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術式オタクで魔力ゼロの劣等生、AIと妄想力で「できたらいいな」を全部実現して世界をハックする  作者: 七割カカオ


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9/11

第9話 ひと時の別れを決意して指名手配からエスケープする

『死の森』の最深部、マナの渦が視界を歪ませるその中心で、アイが静かに告げた。


(マスター。座標を特定しました。次元の綻びを確認。……『向こう側』のネットワークへの試験的な接続に成功しました)


それと同時に、ミサキが歓喜の声を上げる。


「電波入ったー! 見て、シンくん! バリ5やで、バリ5!」


彼女がこちらに向けたスマホの画面の隅には、確かに階段状の棒が5本ほど立っていた。ミサキが住んでいた『現代日本』との、細い、けれど確かな繋がり。だが、喜びも束の間、アイの声は冷静だった。


(マスター。2点、大きな懸念があります。一つ目は、取得できる情報の正確性です。検索結果には嘘や噂、主観によるノイズが多すぎます。信頼性の確保が困難なケースが予想されます。二つ目は、情報量が過剰であることです。王立図書館の全蔵書を基準とした場合、ミサキ様の世界の情報はその数億倍。日々増え続けるその全てを処理するのは非現実的です)


(なるほど。ミサキさんの世界はそれほどまでに情報が溢れているということか……じゃあ、接続を維持して、必要な時に必要な情報だけを抽出することは可能?)


(はい。情報検索の最適化と抽出の準備に、約72時間――3日ほど猶予をいただきたいです)


(わかった。アイ、頼んだよ)


「……ハル、ミサキさん。情報収集の準備に3日くらいかかりそうです。ひとまず、街に戻りませんか?」


「シンくん、ほんまにありがとう! 楽しみやなぁ、久しぶりにSNSとか見れるんかな」


街へ戻る道中、ミサキはいつになく上機嫌だった。ハルもまた、魔族との和平という新しい希望に瞳を輝かせていた。オニキスの言葉が本当なら、この世界の大きな争いを終わらせることができるかもしれない。そんな甘い期待を、僕たちは抱いていた。


/===== 2 days later =====/


アイから連絡が入った。


(緊急。監視対象『カエル』および『レオン』の生命反応が消失。……王城にて、殺害された模様です)


心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。ジークが念のためにかけておいた監視の術式。それが、二人の最期を察知したのだ。僕はアイから得た信じ難い情報を二人に告げた。


「……二人とも、落ち着いて聞いてほしい。カエルさんとレオンさんが亡くなった。場所は王都。二人は先ほど上層部へ謁見し、森での出来事と『魔族は温厚であり、和平は可能である』と報告して……その直後、国家反逆罪として拘束され、即座に処刑されたらしい……」


「……なんでや。なんで、ほんまのことを言うた二人が殺されなあかんの?」


ミサキが震える声で絞り出した。

ハルが、真っ青な顔で鋭い、そして事実に即した推理を口にする。


「シン……どういうこと? 王国は……魔族の本質を知った上で侵略しようとしてるの? 都合の悪い事実を広められるのを恐れて、二人を処分したっていうこと……?」


(ハル様の推測は概ね正しいと思われます。王国上層部は魔族の性質を把握しており、だからこそ魔族の研究を『禁書』に指定して情報を独占した。彼らの目的は防衛ではなく侵略と資源の強奪です。平和を説く者は、侵略の大義名分を損なう『不純物』として処分されたのでしょう。……その仮説が正しければ、マスターたちも、非常に危険な立場です)


その時だった。

街全体を、押しつぶさんばかりの巨大な魔力の波動が襲った。宿の屋根がミシミシと鳴り、窓ガラスが悲鳴を上げる。呼吸をすることさえ困難なほどの、圧倒的な密度。


「この魔力……まさか……」


「ハル。何か心当たりがあるの? とにかく外だ。……行こう」


僕たちは宿を飛び出した。エンド・マークの中央広場には、街の人々が怯えてひざまずき、上空から降りてくる一人の男を見上げていた。空中を歩むように降りてくる、白銀の毛並みを持つ巨大な霊鹿(れいろく)。その背に乗っているのは、銀髪を長く伸ばした、透き通るような美貌を持つ男――『エルフ王・アルトリウス』だった。


「お父様!! なぜここに?!」


「ハル。久しぶりだな。大きくなったな。……久々の親子の再会がこんな形なのは不本意だが、ひとまずエルフ王国に帰りなさい。迎えに来た」


ハルの実父は、冷徹な王というよりは、どこか過保護な父親の顔を覗かせていた。アルトリウスの視線が僕たちに向けられる。


「隣にいるのは友達かな? ということは、君が娘をたぶらかして……いや、娘がお世話になっているシン君、そちらの女性がミサキさんかな。今君たちが置かれている状況を説明したい。人払いをさせてもらう」


「シンくん、『たぶらかす』言われとるで。ハルちゃんのお父さん、おもろいおっさんやな」


ミサキが小声で茶化してくるが、その目は警戒を解いていない。アルトリウスが指を鳴らすと、一瞬で僕たちの周囲に強力な隠密結界が張られた。


「王国に忍ばせていた間者からの報告だ。シン、ハル、ミサキの三人は、王国の衛兵二名を惨殺し、魔族と共に反乱を企てた大罪人として、近々指名手配されるそうだ」


アルトリウスは重いため息をついた。


「無論、私は王国の言い分など信じていない。衛兵の二人は王国側で処分されたのだろう。奴らは自らの利益のためなら、正義など簡単に曲げる。……先ほどまで私は王国に滞在しており、ハルについては、私の面目で指名手配から外させた。だが、人間の君たち二人については……力が及ばなかった。せめて、身を隠す手伝いくらいはしよう」


「そんな……お父様、私はシンたちに付いて行きます!」


「ハル、ダメだよ……。君はエルフ王国に帰るべきだ」


僕は苦渋の決断を口にした。


「エルフ王、アルトリウス様。ハルを守っていただき……ありがとうございます」


「シン、どういうこと?! 逃げ回るつもりなの? お父様!エルフ王国で二人を匿えないの!?」


「ハルよ、分かっているだろう。もし二人を匿ったことが王国に伝わった場合、それはエルフと人間との戦争にまで発展するリスクを抱えることを意味する。お前に、民を危険に晒す覚悟があるのか?」


ハルは泣きながら項垂れる。僕は、もう決めていた。


「僕は、魔王領へ行こうと思います。先日、魔王軍のオニキスという幹部から招待を受けました。あそこなら、王国の指名手配も届かない。それに、彼の言葉が本当なら、他の勇者たちもそこにいる。……何より僕は、まだ弱すぎます。ハルを守る力さえないんだ」


「何と……君は魔族と言葉を交わし、魔王軍最強と名高いあのオニキス殿と交流があるのか……」


僕はミサキに視線を送る。


「ミサキさん、どうかな。魔王領へ行くのは」


「そやな。蓮たちもいるらしいし、私は異論ないわ。あのオニキスってやつ、信用できそうやしな」


(私もその案に賛成です。一番合理的な選択肢と言えます)


(そうじゃな。ワシも魔王領には興味がある。……魔族の魔法についてじっくり研究する良い機会じゃ)


「わかった。君の判断力と決断力は素晴らしい。……生き延びて、いつかハルを守れるだけの力を得たなら、私のもとへ娘を迎えに来てくれないか。その時は、私の方から君を頼らせてもらおう」


「承知しました。必ず、迎えに行くと約束します。……ハル。絶対に迎えに行くから、それまで待っててほしい」


ハルは溢れる涙のせいでこちらを見れないようだったが、何度も、何度も小さく頷いてくれた。


「私も強くなる。……絶対に、迎えに来てね」


/===== 2 days later =====/


こうして僕は、未知の世界、魔王領へ行くことを決めた。

胸を張ってハルを迎えに行けるだけの強さが欲しい。

王国という歪んだ正義に立ち向かうための、本当の力が欲しい。

馬車に揺られ、ミサキと共に国境を越える僕の胸に、不思議と不安はなかった。


(マスター。魔王領の気象・地形データの解析を開始します。……新しい旅の始まりですね)

死の森を抜けた魔王領の入口。アイの声が、荒野の風に乗って優しく響いた。

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