↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/39

第三十話:ギリギリなのにぇ!!

「がいぶまねーじゃー、一週間やすみってどういうことにぇ!!」

みこちに休みの申請をした瞬間、案の定こうなった。

「みこさんの休止中に、色々とやろうと思いまして…」

「けど、その間のみこの世話は誰がしてくれるにぇ…」

「その辺は神楽坂さんといもちさんに頼んであります」

みこちは口を尖らせ、たい焼きを両手で抱えたまま、じっと俺を見つめていた。

「今のうちにやらないと、みこさんが復帰後だと後々響くので…」

みこちには悪いが、今回はどうしても休ませてもらう必要があった。

(間に合わせる…絶対に)

そう心の中で呟きながら、俺は事務所を後にした。


そして今、俺は別の場所にいた。

薄暗い会議室。 テーブルの上には、録画用のカメラが三台。 壁には簡易照明。 空気は重く、誰も笑っていない。


「だーかーらー、みんな解ってるんだって!!そもそも中抜きは仕方ないとしても、額が酷いんだって!!」

最初に声を上げたのは、桐生ココだった。 普段の配信とは違う、低く抑えた声。

「ある程度は仕方ない…けど、あれも自腹、これも自腹、馬車馬のように働かせて、こちらの都合は考えず、弱いところには奴隷のように扱い、知らないと思って単価を下げる…」

紫咲シオンが続く。

「何かあった時、守ってくれない…」

天音かなたが静かに言った。

「未だにやってるのねぇ…〇〇〇(ピー)の時だって守らなかった…」

湊あくあが腕を組んだまま、天井を見上げる。

「私たちは使い捨ての駒じゃないんだよ?」

火威青が淡々と付け加えた。

現在この放送は録画だが、ほぼノーカット。 企業名などは伏せているが、それ以外は一切隠していない。

この一週間、俺はホロライブJPの卒業生―― 湊あくあ、紫咲シオン、天音かなた、桐生ココ、火威青、そして、カバーを退職した友人A、春先のどか―― 彼女たちを集め、谷郷、チーフマネージャー、元マネージャー、法務部長、営業部長を交えた座談会を企画していた。

(これが…俺の“休みの理由”だ)

3期生ライブの前に、どうしてもやらなければならないことがあった。


「しかし、我々にしたって会社というものがあり…」

営業部長が慎重に言葉を選ぶ。

「それは解っています…けど会社の内情を知ってる私としても…社内での落差が大きいというか…」

友人Aが静かに言った。

「私達が社内で頑張って、身を削って働いても…タレント扱いではないにしても、それなりの待遇は欲しかったです」

春先のどかが、手元の資料を握りしめながら続ける。

「法務部的にも、労働環境はグレーであったのは確認できました…そして一部のホロメンに対しての、いくつかのハラスメントも確認しております」

法務部長が淡々と述べる。

「社内大改革以後もそれは継続されたりとかしてましたか?その場合の対処等は…」

営業部長が言いかけたところで、ココが手を挙げた。

「対処?あったようで、なかったようで、あったけど、なかったわね」

「どういう意味ですか?」

「“書類上は対処したことになってる”ってことよ」

会議室の空気が一瞬止まった。

だが、彼女たちは止まらない。

「掛け値なしの言いたい放題」 というより、 「今まで言えなかったことを全部吐き出している」 そんな空気だった。


俺はカメラの横で、黙ってメモを取り続けていた。

(これを編集して、まとめて、公開する…)

3期生ライブの前に、ホロライブの“過去”を整理する

「外部さん、これ…本当に出すの?」

休憩中、シオンが俺に声をかけてきた。

「出します。もちろん、企業名や個人名は伏せますが」

「でも、これ…荒れるよ?」

「荒れます。でも…必要なことです」

シオンは少しだけ笑った。

「私が好きなホロライブを守りたいだけです」

「……あんた、ほんと変なところで真面目だよね」


「じゃあ次のテーマ“辞めた後の扱い”について」

あくあが手を挙げた。

「辞めた瞬間、連絡が途絶えるのは…どうなんですか?」

「それは…」

谷郷が言い淀む。

「辞めた人間に興味がない、ってことよね?」

ココが笑いながら言う。

「でも、辞めた後も“ホロライブの看板”を背負ってるのよ?私たち」

「辞めた後のケアがないのは、正直きつかったです」

あくあが静かに言った。

「辞めた後のホロライブ関連のトラブルも、全部自分で処理しなきゃいけなかったし」

「それは…申し訳ないと思っています」

谷郷が頭を下げた。

「今後は改善します」

「今後ねぇ…」

かなたが小さく呟いた。

収録が終わったのは深夜だった。

全員が疲れ切っていたが、どこか晴れやかな顔をしていた。


「外部さん、編集頼んだよ」

「はい。3日で仕上げます」

「3日!?寝ない気?」

「寝ますよ。少しだけ」

「みこち、怒るよ?」

「怒られますね」

俺は苦笑しながら、機材を片付けた。

(ギリギリだ…本当にギリギリだ)

でも――

(間に合わせる。絶対に)

俺は缶詰め用に借りたホテルに向かっていった…


この座談会は、ただの不満の吐露ではなく、ホロライブという組織の内側に潜む問題点を浮き彫りにする重要な記録である


参加者たちは、過去の経験を通じて感じた理不尽さや不公平さを率直に語り、同時に未来への希望や変革への意志も示していた

特に、労働環境の問題は深刻であり、長時間労働や低賃金、そしてハラスメントの存在が明らかになった

これらは単なる個別の問題ではなく、組織全体の構造的な課題として認識されている


辞めた後のケアの欠如も大きな問題として浮上した

辞めたメンバーが孤立し、トラブルを自力で解決しなければならない現状は、組織としての責任放棄とも言える

これに対して、経営陣は改善の意向を示したものの、参加者たちの間には依然として懐疑的な声もあった

この座談会の録画は、編集を経て公開される予定であり、ホロライブの過去と現在を見つめ直す契機となるだろう

ファンや関係者にとっては衝撃的な内容かもしれないが、真実を伝えることが組織の健全な未来につながると信じている

表に出ない現実を知ることは時に辛いが、それを伝えることの重要性を痛感している

これからも、ホロライブという大きなコミュニティがより良い方向へ進むために、こうした声を届け続ける必要があると感じている

今回の座談会は、その第一歩に過ぎない


俺は再びパソコンの前に座り、編集作業に没頭した

時間は限られているが、絶対に間に合わせるという強い決意があった

疲労はあったが、使命感がそれを上回っていた

この物語は、まだ終わらない

むしろ、ここからが新たな始まりだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。