手に入れられなかった物
【エリザベス視点】
現在は元婚約者ユリウスが結婚式をあげる為に招待されたので、勇者パーティーはヨツバ総合商会が所有する飛空艇に乗っていた。
新たな領都であるソラリスに向かっていた……これから見てしまう現実を前に腰が引けてしまう思いでいた。
飛空艇から見える景色が流れるように変わり都会の街並みから自然が多くなる。
だんだんと近づく辺境に少し気持ちが沈みかけるが自分を振るい立たせていると、ふっと気づいたことがあった。
辺境に向かう人が多い?……タイタニア王国からサウス辺境伯領に向かう馬車や徒歩の人々が列をなしている。結婚式に出席する者達かとも思ったが馬車の装飾が無く、平民だと分かった。
タイタニア王国から人々がサウス辺境伯領に逃げているのだろう。これも元婚約者ユリウスが仕掛けたタイタニア王国への罠と罰。
人材の流出だろう……それはギルド員も……
今なら分かる……ユリウスは婚約破棄を理由にタイタニア王国の弱体化とサウス辺境伯領の強化を同時に行う。
それは前から計画されていたプランなのだろう。
いつから? どうして? 私が裏切ってなかったら?
そのような疑問が生まれては消えていく……
この流れが作られた今、どうする事も出来ないのでしょう。
後悔しても、もう取り返しのつかない事は分かります。
ですが、王族である私が諦めるわけにはいきません……
何とかタイタニア王国を勇者ワルツを軸にして、立て直してみせます。
そう新たに決意をしていると飛空艇は高度を下げて着陸体制に入った。
だんだんと近づいてくるサウス辺境伯前領都……戦争前に特訓をしたあの地です。
本日はここまでの飛行で明日、新領都ソラリスに向かうそうです。
しかし、特訓していた頃とは違い活気に満ちていました。
そこら中から人々の声が響き笑顔があふれ、明日の希望に満ちていた。
この賑わいで領都ではないとは……
ビックリした。それと同時に負けたと言う思いだった。
頑張って盛り返そうとしても、この街みたいな活気あふれる国に出来るのだろうか?
現在は先が見えない未来……選択を間違えなければ手に入っていた未来が目の前にある。
それが胸の奥にずっと残ったままになった。
泊まった宿舎は元領主邸。
触れた事はもちろん見た事もない魔道具にあふれ、生活を豊かにしてくれる品の数々を目の当たりにした。
……タイタニア王国とサウス辺境伯領との技術の差。
洗礼された品質に優れたデザインの数々。
細部にまで気を使った気配りの数々。
恐らくはタイタニア王国がサウス辺境伯領に追いつくのは数百年は掛かるかもしれない。それも今の王侯貴族やギルドなどの腐敗を排除出来たとしてだ……
そんなのは不可能でしょうが……やらなければ最悪の事態に……
「そんな……大陸一のタイタニア王国の栄光はもはや……国の為、王家の為に……どうすれば……」
その日の夕食は辺境伯夫人からのお誘いで、勇者パーティー全員が呼ばれていた。
辺境伯夫人の息子ユリウスの実母。
勇者パーティーは全員が息子から寝取った男達、寝取られていた女達。
どんな感じで話して良いのかが分からない……
恨まれてる? 蔑まれてる? それとも気にもされてないのかも……正直怖い。
鉛付き足枷をハメられた罪人のような気持ちでダイニングに向かう途中に、同じような顔をしたアルメリアと単純に食事の喜びに湧くミリアン、対称的な二人に会う。
まさに深海で藻掻き苦しむような気持ちのまま、ダイニングのドアを叩くと。
その重々しいドアが開きまるでダンジョンボスの部屋へ入るときのような緊張感があり、開いたドアの隙間から妖気が出ているような感覚になる。
空気も『ピーン』と張り詰め、アルメリアとお互いにうなずき合いドアノブに手をかけて中に入る……
そこにはすでに勇者パーティーの男性陣である、お兄様と勇者ワルツがテーブルについていた。
メイドに案内されるままに席につく。
男性陣も思う所があるのか誰も口を開かない。
ただ、ミリアンだけが『クゥ~』とお腹を鳴らしていた。
少し経つとドアがノックされ、壮年の白髪に染められた髪を綺麗にまとめて執事服を着こなした男性……王城で見た不知火の五番隊隊長ダンテが入ってきた。
「皆様、大変お待たせ致しました。これより奥方様がいらっしゃいます」
ドアが開きそこには戦場で見かけたのアリス・フォン・サウス。
現辺境伯夫人であり、ユリウスの実母でもある。女性陣にとってはお義母様になるはずだった女性。
そのアリス辺境伯夫人は髪をアップにまとめて、デザインも生地も素晴らしいドレスに身を包み優雅に席に着く。
アリス辺境伯夫人だけではなく、後ろに続くのはユリウスと結婚式を行うフローラ姫・ネメシア・シャルロットが入ってきた。(ユキミだけはユリウスの護衛の為に不在)
突然の元婚約者と現婚約者の対面に……この場は特別な緊張感に包まれている。
まるでここだけが世界から取り残された別の空間かと勘違いしてしまいそうな雰囲気になっていた。




