28 何故こうなった?
コンシーラーの件がなんとかなりそうで、ちょっと安心したのだけれど……。
(う~ん……。何か忘れている気がするのよねぇ)
思い出せそうで思い出せない状態。
モヤモヤして、なんとも気持ちが悪い。
「お嬢様、お手紙が届いていましたよ」
「あ、今確認しちゃうから、こっちにちょうだい」
リーザに手渡された封筒に、ヘーゼルダイン公爵家の封蝋が押されているのを見て、ハッと思い出した。
「そうだっ!! アイザックだわ」
あ゛~……、やっちまったぁ。
そう。先日開催した女子会の時、フレデリカに『アイザックにも連絡する』と約束していたのにも拘らず、色々と考える事が多くてうっかり忘れてしまったのだ。
若干の後ろめたさを感じながら、アイザックからの手紙の封を開く。
恐る恐る取り出したその中身は、『舞台のチケットが手に入ったので、一緒に行ってくれないか?』というお誘いの手紙だった。
その文面からは、私を非難する意図は感じられない。
ホッと胸を撫で下ろした私は、早速アイザックに了承の意を伝えようと、レターセットを取り出してペンを走らせた。
約束の当日、アイザックが迎えに来たとの知らせを受けて玄関ホールへ向かうと、彼はジョエルと挨拶を交わしている最中だった。
ジョエルは未だに、アイザックやフレデリカと親しくなってはいない。
それでも、以前の様に敵視している訳ではないみたいだ。
普通の顔見知り程度の関係性である。
足音が聞こえたのか、私が声を掛ける前に二人が気付いてこちらを向いた。
「オフィーリア!」
「姉上!」
そして、嬉しそうに微笑んだ二人は、ほぼ同時に私を呼んだ。
特に仲が良い訳でも無いのに、変な所で息が合っていて、ちょっと面白い。
「アイザック様、迎えに来てくれてありがとうございます。
お待たせてしまいましたか?」
「いや、全然。
それに、オフィーリアの事を考えながら待っている時間も楽しいから、気にしなくて良いよ」
「えっと……」
唐突に甘い言葉を吐かれてしまい反応に困っていると、ジョエルが私の腕に絡み付き、上目遣いに見詰めてきた。
あまりの可愛さに、自然と頬が緩む。
「あら、どうしたの?
今日はいつもより甘えん坊さんなのね」
「だって、姉上は僕を置いてお出掛けをしてしまうのですよね。淋しいです」
「そうね。
でも、ジョエルはもう大きくなったのだから、良い子でお留守番出来るわよね?」
「はい。……お気を付けて行ってらっしゃいませ。
だけど、出来るだけ早く帰って来てください」
「ええ、分かったわ」
しょんぼりとしたジョエルに見送られながら、アイザックのエスコートで馬車に乗り込んだ。
「弟君は、いつ見てもオフィーリアにベッタリだね」
「ええ、本当に可愛いでしょう?」
「う~ん……。まあ、そう……か?」
アイザックは微妙な表情で頷いた。
語尾が疑問系っぽくなっているのは、どうしてだろう?
「オフィーリアに会うのは随分久し振りな気がする」
「なかなか連絡をしなくて申し訳ありませんでした」
「もう僕の存在なんて、すっかり忘れてしまったのかと思ったよ」
「もしかして、怒ってます?」
「ちょっとだけね。
でも、今日一日、オフィーリアが僕に付き合ってくれるのなら、それだけで充分だよ」
「分かりました。何でも付き合います。
今日はアイザックのしたい事を色々とやり尽くしましょう!」
「本当に?」
先程まで拗ねていたアイザックは、とても嬉しそうに瞳を輝かせる。
「ええ、勿論ですわ」
そんな事で機嫌を直して貰えるのであれば安い物だと思い、私は迷わず頷いたのだけど───。
(何故、こうなった!?)
舞台の開演まで、まだ時間があるからと立ち寄ったカフェで、私は大いに戸惑っていた。
テーブルを挟んだ正面には、満面の笑みを浮かべるアイザック。
彼は一口大にカットしたチョコレートケーキをフォークに乗せ、私の口元に差し出している。
「ほら、オフィーリア。あーんして?」
「いや、それはちょっと……」
「どうして?
今日は僕がしたい事に、何でも付き合ってくれるんじゃなかったっけ?」
「……確かに、そうは言いましたけど…………」
───いや、マジで、意味が分からないよ?
確かに何でも付き合うとは言ったよ。
言ったけどさぁ……。
アイザックがしたい事って、本当にコレなの!?
一体なんで、こんな事になっているの?




