第二十七話:案件配信だにぇ!!
今日のみこちは、外部マネージャーである私と一緒に、都内のとある施設へと足を運んでいた。案件撮影とはいえ、みこちは朝から妙に気合が入っている。
「がいぶまねーじゃー、今日は勝つにぇ……!」
拳を握りしめて宣言するその姿は、まるでこれから本物のレースに挑むレーサーのようだ。
もっとも、実際に挑むのは“レースシミュレーター”なのだが。
今日の企画は、みこちと後輩Vtuber・千早によるレースシミュレーター対決。
施設に入ると、すでに千早が待っており、元気よく頭を下げてきた。
「みこ先輩、今日はよろしくお願いします!」
「ちはや!!今日はまけないにぇ!!」
みこちはすでに戦闘態勢。千早も負けじと笑顔で応じ、二人のテンションは開始前から最高潮だ。
「では、お二人とも更衣室で着替えてきてください」
スタッフの声に、みこちと千早は同時に首をかしげた。
「え?シミュレーターといってもゲームの延長線上なのではないですか?」
「千早……私たちはVtuberなのにぇ……顔を晒せないのにぇ……」
そう、今回は実写案件。顔出しNGの二人には、レーシングスーツとヘルメットを着用してもらう必要がある。
しかも、ただのコスプレではなく、無線まで仕込まれた本格仕様だ。
更衣室から戻ってきた二人は、すっかりレーサーの風格。
「さぁ、対決にぇ!!今日はシミュレータで対決にぇ!!」
「みこち先輩、レースゲームなら負けないですよ!!」
意気込む二人に、私は念のため注意を促す。
「あ、二人とも気を付けてくださいね。そのシミュレータは500万超えてますんで」
ピタッ。
動きが止まった。
「え……?」
「もちろん一台の値段ですからね」
ブリキのおもちゃのようにぎこちなく振り返る二人。さっきまでの勢いはどこへやら、完全に腰が引けている。
「はいはい、戻ってください。そろそろ撮影始めましょう」
スタッフに促され、二人はようやくシミュレーターへと向かった。
「今日は、レーシングシミュレーターを扱ってるお店に来てるにぇ!!」
「このお店では、販売はもちろん、時間貸しもしてるのです」
「しかも、今回はWMSCの大会に参加させていただくにぇ!!」
撮影が始まると、みこちはいつもの調子を取り戻し、元気よく紹介を続ける。
「WMSCでは、レーシングシミュレーターの基本フレームセットを購入すると参加できる大会です」
「値段は確かにおたかいにぇ……けど、上を見たらきりがないにぇ……基本セットは最新のPS2台分だにぇ」
「しかし私達が使わせてもらうシミュレーターは、お値段なんと500万円以上……」
「足の震えが止まらないんだにぇ……」
さっきの固まり方を見る限り、震えているのは足だけではない気がする。
そして、いざレース開始。
「なんだこれなんだこれ!?!?まっすぐ進まないんですけどぉーーー!!」
「アハハハハハ!!コントローラーでやるのと全然違うぅーーーー!!」
「ちはやーーー!!お前ぶつけてくるなよぉぉぉーーー!!」
今回はF1を模した全5戦のレース。だが、二人とも初めての本格シミュレーターに悪戦苦闘している。
「ちはやがぶつけてくるからまたびりだにぇ……」
「いえいえみこ先輩、みこ先輩がふらつくから当たっちゃうんですよ」
千早の言い分ももっともだ。みこちはコーナーのたびに車体を揺らし、千早はそれを避けきれず接触する。どちらも慣れていないのは明らかだ。
そして迎えた最終レース前。
「みこ先輩……4連続ビリなので、今回の予選は抜けられませんね」
「千早だって0ポイントにぇ!!一緒だにぇ!!」
「まぁ、みこ先輩と違って~、私は惜しいところまで来てますし~?」
千早は徐々に慣れてきたのか、ポイント圏内に近づいている。
「みこだってぶつからなければいけるもん!!」
……がんばれ。
「それじゃ、最終レース、どちらが順位上かで何かかけますか?」
「たい焼きかけるにぇ?」
「たい焼きはいらないです。そうですね……この辺においしいラーメン屋があるので、おごってください」
「う~……後輩におごられるのはどうかにぇ……」
「もう勝った気ですか?どうせ負けるから勝負したくないだけですよね」
典型的なプロレスである。
「おぉぅ!!やってやらー!!負けても泣くんじゃねぇぞ!!」
そして最終レース。
「みこ先輩、こっちですよ!!」
「あれはみこが負けた訳じゃないんじゃないかなぁ……」
「いやいや、負けは負けですって……まぁ、さすがみこ先輩って感じですが」
序盤は互角だった。だが中盤、みこちのマシンがまさかのエンジンブロー。シミュレーターとはいえ、故障は故障。
みこちはリタイヤとなり、勝負は千早の勝利で決着した。
「まぁ、いいにぇ……ラーメンくらい……おごるにぇ……」
落ち込むみこち。だが、ラーメンで済むなら安いものだ――と、この時点では思っていた。
「千早さん、もしかしてラーメンってあそこですか?」
私が指差すと、千早は嬉しそうに頷いた。
「あ、はいあそこです。マネージャーさんも知ってました?」
「えぇ、そうですね……私も一度は行ってみたいお店でしたが……」
「まねーじゃーも知ってる店なのにぇ?もう今日は、まねーじゃーの分もおごるにぇ?」
みこちの優しさはありがたいが、問題はその店の“中身”だ。
「マネージャーさん、よかったですね!!ちょっと巻き込んで悪かったなーと思ってたんですよ」
「付き合わせるから、みこがはらうにぇ……」
みこちは胸を張って言う。
……うん、まぁいいか。
「みこち、ごちそうになります」
だが、みこちは知らなかった。
その中華料理店が“高級店”であることを。
そして千早と外部が容赦なく頼んだのが、この店で一番有名な「ふかひれラーメン」だったことを。
みこちのラーメンは、ちょっとしょっぱい味がしたという。




