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死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く  作者: miniko


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35 頼もしくて憎らしい《ジョエル》

 ジョエルとアイザックの視線の先では、オフィーリアとフレデリカが笑顔で何かを話しながらスイーツを選び、給仕の者に取り分けてもらっている。

 とても平和な光景だ。


「はぁ……。オフィーリアは最近どんどん可愛くなってきて困る」


 惚けた様に呟くアイザックを、ジョエルは半目で睨んだ。


「何言ってるんですか。

 姉上は生まれた時から最高に可愛いんですよ」


「オフィーリアが生まれた時、君まだこの世に存在してないだろ」


 アイザックのツッコミは綺麗に無視して、果実水を飲み干すジョエル。

 返事がない事を特に気にもとめず、アイザックはオフィーリアを眺め続けていたが───。


「あれ? ……でも、今日は少し疲れているみたいだな」


「え?」


「ほら、オフィーリアの顔色が」


 無表情にアイザックを一瞥したジョエルだが、内心では驚いていた。


 確かにオフィーリアの目の下には薄っすらと隈が出来ているのだが、従兄から送られて来たという試作の化粧品を使って完璧に隠している。

 お菓子を前にしてフレデリカとはしゃいでいる様子は、何も知らない人から見れば元気そうにしか見えないだろう。


「……最近また悪夢を見るようになって、寝付きも悪くなったみたいなのです。

 今回ばかりはミッ○ィーちゃんもあまり効果がないと嘆いていました」


 オフィーリアの現状を報告すると、チョココロネに引き続いてまたしても、急に登場した聞き慣れぬ名にアイザックが首を傾げた。


「○ッフィーちゃん?」


「貴方がプレゼントしたウサギのぬいぐるみに、姉上が付けた名前です。

 ああ、そう言えば、貴方には一度文句を言わねばと思っていたのですよ。

 アイツのせいで、僕が姉上と一緒に寝る機会が格段に減りました。最悪です」


 憎々しさを込めた台詞をぶつけられたにも拘らず、アイザックは照れた様に頬を緩めた。

 ウサギのぬいぐるみが大事にされていた事が余程嬉しいのだろう。


 だが、直ぐにそんな場合では無いと思い出したのか、心配そうに眉根を寄せる。


「……そうか、悪夢の再発…。

 ここ数年は収まっていたみたいだから、僕も油断していたな。

 何か切っ掛けがあったのだろうか?」


「分かりません。

 昔から姉上は、この件に関して、あまり詳しく話したがらないのです。

 だけど、両親が学園の話をした時に表情が強張ったので、学園入学に何らかの不安要素があるのかもしれませんね」


 オフィーリア達は学園の入学を約半年後に控えている。

 その入学準備が始まった頃から、彼女は徐々に落ち着きがなくなり、魘される夜が増え始めた。

 ジョエルはそんな姉の事が心配で堪らない。

 しかしながら、五歳も年が離れている姉弟が一緒に学園へ通う事は不可能である。


「……そこで、ご相談があるのですが」


 いつも不遜なジョエルだが、珍しく気まずそうにオズオズと口を開いた。


「ああ、勿論だ。学園でのオフィーリアの事は僕に任せてくれ。

 命に代えても護ってみせる。

 ……そうだな、ベアトリスにも協力してもらおうか」


 ジョエルの意を決した願いを皆まで聞かずに、アイザックは簡単に頷き、了承しようとする。


「いや、違う。そうじゃない」


「違うのか?」


「違……い、ません。けど…」


「どっちだ?」


 煮え切らないジョエルの返事に、アイザックは首を傾げた。


「いや、お願いはするつもりでしたが、なにも、そこまで頼るつもりじゃ……。

 ……ですが、…………ありがとう、ございます」


「ああ、良いよ」


 確かに学園内での姉の事をお願いしようとしていた。

 しかし、いくら姉至上主義のジョエルだって、流石に筆頭公爵家の令息に対して、護衛の真似事をしてくれと頼むつもりなど無かったのだ。


 ただ、『学園生活の中で姉の様子をほんの少しだけ気にしておいて欲しい』とか、『何か異変を感じたら自分に知らせて欲しい』とか、その程度のお願いをするつもりだったのに。


(『命に代えても』とか、この人どんだけ姉上が好きなの!?)


 簡単に命を捨てようとしないで欲しい。

 筆頭公爵家嫡男の命……。

 重い。重過ぎる。


 しかも、王子の婚約者である侯爵令嬢まで巻き込もうとしている。

 毎度の事だけど。


 そして、おそらくベアトリスも嬉々として協力するのだ。


 二人とも、普通に考えれば、自身の方が護られるべき高貴な立場だろうに。


 頼もしいけれど、ちょっと困る。


(だって、これでは、姉上とアイザック様の交流を反対しきれないじゃないか……)


 強い味方を手に入れた安堵感と微かな悔しさが入り混じった、何とも形容し難い気持ちが、ジョエルの胸の奥に湧いてくる。




「お待たせ」


 色取り取りのスイーツを乗せた皿を持って、オフィーリア達が戻ってきた。


 オフィーリアにしか向けない、極上の笑みを浮かべるジョエル。

 そんな彼をアイザックが何か言いた気な表情で見ていたけれど、ジョエルは気付かない振りをした。


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