停戦協定
タイタニア王国とイスマリ王国・ハマト王国の戦況は国力の差と勇者パーティーの活躍で膠着状態になっていた。
タイタニア王国もいつ攻めて来るのか分からない北側のノースタン神聖国と西側のウエスタニア帝国に対しての防備を解くわけにはいかず、イスマリ王国・ハマト王国に決定的な打撃を与えられずにいた……
イスマリ王国・ハマト王国の両国も長引いてきた状況に戦費がかさむ。
勇者パーティーと出くわすと甚大な被害が出るので
タイタニア王国の三つの領地を手中にしたが、東部最大の城砦レーナーバラクを抜けないでいた。
そんな両軍が睨み合う城砦レーナーバラク前の平原に空から飛空艇が降り立った。
そう、世界に二機しかない飛空艇……ヨツバ総合商会が所有する。つまりはヨツバ総合商会からの使者だろう。
飛空艇から降りて来るのは、男女一人づつ。
男の方は執事の格好をした、壮年の紳士。女性の方は明らかに身分が高そうなドレス姿の美人。
二人は優雅に戦場を歩き両軍が睨み合う中央まで来る。
男性はヨツバ総合商会副総括でありながらサウス辺境伯家の執事長、ダンテ。不知火の隊長でもある。
戦場の真ん中でダンテは素早くパラソルを開きテーブルとイスをセットする。
そして、イスの一つを引きそこに女性が腰をかける。
アリス・フォン・サウス……現辺境伯夫人でユリウスの実母。普段はサウス領の内政とヨツバ総合商会のある部門の部門長でもある。まるで少女のような若々しさで微笑む彼女は昔から変わらず美しかった。
そして今回は両軍の停戦の為にサウス領代表として現地に来ていた。
まさにティータイムを楽しむように優雅でエレガントな空間が戦場の真ん中に現れた。
飛空艇から続々と降りて来るメイド隊がタイタニア王国側とイスマリ王国・ハマト王国の両国に数人が赴き国の代表を連れてくる……
アリス辺境伯夫人は各国の代表を同じテーブルに着席させる。
各国がテーブル越しに睨み合うが……
「皆さん、良い茶葉が手に入ったのよ〜。冷めないうちにどうぞ〜。ウフフッ」
場違いな間延びした言葉でティーカップを傾けている。その場にいる者達は苛立ちながらも出されたお茶に口をつける……そのあまりの美味しさに動きが止まってしまう。
「どうかしら? お口にあいましたかぁ? ウチの子達が作った茶葉なのよ〜。美味しいわぁ〜」
各国の代表達もその美味しさからだんだんと荒んだ心が満たされていくようだった、しかし……
「アナタ方、戦いをやめましょう。今ならサウス辺境伯夫人として見届人になりますよ。その方がアナタ方にとっては幸福でしょうね」
そういうと紙を取り出しダンテに手渡し、ダンテはそれぞれの代表に渡していく。
「お読みになってくださいな」そういうとアリスはティーカップを傾ける。紙を見た者達は……
「ばっ、ばかな!!」「そんな……」「急がねば……」
三者三様だが想定外の出来事が起こっているようだ。
その信憑性を確かめる事は出来ないがサウス辺境伯夫人アリスがもたらした情報だ。
それだけで十分だった。
「それで答えを聞かせてくださいな。お互いにこの辺りが引き際だと存じますわ」
全員が顔を見合わせてうなずき合う……
「分かり申した。立ち会いお願いいたす」
各国も同調するようにうなずき合い、停戦の協定に入っていく。
ここでも、特に揉める事なく話が進んでいく。
あらかじめアリスは各国が妥協出来るところを線引きして提案していた。のんびりした雰囲気だがサウス領の内政を長く引き受けてきた才女でもある。父親も頭が上がらない。サウス領での女帝。
条件は以下の通りになった。
城砦レーナーバラクから五十kmをタイタニア王国に、それ以外のイスマリ王国・ハマト王国が落とした三領を二ヶ国に……そして、停戦期間を十年で結ばれた。
イスマリ王国・ハマト王国は急いで国に帰り、さらなる敵に備えるようだ。北側のノースタン神聖国に……
タイタニア王国は領地を失うが当面の時間稼ぎになる。そして、イスマリ王国・ハマト王国は即時撤退していた……
まさかのノースタン神聖国と西側のウエスタニア帝国がタイタニア王国を避けるとは誰も思わなかった。
ノースタン神聖国はイスマリ王国・ハマト王国に……
ウエスタニア帝国はデロビ大国に……
それぞれが大陸の混乱を利用して自国の勢力を増やしていく。
束の間の休息を手に入れたタイタニア王国は領土を失うが東側の脅威が去り残りの防衛に力を注ぐ事ができるようになったのだった。
そして今回、タイタニア王国に停戦協定を仲立ちするにあたり勇者パーティーをユリウス達の結婚式に招待する事を了承してもらっていた。
「皆さん、ユリウスちゃんから結婚式の招待ですわ。もちろん強制ではございませんが……出席して貰える方は飛空艇に乗ってくださいな。新首都ソラリスへご案内させてもらいますわ」
まるで友達を食事に誘うような軽さで告げられたユリウスの結婚式に場にいた者達……勇者パーティー全員が『ドキン』と心臓が跳ねる……ついにこの時が来てしまったのかと……




