第三十二話・裏:がいぶまねーじゃーはわたさないにぇ!!
「みこさん…本日はお願いがあって来ました」
静かな応接室に、谷郷の低い声が響いた
みこちはソファに座り、たい焼きの袋を抱えたまま、むすっとした顔で谷郷を見上げた
「なんだにぇ?みこは謹慎中だにぇ?仕事はしないにぇ」
そう、みこちは今、ライブで盛大なPONをかまし、謹慎中であった
「外部さんの事なのですが…」
谷郷が切り出した瞬間、みこちはたい焼きの袋をぎゅっと握りしめた
「谷郷、前にもいったにぇ!!がいぶまねーじゃーは渡さないにぇ!!」
「いや、みこさん、それは重々承知しています」
「ならなんでそうなるにぇ!?みこの面倒は誰がみるにぇ!?!? 外部がいない間、みこは大変だったのにぇ!!」
みこちはソファの上で正座し、涙目で訴えた
外部はここ数週間、ホロライブの別部署へ「出向」という名の長期休暇に入っていた
その間、みこちの私生活は、いもちさんと神楽坂さんが交代で面倒を見ていたが――
マネージャーとのやり取りは、みこち本人がしていたのである
その結果、みこちはレッスンスケジュールを間違えたり、 配信時間を勘違いしたりして、結構なPONをしていたのであった
「いや、みこさん、それは…判るのですが…けど、他の皆さんは…」
谷郷は困ったように眉を寄せた
「それじゃ谷郷は、私に出来ると思うのにぇ!?どうなのにぇ!?」
谷郷はみこちの視線から逃げるように、そっと目をそらした
沈黙
「やはりだめでした…」
谷郷は、コップのビールを一気に飲み干し、深いため息をついた
「俺もそう思うぞ?流石にそれは別の話だ。俺も断る」
外部は苦笑しながらビールを口に運んだ
二人は、あーでもないこーでもないと話しながら、 テーブルの上の資料をめくっていた
「そうだ、この前の座談会の完成版見たか?」
「いや、まだ見てないんだ…確認しなくてはとは思っているのだが、時間が取れなくて」
「ついでだからここで見ていくか?丁度あるし」
外部がタブレットを取り出し、動画を再生した
「やはり外部さん、ホロライブに来て下さいよ。それしか方法がないですよ」
谷郷が真顔で言った
「いや、それは無理だろ?みこさんにも断られただろ?」
外部はビールをあおりながら答える
「外部さんからも言ってくれればなんとかなりますって」
アルコールが回ってきたのか、谷郷の口調が妙に熱くなってきた
「いい加減にしろ!!そんなに言うならお前がやってみろ!! 今回の調整にどれだけ時間を割いたと思っているんだ!!」
そう、外部がみこちから離れたことによってPONをしてしまったから、現在謹慎中なのである
「私が?社長を兼任して?…いや、まてよ?それじゃ…しかし…」
谷郷はぶつぶつと呟きながら、真剣に考え込み始めた
外部は思わず眉をひそめた
「谷郷、本気で言ってるのか?」
「外部さん、やります。私がやります」
谷郷は顔を上げ、力強く言った
「俺が言っといてなんだが、本当にやるつもりか?社長業と兼任は大変だぞ?」
「そんなのは解っています。ですがそれしか方法がないですし、悪くないと思うのです」
谷郷はスマホを取り出し、各部署にチャットを送り始めた
その顔は、妙に満足そうだった
「外部さん、いいアイデアでしたよ!!前祝で祝杯をあげましょう!!」
「いや、まだ決定じゃないし、関係部署との調整もあるだろ?」
「何言っているんですか!!ここに最高決定者がいるのですよ? 私が言ったらそう動くのが会社です」
「いや、何言っているんだ!?それじゃ昭和だろ!?」
「昭和?良いじゃないですか!!そのくらい強制力使わないと変わらないですよ!!」
谷郷の発言力や行動力をもってしても、 これから臨む株主総会では分が悪いであろう
それでも前に進まなくては、ホロライブは終わってしまう
タレントであるホロメン達に安心を
これ以上の悲しい卒業者を増やさない
そんなホロライブにしたいと、谷郷と外部は強く願っていた
「谷郷、お前は中から、俺は外から、ホロメンを守り、盛り上げていくぞ!!」
「いや、お前はまず中に入れよ」
「だが断る!!」
二人は笑いながら、コップを掲げた
その音は、静かな応接室に小さく響いた




