第三十二話:株主総会なのにぇ!!
都内の大型ホール。
年に一度の株主総会は、普段のホロライブとはまったく違う空気に包まれていた。
スーツ姿の株主たちが静かに席につき、壇上のスクリーンには先ほどまで流れていた“卒業生座談会”の映像のサムネイルが映し出されている。
谷郷社長がマイクを握り、落ち着いた声で口を開いた。
「皆さま、本日は株主総会にお越しいただき、誠にありがとうございます。先ほどご覧いただいた映像は、先日、卒業生の皆さんにお集まりいただき、現在のカバーの課題や改善点について、率直に語っていただいたものです。会議自体は長時間に及びましたので、本日は編集版を上映いたしましたが、総会終了後、一部音声に修正は入っておりますが、フルバージョンを公式チャンネルにて公開予定です」
スクリーンには、座談会で話し合われた内容をもとに作成された“宣言プログラム”が映し出される。
・タレントの活動環境改善
・卒業生との関係性の再構築
・外部コラボの門戸拡大
・クリエイター支援制度の強化
……など、いくつもの項目が並んでいた。
会場から手が挙がる。
「谷郷さん、質問です。この宣言プログラムを実行すると、会社の利益や株主配当が下がるのでは?」
当然の懸念だ。タレントへの還元を増やせば、短期的な利益は減る。
谷郷は一拍置いて、はっきりと答えた。
「短期的には確かに利益が落ちる可能性があります。しかし、中長期的に見れば、ブランド価値が向上し、結果としてより大きな利益を生むと考えています」
別の株主が続ける。
「転生した卒業生とのコラボは可能になるのでしょうか?」
会場がざわつく。
かなり踏み込んだ質問だ。
谷郷は動じず、丁寧に答えた。
「卒業生とのコラボは可能です。復帰ではありませんので、あくまで先方の都合次第ではありますが。また、現所属タレントの外部コラボについても、個人勢・企業勢を問わず、各自のブランディングに応じて門戸を広げていく方針です」
会場の空気が少し柔らかくなる。
そして、谷郷が最後のスライドを示した。
「最後に、株主の皆さまへ、所属タレントからささやかなプレゼントがあります」
スクリーンが暗転し、映し出されたのは――
ホロライブ0期生、ときのそら。
「本日、会場にお越しくださった株主の皆さま、そしてLIVE配信をご覧の株主の皆さま。
ホロライブ0期生、ときのそらです」
そらは穏やかな笑顔で続ける。
「私がデビューして8年……本当に色々ありました。小さな事務所から始まり、仲間が増えて、上場企業にまでなりました。正直、辞めようと思ったこともあります。でも、今は辞めなくてよかったと心から思っています。私たちは、カバーの皆さん、株主の皆さん、そしてファンの皆さんに支えられて、ここにいます」
会場の空気が、ふっと温かくなる。
「それでは、感謝の気持ちを込めて歌います。聴いてください――『Shiny Smily Story』」
0期生から始まり、JP、ID、ENと続き、最後はときのそらのソロ。
株主総会とは思えないほどの一体感がホールを包み込んだ。
曲が終わり、そらが深く一礼する。
「ありがとうございました。これからも、支えてくれる皆さまに恥じないよう、頑張っていきます」
大きな拍手が響き渡った。
――株主総会終了後。
約束通り、卒業生座談会のフル動画が公開される。
コメント欄には、驚き、感謝、期待、そして“これからのホロライブ”を応援する声が溢れていた。
外部マネージャーである俺は、ロビーの隅でスマホを閉じた。
卒業生座談会のフル動画――
あれは、ホロライブの“過去”と“痛み”を真正面から映したものだった。
「……間に合ってよかった」
そう呟いた瞬間、背後から声がした。
「外部さん。ここにいたんだね」
振り向くと、三期生の皆が立っていた。
いつもの柔らかい笑顔の奥に、まだ緊張の残滓が揺れている。
「今日の総会……私たち三期生にとっては、本当に“分岐点”だった――もし今日、何も変わらないって空気だったら……」
フレアは言葉を選ぶように、ゆっくり続けた。
「私たち、四人で“辞める覚悟”を決めてたから」
胸が締めつけられる。
白銀ノエルが、胸の前で手をぎゅっと握りしめながら近づいてきた。
「本当に……怖かったんです。今日の総会が“ダメだったら”、三期生で……卒業しようって」
ノエルの声は震えていた。
「でも……今日の谷郷さんの言葉、動画、宣言プログラム…… 全部見て、少しだけ……救われた気がしました」
ぺこらが、珍しく語尾を抑えた声で言った。
「ぺこーら達、ずっと悩んでたぺこ。ホロライブが好きだからこそ...“壊れる前に降りる”覚悟も必要だったぺこ」
ぺこらは、外部マネージャーである俺を真っ直ぐ見上げる。
「でも……今日の総会で、ようやく“変わる”って言ってくれたぺこ。それだけで……少しだけ、前を向けたぺこ」
最後に、宝鐘マリンがゆっくり歩いてきた。
明るい笑顔は作っている。
マリンは“弱さ”を隠さなかった。
「……本気で辞めるつもりだったのよ。もう……限界だったから」
声が震えている。
「三期生の看板って……重いのよ。みんなを引っ張らなきゃって思うほど……自分が壊れていくの」
マリンは、俺の袖をそっと掴んだ。
「でも……今日の総会を見て…… “もう少しだけ信じてみよう”って思えたの」
俺は深く息を吸い、四人を見渡した。
「……皆さんの覚悟、解りました。今日の総会は、確かに大きな一歩でした。でも――変化には時間がかかります」
フレアが頷く。
「うん。だからこそ、私たちも踏ん張らないとね」
マリンが、少しだけ笑った。
ぺこらが照れ隠しのように言う。
「外部さんは……頼りになるぺこ。
みこ先輩だけじゃなく、三期生も……支えてほしいぺこ」
ノエルが拳を握る。
「私たち、まだ終わりませんから!」
「外部さん」
フレアが一歩前に出る。
「今日の総会で、ホロライブは“変わる”って言った。だから……私たち三期生も、もう一度だけ信じてみる」
そして、優しく微笑んだ。
「だから……これからも、私たちを支えてくれる?」
「もちろんです。 三期生の皆さんが前を向けるように……全力で支えます」
「よし、それでいいぺこ!」
「……ありがと。ほんとに」
「じゃあ、帰ったら……反省会だね!」
「うん。四人で、あー…ルーちゃんも呼ぶ?ちゃんと話そう」
三期生の四人が並んで歩き出す。
その背中は“ホロライブの未来を背負う者たち”そのものだった。
ホロライブは、今日また確かに前へ進んだ。




