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死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く  作者: miniko


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119 謎が謎を呼ぶ

 ヴィクター・リンメルは攻略対象の一人である。


 その先入観があったせいか、誰かがお香を利用してリンメル先生を操っている可能性は考えていたが、まさか提供する側だったとは思いもしなかった。


 だが良く考えたら、飲み薬や塗り薬を調合する道具があれば、お香の調合も可能なのではないだろうか?

 そうなると、リンメル先生から感じた香りはお香を使用した時の物ではなく、調合した時の物という可能性も出てくる。



 リンメル先生が担当している薬学の授業は選択制で、受講する生徒は少なく、他の教科に比べて授業時間が多くない。

 それに対して養護教諭は、剣術の授業などで怪我人が多く出る事もあるので非常に忙しい。

 なので薬師でもあるリンメル先生は、授業の空き時間にボランティアとして養護教諭の代理や補佐を務めていた。


 ニコラスの話によれば、入学した直後、授業中に軽い怪我をして救護室を訪れた事があったという。

 丁度、その直前にもっと重症を負った生徒がいた為、ニコラスの治療はリンメル先生が担当してくれたそうだ。


 その際に『疲労のせいで集中力を欠いているのでは?』と指摘され、『睡眠時に焚くと、疲労回復の効果がある』と、あのお香を勧められたのだとか。

 しかし、何度か使用してみたものの特に効果は感じられず、『自分には合わなかったのだろう』と思って使用を中止したらしい。


「公爵家から派遣されている私の侍女の調べによれば、そのお香は疲労回復効果ではなく、自己肯定感を高める効果があるみたいですよ。

 何か心情に変化はありませんでしたか?」


 私の質問に、ニコラスは少し考えてから首を横に振る。


「何の変化も感じなかったぞ」


 やっぱりね。そういう暗示にかかりやすいタイプじゃないと思った。


「なら良かったです。

 ニコラス様には必要ない物でしょうから、今後は使用しない方が良さそうですね」


「ああ、もう使うつもりはなかったので捨ててしまって手元には残っていない」


 ニコラスの答えに、私はホッと安堵の息を吐く。


 全く違う効能を謳ってお香を使用させたのは、故意なのか、ただの過失なのか……?

 まだ断定は出来ないが、いくらこの国に流通していない物だとしても、リンメル先生は薬学の専門家なのだから、過失の可能性は低いだろう。

 そうだとしても、それが彼自身の意思なのか、それとも誰かに誘導された結果なのかは分からない。


 その時、それまで黙って私達の話を聞いていたベアトリスが、徐に口を開いた。


「……ねぇ、もしかしてそれを調べたのって、前にオフィーリアを護衛していた侍女?」


「はい」


「なら、アイザック仕込みだから調査結果は確かよね。

 そうなると、リンメル先生の治療はあんまり信用しない方が良いのかも……」


 ベアトリスの意見に、強く同意を示す。


「私もそう思います。

 しかも、先日の生卵事件の時、クリスティアン殿下からも同じ香りを感じました」


 もしかしたら、クリスティアンにも同じ様にリンメル先生がお香を提供したのかも。


「一応王族であるポンコツにも、リンメル先生が同じ事をしたのだとしたら……、何か良くない意図を感じますね」


 神妙な表情でそう呟いたメイナードに、その場にいた全員が深く頷いた。


 同じ匂いがしたという事は、クリスティアンは思考を誘導されている可能性がある。

 あのポンコツ具合がその誘導の結果なのか、それとも元々の性格なのかは定かではないが……。


 ニコラスについても、あわよくば取り込もうとしたけど、効果が無かったので諦めたって事だろうか?



 でも、何の為に?


 一つの事実が判明した事で、更なる謎が生まれてしまった。


 とにかく『リンメル先生には警戒した方が良い』という認識を共有して、お昼の会談は終了した。




 そして、その日の夕刻。

 帰宅の途を辿る馬車の中で、私はアイザックに朝の話の続きを聞いた。


「アイザックも、あのお香に心当たりがあったのですよね?」


 私の問いに、アイザックは頷く。

 その表情から、物凄く深刻な話が始まる予感がした。


「ああ、実は少し前に王太子宮で事件が起きたのだけど、その実行犯の女からあの香りがしたんだ」


「事件というと?」


「姫殿下に薬が盛られた。

 事前に察知したから、事なきを得たのだが……」


「……それって、王太子殿下の失脚に関係しているのでしょうか?」


「多分ね。

 実行犯は捕まえたが、残念ながら自害されてしまった。


「自害……」


 想像以上に重い話を聞かされて、軽い眩暈を感じる。


「あ、ごめんっ!

 君にこんな物騒な話をするべきじゃなかったよな」


 少し青褪めた私の顔色を見て、アイザックは気遣わしげに眉を下げる。


「いえ、私にも無関係な話ではないので、話して頂けて良かったです。

 それで、姫殿下は?」


 事なきを得たとアイザックは言ったが、もしかしたら怖い思いをなさったかもしれない。


「心配要らないよ。

 姫殿下は無傷だし、ご自身が狙われた事にも気付いていらっしゃらない」


 そう聞いてホッと胸を撫で下ろす。


「それは不幸中の幸いでしたね」


「実行犯は取調べ前に死亡してしまったが、生前の動きを調査したら、最近教会に熱心に通っていた事が判明した。

 それによって、僕もサディアス殿下も、教皇が黒幕の可能性が高いと推測していたんだ。

 だが、リンメル先生も絡んでいるとしたら、良く分からなくなった。

 教皇と先生に何らかの繋がりがあるのか、それとも教皇は無関係なのか……?」


 アイザックが深い溜息をついた。


 様々な新情報を得ることが出来たけど、疑問が解消されるどころか、より複雑になっている。


「こうなってくると、姫殿下の襲撃に薬が使われた事も偶然とは思えないですね」


「ああ、リンメル先生なら薬物の調合はお手のものだろう」


「彼は一体何者なんでしょう?

 王族を狙った事件に関わっているとしたら、そんな人が貴族の子女が通う学園に勤めているなんて、危険ですよね」


「だが、今はまだ明確な証拠がない。

 ニコラスの件を訴えたとしても、言った言わないの水掛け論になるだけだろうし。

 教員に採用する段階で身元調査は済んでいるはずだが、こちらでも彼については詳しく調べてみるよ」


「何か分かったら、私にも教えて下さいね」


「ああ」





 その夜、昼間得た情報について考え過ぎて、目が冴えてしまった私は、久し振りにミッ○ィーちゃんを抱きかかえながら眠りについた。


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