第5配信 アラサーにFPSはやらせるなよ?
「ここが事務所……」
私は配信のためにスタジオがある『ホロ日和』の事務所に来ていた。
「デカくね……?」
やはり、大手企業なだけある。かなりの高さのビルが佇んでいる。ってか見上げるのに首をものっそい上に向けなきゃいけないから結構首キチィ……。苦い顔でビルを見上げる姿は側から見れば滑稽だったろう。
「てか入口どこだよ………」
このビルの周りを一周しても入り口が見つからず、立ち往生をしている。
「ここで方向音痴が牙を向いた、か」
変にカッコつけているがただの迷子で、ダサい。
そんな醜態を晒す私にどこからか声をかけられた。
「どちら様ですか?」
「ひぇ!」
とても清楚な綺麗な声が聞こえた。後ろを見ると、女性がいた。その目は怪訝そうに私を見つめていた。もしかして私不審者と思われてる……?あ、若干私と距離をとった!やっぱそうだ!急いで弁明を!
「え、えと、私はその、不審な者では……」
「あ、いえ、そんな困らせるつもりはなく……」
テンパってしまっている!マズイ!落ち着かなければ!えーと、この人の顔見れば落ち着くかな?落ち着くわけねぇだろって?やってみなきゃわかんねぇだろ!スッと目線を女性に向けると、
「わ、綺麗…」
帽子を少し深くまで被っているが、少しおっとりとした目に少し青みがかった透明感のある瞳。唇も形がすごく良く、ほっぺも見るだけでモチッとしていると良くわかる。髪の毛は川の清流を連想させるサラサラとした長髪で、清楚な感じだ。え、この人ひとつ次元間違えてきた?二次元レベルだよ、この綺麗さ。ってか本当に落ち着いちゃったよ。
「え、えぇと、綺麗……?」
若干頬を赤に染めた様子で疑問を口にした。えっぐい、何この人、声まで綺麗なんだが?
「すいません、あまりに綺麗でしたので……」
「桜宮さん、何ナンパしてるんですか?」
「ひゃ!」
スタッフさんの声だ。ってか、今この清楚な方からひゃって聞こえなかった?え?可愛い。付き合いたいな。ワンチャン告白すればいけるのでは?
「そこの方!私と…」
「説教されたいなら素直に言ってください、桜宮さん」
「スイマセン」
スタッフさんにまたも怒られてしまった。ってか、スタッフさんって語彙多いなぁ。面白い、配信に出てもらったら盛り上がりそう。出演依頼だしてみようかしら。怒られるだろうけど。
そんな世迷言を考えていると、
「一ノ瀬真希さん、すいません、プライベートでもこんな感じで」
「いえいえ、やっぱり面白い方ですね」
「………え?お二人って既知の仲なのですか?」
スタッフさんが、まるで知り合いかのように話しかけた。え、てか名前一ノ瀬真希さんなんだ。へぇ、名前まで綺麗とかヤベェな。やっぱ付き合いたいなぁ、それがダメなら突き合うだけでも……。突くもんねぇな、両方とも。突くとしてもクリチ◯ポぐらいしかないしな。
「あぁ、やっぱり気づいてなかったんですか……」
「へ?」
「すいません、名乗り遅れました」
姿勢をなおし、改まった態度で彼女は名乗った。
「一ノ瀬真希こと、神流重マキナと申します」
私は腰を抜かした。
「え?え?えぇ?」
「はぁ、あなた、今日のコラボ相手にナンパしようとしていたんですよ?」
脳の理解が追いつく頃、桜宮は自分が何をしたかを思い出した。
そして、
「えぇぇぇえええぇぇ!?」
驚愕と、やらかしたに対する後悔で叫んだのであった。
────
──
─
「──っということがあった煌女鬼エナです……」
「エナちゃんにナンパをされた神流重マキナだよ〜」
・前回と同じく語りから始まったと思ったらただのやらかしエピで草
・謝っとけよ?
・先輩だからな?
・若干煌めきが弱いのは気のせいか?
・本人も反省はしとるんやろなぁ
・てか、既知の仲に対する疑問は出てこなかったんか?
・エナ、お前まじか
・いつかやると思ってましたよ
・素で綺麗って言える奴なかなかいねぇよ?
あぁ、もっと私を叩いてくれ。じゃなきゃ私の気がすまない。あと、普通にFPSやりたくない。
「まぁでも、私の会話デッキの餌食になってもらいますけどね」
「とりあえず、エナちゃん、おまわりさん呼ぼっか」
「おまわりさん隣にいたらできなくないですか?」
「えぇ………(困惑)」
・あんま先輩困らすなよ
・おまわりさんに見つかったらマズイ内容だというのはわかってるのね
・ネット配信してる時点で諦めやけど
じゅるり。私の会話デッキの威力をとくとその身に焼き付けろ!
「パンツのいr」
「黒色ですよ。エナちゃんが喜ぶと思って」
「おっふ、マキナさん……」
マジかよ……。んじゃあ次!
「何カップですか!」
「……エナちゃんも、小さいって言いたいんだ……」
あ、やっべ。そういやこの人0期生1番の貧乳だった………。マズイ、マズイぞ!
「あ、いや、そうじゃなくて、えーっと」
なんも言葉がでてこねぇ……。私の語彙力、大したことねぇな……。
「エナちゃんの胸、でかいよね」
「へ?」
何、なんて言われた?え?私の胸?
「えぇ、まぁ、Fカップくらいは……」
「ふーん、自慢か」
「まぁ、デカくて困るくらいの大きさですね」
「え?」
「プリント付きの服とか、電車とかも結構困ったし、ボタンもよく外れてしまうんですよね」
「………ぇ?」
・あれ?攻守交代した?
・途中までマキナちゃんが攻めてたのに…
・エナ、意外とデカいんやね
・F………
・マキナちゃんこの前Aもないって言ってた
・神はなぜそこまで酷いことができるのですか?
・???『その方が、面白いからです』
・↑ニキもしかして月に住んでます?
・草
「時間的にこれが最後ですかねぇ」
「エナちゃんが私に対して貧乳いじりするからだよ」
「先輩拗ねないでください」
「ふん!」
可愛い……。もっといじめたいが今は時間がない。名残惜しいが次へ行くか。
「えー、男◯は好きですか」
「大根?まぁ、好きだよ」
「え゛」
マジかよ。案外男が好きなんだな、マキナさん。やっぱムッツリだな。へへ、興奮してきた。
「今日FPSじゃなくてSE◯にしません?」
「あ、スタッフさんからNG入った」
「チッ」
・何してんのこいつ
・スタッフさんひっぱ叩いていいよ
・一回しばけ
・好きなの大根か、危ねぇ勘違いしちまったよ
・FPSとSE◯が韻踏んでることに気づいた
・SE◯は淫だけどな
・草
・エナちゃんのファン層独特ですね
・まぁ、鍛えられてますから
・最初からある程度の実力ないとついてけないからなぁ
・実力(下ネタ)
・↑まぁ、合ってはいる
「ふふ、質問も終わったことですし、私はここで」
「帰らせませんよ?」
マジでFPSやりたくない。アラサーにできるわけがない。無理無理ヤダヤダ帰りたい。
「手を煩わせるだけですし……」
「でもスタッフさんから聞きましたよ?予習をしっかりして、配信を面白くする準備は整えていたと。それに、配信開始前にゲーミングPCを目を輝かせながら見ていたのも」
「おいスタッフ出てこいや!」
なぜバラした!おかしい!誰だバラしたの!くっそ!めっちゃ恥ずいじゃねぇか!
「案外、可愛いんですね」
「………///」
・く……ふ
・ぁ
・ガチ照れかよ
・ちくしょう、可愛いじゃねぇか
・ウッキウッキやん
・だから俺はファンになったんだよ
・くぅ……
やばい、まだ顔から熱が引かない……。と、とにかく話題を変えなくては!
「きょ、今日はなんのゲームをするんですか?」
「ここにきて台本頼りですか。やっぱりテンパってますね」
「う、うるさいです!」
「ふふ、可愛い」
「早くタイトルを言ってください!」
「はぁい。今日やるゲームはー、EPEXです!」
EPEX、通称イペ。このゲームはFPSの顔とも言えるゲームで、かなりの人口がいる。今日はこれを二人とプラスで私のスタッフさんを入れてやる。スタッフさんは経験者で元ダイヤランクらしく、マキナさんが驚いていた。私には凄さがわからん………。やればわかるのかな?
「とりあえず、基本操作からかな?」
「オネシャス!」
頑張るぞい!
─────
───
─
「そろそろ試合いきましょうか」
「はぁ、はぁ、早く、早く人を殺させろぉ!」
「エナちゃん、落ち着いて」
やっと基本操作を覚え、キャラを決め、暴れ回れるんだ!これで興奮せずにはいられないだろう!あ、そういえばスタッフさんは声出しなしでやるらしい。まぁ、普通そうやな。
「エナちゃん、この辺敵さんが多いから気をつけてね」
「うっす先輩!」
「キャラ変わってない?」
「うっす!伏◯ガ◯っす!」
「アウトですよ」
そんなふうにギリギリの会話をしていると、
「あ、敵同士が争ってます」
敵をついに発見した。
「あー、漁夫ろうか」
「はい!」
嬉しい!人を殺せる!あぁ、楽しみだなぁ。
「エナちゃん、バーサーカーモードは切ってね?そろそろ」
「うっす!」
「話聞いてた?」
じっと戦いが終わるのを待ち、
「よし、行こう」
「ヒャッハアァァァァアア!」
スタッフさんとマキナさんとで死ぬほど撃った。キル数は、
「2キル!?アァァァァアア!キンモチイイ!」
「スタッフさん、この人FPS触らせちゃダメな人ですよ」
なんかスタッフさんが頷きをした気がするが、気のせいだろう。ってか、本当に私才能あるんじゃない?画面酔いさえ我慢すればいけるぞ、これ。
「私、最強になります」
「なる前にゲーム没収されそうですけどね」
「そんな子供じゃあるまいし…え、スタッフさん、なに?………え、これ終わったらしばらく禁止?なんで!なんでぇ!」
・草w
・子供すぎん?
・まるで俺だ
・働け
・てかマジでFPS適正高いな
・あの殺戮に対して快感を覚えるところがな
・でもエイムもいいし
・おばさんじゃなきゃワンチャンマジであったな
・貶すか褒めるかどっちかにしろ
・マキナちゃんとスタッフさんのカバーもいい
「いやぁ、気持ちよかったなぁ」
あれから漁夫った場所を離れ、建物の中に隠れている。
「しばらくここでいいですかね」
荷物整理や、弾丸の補充など次の戦いの準備を進める。いやぁ、FPS気持ちいいわぁ。もうね、あれを知ったらもう戻れんよ。多分この後本当に禁止されるけど。
そんなふうに勝利の余韻に浸っていると、
「敵!敵が来ました!」
マキナちゃんの悲鳴が聞こえた。
「ふふ、楽しみだなぁ!」
あー、興奮してきたぁ!
どんな戦いが待ち受けているのかと、戦場にそぐわない感情を持ちながら、戦いに挑む。しかし、
「ぁ」
小さな、耳を傾けなければ聞こえないほどの悲痛な悲鳴が聞こえた。
「どうしたんですか、マキナさん」
雑談するように話かけた。だが、
「…………」
帰ってきたのは沈黙であった。突如、地から上るような背中を伝う怖気を感じた気がした。緊張が場を支配した。
「何か、マズイことが起きてるな」
急いで現場に向かった。しかし、
「二つの、デスボックス……」
見つけられたのはスタッフさんと、マキナさんの死んだ証拠のみだった。
「誰だ、誰がやったんだよ」
静かに怒った。そして、同時に悲しんだ。
そんな中、犯人は現場に戻るとはうまく言ったもので、犯人と思わしき、パーティがきた。彼らは静かに銃を構え、エナを狙った。
「なんでだよ、なんで皆争うんだよ」
誰も反応するはずがない。あるのは敵と、仲間だった、ただの骸のみ。
「皆同じ命じゃないのか?」
敵はエナが仲間のデスボックスの前で固まる彼女に向かって、
「まだ、命が平等だと思っているのか?」
嘲笑うようにそう言った気がした。もちろん、聞こえるはずがないし、受け答えなんてできるはずがない。でも、聞こえたのだ。彼らの残酷な答えを。
だが、彼女は、
「命に価値をつけるなぁ!」
彼らの答えを許さなかった。
銃を構え、敵を狙うエナにもう迷いはない。突如動き出したエナに反応できず、一人がやられる。
「まずは一人!」
次は回復持ちを排除する!
怒りながらも冷静に、戦い方を教えてくれた恩師に感謝しながら戦う。
「よし!狩れた!」
順調!最後、一人を倒せば……!
しかし、そんな簡単にうまくいくはずがない。
「ぐっ!」
ダメージを負い、アーマーが全て剥がれた。でも、相手だって同じだ!アーマーを回復する術もない!
「一騎打ちだ!このやろー!」
数秒にも満たない短く、激しい銃撃が披露され、最後に立ち上がったのは、
『ビクトリー!』
ゲームの勝利音声と共に歓喜の声を上げる、
「やったぁああぁ!」
エナであった。
・ォォオオォォオオ!
・えっぐい!
・すげぇえぇえぇ!
・8888888
・マジか!
・初試合で一位かよ!
・かっけ
・感動した!
・心に残る名台詞!
・やばい!
・普通に見入ってた
・あかん、声だして喜んでもーた
・映画見てるみたいだった
「いやー、すごかったですね」
場面は感想会へと変わる。
「にしても、マキナさんが死んだ時終わったと思いましたよ」
「ごめんね〜」
にしても、途中から熱が入りすぎていたような?なんか、骸とか使ったことのない言葉が出てきたりしてなかった?
「いやー、でもすごいよ、一位は」
「いえいえ、マキナさんのおかげです」
本当はあんな戦いやすくなかったんだろうな。初めての私が活躍できるように調整してくれてた気がする。
「ん?あ、だいぶ終了予定時間すぎてますね」
「ありゃ、本当だ」
まぁ?これは私があまりに活躍しすぎて時間が伸びたんじゃないの?
「そろそろ終わりの挨拶しますか」
「そうね」
マキナさんがちらっとこちらを見る。そちらからでいいですよ〜、と意味を込めて見つめ返す。どうやら意味は正しく伝わったようで、終わりの挨拶をし始めた。
「神の川がまた流れる頃にお会いしましょう!」
「また夜空が煌めく星に装飾される頃にお会いしましょう!」
二人揃って、
「「バイバーイ!」」
配信を終了させた。
かくして、波乱だらけの初スタジオコラボ配信が終わったのであった。
────
──
─
「フヒー、疲れたー!」
久しぶりの外での仕事でだいぶ疲れたようだ。重い体をソファに思いっきり乗せた。
「いやーあの後本当に禁止されちゃったよ」
あの後、FPS禁止令が正式に出された。まぁ、あんだけ配信中にゲームに入り込んだら危ないわな。そりゃ禁止するわ。
「にしても、やっぱ星は見えんのね〜」
ソファから星があるであろう空を見つめる。
「いつか、あの雲を晴らしてやりたいな」
見えない星に向かって言う。
「まぁ、待っててよ」
よっと。あー、立ち上がるのもきついな。
少し歩いて窓の外に行く。
「私がV界のてっぺんに行く頃には、君らに手が届く高さにいるはず」
一呼吸おいて、
「だから、君らに触れられるようになる時、きっと私はそこが限界で、全盛期なんだ」
目の中にある、野望とも言える星を輝かせて、
「その頃に、私は引退する」
そう、宣言した。
「だってさ、全盛期が終わればあとは朽ちるだけ」
理由を述べた。
「なら、朽ちる前に、自ら死ねばいい」
狂気とも言える理論だ。
「それなら、きっと皆には全盛期の私の記憶しかないでしょ?」
だが、理解はできる。できてしまう。
「私のリミットは君らに手が届く時まで」
星の眠る空に宣言をする。
「それまでに伝説を1000個創ってやるよ!」
彼女の夢は止まるところを知らない。
今回すっごく長くなってしまいました……。
途中出てきた伏◯ガ◯様や、気づいた方は多分結構多そうな、
か◯え様と葛◯様の掛け合いも入っていたのでぜひ、本人様のところまでいって見てみてください。




