存亡に関わる話がある! すぐに門を開けよ! 開けぬのであれば、門ごと焼き払う!」


 そう言って巨大な火球を頭上に顕現させる。

 もちろん本物の炎ではなく幻じゃが、今は一秒でも惜しいゆえ、普段は使わぬ脅しを行ったのじゃ。


「だ、大賢者様! お、お待ちください! すぐに確認してまいります!」


 衛士の一人が大慌てで門の通用口に消えていくが、儂はそれを無視して開いた通用口から中に入っていく。


「し、しばらくお待ちを!」


 そう言って止める者がいた。


「邪魔をするでない!」


 儂がそう言って強い視線を向けると、腰が抜けたようにへたり込む。

 門の中にいた隊長らしき軍人に命令を出す。


「すぐにマクシミリアン帝のところに案内せよ。帝国の、否、世界の存亡に関わることじゃ」


 その軍人は肝が据わっておるのか、儂の言葉を受け、すぐに頭を下げた。


「はっ! ご案内いたします! こちらへ」


 騒動を聞いた宿直(とのい)の者たちが遠巻きに見ている。


 途中で別の軍人に引き継がれたが、そのまま宮殿の奥にある応接室に案内された。

 そこには皇帝が普段と変わらぬ様子で待っていた。


「世界の存亡に関わることだと聞いたが、どのような話なのだろうか?」


「今日の昼頃、ツィーゲホルン山脈の北側で巨大な魔素溜まり(プノイマプファール)が生まれた。幸い、神狼(フェンリル)が即座に手を打ち、魔窟(ベスティエネスト)にはなっておらぬが、未だ予断は許さぬ状況じゃ。それに大量の魔獣(ウンティーア)がこの具象界(ソーマ)に放たれておる。その中には災厄級の魔神もおるらしい」


「魔神……それは真なのだろうか」


 さすがに災厄級の魔神と聞き、顔を引きつらせている。


「神狼が見たそうじゃ」


「なぜ神狼様は討ち取らなかったのだろうか。魔神といえども四聖獣様の敵ではないと思うが」


 もっともな疑問じゃ。

 四聖獣は災厄から世界を守るために存在しているといっても過言ではないからじゃ。


「奴は魔素溜まりを抑えるのに手を取られておったのじゃ。それを放置すれば更に酷いことになったからの。それにの魔神だけが問題ではないのじゃ。同等の災厄級の魔獣がもう一体、更に天災級の魔獣も十体ほど確認したと言っておる。すぐに手を打たねば、あの辺りは壊滅するじゃろう」


「承知した。幸い第三軍団がザフィーア湖西岸にいる。彼らを討伐に向かわせよう」


 儂はその言葉に首を横に振る。


「相手は深い森の中、それも険しい山の中じゃ。帝国軍だけでは厳しかろう」


「確かにそうだが……」


 皇帝は儂が何を言いたいのか理解できないという顔をしていた。


「ことが起きた時に偶然マティアスと一緒におった。あの者の配下の獣人族をツィーゲホルンに派遣するよう依頼しておる。そなたの許可が出ればすぐに出陣できるように準備すると言っておった。これは世界の存亡に関わることじゃ。彼らが出張ることを認めてくれぬか」


 皇帝は少し考えた後、頷いた。


「大賢者殿がそこまで言うのであれば認めよう。だが、この機を利用して我が国に仕掛けてくるようなら、大賢者殿と四聖獣様が責任をもって罰を与えてもらいたい」


「よいじゃろう。じゃが、マティアスは愚かではない。世界が滅びるかもしれぬという時に謀略など仕掛けることはなかろう」


 そう言いながら皇帝の眼を見つめる。

 そなたもそのようなことは考えるなという脅しのためじゃ。


「では、余もエーデルシュタインに向かう。援軍とはいえ、グライフトゥルム王国軍を見れば、我が軍が過剰に反応する可能性があるからな」


「うむ。そのことじゃが、王国軍との共同作戦を認めるという勅書をもらいたい。儂はこの後、すぐにツィーゲホルン山脈に戻るつもりじゃから、第三軍団やエーデルシュタインの者たちにその勅書を見せて混乱が起きぬようにしたいからの」


「承知した。すぐに用意する」


 皇帝はそう言うと、控えていた侍従に紙と国璽を用意させた。

 すぐに勅書が出来上がった。

 内容に問題はなく、儂はその場を立ち去った。


■■■


 統一暦一二一七年六月三日。

 ゾルダート帝国東部、帝都ヘルシャーホルスト、白狼宮内。皇帝マクシミリアン


 午後九時過ぎ、そろそろ就寝しようかと思いながら部屋で寛いでいると、慌てた様子の近衛兵が駆け込んできた。


『大賢者様が突然訪問され、大至急陛下に謁見したいと申しておられます。世界の存亡に関わる重大事について話をされたいとのことです』


『世界の存亡に関わる重大事だと……すぐに通せ。ペテルセンとエルレバッハにもすぐに宮殿に来るよう伝令を送れ』


 服を着替え、応接室に向かうが、何が起きたのか全く想像できない。

 大賢者は僅かに焦りを含んだ表情で応接室に入ってきた。神に等しい力を持つ彼女がこのような顔をしていることに内心で驚いていた。


 大賢者はすぐに本題に入った。ツィーゲホルン山脈に巨大な魔素溜まり(プノイマプファール)が発生し、魔窟(ベスティエネスト)になる可能性があると伝えてきたのだ。


 更に災厄級の魔神と天災級の魔獣が多数放たれたと言ってきた。その言葉に背筋に冷たいものが流れた。


(魔神とそれと同等の魔獣、それに天災級が十体だと……四聖獣様でも手に余るのではないか? いや、四聖獣様は魔素溜まりを抑えるのに手いっぱいと言っている。エーデルシュタイン付近を放棄することになるかもしれん……)


 そんなことを考えていたら、ラウシェンバッハ領の獣人部隊が援軍として派遣する用意があると言う。最初はラウシェンバッハの謀略かと疑ったが、この状況でそれはないと確信し、認めることにした。但し、一応釘だけは刺しておいた。


 大賢者は勅書を受け取ると、すぐに宮殿から去っていった。

 それと入れ替わるように総参謀長のペテルセンと第一軍団長のエルレバッハがやってきた。


「大賢者様のお話はどのようなものだったのでしょうか?」


 エルレバッハの問いに大賢者との会話をかいつまんで話した。


「魔窟が生まれそうになっていると……それは真でしょうか?」


 ペテルセンが疑う。


「直接見ているそうだ。それにあの大賢者がかなり焦っていた。厳しい状況であることは間違いないだろう」


「どうなされるのですか?」


 エルレバッハが聞いてきた。


「とりあえず第三軍団はエーデルシュタインの防衛と周辺の村々の避難誘導に当たらせる。それに加えて余もエーデルシュタインに向かう。そこで防衛の指揮を執るつもりだ」


「相手は災厄級の魔獣です。エーデルシュタインの城壁では安全とは言えません。陛下御自らが出陣される必要はないのではありませんか?」


「ラウシェンバッハが獣人を率いて援軍に来るのだ。民衆に被害が出るような戦いはせぬだろう。ならば、エーデルシュタインは安全だということだ。それに余が行けば、旧皇国領の民も余を支配者として受け入れるはずだ。この機を逃す気はない」


 自らの危険を顧みず、民を守りに出陣したと宣伝すれば、旧皇国領の民の忠誠度も多少は上がるはずだ。


 それに魔神を恐れて帝都に留まったとして、ラウシェンバッハが活躍すれば、民衆はグライフトゥルム王国に期待するはずだ。これまで以上に統治しにくくなることは容易に想像できる。


「小職は陛下のご判断に賛同いたします。森の中の戦いであれば、ラウシェンバッハの手の者が最適。我らは邪魔にならないよう後方支援に徹しておけば、我が軍は温存できますし、強力な魔獣が王国最強の戦力を削ってくれますから」


 ペテルセンは余の考えを正確に読んでいた。


「しかし、ラウシェンバッハが成功してくれればよいですが、大氾濫(アンシュトルム)で魔素溜まりを離れた魔獣は人族が多く住むところを狙うと聞きます。今回は大氾濫ではないかもしれませんが、あの辺りの最大の都市、エーデルシュタインに直接攻撃を仕掛けてくることも考えられるのではありませんか」


 エルレバッハが危惧を伝えてきた。


「卿の言いたいことは理解する。いかにラウシェンバッハといえども、地理に不案内な敵国の深い森の中で完璧に魔獣を抑え込めるのか、余も確信は持てない。それに今回ばかりは奴の千里眼も働かなかったらしく、今から現地に向かうそうだ。そうであるなら、エーデルシュタインが主戦場となる可能性は否定できぬ」


「それならば……」


「だが、ラウシェンバッハは必ず戦場に出る。奴が部下だけを死地に向かわせることはないからな。そうなった場合、余が帝都にいれば、他国だけでなく我が臣民もどう思うか。いや、騒動が落ち着いた後に余を貶める噂を必ず流してくる。そのような弱みを見せるわけにはいかぬのだ」


 エーデルシュタインで指揮を執っていれば、皇帝自らが危険な場所に出向いていたと言い張れる。しかし、帝都にいれば、我が身かわいさに安全なところに篭っていたという不本意な噂を流されてしまうだろう。


「確かにその懸念はございますが、それは成功した場合の話です。万が一、抑え込みに失敗すれば、陛下のお命が失われることになります。ご再考いただけないでしょうか」


「エーデルシュタインで激しい戦いになる可能性は高いが、陥落する可能性は皆無だと思っている」


「それはなぜでしょうか? 先ほどラウシェンバッハが失敗する可能性を陛下は否定されませんでしたが」


「大賢者がいるからだ。六万の市民が全滅するような状況を、大賢者が指を咥えて見ているはずがない。軍が厳しい状況に陥るかもしれぬが、陥落することはなかろう」


 その言葉でエルレバッハもようやく納得した。


「では、明日の朝いちばんにこの事実を公表し、余は第一軍団の一個連隊と共にエーデルシュタインに向かう。ペテルセンは帝都に残り、後方の指揮を執れ。エルレバッハは第一軍団の出陣準備を行い、余の命令を待て」


「「御意」」


 翌日、余は帝都を出発した。


下に前作のリンクがあります。こちらもご興味があれば、よろしくお願いします。

また、地図や世界設定などを集めた設定集もありますので、興味のある方はご確認ください。


感想、レビュー、ブックマーク及び評価(広告下の【☆☆☆☆☆】)をいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ