緊張の食卓
現在、新領都ソラリスに向かう途中に旧領都に泊まる。その中で結婚していたら義母になるはずだったアリス・フォン・サウス辺境伯夫人であり、ユリウスの実母でもある女性。
今は一緒に食事をする為にダイニングで待っていた。
ダイニングに入ってきたのはアリス辺境伯夫人だけではなく、後ろに続くのはユリウスと結婚式を行うフローラ姫・ネメシア・シャルロットが入ってきた。(ユキミだけはユリウスの護衛の為に不在)
全員が食卓に着くと食事が運ばれてくる。
食卓の中央では不知火五番隊隊長ダンテが大型魔導コンロを設置していた。
それは見た事がない物ばかりで色々な食材を丁寧に下処理された食材。その数々は芸術品のようで、美しかった。
「お話は後にしてまずは頂きましょう、ダンテ始めてちょうだい」
「かしこまりました。奥方様……」
アリスはダンテに合図を送ると、ダンテは素早く調理を始めた。
ダンテは見事な手並みで料理を仕上げていく。
この食事に使われている食材は、首都ソラリスの衛星木星都市ジュピター[酪農都市]と土星都市サターン[農業都市]と海王星都市ネプチューン[海洋都市]などで採れた物ばかり。
魔力が豊富に含まれる食材は高価。それは魔力が食材が本来持つ味わいをさらに深い物にする。
魔力が多い魔の森で育成された食べ物まさにそれ。
そこにユリウスが持ち込んだ日本の料理の数々……
新鮮な野菜や海鮮、熟成させた脂が滴る肉に上質な小麦を挽いた小麦粉……それらを絡めて準備していた鉄板でこんがりと焼いたそう『お好み焼き』。
それらが現婚約者と元婚約者が集まる中央で焼かれる……ユリウスが見たら言っただろう(ダンテさん、心臓強いな、この状況でお好み焼きをするのはキツイだろう? それにこの場でなんでお好み焼きをチョイスしたんだ……マジ、パネーす)
誰も一言も発しないまま、次々とお好み焼きは焼かれていく。メイド達は見事な手さばきで切り分け盛り付けて各自に配膳していく。
「熱いうちにお召し上がり下さいな……美味しいわ〜」
アリスはそう言うとお好み焼きに手を伸ばしていく。
続いてユリウスの婚約者達も後に続く。
一口、また一口と食事するたびに笑顔を見せる様子にエリザベス達は食事に手を伸ばした……
「なにこれ……美味しい!! こんなの食べた事ないですわ」「……モグモグ……」「美味しい……これは昔にユリウスが作ってくれた……」「これをかけるといいのか?」
一通り食事が終わると本日の本題に入っていく。
ちなみにお好み焼きはユリウスの母親のアリスが、最近ハマっているからだった……
「皆さん、お食事はお済みですね……ダンテ、お茶の用意を」
「かしこまりました、奥方様」
テーブルにお茶とお菓子が用意されていく。それらを準備するメイド達も洗練された手並みで、王宮で雇われているメイドよりも動きが滑らかで気品にあふれていた。
「息子であるユリウスとここにいる、義娘の結婚式を行う為にお集まり頂きありがとうございますわ。殿下や勇者殿にはユリウスもお世話になったそうで……」
普段、ニコニコとフワフワな感じのアリスだが、サウス辺境伯領の内政を長年支えてきた才女。
愛している息子をバカにされたのも同然。笑顔の下には激しい感情が見えていた。
「王女様やミリアン公爵令嬢、アルメリアちゃんもね……」
名前を呼ばれた女性陣はミリアンも含めて『ビクッ』と肩を震わせた。
「でもね……」
今までの腹の底から冷えるようなピリリとした空気が一変して、暖かな春の陽気みたいなほんわかした感じになっていた。
「これから貴方達が我が領地で見ることになる数々の事、それを自ら手放してしまった現実に打ちのめされる事でしょう……それほど我が領地は時代を進めてしまいました」
あまりの迫力に誰しも言葉を失い、誰が『ゴクリ』とツバを飲み込む音がやけに響く。
「そして、女性達はけしてユリウスに甘えないで下さいな。あの子は優しいから手を貸してしまうでしょう。大人である貴方達が選んだ結果なのですから……後戻りなんてさせませんわ」
アリスの瞳にはけして覆る事のない決心の炎が揺らいで見えた……
「私の義娘はここにいる子達ですから。それを肝に銘じてくださいまし」
アリスはそう言うと隣に座っていたフローラ姫の肩を抱く。それに対してフローラ姫はニコッとアリスに微笑むと、
「なかなかお話出来ずに申しわけありません。フローラ・ド・アルブルと申します。ユリウス様にした仕打ちに皆様には心に思う所もございますが……ですが、ありがとうございますわ。私はユリウス様に恋をしていましたが婚約者がおられるのを知り、半ば諦めておりましたの。それはこちら側に座る方々も……
それがこの思いを実らせてもらい、その上アルブル王国の繁栄まで。
本心で感謝しております……」
現婚約者達はフローラ姫と立ち上がり全員が綺麗なカテーシーをする。そこには嫌味ではなく本心からの感謝が伝わり、元婚約者達は何も言えなく下を向くしかなかった。




