第七話・裏:すいせいの初デートなのにぇ!!
ホロライブ事務所の収録後。
すいせいは、みこちの隣に座り、少し緊張した面持ちで話を切り出した。
「みこち、ちょっとお願いがあるんだけど…」
「なんでも聞くにぇ!たい焼きの新作なら、みこ詳しいにぇ!」
「いや、たい焼きじゃなくて…外部マネージャーのこと」
「がいぶまねーじゃー!?何かあったのにぇ!?」
「次の新曲が、恋愛漫画のアニメ化タイアップなの。ラブソングを書くために、ちょっと“恋愛体験”が必要で…」
「にぇぇぇ!?すいちゃん、恋愛するのにぇ!?」
「いや、あくまで“体験”として。だから、外部マネージャーを一日だけ貸してほしいの」
みこちはたい焼きをかじりながら、にっこり笑った。
「いいにぇ!すいちゃんの創作活動、みこ応援するにぇ!」
「ありがとう、みこち」
その瞬間、すいせいの胸に小さな期待と不安が芽生えた。
帰宅後。
すいせいは部屋のソファに座り、スマホを握りしめたまま、ぼんやりと天井を見つめていた。
「……デートって、どうすればいいんだろう」
実は、すいせいは今まで異性とデートをしたことがなかった。
ライブ、収録、打ち合わせ――忙しい日々の中で、恋愛というものはずっと“創作の中の世界”だった。
でも今回は違う。
「疑似体験」とはいえ、実際に“誰かと一緒に過ごす”時間がある。
それが“初めてのデート”になることに、すいせいは気づいてしまった。
翌日から、すいせいの“準備期間”が始まった。
まずは行き先。
「恋愛漫画だと…噴水広場、観覧車、カフェ…でも、どれが自然なんだろう」
スマホで検索しながら、メモ帳に候補を書き出していく。
次は昼食。
「おしゃれなカフェ?それとも定食屋?でも、気取ってると思われたら…」
悩みに悩んだ末、姉街にLINEを送った。
『初デートって、昼ごはん何食べるのが正解?』
すぐに既読がつき、返信が来た。
『え、誰と!?』
『仕事の一環だから!創作のための疑似体験!』
『それ、もうデートじゃん』
『……』
服選びも難航した。
「カジュアルすぎてもダメだし、気合い入りすぎても変だし…」
クローゼットの前で何度も着替え、鏡の前でポーズを取っては、ため息をつく。
姉街に写真を送っては「それはライブ用」「それはアイドルすぎる」「それは逆に地味」とダメ出しの嵐。
「もう…何着ていけばいいの…」
デート前夜。
すいせいはベッドに入ったものの、目を閉じても心臓の音が気になって眠れなかった。
「明日…ちゃんと話せるかな」
「変に思われないかな」
「みこち、ついてこないよね…?」
そんな不安がぐるぐると頭を回り、結局、眠れないまま朝を迎えた。
デート当日。
すいせいは、選び抜いた服を着て、髪を整え、スマホを握りしめて噴水広場へ向かった。
「これは仕事。創作のため。疑似体験…」
そう自分に言い聞かせながらも、心臓は高鳴っていた。
そして、待ち合わせ場所に着いたすいせいの目に飛び込んできたのは――
「すいちゃ~ん!待たせたにぇ!」
「……みこち!?なんでいるの!?」
「みこ、はじめから行くつもりだったにぇ!」
「えっ!?聞いてないよ!?今日は私と外部マネージャーの“体験デート”のはずじゃ…」
「みこ、レンタル契約に“同行オプション”をつけたにぇ!」
「そんなオプション、存在しない…」
「みこが勝手に作ったにぇ!」
すいせいは頭を抱えた。
「えっと…じゃあ、今日は三人で…?」
「ううん、みこは“観察係”なのにぇ!すいちゃんとがいぶまねーじゃーが“恋愛漫画風”にデートするのを、みこが見守るにぇ!」
「それ、逆に緊張するんだけど…」
すいせいは頭を抱えながら、心の中でつぶやいた。
「初デート…って、こんなに騒がしいものだったっけ…?」
でも、外部マネージャーが優しく声をかけてくれた。
「じゃあ、行きましょうか。まずは“偶然ぶつかる”シーンから…」
すいせいは、頬を少し赤く染めながら、静かに頷いた。
「……うん」
こうして、すいせいの“初めてのデート”は、たい焼きとみこちと共に、幕を開けた。




