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第二十八話:みこちとこむぎとおるすばんと

「がいぶまねーじゃー、遊びにきたにぇ!」

その日、私は出かける準備をしていた。玄関で靴を履こうとした瞬間、インターホン越しに聞こえてきたのは、あまりにも元気なみこちの声だった。

…いや、遊びに来たって言われても。今日は特に約束していない。

玄関を開けると、みこちは満面の笑みで立っていた。

その足元には、ちょこんと座るこむぎの姿。

「すみませんみこさん、私これから出かけなくちゃいけないのですが……」

「えっ……みこはどうすれば……」








みこちは目をぱちぱちさせ、こむぎは尻尾をゆらゆら揺らしている。

いや、どうすればと言われましても。

「あぁ、みこさん。留守番しててもらえますか?」

言ってしまった。

だが、もう仕方ない。こむぎがいる以上、みこちを外に放り出すわけにもいかない。

「いいの?みこ居ていいの?」

「いいえ、こちらがお願いしてる感じなので、よろしくお願いします」

「やったのにぇ!!みこおるすばんするのにぇ!!」

みこちは両手を広げて喜び、こむぎは嫌そうに「にゃ~…」と鳴いた。

……こむぎ、頼んだぞ。みこちの面倒、頼んだぞ。


「こむぎ……今日はよろしくお願いしますにぇ……」

部屋に入るなり、みこちはこむぎに向かって丁寧に頭を下げた。

だが――

「シャーーーー!!!!」

「こむぎぃ……いつにもまして怒ってるにぇ……」

「ぐるぅるぅるぅ……」

こむぎは背中を丸め、尻尾を膨らませ、完全に警戒モード。

みこちは両手を胸の前でぱたぱたさせながら後ずさる。

「が、頑張る……ガンバるにぇ……!」


みこちは気合を入れ直し、こむぎにそっと近づく。

こむぎ~?何して遊ぶ~?」

「(スン)」

こむぎはみこちを完全に無視し、丸まって寝たふりを始めた。

「こむぎぃ……」

みこちはしょんぼりと肩を落とす。


そのとき――

「こむぎ~、おはよ~、かざまだよ~」

部屋の隅に設置された見守りカメラから、いろはの声が響いた。

こむぎはぴくっと反応し、すぐにカメラの前まで移動する。

「にぇ!?いろは?いろはの声が聞こえるにぇ!?」

「あれぇ~?みこ先輩の声が聞こえますね~」

「にゃ~……」

こむぎはカメラに向かって甘えた声を出し、尻尾をふりふり。

さっきまでの威嚇はどこへ行ったのか。

「こむぎ~、どうしたの~?げんきないねぇ~?」

いろはの声に、こむぎは「にゃ~」と返事をする。

まるで会話しているようだ。


「いろは!!どこにいるにぇ!!でてくるにぇ!!」

「やっぱりみこ先輩いるんですね~。どうして外部さんちにいるんですか~?」

「みこは、がいぶまねーじゃーに留守番を頼まれたにぇ!!いろははどこにいるにぇ!?」

「私は自宅ですよ~?見守りカメラで見ています~」

どうやら私は、いつもの癖で出かける前に見守りカメラをオンにしてしまったらしい。

「なんだにぇ?見守りカメラって?」

「カザマはこむぎを見守り隊隊長ですから!!」


「いろは……そのこむぎを見守り隊ってなんだにぇ?」

「え?Azuki先輩が外部マネージャーに頼んでくれたんですよ~」

「????」

みこちの頭の上に、見えるように「?」が浮かんでいる。

「う~ん……とにかくこむぎを見守ってるのです!!」

「にゃ~~~」

こむぎは誇らしげに鳴いた。

……いや、誇らしげなのは気のせいかもしれない。

「つまり、こむぎをいつも見てたってことにぇ?」

「そうですよ~。外部さんがいない時には、何時も見守ってますよ~」

いろはは悪気ゼロ。

ただただ純粋に説明しているだけだ。

「ずるいにぇ!!みこもみまもるにぇ!!」

「いや、外部さんがいないってことは、みこ先輩と仕事してるってことでは?」

いろはの正論が突き刺さる。


「そ、そうにぇ……!みこは直接会えるのにぇ!!」

「そうですよ~。みこ先輩は直接こむぎに会えるんですから、カザマよりずっと特別ですよ~」

「そ、そうにぇ!!みこは特別にぇ!!」

みこちは胸を張る。

こむぎはその横で「にゃ」と鳴き、みこちをちらっと見た。

「こむぎ……みこ、特別にぇ……?」

「(スン)」

無視された。

「ひどいにぇ!!」


「みこ先輩、焦っちゃダメですよ~。猫は気まぐれですから~」

「そうなのにぇ……?」

「はい~。Azuki先輩も言ってました。“猫は落ち着いた人のそばに寄る”って」

「Azuki……猫博士にぇ……」

「まずは、こむぎの近くにそっと座るだけでいいんですよ~。触ろうとしない、呼ばない、見つめない。“いるだけ”で安心させるんです!」


「なるほどにぇ……!」

みこちはこむぎの近くにそっと座り、視線を外す。

こむぎはちらっとみこちを見るが、逃げはしない。

「……にゃ」

「こむぎ……みこ、ここにいるだけにぇ……」

「いい感じですよ~みこ先輩!」

「ほんとにぇ……?」

「はい~!」


こむぎはゆっくりとみこちの横に座り、尻尾をふわりと揺らした。

「き、きたにぇ……!こむぎが……みこの横に……!」

「よかったですね~!」

みこちは涙目でこむぎを見つめ――

「にゃっ!」

こむぎがびくっとして離れた。

「あっ……見つめちゃダメだったにぇ……!」

「みこ先輩、まだ早いですよ~!!

カメラ越しに、いろはの笑い声が響いた。

こうして、みこちとこむぎの“おるすばん”は、まだまだ続くのであった。

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