会いに来てくれない母と姉
【ミリアン視点】
……お腹空いた。
最近は何をしてもつまらない。
ただ、ママとお姉ちゃんが会いに来てくれる。
「ミリアンは良い子ね」と頭を撫でてくれる。
私の大好きなママの匂い。
大好きな笑顔で。
「ミリアンは頑張ってエライね」
お姉ちゃんも抱き締めてくれる。
だから、私は頑張れるんだよ。
いつからだろう? お父様から、
「ミリアン、ユリウスとは別れて次はエラソン王太子につきなさい」
ユリウス……私にとっては美味しいご飯をくれる人。
私に嫌な事をしない、魔法を褒めてくれる、寝てても怒らない。
とっても不思議な人。
ユリウスと一緒の時は良く眠れたの。
何でかな……よく夢でママとお姉ちゃんが会いに来てくれるの。
『ミリアン、ミリアン』って……私は嬉しいの。
戦争? なんかミリアン達を殺そうと一杯の知らない人達が恐い顔して来るの……お父様は『倒しなさい』と言ってたから魔法を使うの。
そうするとね、ママが『ミリアンは魔法が上手になったわね』って褒めてくれるの。
それにね……私達を殺そうとする人達は、あの日の盗賊達を思い出してしまう。ママやお姉ちゃんを殺したアイツらを……
だからね。アルメリアの妹・ネメシアから教えて貰った『多重魔法陣』って言うのでドンドン倒すの。
「……フフフ。悪い人達はやっつけないと……」
魔法を使って悪い人達を……
炎魔法で焼いて、
氷魔法で凍らせて、
風魔法で吹き飛ばして、
土魔法で押し潰して、
光魔法で貫いて、
闇魔法で狂わせる。
どれだけの悪い人達を倒したのかな……
ここで魔法を使っているとみんなが喜んでくれるの。
寝てても怒られないし、ご飯もくれる。
だから、魔法をいっぱい使う。
毎日、魔法を使う。
そんな日を過ごしていると空から空飛ぶ船? がやって来た……見た事ある女の人。
ユリウスと一緒にご飯をくれた、ユリウスのママ。
優しかったし、好きな人だった……けど、なんか恐くなった?
私を見てくれない。何でかな?
戦争は終わって魔法はしばらく使わなくて良くなった。なんでかな……
なんか賑やかな所に来た。人がいっぱいいて楽しそうに笑っている。
つい、この前までいっぱい殺してた人達と違って恐くない人達。
この街はなんか温かい。笑顔がいっぱい。
私を悪く言う人も、イジワルする人もいない。
ご飯は美味しい。ベットはフカフカで気持ちいい。
でもね……ここには長く居られないんだって。
残念だな〜。久しぶりにユリウスとも遊べた。銃? とかいうのでアンデットを撃つヤツ。
楽しかったけど途中から恐くなってしがみついていた。
ユリウスは結婚するんだ。
私がするはずだったけど……それは無くなったから。
私じゃない人達がするみたい。
結婚ってお父様とママがしていた契約みたいなもの。
結婚式にはお父様がタイタニア王国代表の中にいた。
久しぶりに見たお父様は少し怒っているような感じに見えていた。
「……ミリアン、後で私の部屋に来なさい」
これだけで言って私から離れていく。
何でだろう……胸が痛いの。
良くない事だと思うけどママとお姉ちゃんに会えなくなるのはイヤ。
「ごめんね、ミリアン。お姉ちゃんとママはもう、ここから出られないの。ミリアンはすぐに逃げて幸せになってね。お父様の言う事をよく聞いて良い子にしてるのよ。そうしたらまた会えるから……」
ユリウスと遊んだ後からママもお姉ちゃんも会いに来てくれないの。
ミリアンは良い子にしているよ。
お父様の言う事を聞いてるよ。
だから、会いに来てよ。ミリアンを置いて行かないで……
その日の夜……お父様が宿泊する所を訪れる。
お父様は難しい顔をしながらテーブルで何かを書いていた。
「……ミリアンか、コレが終わるまで少し待ってなさい」
そう言うと、私の方をチラッと見てからすぐに書類に視線を落とした。
その日の夜はどこか上質なワインを空に撒けたような色合いをしていて、妖しさを含んだ空気でむせ返るようだ。
お父様が書類を書く音だけが部屋の中に響く。
いつの間にか部屋にいた執事とメイドも姿を消していて、お父様と二人声を掛け合う事も無く時間が過ぎていく。
「よし、待たせたな。ミリアン、今後のガルフ公爵家の事だ。まずは、エラソン王太子との婚約は無くなった。お前には別の…………」
その日は夜が深くなって妖しさだけがより強くなっていくようだ。
家の繁栄の為に、お父様の野望の為に、と……
私には判断出来る事ではないのでいつもみたいにお父様の言う事を聞く『操り姫』になるだけ。
話しを聞いていた私はこれからが多分、世界は大変になるのでしょう。でも、それは私が考える事ではない。
話が終わりお父様の部屋から出てリゾートホテルの『ロイヤルスウィート』に戻ろうとする。
ドアノブに手をかけて部屋を出るとき振り返りお父様を見て驚いた。
すでに話し終えお父様は再び書類に目を通すその隣に、寂しそうなママとお姉ちゃんが。
そのママの口がゆっくりと開いて何かを訴えているかのようだ。
その姿が薄っすらと透けて来て、やがてその場は深い闇に包まれる。
お父様が書類と向き合う中に魔導ランプの光だけが灯っていた。
私はこの時ほど……自分の言葉がすぐに、出なかった事を後悔した事はなかった。
あの寂しそうで必死なママとお姉ちゃんを最後に、どんなに良い子になっても、夢の中にも来てくれる事は無くなってしまった……




