ハーメツ侯爵御用商人
【ハーメツ侯爵御用商人】
「あ〜、今月も赤字だ。どうしたらいいんだ〜」
私はタイタニア王国ハーメツ侯爵領で鉱石を商いしています。私はハーメツ侯爵様の親戚筋になり侯爵様とは……それはそれは良い関係であったのだ。
勇者ワルツの生家であるハーメツ侯爵様と、友誼を結びたい貴族や団体や個人など非常に多かった。当然、渡りを付けている我が商会も……グフフフ。
しかし、私達は慢心していたのだろうな。
勇者の生家という事を前面に出して、かなりの無茶な要求を通してきたツケを払う時が来たのかもしれない。
ハーメツ侯爵領は大規模な鉱山を所有する領地。
当然、鉱石が主な産業になっている。
しかし現在は鉱石の取引きが上手くいってない。王国東にあるイスマリ王国とハマト王国の軍事同盟との戦争が停戦になり、徐々に落ち着いてきた。それは良いことだが……肝心の鉱石の取引きが減ってきている。
いや、需要はある。だけど、タイタニア王国全体で金がない。サウス領への賠償金や戦争など出費が続いたから……
ガマン出来る所、後回しにしても困らない所で鉄製品が割りを食う形になったのだ。
以前であればヨツバ総合商会が引き取ってくれていた。少し強気な態度でも彼らは鉱石を持っていった。
だから新規の顧客開拓などした事がなかったのだ。
いや、しなくても売れたから……やらなくても良かったからしなかった。
ただ、状況は変わる。王家とサウス領との確執によりヨツバ総合商会は、ハーメツ侯爵領との取引きを停止してしまったんだ。
あの頃はすぐに赤字になる事はなかったことはない。イスマリ王国とハマト王国の軍事同盟との戦争が始まったからだ。
『戦争特需』により鉱石は王家に買われ、武器防具に姿を変えていったから。その戦争も終わり……いよいよ、出荷先が無くなる。
「どうする……どうすれば……どうにか……」
色々な策を実行したり、ハーメツ侯爵に相談したり、ギルドに掛け合ったり、今までした事もない営業も積極的にした。この私が頭を下げてまで……
ハーメツ侯爵領が誇る鉱山からは、ドンドンと採掘され在庫が山積みになって、我が商会の倉庫は空きが無くなってくる。鉱山も採掘を休む事が多くなった。
まさに私は途方にくれていた。
立ち寄る行商も積極的には取引きしてこない。以前なら必死に、私に頭を下げて媚を売っていた連中が。
ここに来てハーメツ侯爵様も鉱石が売れなくなり、資金繰りに苦労しているようだ。さらにハゲあがったようだ。
戦争も落ち着いて勇者のありがた味が薄れ、次第に恨みや妬みが表に出て来た。それが鉱石が売れない事に拍車をかける。
もはや、どうする事も出来ない状況だったけど……肝心の王家からは音沙汰無し。勇者ワルツはエリザベス王女様との結婚は前に進んでいるようだが、鉱石に関しては『しばし待たれよ』との回答が送られて来るのみ。待つにも限界があるというのに……
侯爵様も頭を抱えるのみ……言っては悪いが『そんなんだから頭がハゲてる』カツラがズレている事をいつかは指摘してやるっと、出来もしないことを考えている。
そんな追い詰められていた中で一つの希望の手紙が私宛に届いた。中身を確認する……私は慌てて侯爵様の元を訪れていた。
「侯爵様、アレックス・フォン・ガルフ公爵様から私宛に手紙が届いたのですが……」
手紙を侯爵様に渡し中を確認して貰った。
「なんと。ガルフ公爵も我等と同じような状況になっていると報告があったが……なるほど……分かった。今から返事を書くからしばし待て」
確かガルフ公爵領は大穀倉地帯を領地に持ち『タイタニア王国の台所』と呼ばれる領地を支配している……王国揃っての大物貴族。
私達、ハーメツ侯爵領と同じくヨツバ総合商会から取引きを切られていたはず。
しかも、ガルフ公爵領の特産品は食料。我々が取り扱う鉱石は腐る事はないが彼らの食料は時間によって腐ってしまう。
なるほど、在庫に困っている者同士で食べ物と鉱石を交換しないかと言ってきたのはこの為か……
ハーメツ侯爵はどう決断するのだろうか?
「よし、書けた。この取引きを進めることにする。時期が来たら……グフフフ」
やはり、そうか。鉱石も持っているだけでコストも場所もとるし、食料も不足気味だから丁度いいのだろう。
私の商会もこれでようやく、不良債権となりそうだった鉱石が捌けて良かった。
「お~い。ガルフ公爵様に鉱石を届けるから大量に用意してくれ。初回は私も同行する。旅支度と護衛を……」
その日の内に私は大型キャラバン隊を組織して、ガルフ公爵領へ出発した。
タイタニア王国は先の戦争で領地は削られたが、それでもまだ大陸一の巨大な国家。領地間を移動するだけでも大変なのだ。
出発から数週間でガルフ公爵領へ着いた。すぐにガルフ公爵様との面談も叶い取引きも順調に終えた。
帝国製魔道具の保存処理された食料を代わりに詰め込んで、ハーメツ侯爵領の帰路を急いだ……
まさに救われた気分であった。
「フフフッ、行ったか? これで安く鉱石が手に入れる算段がついたな。まだまだ絞れるだけ絞れ。それが我等の願いに繋がっていく。アブリル、ラティアよ。もう少し待っててくれよ」
大きな屋敷のバルコニーで、グラスに注いだワインを傾けて鋭い顔をしている。ワインに映る姿にはもう一人の姿がボンヤリと映し出されていた。




