前門の神聖国、後門の帝国
【エラソン王太子視点】
ノースタン神聖国の計略によりタイタニア王国有数の港町ノーフェリアは、危機に陥っている。
ノースタン神聖国の国教でもある宗教【暁と黄昏の双子月】が民を扇動している。
港町ノーフェリアの襲撃を計画している、との情報が入った。
港町ノーフェリアはタイタニア王国の北部に位置して、ノースタン神聖国の近くでもある。
以前からノースタン神聖国が港町ノーフェリアを欲しがっているのは歴史からも読み解ける程、頻繁に侵攻を受けている地域になる。
私は部下に命じて、勇者パーティーと兵達の出撃を指示して騎士団本部に出向いた。そして兵の集合状況を確認すると……
「兵の準備は出来ているのか?」
私が確認をすると、何故か言い淀む騎士団員。イヤな予感がする。出撃準備をしていると思われる広場に行くと……準備しているのは百名にも満たなかった。
「なんだ? 兵達はコレだけなのか? コレから神聖国と事を、構えるかもしれんのに……一般兵が集まらないなら、騎士団はどうした?」
「ハ、現在は第一騎士団は王都警備、第二から第四までは周辺国近辺に第五及び第九は国境警備、第六はダンジョン警備で第七・第八・第十を準備させてます」
タイタニア騎士団は第一から第十まである(王護衛の近衛兵は別)
一つの騎士団で約一万五千人程。今回は第七・八・十で四万五千人になる。
くそ、出来れば騎士団は動かしたく無かった。一般兵と違って騎士は替えがきかない。しかも、殉職でもすれば遺族への見舞金も必要になる。
「何故? 一般兵がこんなに少なくなっている? この前の戦でも大量に居ただろう? なんでも良い、教えてくれ……」
騎士団員は少し考えてから……
「恐れながら……サウス領の存在でございます。失礼を承知でお話させて貰います。平民や貧民でも命は惜しいもの。王国は彼らを使い潰す方針に対して、サウス領は逆に成長させて活かす方針。どちらが良いのかは自明の理。そして、人の移動を許したのも王家の判断と聞いております」
騎士団員は私の顔をしっかりと見ながら、淡々と事実を話していく。
タイタニア王国では兵のほとんどが平民や貧民だったが、サウス領やレギオンなどの台頭により人々は大移動して……現在は王国軍に加わる者は少ない。
その事実をこの騎士団員は指摘していた。
当然、普段なら不敬罪と同然だが今回は私が頼んだ事。見逃してやるか……私も甘いモノだな。
しかし、ここでもサウス領に足を引っ張られるとは……
「おお、王太子殿下。コチラにおりましたか……実はウエスタニア帝国と戦っていた魔の森近辺にある獣人族自治地区から、略奪部隊が王国西部で暴れ回ってます。至急、対処をお願いします。被害が甚大で周辺貴族軍も既に敗退している模様です」
ハァ? 獣人族自治地区は毎年食料と引き換えに、良好な関係だったはず。今年の食料は……あっ。
「おい、獣人族自治地区への食料支援はどうした? 確かサウス領の後はガルフ公爵が引き継いだはずだぞ……まさか、食料支援を引き上げたのではないのか?」
ガルフ公爵に確認したくても、今は王都にいない。ミリアンも連れて自領に帰っているようだ。
何故だ? ガルフ公爵は王国を潰す気なのか?
これでは騎士団四万五千をまた分けなければならない。広場には第七・八・十騎士団が徐々に集まって来ていた。そして、時間には全員が広場に入ったようだ。
港町ノーフェリアの防衛と、獣人族略奪部隊の討伐。戦争が一段落したと思ったらこれか……これもノースタン神聖国とウエスタニア帝国の計略の可能性もある。
「クソッ、何故こうも上手くいかないんだ」
そこにあった石柱を思いっきり蹴っ飛ばした。私も修行して複数の職業を修めた。その私が蹴っ飛ばしたら、その石柱が倒れ……倒れた拍子に砕けた。
騎士団四万五千の目の前で……
この石柱は父ジメッツ王が建造した慰霊碑。
ようするに戦没者に対して慰めの意味を持つ建造物を、よりにもよって騎士団四万五千の前で蹴るだけではなく壊してしまった。
広場に集まった騎士団員は静まり返り……場はまさに凍りつく。この慰霊碑は、イスマリ王国とハマト王国の軍事同盟での戦没者を祀っている。
王太子含めて勇者メンバーが、ユリウス辺境伯を追放・寝取りをした為に起きた犠牲者でもある。
この行為に激怒する騎士団員が数名、私に向かって突っ込んできて……突然の事で逃げるのが遅れ、殴られ、蹴られ、髪を引っ張られ、頬を張り倒される。
身体中が痛い。身体が動かない。
「やっ、ヤメロ。もう、離れろ。ブッ、ぐはっ。ぎざまら……このわだじに……ゆるざんぞ……ブフ、ぐはっ……もゔ、ゆるじで」
どのくらい、殴られたのだらうか……王太子の私に向かって暴力とは。
騎士とは誇りを重んじる。彼らは勇敢に戦って倒れた、仲間達に敬意を持っている。中には親兄弟、親戚、友人など自分達に親しい者がいたのだろう。それを愚弄した形になり……
「お前達、もう止めなさい。気持ちは分かるが……王太子殿下、大丈夫でしょうか?」
第七騎士団長が少し経ってから助けに来た。
「バ、バカモノ。もう少し早く助けに入れ。私は王太子だぞ。騎士に殺されるかと思ったぞ」
「ハッ、申し訳ありません。ですがこの者達の気持ちも分かるのです。亡くなった中には私の部下も、多く含まれてますので。どうか罪を犯した彼らを、寛大な処置をお願いします」
「ならん。王太子に手を出したのだ。周りに示しがつかん」
「そこを何とか……」
第七騎士団長は頭を下げていたが、これを赦すワケにはいかなかった。王家の威信が……
決定を覆さず翌日には第七騎士団長含めて、多くの騎士がタイタニア王国から姿を消していた。
私は騎士団との信頼関係にヒビを入れたまま、勇者パーティーメンバーと第十騎士団で港町ノーフェリア防衛に出かける。獣人族には第八騎士団に向かって貰う事になった。
直接、神聖国と帝国を相手にするワケでは無いが……両国からの計略に違いない。
本日より新連載をスタートさせました。よろしければそちらもご覧頂ければと思います。
本作品もまだまだ続いていきますので合わせて宜しくお願いします。




