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28話⑵【魔王の洞窟】

「つまり、魔王はここから出たいんだな?」

『そうだ。協力せよ』

「絶対いやだ」


 死ぬもん。


 私は魔王の封印されている大岩の前の、土で出来た椅子に足を組んで座っていた。

 ずっと立っていたら魔王が「まぁ座れ」と言って、周囲の土を使って出現させたのだ。

 意外と座り心地が良い。


 そして、ずっと暇だったらしい魔王の話し相手をさせられている。

 何百年もひとりで居たせいか、魔王は永遠に喋り続けそうな勢いで喋っている。


 そして、魔力に満ちたシン・デルフィニウムの体を貸せとしつこく言ってくる。


『ルースが死んでから、この世界の情報が途絶えているんだ。どうなったのかが見たいだけだ』

「信じられるか」


 魔王ってのは甘い言葉で誘惑して、結局世界を敵に回すことをするに決まってるんだ。

 いや、なんも誘惑されてないけど。

 この魔王、さっきから自分の願望しか言っていない。


 ルース王子の死後の国の様子を見たいと。


 ん? 

 ちょっと待てよ。


 魔王はルース王子が生きている間に封印されたのだ。死後ではなく自分が封印されてからのこと全部知りたいはずでは?


「ルース王子が死ぬまでのことは知りたくないのか?」

『賢者のやつが手を貸していたのだろう。ルースは頻繁にここに通って勝手に色々話していた』

「ほう」

『あやつは我が死んだと思っておったから墓参りのつもりだったのだろう。国同士の諍いのことや王室内のこと。あやつの子供や孫のこと……生前のように、くだらん笑い話や弱みをベラベラと」


 その話はちょっと詳しく聞きたいな。

 親友の墓参り、不謹慎だけどものすごい萌えなシチュエーションじゃん。


「伝説通り、親友だったのか。王子と」

『我は友というものが良くわからぬ』


 出た出た。

 お友だちが何かわからないやつ。

 好き。

 魔王ともなると、感覚が人間と違うだろうしね。

 本当によく分からないのだろう。


 不自然にニマニマしそうなのを堪えて、私はただただ微笑んだ。


『ただ、ルースは我を友だと言っていた。あやつが言うということはそうなのだろう』

「ほほう」

『だんだんここに来る間隔が長くなり、年老いた姿で一度酒を持ってきたか。それからしばらく待ってみたが来なかったからな。つまらんので寝ることにして、最近起きたのだ』


 切ないとこサラッと言ったな。

 流石のルース王子も、ひとりで動けなくなればこんなところに来ることは出来ない。


 魔王はひとつ、大きなため息を吐いた。

 そしてまた、声のトーンもリズムも変えずに話を続ける。


『しかし、起きるとやはり退屈でな。あやつがいないならこの世界に興味もない。とりあえず世界がどうなっているのかだけ見たいというわけだ』


 逆になんでルース王子のいる世界にはそんなに興味を持つようになったのか教えて欲しい。

 ではなく。

 私は騙されないぞ。


「そんなこと言って、世界を滅ぼそうとしたり手に入れようとしたりするんだろ」

『いらんいらん。体を貸してくれれば、お主が望むようにしてやる』


 嘘言ってるように聞こえないんだよな。


 だが、魔王が乗り移った本人の望みを叶えるだけだというのなら。

 シン・デルフィニウムは世界をぶっ壊したかったのだろうか。

 失恋が辛すぎて。

 とばっちりのラナージュ、本当に可哀想。


 それとも、私とラナージュが物語をぐちゃぐちゃにしてるせいで魔王まで変わったとか?

 そんなことある?


『元々、魔族が人間といざこざを起こすのは我も面倒でな。人間を滅ぼせば早いと思って動いていたのだが……人間より魔族を滅ぼす方が簡単だと気がついた』


 魔族は魔王が死ねば消えるからか。

 確かに人間を滅ぼすよりは簡単だろうけど。

 恐ろしい独裁者だ。

 面倒だからって言われて王様と心中したくない。


『どうせ死ぬならルースに殺されようと思ってな。魔王が死ねば魔族は消滅すると教えたほどだ』


 私には理解が出来ない思考回路だ。

 さすが魔王。


「ルース王子はなんて?」

『そういうことであれば、魔王を殺すわけにはいかない。話し合いをして人間と魔族が共存できる方法を探したい、と』

「模範解答だな」


 まさか、目の前の親友が魔王だなんて想像もしてなかっただろう。

 それでも、魔王を倒す選択肢が本来は王子の中に無かったということか。

 伝説通りの人格者というか、主人公気質の王子様というか。


『だが我とルースが話し合ってなんとかなるならとっくになっとるわと思ってな。やはり滅ぼすことにした』

「えぇ……」

『我ら魔族が居ない方が、ルースは統治が楽だろう』

「知らん。人間にも悪事を働くやつはいる」

『だが、少なくともルースを愛さない人間は居ない。しかし魔族はそうもいかん』


 キッパリと言い切った魔王の声は真剣だ。

 くぐもってて分かりにくいけど、真面目な空気が伝わってくる。

 私は大岩の文字を意味なく見つめた。

 

「……ん。まぁ……ソウナンジャナイ?」

 

 私は額に手を当てた。

 恋は盲目とかそういう部類なのかな。

 とにかく魔王がルース王子が大好きなことだけは、痛いほど伝わってくる。


 自分や同族の命すら、あっさり犠牲に出来るほどに。


 よくある伝説よりも、前に見た演劇の方が事実と近かったということか。

 愛が重すぎる。

 今度は私がため息をつく番だった。

 

「私の体を貸しても主人格は私、絶対に精神を侵さない。少なくとも18歳までは必ず生きると誓えるか?」


 我ながら甘い。

 今の話が魔王の巧妙な嘘だったら帰れなくなるかもしれない。


 が。


 まぁこういう時はだいたい、魔王を連れて帰らないと話が進まないのだ!

 知ってる!!

 なんなら魔力が暴走するとこまでがお決まりだわ!!

 なるようになれ!


 私の言葉を聞いた魔王が不思議そうな声を出した。


『18?』

「誓えるか?」

『うむ』


 圧をかけると、意外と素直な返事がきた。

 とりあえず成人するまで生きて、元の世界に帰った後のことは知らん。

 きっとアレハンドロたちがなんとかしてくれる。

 すまん!


 私は大岩に手のひらをつけた。

 詠唱を始めると、冷たくゴツゴツとしたそこに光り輝く魔法陣が映し出された。

 洞窟内に風が吹き荒れ始める。

 海岸でポセイドラゴンが出た時以上の、大きな魔術だ。

 魔王が悪戯する余地のない完璧な魔術を施さなければならない。

 髪が乱れるのを感じながら、私は大岩へと声を放った。


「契約魔術をかける。とにかく主導権は私だ」

『仕方なかろう』

「後、もう一つ条件がある」

『なんでも言え』

「ルース王子との出会いから別れまで今度詳しく教えてくれ」

 

 絶対楽しい。

 根掘り葉掘り聞いてやろう。

お読みいただきありがとうございます!

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