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死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く  作者: miniko


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149 活躍の場?《プリシラ》

 一方、王都での捕縛劇の前日、プリシラ達は、相変わらずのんびりゆっくり旅行(?)を楽しんでいた。


「まあ、素敵! この森は綺麗なお花畑が広がっているのね。

 クリスティアン様、ちょっと馬車を降りて歩いてみましょうよ」


 車窓を眺めながら燥ぐプリシラに、向かい側の席に座っている側仕えの女性神官が渋い顔をした。


「先程休憩を取られたばかりではないですか。

 この調子では、いつまで経っても目的地に到着しませんよ」


「でも、こんなガタガタ道なんですもの。

 休憩をしながらじゃなきゃ、直ぐに体が痛くなってしまいますわ」


「プリシラの言う通りだ」


 隣に座るクリスティアンも深く頷きながらプリシラを擁護してくれたが、それでも神官は不服そうに言い返す。


「お得意の治癒魔法でもお使いになればよろしいのでは?」


 微かに眉根を寄せた顔で吐き出された嫌味の様な言葉に、プリシラはムッとした。


「私の治癒魔法は、感染症で苦しむ人達の為に取っておかなければならないのですよ?

 自分の痛みを消す為になんて、簡単に使うべきではありません」


「はあ、然様でございますか」


 その、『苦しむ人達』のもとへ、少しでも早く駆けつけてあげようという真っ当な考えなんて、どうやら頭の片隅にも浮かばないらしい。


 呆れた神官は、もう何も話す気がなくなり口をつぐんだ。

 それを自分の提案が了承されたのだと勝手に捉えたプリシラ達は、馬車を止めさせて四半刻ほど散歩デートを楽しんだ。


 自分達以外の全員が、ウンザリとした溜息をついている事にも気付かずに。



 王都を出てからずっと、この調子である。


 田舎道を進めば、やれ『体が痛い』だの『疲れた』だのと言っては頻繁に休憩を取り、大きな街では、『王子が入ってやるのは店にとって名誉な事だ』などと恩着せがましく宣いながら、買い物や食事に延々と時間を使う。


 王宮騎士達だけでなく、教会関係者まで、プリシラ達の事を疎ましく思っていた。





 翌朝、プリシラは違和感に気付いて首を傾げた。


「ねぇ、なんだか昨日までよりも人数が少し減ってない?」


「昨夜、数名の神官が深酒をしてしまったらしく、二日酔いでダウンした為に置いていく事になりました。

 ウェブスター嬢とクリスティアン殿下のお世話をする者ではありませんし、護衛も充分に足りておりますのでご安心下さい」


 プリシラに問われた王宮騎士は、シレッとした顔でそう答えた。

 本当は、今日行われる王都での大規模捜索を前に、教皇の手先となっている数人の神官や職員を一足先に捕縛したのだ。

 因みにプリシラの世話をしている神官を含む数名は、教皇と深い関わりが無いと判断されたので、このまま何も知らせずに旅を共にする予定である。


「全く。羽目を外して飲酒するとは、任務中だという自覚が足りないのではないか?」


 クリスティアンは憮然とした表情で吐き捨てる。

 騎士は喉まで出かかった『は? それ、お前が言うの?』という言葉を、辛うじて飲み込んだ。




 それから四日かかって、漸くフォーガス伯爵領へと辿り着いた。

 最初の発生地である農村の被害者は既に全員完治していたので、一行が向かったのは次に被害を受けた隣村である。


 ド派手に行われた王都での捕縛劇は、まだ田舎暮らしの平民達にまでは伝わっていない。

 通信魔道具の普及によって、情報の伝達速度は格段に速くなったが、魔道具を作動させるには動力となる高価な魔石が必要なのだ。

 貴族の邸や宿屋、大商会、新聞社などは業務に必要なので通信魔道具を設置している所が多いけれど、誰でも気軽に利用出来る代物では無い。

 そんな訳で、プリシラは未だに自分の後ろ盾が失脚した事も知らぬまま、呑気に笑顔を振りまいていた。



 今日中に患者が待つ村へ到着する予定だと予め聞かされていた女性神官は、プリシラの為に装飾が少なくタイトなシルエットのドレスを用意した。

 しかし、紺色の地味なドレスを着ろと言われたプリシラは不満を口にした。


「皆、聖女候補が来るのを楽しみにしているのに、華やかさに欠けるドレスでは失望されてしまうわ」


「シンプルなデザインですが、最高級の生地を使ったドレスなのですよっ?」


「でも、療養中の皆さんに、明るい気持ちになって欲しいの」


「……そうですか」


 神官は不服そうな顔をしながらも、腰に大きなリボンが飾られたドレスを用意してくれた。





「クリスティアン第二王子殿下とプリシラ・ウェブスター様のご到着です」


 恭しく宣言がなされ、お気に入りのドレスで着飾ったプリシラがクリスティアンのエスコートで馬車を降りる。


 多くの民が出迎え、盛大な拍手と歓声で迎えられると思っていたのに───。

 その場にいたのは、近隣の領地から集められた騎士と、王宮から派遣された騎士だけだった。

 しかも、どう見ても歓迎されている様には見えない。


「これはどうなっているんだ?」


 想像と全く違う現場の状況にクリスティアンは、一番近くにいた大柄で強面の騎士を問い詰めた。


「どうなっている、と聞かれましても。

 既に多くの患者は完治しており、症状が残っている者は数人しかおりません。

 彼等は、近くの診療所で療養しておりますので、この後ご案内します」


「お前は、ハロルド・キッシンジャーか?

 僕が婚約破棄したせいで、ベアトリスと婚約させられたと聞いたが……」


「え? アディンセル様の婚約者?

 初めまして、私はプリシラ・ウェ……」

「何か、勘違いなさっているのでは?」


 プリシラの自己紹介をまるっと無視して、ハロルドはクリスティアンをジッと見詰めた。

 口元に笑みを湛えながらも、その眼差しはとても冷ややかだ。

 一瞬で凍り付いた空気に、ハロルドの部下はブルッと身震いした。


「彼女との婚約は、私にとって幸運以外の何物でもありません。

 まさか、眩い輝きを放つピジョン・ブラッドよりもガラス玉を好む方がいらっしゃるとは。

 私には理解出来ませんが、人の好みは様々ですね」


「はっ!? 何を…………」


 ハロルドの言葉の意味を正確に理解したクリスティアンは、抗議の声を上げようとしたが、途中で言葉を飲み込んだ。

 隣に寄り添うプリシラが、自分が貶されている事も理解出来ずに、キョトンとした表情をしている事に気付いたから。


「では、診療所へご案内致します」


 先導するハロルドに、のほほんとしたプリシラと憮然としたクリスティアンがついて行く。


 とても小さな診療所には、一部屋につき六台のベッドが設置され、カーテンで仕切られている。

 現在、使用されているのは、二部屋。十人程が治療を受けていた。


 皆、症状のピークは過ぎており、それほど顔色も悪くない。


「なんだ、大変だと言われて来たのに、全然大した事ないのね」


「「「は?」」」


 ポツリと零されたプリシラの呟きに、診療所の医師や看護師は苛立った。

 しかし本人は全くそれに気付かず、入り口から一番近いベッドに寝かされていた年配の女性に声を掛けた。


「こんにちは。

 私はプリシラ・ウェブスター。聖女候補です。

 治癒魔法を施しに来ました」


「私はもう治りかけですので、結構です」


「遠慮しなくて良いんですよ?」


 女性は煌びやかなドレスで登場したプリシラを胡散臭く思っているのだが、プリシラにはそれが伝わらない。


「そうだぞ、人の厚意を無碍にするもんじゃない」


「……はい」


 第二王子にまでそう言われてしまえば、断る事など不可能である。

 女性は嫌々ながら治癒を受ける事にした。


「直ぐに楽になりますからね」


 女性の胸の辺りにプリシラが手を翳し、魔力を籠めると、一瞬だけ光を放って直ぐに消えた。


「…………ん? あれっ?

 もう一回、えいっ!」


 首を傾げて再度魔力を籠めてみるが、今度は全く光る様子がない。


「え? 嘘……、嘘でしょ?

 そんなっ……!」


「……プリシラ? どうしたんだ、早く魔法を……」


 動揺するプリシラの肩を掴んで、クリスティアンが呼び掛ける。


「使えないのっ!! どうして……魔法が、魔法が、使えない!!」


 涙目になったプリシラは、助けを求めるように周囲をグルリと見回した。

 だが、彼女に向けられているのは、刺すような嫌悪の眼差しばかり。


 居た堪れない空気が充満し、プリシラはどうしても逃げ出したい思いに駆られて、踵を返した。


 翻ったプリシラのドレスのリボンが引っ掛かり、棚の上に置かれた貴重な治療薬の瓶が倒れる。


「あっ……!」


 誰かが小さく声を上げた。


 床に落下した瓶は、パリンと音を立てて割れた。


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