歓迎される事のない遠征
【エラソン王太子視点】
ノースタン神聖国の計略により、タイタニア王国有数の港町ノーフェリアは危機に陥っている。
私もタイタニア王国の王太子であり勇者パーティーのリーダーとして、勇者パーティーを率いて防衛戦に駆けつける為に街道を北に進んでいる。
追従する第十騎士団も含めて、約一万五千名が一緒に駆けつけている。
早めに解決して獣人族略奪部隊に、荒らされている西側の救援に行きたいものだ。
『ガダッゴダッ』ある程度整備された街道だが、ユリウスが手配してくれていた馬車とは雲泥の差。
揺れもスゴイし……ウップ、いかん快適だった馬車に慣れて、少し酔ってしまった。
一緒に乗っているワルツも、エリザベスも、アルメリアも、気分が悪そうだ。
「ユリウスがいたら……」
アルメリアが『ボソッ』と溢した言葉にイラッとした。
振る舞われる食料も昔では考えられない、カチコチな黒パンと干し肉を湯で戻したスープ。
以前ならばテーブルの上に、柔らかなパンと出来立てのスープに魚や肉などのメインにデザートまでついて、ワインも赤・白・ロゼと色々な種類が用意されていた。
なんこの不快さは……同行する騎士団はスゴイ顔で睨んでくるし、同じ勇者パーティーメンバーでもあるワルツ・エリザベス・アルメリアはため息ばかり。まるで私が責められているようではないか……
港町ノーフェリアの途中では、何度か街の宿に泊まる事になったが……なんだ? この宿は。王族である私が泊まるのに、このあばら屋に泊まれというのか? こんな所では、マトモな食事すら出来ないだろう。
「なんだ? この私にこんな廃屋に泊まれと……」
またもや、騎士団はもの凄い顔で睨んでくるし、勇者メンバーはため息。
「お兄様、兵達は外で野宿ですよ。いくら王族でも節約しないと、現在のタイタニア王国の財政は非常に悪いですから……ユリウスがいた頃と同じ様には出来ません。お金を使うよりお金を稼ぐ方を、考えて下さいまし……」
ぐぬぬぬ、確かに今の王国は財政難だけどそんな時ほど、王族としての威厳が必要なのでは無いのか?
そんな事を思い顔を上げると……
騎士団含めて勇者パーティー自体も『ガマンしろよ』っと顔に書いてある。
何故、私ばかりが……着いた街でフラフラと散策していたら言い争いが聞こえてくる。
酔っ払いに絡まれている、アルメリアがいた。
最近は私にも冷たい女がいい気味だと、思っていたが……
「おいおい、聖女様。良い女じゃないか。その美しい身体で、王太子を籠絡して贅沢に暮らしているんだろう? 自分の婚約者を捨ててまで……グフフフ。なら俺にもしてくれよ。なぁ、聖女様」
「あらあら、汚らわしいですね。ならばアナタは何が出来るのですか? 私に何を提供出来るのでしょうか? 地位・名誉・お金どれも望みが無さそうですね。ならばルックスにお顔もダメダメです。ん〜、そうですね。暇つぶしのオモチャなら……」
突然、酔っ払いに向けて手に持つ『聖女の杖』で滅多打ちにしていた。そして通りかかった騎士団の騎士に、
「騎士様、助けて下さい。あの男が私に身体を差し出せと襲ってきて……私も必死に抵抗して、錫杖で殴ってしまいました」
相手の返り血で染まった顔は上気しているのか、赤くなり瞳には涙を溜めて息づかいも浅く妙に色っぽい。
騎士も聖女に手を出そうとして酔っ払いが撃退された、と思い酔っ払いを連行していく。
アルメリアは私に気がつくと、こちらに歩いて近づいて来る。
「フフフッ、王太子殿下ごきげんよう。いいお天気ですね。私も先ほどの方のおかげで良い気分なんですよ。王太子殿下にご奉仕したい位ですわ」
アルメリアはそう言うと自分の頬から垂れてきた血を舐め取ると『ランラン』と妖しく輝くピンク色の瞳で私を見てきた。瞳に吸い込まれそうになりながらも……
「アルメリア、キミは……結構だ。それでは失礼する」
何故だろうか、私はクモの巣に捕らえられた虫のように逃げ出そうと、必死にもがいている気分でアルメリアを見た。
ユリウスを蹴落としてまで手に入れた女に、王太子である私が……くっ、足が動かない。
「フフフッ、ツレナイお方ですわ。今なら私を自由にさせてあげますわ。あんなに求めてくれていたのに、私は哀しいです」
『クスン』とウソ泣きをしながら、真っ直ぐに私を見てくる。いや、観察している? この男は自分の役に立つ男なのかを……
ユリウスの結婚式から少し様子がヘンだと思っていたけど、ユリウスが結婚した今は諦めて完全に私の女になると思っていたが……手に負える女では無くなった。
恐らくアルメリアを王家に取り込むと、中から食い破られる。どの様に手を切ろうか考えてると……
「イヤですわ、殿下。そんな事を考えてはダメなんです。殿下は全てを私に差し出して下さい。じゃないと私は……フフフッ」
アルメリアはまさに聖女と呼べる慈愛に満ちた顔で微笑んでいるが目が……完全にヤバい事になっているのが分かる。拒めば私の命はもう……
「フフフッ、殿下。大丈夫ですわ。殿下が差し出すモノがある限り私は殿下の味方ですわ。もちろん私を自由にして下さいまし。さぁ、参りましょう」
その白い腕に摑まれて私は自分の意思ではもう、アルメリアには逆らえなくなるのだと確信していた。




