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お前の全てを奪ってやったぜ。と言われたがほとんど無傷な俺はどうすればいいの?悲しむマネをすれば満足してくれるのか?  作者: 月鈴
第八章 現れる悪意

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いらっしゃい、今日からの俺よ

 結婚式や披露宴も無事に終わり、ずっと街中がパーティー会場のような賑わいだ。

 そして俺はこれから起きる戦いに、参陣せねばならない。ある意味先日起こった新アルブル王国統一戦を越える、激闘が予想される。


 俺の全てをかけて、成し得ないとならない。新しく妻になった者達に誓って必ず生還すると……俺はまだ死ぬ理由にはいかないから。


 戦いに赴く前に全ての準備を終えて、装備を確認して、最後は大聖堂にある女神様像に祈りを捧げる。

 昼間の騒々しかった大聖堂も今は俺一人。

 外からは騒がしいパーティーの音が聞こえる。


 決意を新たに俺は大聖堂を後にする。

 立ち去る間際に女神様に最後に手を上げて、


「行ってくるよ」


 一人でつぶやいた。街中もすっかり暗くなり魔導ランプの街灯が町中を照らしている。幻想的な光景も今は楽しむ余裕もなく、足早にソール城へ続く道を歩いていく。


 そこら中から笑い声や、カンパイのグラス同士をぶつける音や、女達に怒鳴られている男達など、それぞれが今日という日を喜んでくれているようだ。

 道端には酔っ払いが寝そべり、警備の仕事をしている兵士に起こされている。

 こんな毎日が俺が目指すべき、日常なのかもしれない。


 ソール城に着くと門番は一糸乱れぬ敬礼して、俺を見送ってくれた。披露宴の招待客も既にそれぞれの宿に戻り、今のソール城は仕事をしている者以外の姿はない。


 城内の赤い絨毯を一人歩いていると、すれ違う者達は会釈をして足早に去っていく。

 まさかこんな城に住む日が来るとは、転生した時は思わなかったけど……これで良かったんだよな。


 領主一家の居住階にやって来た。クソ親父や母アリスは顔を出さない。寝たのか?

 待機していた執事長のダンテが俺を誘導する。

 ダンテは俺に目線で覚悟を問うて来たので、黙って頷く。


 ああ、分かっているさ。そんなに急かすなよ。

 これからの戦いがかつてない激闘になるのは、分かっている。

 まさに多勢に無勢。しかし俺も二つ名で『黒軍』と呼ばれている男だ。とうに覚悟しているさ。


 居住空間のある区画に着くとまるで門番のように、ダンテ麾下の戦闘メイドが奥へと続く扉を守っている。俺の姿を確認すると数名が部屋の中に入り、中に知らせに向かったようだ。


 窓から見える街並みはどこか朧げで、まるで夢の中を彷徨っているようだ。その幻想的な雰囲気に飲まれそうになりながらも、俺は自分を保ち続けている。

 そう、ここまで来て弱気になっている場合じゃない。


 そして、中に入っていた戦闘メイドが戻り……俺を見つめる。この視線で俺は現実に引き戻され我に返った。


「若様、いえ……御屋形様、中へお入り下さい」


 戦闘メイドより無情の通告だ。ここで『心の準備が……』とか言ってられない。

 俺はシリアスな顔を崩さないように気をつけて、


「分かった、ありがとう」


 と、短いが最大の感謝をした。そして、ここまで一緒に来たダンテに『行ってくる』と……

 ダンテもこれから起こる戦いが死闘となるのを、察していたのかもしれない。

 まるで死地に主を送り出すように、キレイなお辞儀をして見送ってくれた。


 俺はドアノブに手をかけて中に入ろうとする。

 そのドアの重みはまるで俺を拒んでいるような、重さを感じるが俺は力ずくで開いていく。


 中は薄暗く照明は最低限にまで落とされている。

 しかし目が慣れてくるとしっかりと見えるような絶妙な光加減に調整されていて、戦闘メイドの能力の高さを感じている。

 僅かに焚かれたお香が周りに漂い、この戦場をさらに演出してくる。俺は出し惜しみせずに……


「ユニークスキル発動」


 最初から全力で望む所存。最後の障害であるドアを開ける。広々とした空間の中央に置かれた天幕付きのベットには、薄暗いが人影がある……ああ、今日までの俺よ、さらば。

 俺はゆっくりとベットに近づく。こんなに緊張する戦いは久々だ。


 最強冒険者クラン不知火の隊長が羽織っている、『黒龍の革』のコートになっている黒龍と戦った時以来かな。

 窓の方を向いていた人影はコチラに振り返り、


「ユリウス様、お待ちしておりました」


 と、翠色の瞳が妖しく光ったように感じる。

 ああ、俺はもうそれだけで勝敗などと考えていたのが頭から抜けてしまっていた。

 そして……全力の怪盗三代目ダイブ又はXYZダイブをかましていた。


 ……


 …………


 ………………


 ……………………


 …………………………朝だ!


「あ〜た〜ら〜し〜い〜朝が来た。希望の朝だ。喜びに胸を開け。大空あおげ。おはよう諸君。いらっしゃい今日からの俺!」


 窓を開けて叫んでみた。開けた窓からは心地良い風が吹き、火照った身体の熱を奪っていく。小鳥達は楽しそうにさえずり……太陽が目に入り、眩しくて仕方ないな。


 ベットに目を向けるといつも美しい翠色の髪は乱れに乱れ、昨日の戦いの激しさを物語っている。

 その白い肌は上気して赤く染め、今も汗でシットリとしている。短く浅い、いまだに熱を帯びた息づかい。


「う〜ん、ユリウス様。好きです〜」


 ああ、寝言までカワイイな。そう、俺はこの世界に転生してからの初めてを最愛のパートナーとお互いに交換し合った。まさに信頼の証といったところだろうな。


 そして名実ともに夫婦になったのだ。

 領主にとって跡継ぎは死活問題にもなるから、これからは積極的にならなければならない。参ったな〜。

 もちろん、キライじゃないよ。


 妻になった他の娘達にもね。全く嬉しい事だが苦労も多いな。でもなコレだけは言わせてくれ。


『ああ、なんて素晴らしい日々だ。ありがとう』









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